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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第16章 創世の蛇編
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第392話 行方不明

――《ガーデン》天雲邸――


「瑛介を生餌にしておびき出すのはどうよ?」

「ドアホ!」


 ハリセン一閃。

 《ガーデン》の空をバカの体が弧を描くように舞った。


「そんな単純な手で出てくるなら苦労はしないわ!!第一、もう何度も危険な目に遭っているのに影すら見せてないだろが!!」

「チェッ!良いアイディアだと思ったのに~」

「何処がだ!?」


 バカは2度空を舞う。

 大体ほぼ毎日発生するこのイベントは《ガーデン》の中では主婦の井戸端会議レベルに日常に溶け込んでおり、今では誰も気にする者は居ない。

 何度起きても死人は出ないのだから。


「……お前を生餌にしたら何が釣れるんだろうな?」

「酷い!人権侵害!」


 日常茶飯事が繰り返されながら勇吾達は訓練及び会議の準備を進めていく。

 他の仲間達には既にメールで連絡は済ませており、返信はまだ確認はしていないが全員が集まる事も想定して必要な物資を用意しているが、おそらくは一部余分になるだろう。

 異世界人である勇吾達とは異なり、日本人の仲間達はこの時期になると私生活の方で色々と忙しく、特に積極的に戦わない側の者達にとっては私生活の方が優先な上、勇吾も全く強制していないので全員が集まる事は無いだろうと彼は予想していた。


「食料が余ったらパーティだ!」

「するか、ボケ!」

「ケチ!」


 ぶーと膨れる丈を無視し、勇吾は荷物を運んでいく。

 するとそこへ見知った人物が駆け寄ってきた。


「勇吾!」


 慌てた様子で駆けてくるその人物は、血相を変えながら勇吾の名前を叫ぶ。

 冬用のコートを乱しながら着ている事からかなり慌ててやってきたのは一目で分かり、勇吾は何かがあったのだと直ぐに理解した。


「冬弥、一体どうしたんだ?」

「ゆ、勇吾……!」


 息を切らすほど走ってきた訳じゃない。

 にも拘らず冬弥はフルマラソンの直後の様に呼吸を乱しており、それが過度の運動によるものではなく動揺によるものであることは勇吾にも一目で分かった。

 そして彼が此処まで動揺する理由は勇吾が知る範囲ではそう多くない。

 何より、最近は何時も一緒に居る筈の片割れが一緒じゃない。


「慎哉に何かあったのか?」

「!!」


 冬弥の眼が一瞬丸くなる。

 それは勇吾の予測が的中していることを示していた。


「慎哉が……消えたんだ!!」








--------------------------


――《ガーデン》会議室――


「緊急か――――ぶほ!?」

「黙ってろ、バカ」


 何故かスーツ姿の丈は即座に簀巻きにされ会議室の隅に転がされた。

 冬弥が勇吾の下に駆けつけてから10分弱、予定を急きょ中断した勇吾達は会議室に集結、勇吾のメールで集まった面々も同じ様に集まっていた。


「慎哉だけじゃなく、瑛介も行方不明?」

「みたいだな。少なくとも今朝以降(・・・・)、2人の姿を見たり、連絡を取った奴は1人もいない。さっき確認して判明したばかりだ」

「何か……前触れみたいなのは無かったの?」


 現状を整理していくと、ほんの2、3時間前から北守慎哉が東京の自宅から突然行方不明になり、ほぼ同時刻に名古屋でも小嶋瑛介が同じ様に行方不明になったという事が判明した。

 最後に彼らの無事が確認されたのは今日の早朝、慎哉は早朝トレーニングをする前に冬弥と通信越しに会っており、瑛介は新聞配達のバイト(臨時)で朝刊を配っている処を目撃されている。

 だが、日が昇って朝食を済ませた後に勇吾からのメールを受けとった直後に連絡を取ろうとした時には既に行方不明、何の前触れも無く突然居なくなり、あらゆる魔法を使って捜しても発見には至らなかった。

 尚、瑛介に関しては不治のジジバカを発症している元・龍王が血眼になって現在も捜索をしているそうだが手掛かりは見つかりそうにもないそうだ。


「本当に突然だったんだ。メールを受け取った後に、どうするか確認しようと思って連絡しようとしてもケータイもPSも繋がらないし、《念話》でも駄目だったんだ。それで、北守の家に直接電話して行方不明になったのが分かったんだ」

慎哉(アイツ)は『白狼』の加護持ち……というか神子だろ。そっち(・・・)の方でも分からなかったのか?」

「駄目だった。だから焦ってるんだ」

「黒?」


 勇吾が黒王の方へ視線を向けると、彼は黙って首を横に振った。

 黒王は“龍王”であると同時に『龍神』に近しい存在である“神龍”でもある。

 その力は並の下級神や中級神をも凌駕しており、己を中心とした一定範囲内のある程度――各地の神々の領分を侵さない範囲――把握していたが、今回に限っては完全に出し抜かれていたようだ。


(あの黒が完全に出し抜かれた?全く気付かれずに?いや、黒だけじゃなくて……)


 勇吾は部屋中に視線を巡らせる。

 黒王、アルビオン、それとオマケの銀洸(*読書中)、この場には現役の龍王が3人も居るにも拘らず、その警戒網に引っ掛かるどころか全く気付かれずに仲間が消えてしまった。

 更にいえば勇吾達自身もこの数か月間で実力に磨きがかかっており、特に先日の『黎明の王国』での決闘では貴重な経験を得る事が出来たお蔭で更なる成長を遂げる事が出来たのだが、その彼らですら冬弥から知らされるまでは誰も気付く事が出来なかった。

 いや、約1名(・・・)は気付いていたとしても黙っている可能性があるが。


「……嫌な予感しかしなくね?」


 トレンツの呟きを誰も否定は出来なかった。

 未知の敵――――それが仲間2人を消したのだとほぼ全員が悟った。


「これが人為的(又は神為的)なものであると仮定して、犯人(・・)は何だと思う?」

「「ラスボス」」


 バカ2名が即答した。


「「「……」」」


 それに対して勇吾達は何時もの様に即ツッコむ事はしなかった。

 きっと本人達は半分考え無しに言っただけなのだろうが、現状としては決して有り得ない事ではなかったからだ。


「《盟主》か……」


 ラスボス、即ち『創世の蛇』の頂点に君臨する7柱の《盟主》なら容易に可能だろうと勇吾は考えたが、数秒ほどして首を横に振って否定する。


「いや、やっぱりそれは無いな。少なくとも、直接的には」

「え~?」

「えーじゃねえだろ。確かに一番納得できる……ように思えるが、この時期にたった2人を攫う為に奴らが直接動くとは思えないな。動機はあっても合理的じゃない。けど、無関係とも言い切れないってのが俺の考えだな」

「そうだな。無関係とまではいかないまでも、何らかの予兆……《盟主》の復活による影響か、眷属が動き出した可能性は高いだろう。全員気付いているだろうが、ここ最近、この国の龍脈の様子がかなり危うくなりつつある。過去と照らし合わせればこれは凶兆、何らかの神話級以上の怪異が発生しても何らおかしくは無い。常に警戒はしていたんだがな……」


 勇吾に同調するように黒王も自身の意見を述べていく。

 その意見には他の数名も同感だと答え、バカが言った「ラスボス説」は一旦お蔵入りとなり、他の可能性と今後の行動について話し合っていった。


「――――それで冬弥、昨日は何も無かったのか?何でもいい。慎哉から何か変わった話とか、些細な出来事について聞いてないのか?」

「ん~何かって言われてもな~」


 行動を決めるにあたってまず必要なのは手掛かりだった。

 事件発生の直前に前兆らしい手掛かりが無いと判断した勇吾は、時間を遡って昨日1日に何かなかったのかと、この中で一番慎哉に近い冬弥に訊ねた。

 慎哉は重要な発見などやハッキリとした嫌な予感がした時は必ず直ぐに勇吾達に報告するが、些細な出来事――浮遊霊を見かけたとか、神が買い食いしているのを見た等――については基本的には世間話程度の感覚でしか伝えてこず、その大半は勇吾の耳には届かず、精々バカ2名の娯楽として消費される事が多い。

 だが冬弥だけは、慎哉の双子の兄弟である彼なら勇吾以上に話す機会も多いので些細な話もより多く聞いている可能性が高いと勇吾は読んでいた。


「あ、そういえば昨日は瑛介と偶然会って一緒に買い物をしたって言ってたっけ?」

「何?」

「あ~慎哉が居なくなったのに動転して忘れてたな……」


 しまったなと、冬弥は自分の頭を叩きながらすっかり忘れるところだった記憶を急いで引き出していく。

 学校でストーカー軍団に日々追われている辺りから、バイト先の買い出しを終えた慎哉と偶然出会い、そのまま一緒に繁華街で買い物をしたところまで話していく。


「バイトに名古屋から東京を往復させる職場ってどうよ?」

「面倒だからスルーしろ!」


 当然なツッコみはスルーされた。

 一部、スルーしない者もいたが他の者達によって封殺された。


「それで後は……あ!」

「何だ?」

「そういえば、帰る時に見かけ倒しの幽霊を退治したって言ってたな。最初は嫌な予感はしたけど、追ってみたら感度の高い奴に悪寒を与えるだけ(・・・・・・・・)の戦闘力ゼロの雑魚だったって。見かけ倒し過ぎて拍子抜けしたってボヤいていたっけ?」

「「「……」」」


 冬弥は昨夜の就寝前の会話で聞いた話を可能な限り正確に伝えたが、彼にとってはどれも大したことが無い様にしか思えなかった。

 最後の幽霊騒動も、こっち側(・・・・)に来てからは幾度も遭遇している日常茶飯事にしか過ぎず、余程の大悪霊や大怨霊でもない限りは直ぐに退治出来るものばかりだったので今回もそんな何処にでもいる幽霊の類としか受け止めていなかった。

 だが、話を聞いていた、冬弥よりもその筋のプロである勇吾達は違った。


「……どう思う?」

「「「絶対その幽霊が妖しい!」」」

「え!」


 勇吾達の意見は直ぐに一致した。

 他に手掛かりらしいものが無い事に加え、彼らの経験上、「見かけ倒し」な怪異は決して油断ならないものであるのが多いのが常であった為、彼らは冬弥の口から語られた「見かけ倒しの幽霊」について直ぐに調査するべく動き出したのだった。








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