第382話 勇吾VSエリオット ⑤
予約ミス!
――闘技場 観客席(選手用)――
「うむ!儂が授けた攻略本をし――――」
「「「黙れ!!」」」
「きゃぴ!?」
「丈~~~!!立つんだ丈~~~!!」
明らかに人間の知覚速度を超えた戦いを観戦していた良則達はバカを地面に沈めながら僅かに流れの変わった戦いを見守っていた。
「少しだけ、流れが変わったな?」
「うん。けど、それでも状況は勇吾達に不利だけど……」
勇吾が危なっかしいからか、それとも対戦相手のエリオットが理不尽を通り過ぎるほどに強かったせいか、トレンツと良則の顔には冷や汗が滝のように流れていた。
こうしている間にも異常な速度で戦いは変化している。
この闘技場に来ている観客の中でそれを正確に近くしている者はごく一部だろう。
殆どの観客は戦いの次元が高過ぎて呆然としているのだから。
「あ!また一撃……入った!」
「でも脚が!!」
「2人とも、人間辞めてるわね。あ、トレンツは辞めてるんだったわ」
そんな中、普通に観戦できている幼馴染2人をリサは呆れながら見ていた。
レベルが違うせいもあり、彼女には勇吾とエリオットの戦闘をハッキリと見ることは出来ていなかった。
精々、赤と黒の2つの光の軌跡を追う事が出来る程度なのだ。
(今更だけど、私って実戦向きじゃないわね)
幼馴染が凄過ぎるせいで最近は感覚が麻痺しそうになるが、リサは自分が戦いにおいて彼らの足元にも及ばなくなっているのを自覚していた。
それでも仲間だから、今まで共に戦ってきたから、何より彼女の恋心がそれを表だって受け入れることは今日まで少なからず拒絶していたが、これまでの戦いと今も続いている戦いの光景を見続けているとそれがバカバカしく感じてしまう。
(これが終わったら、私も今後の事を考えないとね。戦闘から支援に転向しようかな)
爽やかな笑みを浮かべながらリサは視線を戦闘映像へと戻す。
周りからバカの喚く声が聞こえてくるが無視する。
「あ!」
そして、彼女は勇吾が相手を長槍のように長い剣で貫くのが見えた。
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――赤の世界――
《龍脈の剣》――――黒の持つ固有能力の1つで、世界の下を流れる龍脈から膨大な力を引きだし武器と化す能力。龍脈自体の力には属性というものは存在せず、海や湖など、水辺の近くを流れていると水属性が、火山地帯では火属性が、氷河や極寒地帯では氷属性の気が地面を通して龍脈に混ざり込むことで若干の偏りがある程度だ。
そして龍脈の力そのものは魔力とは異なり、その力による術も魔法とは異なる事象と分類されている。
つまり、《全属性無効化》《魔法攻撃無効化》を持っていたとしても龍脈を用いた攻撃そのものを完全に無効化させる事は出来ず、エリオット達には有効な攻撃手段となる訳だ。
これに俺の布都御魂剣の能力を加える。
ちなみに、今の布都御魂剣の能力は――
【布都御魂剣〔覚醒〕】
・日本神話に出てくる神剣(霊剣)。元々は軍神建御雷神の愛剣。剣自体も神。
・【能力】 《神威浄化》斬った対象の毒・呪いを始めとする異常を無効化し、悪霊・悪魔・邪神などを浄化する。
《無限神鎖》どこまでも伸び続けることが可能な神鋼の鎖。結界及び封印の効果あり。
《剣性完全吸収》特殊な剣・刀の形状・能力を完全にコピーし自由に使える。同時発動可。
《剣刃創造》イメージした剣を創造する。ただし、深淵級以下のものに限定する。
《自己完全修復-鍛-》破損しても魔力を与えることで瞬時に修復され、より頑丈になる。
《剣刃合一》他の刀剣類と融合しより上位の存在へと進化する。分離可能。
《万象両断》強き意志、強き力に応えあらゆる事象を斬る。制限あり。
最後の《万象両断》以外は既に実戦で使用済みだ。
そして《万象両断》は奴らに対して確実に有効な能力、その気になれば相手の能力や補正を破壊し無効化することができる強力なものだ。
だが、効果の大小は俺の強い意志に依存し、一瞬でも相手よりも強い意志を持たないと確実な効果を得ることは出来ない。
意志の力に依存する分、より強い意志で無効化されるリスクもあるということだ。
奴らの意志は間違いなく強い。
まだ15年しか生きていない俺よりも上なのは認めるしかない。
けど、俺にも譲れない思いが、素直に負けたくない意地がある。
それを奴らに認めさせる為にも、勝つ為にもこの能力に賭ける!
――――太極之龍槍剣
黒の《龍脈の剣》と俺の布都御魂剣のコラボ技が奴の胴体を貫いた。
『『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』』
『抜かせねえし砕かせもしねえよ!!』
ありったけの力を剣に注ぎ込む。
俺達が居るこの異空間は人工的に創られたものだが、現実に近い分龍脈がしっかりと存在する。
例え星々が消し飛んだとしても、宇宙空間の部分にも龍脈は存在し、そこから俺達は無尽蔵とも言えるエネルギーを汲み上げ剣に全て注ぎ込んでいく。
かなり集中力のいる作業だが、2人でなら余裕で可能だ。
『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』
『悪いが、それにはお前の滅龍神器の効果もブチ込んである!!俺達の弱点、たっぷり味わえ!!』
注ぎ込まれた力に比例して剣が巨大化していく。
ここまでデカくなれば直接抜く事は不可能だ。
なら、奴らは剣を破壊する方に集中するはずだ。
『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』
『ハアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』
奴と俺の力比べ。
奴も周囲の龍脈から力を吸収し始め、その力を持って突き刺さった剣を破壊しようとする。
事前に予想をしていたとはいえ、やはり奴――赤の龍王も龍脈の力を使う事が出来るようだ。
だが、奴らが十分に力を引き出すよりも前に、一気にケリを付けさせてもらう。
『斬れろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお――――ッッ!!』
俺は全身全霊の力を注ぎ込み、その心を燃え上がらせる。
喉が潰れそうになるまで叫び続けながら剣を前へと突き出し、その刃は奴らの魂の奥にある奴ら自身の能力の根源へと届いた。
――――バキィィィィィィィィィィィン!!
それは幻聴のようなものだった。
けど、確かな手応えを感じた瞬間、鋼の剣が真っ二つに割れた様な音を俺の耳は受け取った。
『らああああああああああああああああああああああああああああ!!』
その事を確認するよりも早く俺は動いた。
左手に握った神度剣にありったけの魔力を注ぎ込み、奴の右肩に向けて振り下ろす。
すると、今までは精々掠り傷程度だったのがかなり深い傷を負わせることに成功し、無効化系補正を消す事に成功したと確信する。
ならば此処からは属性の相性を気にする必要は無い。
『あああああああああああああああああああああああああ――――ッッ!!』
俺は加減無しに猛攻を続けていく。
無効化系補正は消したが、回復系補正までは消せたか不明、なら奴らの回復速度を超える猛攻で一気に決着を付けてやる。
――――大嵐の崇蛇
特大の雷が奴に降り注ぐ。
京都で討滅した大物主神から手に入れた嵐の権能。
雷神としての側面も持つ大物主神の力を宿した雷撃をたっぷりと味わえ!!
『グッ……』
『させるか!』
奴の全身を鎖が何重にも巻き付いて拘束する。
布都御魂剣から伸びた鎖に縛られたら易々と逃げることは出来ない。
奴のレベルにはどの程度まで効果があるかは攻略本でも曖昧だったが、少なくとも大技をぶつけるだけの時間は十分に稼げるはずだと書いてあったので今はそれを信じる。
『他の神器も使わせるか!!』
『頂の雷鎚』を始めとした奴の所有する神器は厄介だ。
その全容は流石のバカも完全には把握してないのか、攻略本にも「現在確認されているもののみ記載」と付記されていた。
中には奴の切り札も含まれている筈だ。
それを使われるより前にケリを付ける!!
『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!』
俺は奴の頭上にまで跳び、神度剣で渾身の一撃を振るった。
『『――――――――――――ッッ!!』』
文字通り全ての力を振り絞った一撃は黎明の王と赤の龍王を一刀両断にし、断末魔も発する暇も無く赤い閃光と共に四散した。
―――――かに見えた。
『――――《破滅の枝の剣》』




