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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第15章 黎明の王国編
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第386話 オフ会②

――黎明の王国 とある酒場――


 エリオットの告げた言葉に俺は眉を顰めた。

 「敢闘賞」というのは、主にスポーツで敢闘精神に富み、全力を尽くした者、特に目立った活躍をした者へと贈られる賞の事だ。

 日本だと、国技の相撲にある三賞の1つとして有名だ。

 それと似たような事を、目の前の(エリオット)は俺に贈ると言っているのだ。

 だが――――


「……お情けのつもりか?」


 俺はエリオットに対して睨む。

 今回の決闘は勝たなければ何も得られないという内容だった。

 俺達が勝てば望む物が得られ、負ければ何も得ることは出来ないと事前に話し合って決めたのは俺とエリオット自身だ。

 にも拘らず、負けた俺に対して「敢闘賞」を与えるというのはお情けを掛けられているとしか思えない。


「勘違いするな。正式な決闘の結果を無視するような不作法をする愚か者は此処にはいない。此方が賭けていた物は当然渡しはしない。だが、仮にも我等(・・)とあそこまで戦い抜いたお前達は十分に称賛する価値がある。故に、細やかながら「敢闘賞」を贈ろうと思ったまでの事だ」


 俺の考えている事などお見通しなのか、口に出すよりも早くエリオットは否定する。

 そりゃそうだ。

 一国の王が個人的な同情でルールを捻じ曲げていい道理がある訳がない。


「とはいえ、贈るのは金銭でも貴重品でもなくメモ用紙1枚だが」


 エリオットは懐から2つに折りたたんだ1枚のメモ用紙を取り出し、卓上を滑らせるように俺の手元へと寄越してきた。

 俺はジッと差し出されたメモ用紙を見つめる。

 それは何処にでもありそうな既製品の紙きれだったが、そこに書かれている内容を想像し一気に酔いが醒めていく。


「――――見てみろ。お前にはその資格がある」

「……」


 俺は慎重にメモ用紙を受け取り、2つに折られたそれをゆっくりと開き、その内容を両目でしっかりと見た。


「――――ッッ!!」


 その内容に、予想通りだった内容に俺の両目は最大限に開き、全身から汗が滲み出す。

 そこにはこう書かれていた。




『 シド=アカツキ  〔V-0310〕 カーラテリア


  ヴェントル    〔K-8464〕 ポラシオン 』




 『人名』、アルファベット1文字と4桁の数字で構成された『世界座標コード』、『世界名』。

 たった2行ほどの文字列に、一瞬で意味を理解した俺は息を止めそうになった。

 『人名』はそのまま個人の名前、『世界座標コード』は俺の故郷の世界の機関が付けた無限に広がる時空の海に存在する大小無数の異世界にそれぞれ充てられている識別番号であり、そのすぐ右横に書かれているのはその世界の通称名だ。


「――――今から3時間20分前時点での情報だ。それはどう扱うかは、贈られたお前の自由だ。好きにしろ」

「お前……お前ら、どうやってこれを……」

「手段を知る意味は無い」


 エリオットはカクテルを飲み干すとグラスを置き、静かに席を立ちあがる。

 すると別の卓で1人酒を飲んでいた男――(多分)ジャン=ヴァレットも立ち上がり、店主に軽く挨拶を告げてから店を去って行った。

 それに気付いているのかいないのか、俺以外の連中はそんなのお構いなしとどんちゃん騒ぎを続けていった。

 あ、トレンツが復活してら。






--------------------------


――とある酒場の屋上――


 勇吾が1人呆然としているのと同じ頃、黒王(ヘイウォン)は店内の喧騒から離れて酒場のある建物の屋上へと足を運んでいた。

 その両手には1本のボトルと2個のグラスが握られ、彼より先に屋上へと来ていた先客(・・)の下へと近付いていった。


「やはり此処に居たか」

「……黒」


 屋上の安全柵(フェンス)に背中を預けながら1人黄昏ている青年―――ディオン=オミクレーは少しばかり疲れた様な顔を黒王へと向ける。

 その姿は不敵な笑みが特徴の道化師ではなく、外見年齢相応の雰囲気を纏った1人の青年だった。


「本心では賑やかなのが好きなのにも拘らず、いざ宴が始まれば静かに場を抜け出し1人黄昏る。200年前からそこは変わらないな」

「……気付いたら筋金が入ってしまったんだよ」


 グラスを差し出す黒王に、ディオンは苦笑しながらそれを受け取った。

 そして2人は下から聞こえてくる賑やかな声をBGMに酒を酌み交わしていく。

 北海道での件を除けばほぼ200年ぶりの再会であるはずの2人だが、最初の会話以降、どちらも無言のままだった。

 本来ならば話したい事が山ほどあったのだろうがこの2人には必要は無かった。


「「……」」


 2人はボトルを半分ほど空にすると、その視線を城下町の方へと向ける。

 もう日が沈んで大分経つというのに街には人々の賑わいが伝わってくる。

 下を見下ろせば奥さんに耳を掴まれて引き摺られる酔っ払いの姿などが視え、この城下が、この『黎明の王国』が如何に平和で良い国なのから見て取れた。

 黒王は酒を飲むのを止め、視線を街に向けたまま口を開く。


「――――良い故郷だ(・・・・・)

「……ああ、ようやく此処まで来れた。俺達(・・)の、自慢の故郷(くに)だ」

「そうか」


 2人の顔に笑みが浮かぶ。

 200年分の会話はそれで十分だと、それさえ聞ければもう聞く事は無いという顔をしながら残りのボトルの中身を空にしていく。

 ちなみに2人ともワク(・・)である。

 特に龍王な黒王はワクさえあるのか怪しいほどにアレである。



「――――黒はこれからどうする(・・・・)つもりだ?」


 再度の沈黙を破ったのはディオンだった。

 空になったグラスを()に置くと、先程までの穏やかな表情を一変させ、今度は至極真剣な表情で黒王の方へと視線を向けながら彼に問いかける。

 それに対し、質問の意味を理解している黒王は沈黙で答える。


「封印は間もなく解かれる。そうなれば世界の調和は今度こそ完全に崩れ、全ての世界で“神代の大戦の再現”が起き、全てを巻き込んだ騒乱が始まる。お前はその渦中に身を投じる気か?」

「……」

「お前達が拠点にしている世界には73%の確率で『楽園の蛇』が顕現する。その(のろい)は蛇や龍(竜)という概念に対して絶対的有利、他の龍王も奴の毒でどうなったのか、お前達が知らない訳がないだろう。他の《盟主》ならまだしも、奴は龍族にとっては最悪の相手、いくら古代種の血を引く龍王でも――――」

「それは関係無い」

「!」


 冷静を装いながらもディオンは近い内に確実に起きる戦いから手を引くよう黒王を説得しようとするが、それは穏やかな声により遮られる。


「相手が誰であろうとも、俺達が《盟主》と戦う事になるのは変わらない。それが龍族の天敵だとしても、リスクの高すぎる相手と戦う事になんら違いはないだろう。ならば、戦いが始まるまでの期間に出来得る全ての事を熟し来る戦いに備えるだけの事だ。何より――――俺の契約者(勇吾)がそれを望まない」

「……そこまで大事なんだな。あの契約者が」

「お前が此処の者達を愛している程にはな」

「……そうか」


 ディオンは説得を諦める。

 もっとも、黒王とは昨日今日の付き合いではないので半ば説得は不可能だと思っていたのが正直なところでもある。


「――――それに何より、今回の決闘で勇吾達は多くのもの(・・・・・)を得ることが出来た。上位者との戦闘経験もだが、何よりも“アレ”は大きい」

「……」


 黒王の言葉にディオンは何も答えない。

 何のことを言っているのか理解しているが上に、敢えて言う必要がないと、自分の口から話す意味も無いと判断するが故に黙った黒王の話を聞いていった。


「勇吾も一晩経てば……酔いが醒めれば直ぐに気付くだろう。そうなれば明朝には此処を発つ。お前達が言う様に、時間があまり無い様だからな」

「……まだ数日は持つだろう。幸か不幸か、アベルがやらかした(・・・・・・・・・)せいで生まれた「大特異点」が色々としてくれているお蔭で多少の時間は稼げている。流石の『無限神(軍師)』も想定外過ぎる事態に頭がよく回らないのだろうな。偶に苛立ちのようなものが狭間の海に漏れ出しているとジュードが苦笑していた」

「そうか」


 黒王はちょっとだけ視線を逸らした。

 その直後、真下から誰かが暴れるような音が屋上にまで響いてきた。

 耳を澄まさなくてもその間の抜けた声が嫌という程聞こえてくる。


「…………今夜は此処までだな」

「………そうだな」


 一気に気が抜けてしまった2人は今夜は此処までとお開きにする。

 そして機会があればまた一緒に飲もうと約束を交わし、下の店内の混沌の収拾へと向かうのだった。








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