第393話 天津神
――東京 某繁華街――
会議が終わると勇吾達は直ぐに3組に分かれて動き始めた。
1組目は冬弥の話から判明した「見かけ倒しの幽霊」が出現した繁華街の調査。
これは勇吾と黒王が中心となって向かった。
2組目は慎哉と瑛介の家族への事情説明、特に今も半ば暴走気味になって初孫の捜索をしているであろう元・龍王への対応である。
こちらは良則とアルビオン、そして冬弥が中心となって動いている。
最後の3組目は日本の神々への事情聴取。
完全に出し抜かれる形となった今回の事件がに対して、日本の神々が動き出すか、そして《盟主》が関わっているかなど、今後の事も含めて訊ねる役目なのだが、不本意ながらコネの多過ぎる丈と銀洸を向かわせる事となった。
無論、“首輪役”を付けてだが。
「――――此処が現場か」
「……」
勇吾達が辿り着いたのは人通りの少ない繁華街の裏路地の一角だった。
祝日の昼間にも拘らずそこには人の姿は無く、そこかしこに不良グループあたりがやったであろう落書きやゴミが散らばっていた。
普通の人から見れば薄暗く汚い場所だが、勇吾達の目には半日が過ぎても残留している魔力の残滓を捉えていた。
「周囲より僅かに気温が低いな。最初に慎哉が氷漬けにして瑛介が止めを刺したといったところだな。後処理がまだまだ荒いな」
「だが、今回に限ってはそのお蔭で見つけるのが容易だった。しかしこれは……」
現場を見つめる黒王の両目が細くなる。
それは勇吾も同じだった。
殆ど消えかかっている戦闘の痕跡に混ざっている、慎哉のものでも瑛介のものでもない全く異なる何かの残滓を発見したのだ。
「これは……“鬼”?」
「それも只の鬼ではない。死霊の成れの果て――――“霊鬼”の亜種だ」
「!」
鬼――――元々は中国において亡霊や死霊の意味を持ち、現代の日本人がイメージする「角の生えた人型の妖怪」の“鬼”は戦国時代――平安時代という説もある――辺りで確立され、それ以前は中国と同様に亡霊に近い存在とされていたとされていて、その種類はかなり多い。
ある鬼は邪悪な存在として恐れられ、ある鬼は神のように祀られ現代でも信仰されるものもおり、特に有名なのは秋田の「なまはげ」だろう。
両者に共通するのは人の世において異端であるという事、人よりも神に近い強大な力を持つという2点である。
そして黒王が言う『霊鬼』は人間の死霊が強い怨みによって鬼と化した存在であり、一般的な他の鬼よりも極めて力が強く、更に怨みのままに行動する習性があるため極めて危険な鬼であり、日本の民話の中でも退治できたのはごく一部の高僧か神の子だけだった。
「霊鬼は基本的に土地に縛られるケースが殆どだが……コレはある程度自由に動けるのだろう。でなければとうに俺達が見つけて討伐している」
「……そうだよな。だとすると考えられるのは、この鬼が縛られているといの範囲が異常なほど広く、更には相手を巧妙に欺く程搦め手に秀でている……だから亜種か」
「そうだ。普通は怨みに任せた単純な行動をとり易い。難い敵の一族を斬殺するといったな」
「“式”にされている可能性は?」
“式”とは人間の術者によって使役されている妖怪・精霊の通称である。
日本では主に陰陽師等が力で下僕としたり、契約を結んでその力を行使しているのが有名だ。
「あくまで俺の私見だが、人間の“式”ではないな」
「それは……」
「それにこの国での“鬼”は、他にも意味がある。それも踏まえれば、嫌な仮説が立つ。だが、現段階では他にも仮説があげられる上に確証も少ない。もう少しこの辺りは調査するぞ」
「ああ、徹底的にやるぞ!」
勇吾の脳裏に約半年前の記憶が横切る。
この世界にやってきて最初に解決した1つの事件、慎哉と出会って最初に遭遇した敵との戦いの記憶。
嫌な予感がする。
だが、今は少しでも奥の手掛かりが欲しいと勇吾は頭を切り替え、黒王達と共に周辺の調査に乗り出すのだった。
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――西日本某所 某神社――
勇吾達が事件現場の調査を開始したのと同じ頃、バカ達もとい丈と銀洸の2人はとある神社を訪れ、其処に祀られている神々と対面していた。
「やほーい!天ちゃんズお久~♪」
「やほ~♪」
『『『誰が天ちゃんズだ!!』』』
総ツッコみ。
2人は神々が相手でもノリを曲げないのだった。
ただし、今日は普段と違って首輪を付けられていたが。
「ふざけないの!」
「「ギャボ!?」」
比喩ではなく、言葉通りの意味で。
バカ2人は物理的に首輪を付けられていた。
「いい?次に此処でさっきみたいなバカな事をしたら、物理的に地獄を見せるわよ!冗談じゃなく……本気で!分かった?」
「「イエス!マム!!」」
ドスの利いた声で釘を出すリサに、2人はほぼ100%同調した動きで敬礼した。
ちなみに彼女は本気で言っている。
その迫力に一部の神はビビって他の神の背後に逃げているのだが、きっと誰も咎めないし今はそれを指摘する場面ではないので全員スルーした。
『――――それで、今回はどのような御用件でしょうか。『凱龍王』の民よ』
神々が並ぶ部屋の最奥、御簾の奥に居る1柱の女神が言葉を紡ぐ。
部屋の空気が一瞬で切り替わった。
女神を中心に広がる神聖な空気を全身に浴びたリサは一瞬息を飲むが、ここ最近は散々大物を見てきたので直ぐに平静さを取り戻した。
「突然の訪問にもかかわらず面会して頂きありがとうございます。この度は私達の身内に起きた怪異と、それに関わりがあると思われる“神”についてお尋ねするべく参りました」
『……怪異、ですか?』
(この反応、まさか此処の神々も気付いていない!?)
御簾の奥から微かに伝わる疑問の空気にリサは驚愕する。
今回の事件、黒王やアルビオンですら出し抜かれた事からもしかしたらと考えてはいたが、目の前に居る神すらも気付く事が出来ていないという事実に驚愕を隠せなかった。
御簾で顔を隠す女神、彼女は他の神々とは神格そのものが違っていたのだから。
「――――今から数時間前、私達の仲間が2名、突然行方不明になりました。行方不明になったのは当代飛龍王の長子、もう1人は『白狼』ホロケウカムイの神子です」
『『『!?』』』
部屋の空気が更に一変した。
女神だけでなく、他の神々も騒然となり、その内何柱かはすぐさま権能を行使し始める。
どうやら「仲間が2名」の情報を本名ではなく、敢えて出自で説明した事で相手側の関心を確実に掴めたようだ。
『――――これは!』
数秒が過ぎ、御簾の奥から再び驚愕の声が漏れる。
『此方でも確認しました。貴方の仰る通り、我々の感知を掻い潜った者が存在するようです。ですが、本来ならばこれは我々の領分ではなく、貴方方人間の領分です。人間と契約した者ならまだしも、我々が直接関与する事はありません』
女神は人の世の事件は人の手で解決しろと告げる。
それはこの世界における神々が決めた掟であり、神々は常に人の世に対してはその神威を持って干渉する事は決して無いという意思表示でもあった。
例えそれが怪異であったとしても、契約も結んでいない神が直接動く事は無いと。
ある例外を除いては。
『――――ですが、事の背後に居るのが神であるなら、まして、彼の神であるならば話は別です。この後の話の内容にもよりますが、我等天津神は今回の件に関しましては早急な解決の為に動かせて頂きます。よろしいですね?』
『異論はありますまい』
『左様。彼の神の問題は我等の領分、此処で動かない道理は御座いません』
『(……これ以上、不祥事を重ねるのは駄目だからな!)』
人間の問題や妖怪レベルの怪異には干渉できない。
だが、「神」を始めとする神格持ちの存在が関わっているものであるならば、放置すれば世界の均衡を大きく崩しかねないので直接動く事が出来る。
慎哉の修学旅行の際に起きた京都の事件などが良い例だ。
女神の決定に他の神々も異論はないようで、むしろ積極的に動こうと言う意思さえ感じられた。
「即断即決ぅ~!」
「なあなあ、爪垢を煎じて政治家に飲ませたら日本良くなるんじゃね?」
「あんたには効かなかったから無理よ。あと黙れ!」
「「ギャッ!?」」
油断したのか、また空気を読まない行動をとったバカは即座に〆られた。
余談だが、このバカ2名は過去に知恵の神の爪垢を本当に煎じて飲まされた事があったが、効果は見ての通りである。
世の中そう都合の良い話は存在しないのである。
『――――では、話を先に進めて下さい』
バカに関して誰もツッコまなかった。
此処から先の対談はリサが中心となって進んでゆき、事件発生の経緯、その特異性、現時点での自分達の見解などを述べていき、その後に予め用意していた神側への質問を1つずつしていき、その質問に女神は何一つ隠す事無く答えていった。
「質問は以上です。私達はこれから直ぐに消えた2人の捜索に合流する予定ですが、天津神の皆さまはどうなされるのですか?」
『直ぐに動きます』
女神の返答は早かった。
そして御簾が独りでに巻き上がり、今の今まで隠れていた女神の素顔が露になる。
そこに居たのは少女と言っても過言では無い程若く美しく、屋内だというのに陽光を浴びているように明るく輝いている女神だった。
黒真珠の様に美しい黒髪を揺らしながら、女神はリサに視線を向け口を開く。
『改めまして。私は天津神を統べる『三貴子』が1柱――――天照大御神と申します』
神産みの神であるイザナギから生まれた太陽神にして天津神の長、日本の主神とも呼ぶべき女神は真っ直ぐとリサ達を見つめていた。
・バカは世界中の神様に顔パスで面会できます。
・「天ちゃんズ」→「天津神」又は「天照」の「天」とその他大勢の意味です。バカ命名。




