第38話 金曜日の来訪者
・新章開始です。
・ネットで得た知識のみで書いているのでおかしい所もあると思いしますがご了承ください。
――2011年7月22日 日本 名古屋――
日本の三大都市圏のひとつ中京圏、その中枢都市であり全国3位の人口を誇る政令指定都市名古屋、ここは日本屈指の国際貿易港を持ちながら、西部には穀倉地帯も広がる日本人なら誰もが知る大都市だった。
名古屋の中心部から離れた住宅街、その一角に、数年前に新築されたばかりの一軒の住宅があった。
その家の2階、道路に面した窓のある部屋で机に向かって勉強する少年の姿があった。年の頃は10歳を過ぎたばかり、まだ幼さがある顔をしていた。
「ここは・・・・・・と!」
少年は算数の問題を解いていく。彼が解いているのは普通の小学生用の問題ではなく、進学塾で配布された「私立中学受験者向け対策問題集」に書かれた問題だった。
「ふう、終わった!」
今日の分を解き終え、軽くため息をつく。机の上に置いてある時計は九時過ぎをさしている。普通の小学生なら寝始めている者もいる時間だが、彼はまだ入浴も済ませていなかった。
「疲れた……」
彼、高岡亮介は毎日続く日課に疲れていた。
亮介の家はごく普通の中流家庭である。特別恵まれていると言う訳ではないが、彼の母親は息子への教育に熱心だった。
それは日本中が不景気になっていた事も関係したのだろう。亮介の母は、彼の意志など関係なく塾に入れ、将来はエリートになれるよう、今から受験勉強をさせている。父親も特に反対もしなかったため、亮介は母親の言われるままに勉強をし続けた。
「…僕も遊びたいな」
亮介は勉強が嫌いな訳ではないが、勉強ばかりの生活には嫌気が差してきていた。
学校の友達の多くはゲームやマンガを持っているが、亮介はどちらも持っていない。母親が必要ないと決めつけ、以前、友達から借りてきた時も鬼のように怒り、「そんな物より勉強しなさい!」「これがあなたの為よ!」と、一方的に自分の意見を押しつけていったのだ。
だが、亮介も遊び盛りの子供である。ゲームで遊びたいし、マンガも読みたい。それが許されないこの現状は、彼にとって何より理不尽だった。
「頑張っているのに……何も良い事がないなあ」
沢山見返りが欲しい訳ではないが、少し位はあっても良いんじゃないかと思った、その時だった。
『その願い、私が叶えましょう!』
「誰っ!?」
突然、頭の中に声が響いてきた。
『ここです』
「うわっ!」
振り返ると、部屋の中に1人の男性が立っていた。男性と言うのはあくまで声と格好からの判断だ。亮介の目の前に立っていたのは、青いスーツと仮面をした人だった。
(へ、変質者!?)
声に出そうになるが必死に堪えた。
男も、仮面の口元に指を立てて「シーー!」と、声を征した。
「静かに!訳あって素顔は見せられませんが、あなたに危害を加える気はありません。私は、あなたの望みを叶えに来たのです」
「僕の望み?」
男の言葉を聞き返した。
普段の亮介なら、あからさまに怪しい人物に話しかけられたら迷わず大人を呼んでいただろう。だが、今目の前にいる男からは格好は別にして、不思議と危険な感じはしなかった。
「そうです。あなたは今まで沢山の努力と我慢を積み重ねてきました。私は、それらの対価に対し、相応の報償を与えに来たのです」
言葉も態度も丁寧な男に、亮介は次第に警戒心を解いていった。
そして、男はおもむろに右手を差し出す。すると、差し出されたその掌の上にビーダマサイズの光が生まれた。
「利き手を出して下さい」
「え、こう!?」
目の前で起きた現象の前に目を奪われた亮介は、思わず言われた通りに右手を差し出した。
『祝福を―――――』
男が互いの手を重ねようとしながら何かを呟くと、男の掌にあった光の玉は一瞬で亮介の手の中へ吸い込まれていった。
その直後、亮介の体に何かが勢いよく流れる感覚が走った。
「うっ・・・・!?」
「大丈夫です。すぐに分かります」
それはたった数秒の事だった。
全身に何かが駆け巡ると同時に、頭の中に沢山の情報が流れてきた。それらは一瞬で亮介の中に溶け込み、まるで以前からあったかのように違和感なく彼の中に染み着いていった。
「………」
「分かりましたか?」
「…ハイ」
しばらく呆然としていた亮介だったが、男に話しかけられたと同時に自分の身に起きた事の全てを理解し、さっきまでとは違うしっかりとした顔で答えた。
「では、私はこれで失礼します」
「―――――あの!ありがとうございます!」
「礼は不要です。それは、あなたが今まで積み重ねてきたものの成果です。それに対して、私があなたから感謝を受ける必要など、どこにもありません」
「――――――――」
去ろうとする男に亮介は礼を言おうとするが、男はそれを断った。
「それをどう使うかはあなたの自由です。ですが、それがあなたの幸に使われる事を私は願っております」
そう言い残すと、男の姿は静かに消えていった。
部屋にひとり残された亮介は、しばらく立ったまま動かなかったが、気を取り直し、手に入れたばかりの『力』を試してみる事にした。
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その後、亮介の家を後にした男は名古屋の各所に移動していった。
「――――あなたは、誰?」
「あなたを賛美する者です」
そこは、身寄りを失った子供達が暮らす児童養護施設だったり―――――
「――――――死神なの?」
「いいえ、むしろ逆なのですが――――――」
不治の病と闘い続ける子供達の病院だったり――――――
「な、何なんだテメーは!?」
「無理かもしれませんが、どうか落ち着いてください」
家族の為に年齢を偽って働く少年のバイト先だったり―――――
「やめて!いい子にするから妹には――――――!!」
「大丈夫です。あなたも妹も変われる時がきました」
親の虐待と戦う姉妹の家だったり――――――
その日、名古屋の―――――正確には名古屋とその周辺の市町村に住む十数人の10代の少年少女達の前に、青い仮面と青いスーツを着た男が前触れなく現れた。
彼は子供達に危害を加える事は無く、小さな『きっかけ』を与えてすぐに消えた。『きっかけ』を受けた彼らの大半は、何故か全員状況を理解し、その時の出来事を誰にも言わず新しい日々を迎えていった。
夏休みが間近に迫った、7月の金曜日の夜の出来事だった。
・青い仮面の男が現実にいたら即通報しましょう。
・感想お待ちしております。




