第388話 プロローグ~頼み~
物凄くお久しぶりです!
今日からスローペースで更新を再開します!
――12月某日 『蒼空の個人研究室』――
現実世界とは異なる位相に創られた異空間に存在する研究室。
“転生者”諸星蒼空が前世から引き継いだ能力により存在するこの空間には現在、研究室の主である蒼空以外に7人の男が訪れていた。
「……出鱈目だな」
蒼空はその手に持った神器『布都御魂剣』を眺めながら顔を引き攣らせていた。
彼の右眼は魔力の光を帯びており、視界に映る1本の『神器』の情報を解析、その詳細な内容を彼の脳内に伝えていく。
「神代三剣の1つがこの短期間で別物に化けるなんて、普通は有り得ないだろ。バカに魔改造でもされたのか?」
「俺も最初はそう思った」
「「え~!酷~い!」」
後ろでお菓子を貪っている丈と銀洸の2人は濡れ衣だと訴えるが、蒼空も勇吾も居ないものとして話を進めていく。
「結論から言って、この布都御魂剣は解呪法の開発に必要な『神器』の条件――浄化能力に特化した『神器』、『滅龍神器』――を満たしている。これにそこで茶菓子を勝手に漁っている天使や、お前の幼馴染達、そして俺の能力を加えればサマエルの神毒の解呪法を作成する事は可能だ」
「――――っ!」
期待していた朗報に勇吾の心が高揚する。
ようやく、時間にしてみれば言葉にするほど長い訳ではないがようやく、彼は『楽園の蛇』サマエルの神毒を解呪する術に手が届いたのだ。
解呪したい対象は2人、1人は勇吾の仲間の父親であり龍王の1人である『天嵐の飛龍王』ヴェントル、もう1人は勇吾の義弟であり、今は彼の実家で暮らしている少年ロトの父親シド=アカツキである。
彼らは『創世の蛇』と敵対し、幾人もの幹部達を葬った末に彼の組織の《盟主》の1柱、『楽園の蛇』サマエルに「親しい同類を死に至らしめる呪い」――各々の親しい同種族の相手が呪殺されてしまう呪い――を掛けられてしまい、最も親しい相手である家族から離れ、色んな異世界を今も放浪しているのであった。
その呪いを解く為に勇吾は奔走の末、解呪法の開発に必要な全てのピースを揃えたのである。
「……頼む!!」
「対価は払って貰うぞ。事情は理解するが、慈善行為で請け負うつもりは無い」
「それで構わない」
勇吾は頭を下げて頼み込む。
その姿勢に偽りは無く、強い覚悟と誠意を蒼空は感じ取った。
だが、覚悟と誠意だけで了承するほど蒼空は甘くはない。
「……お前は自分が試用としている事の意味を正しく理解しているのか?」
厳しい視線が勇吾に突き刺さる。
蒼空の前世は『創世の蛇』の研究者ライナー=レンツ、組織内部の事は勇吾達よりも詳しく、その「本質」も全てではないがその目で見てきた。
だからこそ解る。
今、勇吾達がやろうとしている事が、どのような大事を呼び寄せるのかということを。
「サマエルを……《盟主》を直接敵に回し、その眷属達と全面戦争をするということだぞ?」
サマエルの呪いを解くという事はサマエルの敵を助けるという事、直接サマエルに敵対の意志がある事を堂々と宣言するも同然だった。
そうなれば事態は一気に悪化と一途を辿る。
現時点では未だ、《盟主》サマエルが動く事は無いが、代わりにサマエルの庇護を受けている大勢の眷属達と全面戦争をする事になり、否応なしに勇吾達の周囲に居る人々も死地に放り込む事になってしまう。
現在拠点にしている地球世界全体が神話や異界の住人達によって蹂躙され、他の世界よりも真っ先に滅亡してしまうかもしれない。
勇吾の選択は、この世界の全生命の運命を左右するものなのだ。
「それでも、他人を救うのか?」
その意味を本当に理解しているのかと、それでも尚、1人の仲間と、1人の義弟の家族を救う覚悟の意志を持っているのかと蒼空は訊ねた。
解答のチャンスは一度きり、この場で迷う素振りを見せれば拒否するという意思を目に宿しながら。
「救う」
その視線から勇吾は一瞬も逃げず、その意志を、覚悟をその一言に込めて空にぶつけた。
そして蒼空も、その一言に込められた“言霊”を正面から受け止め、一瞬、何処か遠い憧憬を思い浮かべながらその重い腰を上げた。
「……直ぐに始める。勝手に他人の部屋を漁っているバカ共を縛って連れて来い」
「―――!感謝する!」
「礼は全てが終わってから言え。それよりも、そのバカ共を――――」
「わお!横浜の銘菓が一杯だぜ!」
「ばうむく~へん~♡」
「……黒」
「……」
それまで勇吾の後ろに控えていた『黒の龍王』黒王は部屋の戸棚を勝手に漁り続けているバカ2名を制圧、魔力を具現化させて作った鎖でしっかりと拘束して研究室の奥へと進んでいった。
その様子を茶菓子を貪っている熾天使ウリエルは不敵な笑みを浮かべながら眺めていた。
「……いよいよ奴らとの全面戦争か。当然、敵は『楽園の蛇』だけじゃなく、『堕天使の王』も入るだろう。天界の連中が余計な事をしなければいいんだけどな。ミカエル、メタトロン。しっかりと手綱を握っておけよ」
「お前も来い!」
「あ、アルビオン!ちょっとまだ……!」
1人シリアスを決め込んでいたウリエルだが、首根っこを『白の龍皇』アルビオンに掴まれ、まるで悪戯をした猫の様に運ばれていくのだった。
そして彼らは研究室の最奥、異空間の中でも更に強固に外界から隔絶された空間に作られた作業部屋に辿り着く。
「――――これから内部時間で3日間、昼夜を通して解呪法の作成に入る。そのバカ3人も、飲食代分も含めてしっかりと働いてもらうぞ」
「「「アイアイサ~」」」
「お前らは……」
やる気が有るのか無いのか不明な3人を含めた8人の男達は異空間内部の時間で丸3日間、殆ど寝る間も惜しんで解呪法の作成に勤しんでいった。
だがそれは、1つの希望を生み出すと同時に、1つの大災厄をも呼び寄せる切っ掛けとなる事となる。
『楽園の蛇』サマエル――――7柱の《盟主》の1柱と勇吾達との全面戦争へのカウントダウンは動き出したのは間違いなくこの時からだった。




