第376話 丈VSジュード⑥
――宇宙ステージ(???)――
2人は刹那の差もなく同時に動いた。
と同時に2人の姿は(普通の人達の視界から)消え、直後に世界は賽の目上に切刻まれ、かと思ったら泥の様に溶解し、かと思ったら次は彩光を放つ精霊の軍勢が出現して光の奔流を放ち、直後に空間が螺旋に歪んで精霊達はすべて飲み込まれていった。
『―――――《銀咆》!!』
空間全体が歪む中、銀色の光が世界を飲み込む。
そして幾千もの朝日色の軌跡が舞い踊っているかのように美しく世界を走っていき、それに合わせるように夕闇色の軌跡も走って行く。
『どんだけチート!』
『こっちのセリフだよ!』
そして2つの光が衝突し、超新星爆発を思わせる大爆発が発生する。
もし、彼らが戦っている異空間の造りが僅かでも甘かったならば、この莫大なエネルギーに異空間全体が絶えられずに消滅し、そのエネルギーは現実空間を――――闘技場だけでなく黎明の王国が存在する世界そのものを一瞬で飲んでいただろう。
幸いにも、この異空間は戦っているジュード本人が微塵も手抜きをせずに創ったものなので強度は折り紙つき、彼自身が全力を出しても壊れない造りになっている。
もっともそれは、創造神が行う《天地創造》《天地開闢》に匹敵する所業なのだが、とうの昔に深淵級に至り、更にはその先にも触れつつあるジュードにとっては然程難しい作業ではないのだが。
彼からすれば、色んな世界に存在する『大魔王』のような「冗談じゃない者達」の相手をする方が無理ゲーなのである。
『―――――時よ、廻れ』
大爆発が起きて0.1秒も経たない内にジュードの声が世界に響く。
直後、大爆発のエネルギーの一部が急速に減衰し、残るエネルギーがある方向に向け雪崩れ込み、光の両翼を広げた丈に牙を剥く。
それに対して丈は水星サイズの大穴を出現させ、襲い来るエネルギーをその中に吸い込ませていき、次に全身を神気や闘気とも違う何かで覆いながら光速で移動し、ジュードに向けて斬撃の雨をお見舞いしていった。
『――――!』
それをジュードは一瞬の迷いも無く全て避け、数万もの黒い光輪を飛ばしていく。
光輪は丈の逃げ道を封じる最適な軌道で飛びながら襲い掛かるが、彼を切刻む前に跡形も無く消滅していった。
『だああああああああああああああああ!!』
丈は喉の奥から大声を吐き出しながら攻撃の手を緩めることなくジュードに有り余る力をぶつけてゆく。
彼は自分は数千数万と増やし、それらはそれぞれ異なる攻撃方法でジュードへと襲い掛かるが、ジュードもまた数多の能力で時には防ぎ、時には倍返しをし、時には力押しで相手の領域を侵略していった。
空間属性同士の戦いにおける勝敗は、お互いの支配領域の争奪戦に左右される。
相手の領域を全て支配するという事は、相手は逃げ場を失い、更には絶対的な力の支配関係が完成してしまい、領域を失った相手は己の力を殆ど発揮することができないどころか、最悪、完全に無力化されてしまうからだ。
この戦いにおいてもその本質は変わらない。
例え空属性以外の属性を使っていたとしても、相手の懐を支配してしまえばステータス上の耐性などを無視して命を奪う事が可能、言いかえれば、2人は相手の領域を自分の領域に取り込まない限りは決定打を与えられないのである。
だが、それはどちらにとっても簡単な事ではなく、チート過ぎる2人は己の持つ全ての力を惜しみなく解放させ、殆ど力の押し合いに近い戦いを続けていた。
一瞬、ほんの一瞬でも隙が生まれれば一気に攻めきられて戦いは終わる。
どちらもほぼ極限まで精神を研ぎ澄ませながら人間の領域を遥かに凌駕する戦いを繰り広げていった。
(あぱぱぱぱぱ!やっぱ向こうが一日の長だYO!チートも多いYO!)
精神を研ぎ澄ませている……筈の丈は、ほんの僅かだが自分が押されている事を自覚していた。
深淵級の解析能力《虚空之究明皇》により戦いながらも相手の情報を解析、機があればクラッキングしようと目論んでいた丈だが、思っていた以上に相手がチートだったことに苦笑していた。
丈が戦闘中に苦笑するほどのチート能力、その1つは《八百万の権能》という神々より簒奪した全ての能力が統合されたジュードの固有能力である。
地球世界だけでなく色んな異世界の神々も討滅し手に入れた能力の数は丈を圧倒しており、それを使いこなす技術と経験でも400年以上を生きるジュードの方が上だった。
(ウッホ~~~!創造神とか破壊神の権能も一杯だYO!というか神様狩られ過ぎ!もっと頑張ろうZE!)
隻眼の最高神の持つ百発百中の槍や半神半人の英雄が持つ魔槍のように、結果が確定済みの権能を出し惜しみなく使われ丈は色んな意味で大興奮していた。
中には彼にだけは言われたくない神々へのエールもあったが、この心の声を聞いていた神々はきっと「喧しい!」と怒鳴っていただろう。
神だってバカにだけは言われたくないに決まっている。
(おばちゃん補正があって助かった~♪脳筋パワーも絶好調DAZE!)
相手の脳髄を絶対破壊する権能や、魂を強制封印する権能等を神々の契約の力を乗せた愛刀で振り払う。
ちなみに丈の言う「おばちゃん」とは、中国の女神である西王母のことであり、古くは鬼神ともされている怒らせてはいけない女神の1柱である。
きっと試合後に祟られるだろう。
(時間を巻き戻すとか!俺もやるけど☆)
銀河を断ち切る一刀をジュードに向けて振るった瞬間、気付けば数秒前の状況に巻き戻されていた。
ジュードは空間だけでなく時間を支配することも得意していた。
数秒ほど時間を巻き戻すこともできれば逆に進める事もでき、更には未来を視る事で攻撃を回避する事も出来る。
だが、時間を支配できるのは丈も同じであり、この戦いにおいてはそれほど有利には働いていなかった。
(俺、超限界突破!)
丈は一気に勝負に出る。
全力の更に上まで力を跳ね上げる《最後の希望は貴方》と、色んなものを無視しまくる《人智無用障害皆無》を使い、持てる力の全てを限界以上にまで解放させた丈は、全身から溢れ出た波動で全方位から襲い掛かってくる攻撃の全てを打ち消した。
既に並の神の領域を逸脱していた丈はさらに打っ飛んだ存在になった。
『ファイナル――――フォ~~~~~ム!!』
まるでヒーローアニメの最終回のような光景がそこにあった。
丈の背後に龍の全身が象られた紋章が出現し、背中から生えた光の翼は銀河1つを覆う程までに巨大化していった。
そして分身でも幻でもないジュード本体を捉えると両者の間に存在する“距離”を消しながら突撃する。
『――――《英雄は勝利を望む》』
それに対し、ジュードは英雄の力を解放する。
どのような絶望的な状況さえ覆し敵を討ち滅ぼす、英雄を英雄たらしめる力を。
その力は、彼の存在を更なる高みへと押し上げた。
『『―――――ッッ!!』』
そして、互いに別次元の領域にまで昇華した2人は正面から激突した。
--------------------------
――闘技場――
2人が激突した瞬間、観客席に居た全ての人間が歓声を止めて息を飲んだ。
重く静かな空気に包まれる闘技場、勇吾達も例外なく沈黙している。
そこに、場内各所に設置されているスピーカーから、この闘技場の管理システムの統括A.Ⅰ.の声が聞こえてきた。
『御来場のお客様方に申しあげます。現在試合が行われている「宇宙ステージ」は、選手2名のの戦闘エネルギーにより完全消滅、試合規定により自動的に代用ステージを展開しましたがこれも消滅、以後も9の代用ステージ全てが戦闘により消滅した為、当試合は規定に従い強制終了されました』
無感情な音声が闘技場だけでなく、場外の街にまで響き渡ったが、それに対する反応はすぐには現れなかった。
「試合の強制終了」――――それはこの闘技場における決闘を含めた戦闘行為を行う際のルールの1つであり、戦闘者(選手)が意図的な殺人行為や異常行為、または生命の危機の際に適用されてきたのだが、このルールが適用されるケースの中には「戦闘用異空間の消滅による試合継続不可能」というものがある。
今回の決闘を含めた戦闘試合では1試合に付き1つのステージと10の代用ステージが与えられる。
滅多にあることではないが、異空間を消滅させる程の戦闘が行われた場合、消滅と同時に中に代用ステージが展開される仕組みになっており、用意された全ての代用ステージが消滅した場合は試合が強制終了されるのだが、闘技場ができて以降、その様なケースは一度も起きていなかった為、今ではこの規定そのものを知る者もほとんどいない。
それ故、今も観客の多くが何がアナウンスの意味が理解できずに沈黙しているのだ。
「あっちゃ~!異空間の方が耐え切れずに消し飛んだか~!」
沈黙を破ったのはファ〇タを飲んでいたウリエルだった。
折角盛り上がっていたのが、まさかの異空間消滅による強制終了になってしまい、彼は消化不良な気分になっていた。
「ま、銀洸じゃなく俺が出てても結果は同じだっただろうけどな♪」
ズズゥとファ〇タを飲み干したウリエルは視線を横に向ける。
そこには、様々な理由で言葉を失っている勇吾達の姿があった。
「……」
「……」
勇吾はバカのぶっ飛び過ぎた強さに唖然としていた。
良則は映像の中で、一瞬、バカが某・紅白歌手に変身していたのを目にして絶句していた。
「……」
アルビオンは石のように硬直していた。
どうやら信じられないものを見て衝撃を受けたらしい。
「……」
黒王は2人の衝突から映像が途切れる僅かな間に目に映った全てを無かった事にしようと明後日の方向を見つめていた。
彼らは一体何を見たのだろうか?
「ねえ、私の気のせいかも知れないけど、ステージが消えたのと同時にあのバカ……」
「リサ、言うな」
「明らかに遊びモードに入って……」
「言うなよリサ」
「1秒間の間に色んなものを創造して……」
「空間消滅時に発生した幻像か何かだ」
「ガ―――――」
「おい!試合はどうなるんだ!責任者!」
勇吾はリサが口から出そうとしている言葉をもみ消す為に大声で叫んだ。
その声が合図かのように他の観客達もざわめき始め、人々の視線はこの国の国王であり、この決闘の主催者でもあるエリオットに集まった。
「……代用ステージが全て消滅することは想定していなかった此方に非があるが、強制終了の時点で勝敗が付かなかったのも事実、ならば、この試合は引き分けが妥当だと思うが、其方はどうだ?」
大声を上げている訳でもなく、拡声器を使っている訳でもないにもかかわらずエリオットの声はハッキリと勇吾達の耳に届き、勇吾はその問い掛けに肯いて答えた。
そして場内アナウンスが第6試合の結果を引き分けと報じると、納得がいかないという声や、大興奮したという声が観客席のあちこちから湧き上がってきた。
だがすぐに、この第6試合の結果が意味する事に気付いた観客達は一気にボルテージを上げていき、それはあっという間に闘技場全体に伝染した。
「陛下~~~!!」
「陛下だ!陛下の出番だ!」
「燃えてきました~~~~!!」
「引き分け万歳!俺らの王様の試合が見れるぜ!!」
「陛下~!私と結こ……ギハ!?」
「勝った方に私の全てを上げますぅぅぅぅ!!」
「モゲロ!!」
「陛下が戦うのって何時以来だっけ?」
「さあ?けどこれを見ずには帰れない!店番を押し付けてきた甲斐があったぜ!」
6試合が終わり2勝2敗2引き分け、勝敗の結末は第7試合に持ち越される事となった。
つまり、両陣営の大将である天雲勇吾とエリオット=M=ゴッホによる最終試合に。
「……陛下」
「お前達にばかり戦わせておいて俺が出ない訳にはいくまい。何より、俺自身が奴と――――天雲勇吾と戦ってみたくなった。お前も当代の“黒”と戦ってみたいだろう?」
アベルに笑みを向けつつ、彼は背後に立っている己の相方に問い掛ける。
問われた方は答えを口に出す事はしなかったが、僅かに気配が揺れたことが返事となった。
「最終試合、どうせなら全員が揃った場でやるのが良いだろう。1時間ほどの休憩の後、俺と奴の試合を始める」
「了解しました。医療班の方にも彼らの治療を全力で行う様に伝えておきます」
「それでいい。俺達は少々準備をしてくる。行くぞ、赤い龍」
「……」
エリオットは席を立ち、後の事をアベル達に任せると男――――龍王ルベウスと共にその場を後にした。
そしてこの1時間後、いよいよ決闘の最終試合が始まる。
バグキャラ同士の戦いは決着つかず!




