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第37話 動き出す者達

・間章です。次章以降に登場する主要人物が何人か出てきます。

 勇吾達が休日を賑やかに過ごしている頃、彼らの知らない所で動く者達がいた。



――????――


 世界地図にも載っていない場所に立つ白亜の城――――――


 中世ヨーロッパを印象付ける城だが、城壁の各所にセキュリティー用の探知魔法や防御魔法、そして最新の科学技術を使った監視システムがあちこちに設置されていた。城外を視回る警備兵の所持する武器も刀剣だけでなく、最新の銃火器などもあった。


 城内の下層部には場内で働く者達の為の施設が並んでいた。その中の1つ、飲食店が並ぶ区画にある一軒の喫茶店のカウンターに緋色を身に纏った女性がランチセットを食べていた。



「――――フフ、今日のランチも絶品ねマスター?」



 紅茶を一口飲み、ルビー=スカーレットは他の客の注文料理を作っている店主(マスター)に褒め言葉を贈る。店主は「光栄です。」と表情しながら軽く礼を返す。


 サラダにフォークを刺して口に運ぶ。淑女が食事する姿に、同じようにランチを食べに来た他の客も男女を問わず心を奪われていた。



「――――――マスター、私にも彼女と同じ物を」

「――――――?」



 不意に、ルビーの隣に座る青年の姿があった。


 緋色で統一しているルビーに対し、青年は青を基調としたスーツ姿だった。



「あら、あなたもここでランチ?」


「はい、これから向こうへ行かなければならないので、食べれるうちに食べようと思いまして」



 外見(・・)だけならルビーと同年代の青年は丁寧な言葉使いで彼女と言葉を交わしていく。共にこの城の主の側近である2人は、互いに近況報告し合いながら今後の予定も話していった。



「そう言えば、今度あなたが行くのって日本だったわね?」


「はい、名古屋(・・・)の方で少しばかり――――――特別重要と言う訳ではないですが、少々布石を増やしておいた方が良さそうなので」


「そうね、まだ目立った動きは見えないけど『蛇』に対しては慎重過ぎる位でないと――――――――。今はまだ力を蓄えるのに専念しないといけないしね」


「そう言う事です。『十種神宝』の方は、ルビーさんと先輩(・・)が持ってきた鏡と剣で全部そろいました(・・・・・・・・)。次の神器回収場所は欧州と中東ですが、そちらは―――――――」


「フフ、あの2人が担当だったわね。私はしばらくこっちでゆっくりする事になるわ」


「――――――陛下の事、よろしくお願いします」



 青年はお辞儀をする。そこに、ちょうど完成したランチが配膳された。彼はグラタン風の料理を口にし、その味に感嘆しながら話を進めた。



「そう言えば、日本には凱龍の王族が来ていると聞きましたが?」


「―――――――ええ、嫌な事を思い出しそうになるけど……」



 ルビーは数日前に起きた悪夢の記憶を必死に振り払いながら彼の話に答える。異世界の大国である凱龍王国の情報は2人も良く知っている。ルビーを嫌な目に遭わせた馬鹿もうそうだが、あの国の王族の強さは別格、敵に回るならルビー達もリスクを覚悟しなければならなかった。



「報告では『閃拳』の王子もいたそうですが、ルビーさんの主観から見て彼の実力はどう見ます?」


「――――強いわ」



 ルビーは一言で答えた。


 あの時、彼女は良則とは直接戦った訳ではない。しかし、彼の二つ名にもなっている『閃拳』を一度垣間見たルビーは彼の器をしっかりと見ていた。



「お兄さん達と比べれば、まだまだ甘い坊やだけど、潜在能力は規格外と思っておいた方がいいわね。戦いの中で、自分だけじゃなくお友達も化けさせたりするタイプだと私は思うわよ?」


「――――陛下と同じタイプ、と考えておいた方がいい訳ですか。向こうでは接触すると思ってた方が賢明ですね」


「フフ、そう言う事よ。この話はここまでにしましょう?折角のマスターの料理が冷めてしまうわ」


「ハハ、そうですね」



 互いに笑いながら、2人はランチの続きを楽しんでいった。


 まだ名前も明かされていない勢力、彼らが再び勇吾達の前に現れる時はすぐ近くだった。






--------------------------


――日本 横浜――


 時は遡り、勇吾達とルビーが戦った夜――――――


 横浜の中心街から離れた高級住宅街の一角にあるとある日本家屋、その瓦の屋根の上から東北の方向を見つめる影があった。



「―――――終わったか」



 横浜から数百㎞離れた東北の地、そこで繰り広げられていた戦闘を直に見ていた(・・・・・・)は、戦いが終わったのを見届けると、屋根から飛び降りた。体勢を崩す事無く自然に地上に着地をした「彼」は、突然降りて来た自分に驚く強面の集団(・・・・・)の間を素通りし、縁側から屋敷の中へと入っていった。


 彼が入った和室には、スーツや着物姿の強面の男達が十数人ほど畳の上に敷いた座布団の上に座っていた。その中の1人、上座に座っていた外見(・・)は40代のに見える男は、部屋に入ってきた「彼」に目を向ける。外にいた集団とは年季が違う空気を纏った男、この屋敷の主人である強面達の頭は、「彼」を見て「終わったのか?」と視線だけで問いかけた。



「―――ついさっき終わった。この前の東京の件いい、やはり日本でも(・・・・)面倒事が増えてくるのは避けられないな」


「――――お前の言う、『異世界人』がもっと来ると言う事か?」


「ああ、さっき戦ってたのも異世界人、その中の3人はかなりの大物だ。どちらも組織だって動いていると見て間違いないだろうな」



 「彼」は正直な感想も含めて答え、それを聞いた強面達は頭を除いて動揺が走った。


 「彼」は動揺する者達をよそに、部屋の中央に敷かれた座布団に座る。



「大物、と言うのはどれほどのもんなんだ?」



 強面の一人、50を過ぎたばかりの、熊のような男が「彼」に問いかけた。



「単純な攻撃力なら、核兵器以上と言えば分かるか?最も、奴等が本気を出せばの場合だが…。まあ、今の俺(・・・)よりは確実に強いだろうな」


「「「――――――!!」」」



 その言葉に、頭を含めた一同が息を飲む。彼らは全てではないが「彼」の力の一端を既に目の当りにしている。それ故、「彼」よりも強いと言う事の恐ろしさを十分に理解していた。まして、本気を出せば核兵器以上の攻撃力を持っているなら恐怖が湧かない訳がなかった。



「――――今は大丈夫だろう。少なくとも、今日の連中とは争う可能性は低いだろうな。一方はおそらく『神器』の回収、もう一方は『冒険者』だろうな。なら、こちらから表だって騒ぎを起こさない限りは争う事はまずない」



 それを聞いて若い数人は安堵の息を吐くが、他は未だに重い緊張感に包まれている。仕事柄、修羅場を何度も経験している古参の彼らは簡単に気を抜いたりはしないのだ。



「―――――知ってる顔でもいたか?」



 頭は「彼」の口調と態度、それと今までの人生で培った経験から感じた疑問を訊いた。



「―――――直接は面識もない。だが、あそこにいた者の中の2人の子供は・・・・おそらく昔の知り合い(・・・・・・)の孫だろうな」


「そうか、ならこの話はここまでだ」



 頭の言葉で部屋の空気はすぐに変わった。


 そして「彼」はここへ来た目的、彼らとの「契約」に基づく仕事に入る。


 強面の彼ら――――横浜を拠点にする暴力団(ヤクザ)芦垣組(あしがきぐみ)』の組長と幹部だった。


 芦垣組組長、芦垣(あしがき)慶造(けいぞう)は目の前に座る「彼」、自分達より年下でありながら(・・・・・・・・)遥かに年上である少年(・・・・・・・・・・)と向き直った。







--------------------------


――ヨーロッパ ????――


 地下深くに存在するとある研究施設。国にも属さず、かといって民間企業が建てた訳でもないこの場所には表社会には決して出てこない優秀な頭脳が集まっていた。


 研究施設の各研究室では様々な研究が日々行われている。遺伝子操作、薬品開発、様々な分野に分かれている中で表では、少なくともこの世界では決して行われない研究分野もあった。魔法を含んだ能力の開発である。


 そして研究室の1つ、円柱状の水槽がいくつも並ぶ部屋に彼はいた。「組織」の存在を知る者達からは『幻魔師』と呼ばれる、少年にも少女にも見える人物だった。



「へえ、『十種神宝』は『彼ら』が全部揃えたのかあ」



 幻魔師は1人で(・・・)誰かと会話をしていた。


 今、この研究室には幻魔師以外には研究者は1人もいない。少なくとも、幻魔師と会話のできる人間はここにはいなかった。



「うん、別にいいんじゃないかな?『神器』なら、こっちもたくさん持ってるし、これ以上独占したってつまらなくなるだけだしね。そう言えば知ってる?ルビー=スカーレットと戦った冒険者の中に『彼』の孫達がいたみたいだよ?」



 幻魔師は楽しそうに誰かと話を続ける。



「そうだね。今はもっと強くなって貰わないと色々楽しめないしね。そう言えば、日本で他に面白そうな人を見かけたんだよ。――――――へえ、驚いたなぁ、君も彼の事知ってたんだ?けど、僕が言ってるのは『彼』じゃなくて別の男の事だよ。―――――――うん。今日見かけたのは長野だったけど、進路からすると名古屋方面(・・・・・)に向かってるみたいだね」



 その顔は無邪気な子供の様だった。


 まるで連載漫画を読んでる少年が次の話を楽しみにしているかのような、そんな顔だった。



「―――――僕も近いうちに行けたらいいんだけど、この世界の僕ら(・・・・・・・)は今立て込んでいるからなあ」



 幻魔師は本当に残念そうな、そんな表情をした。


 すると、話し相手は何かアドバイスをしてくれたような反応をする。



「――――そうだね。いい機会だから、そろそろ増やしてみるのもいいかもね。うん、そうするよ!」



 最後に機嫌のいい口調で会話を終え、幻魔師は目の前の水槽に視線を向ける。正確には、水槽に入っている人間に対して笑みを送っていた。



「やあ、聞いてたかい?」


「――――――」



 水槽の中の人物は無言、いや、話す事ができなかった。



「君も必死みたいだけど、その声は望む相手には届かない。奇跡は期待しない方が、君にとっても幸せな事だよ。」




 同情するかのように話すが、彼の顔はどこか凍えるような何かを含んでいた。


 幻魔師はそれ以上は何も言わず、鼻歌を歌いながら研究室から出ていった。


 幻魔師が出たと同時に、研究室の照明が弱まり、部屋の中は薄暗闇に包まれる。誰もいなくなった部屋の中で、いくつも並ぶ水槽のひとつ、幻魔師が見ていた水槽の中にいた人物は動けない体を必死に動かそうとしながら、心の中で叫んでいた。





『――――――――助けて!!』












--------------------------


――アメリカ カリフォルニア州サンフランシスコ――


 ゴールデンゲートブリッジが臨めるストリートを1人の男が歩いていた。

 年の頃は30代か40代手前、赤みがを帯びた黒髪とアジア系特有の肌を夏の日差しに照らされながら、ケーブルカーの走るストリートを海岸方向に歩いていた。



(―――――ここも長居はできないな。)



 無言のまま歩き続けるその男は、首から下げていたロケットを掴み、おもむろに開いた。中には一枚の小さな写真がおさめられ、写真には1人の若い女性と、女性に抱かれた幼い子供が写っていた。


 写真に写っている女性は既にこの世にはいない。彼は最期を看取った訳ではないが、自らの伝手でその事を知っていた。そして、残された女性の子供がどうなったのかも、今は何所で暮らしているのかも知っていた。



「―――――――」



 海岸沿いに着き、彼はサンフランシスコ湾を眺めていた。


 湾には数多くの観光船と、今は観光地となったかつての監獄島の姿が浮かんでいる。彼はその光景を悲しそうな表情で眺めていた。




「―――――――――――ロト」




 彼の周りには、多くの地元住民や観光客が歩いていた。


 だが、不意に零れた声を聞いた者は1人もいなかった。









 勇吾の知らない所で動く者達がいた。


 彼らと勇吾達が出会うのは、そんなに遠くない未来であった―――――――。









・次回は今回登場した人物の1人が早速登場します。

・感想お待ちしております。


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