第373話 丈VSジュード③
――闘技場 観客席(選手用)――
「ジョー!ジョー!」
「カッコいい~!」
「母ちゃん!あの変身セット欲しい!」
「ヒーロー頑張ってー!」
「ママ、あたし大きくなったらエターナル☆ジョーのお嫁さんになりたい!」
観客席では親と一緒に観戦に来ていた小さな子供達が大興奮していた。
自分達より年上のお兄さんが超絶パワーで戦い、そして大変身、腕白盛りな子供達のテンションは最高潮に達しようとしていた。
どの世界でも小さい子供はヒーローが大好きらしく、しかも今回のヒーローは人格は兎も角、顔だけはイケメンの部類に入るので女の子もテンションが上がっていた。
その反面、一部の親は我が子の恐ろしい発言に戦慄し、その事態だけは避けようと必死に我が子の説得を始めていたりもする。
「「「……」」」
そんな観客席の喧騒が聞こえる中、勇吾達は石像のように硬直していた。
正確には黒王とアルビオンは試合観戦をせずに読書に耽っていたり、ウリエルはフィッシュ&チップスを食いながら爆笑していたのだがその辺りは無視する。
(……解り切ってはいたが、あのバカは本気と遊びが混ざっていやがるな!)
勇吾は内心憤慨していた。
一部の観客から自分に向かって注がれている視線が、大将戦に出場する自分に対する“変な期待”である事に気付いているからだ。
しかも視線の主の多くは丈の変身に大興奮している子供達であり、彼らは次の最終試合に出場するであろう勇吾も丈のような子供心を擽るアクションをしてくれると目を輝かせており、子供達に悪意が無いことを十分に理解している勇吾は、その不満の矛先を元凶へと向けていた。
「……次は巨大化したりするんじゃないかしら。あのウル〇ラマンみたいに」
「言うな!想像してしまうだろ!」
「それともステージも近未来都市になってるから……巨大変形ロボ召喚?」
「やめろ!リサ!」
「幻術とかも使って、リアルタイム特撮ムービーを……」
「やめろおおおおおおおおお!!」
隣で呆然としている幼馴染の少女の独り言に勇吾は悶え苦しむ羽目になるのだった。
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――宇宙ステージ改め近未来都市ステージ――
「It's ヒーロータイム!」
「僕は悪役?」
ジュードは首を傾げながらライ〇ーキックを極超音速で仕掛けてくる丈を避け、彼を結界の中に閉じ込めつつ街ごと圧砕しようとする。
「《圧狭世界》」
「《勇者の鉄拳》!!」
それを丈は真っ赤に燃やした拳で結界を粉砕、炎は拳型の弾丸のように紅い軌跡を残しながらジュードの顔面へと一直線に飛んでいき、ジュードは眼前に半球状の結界を何重にも展開させつつ、結界の手前に先程の穴を出して吸収しようとした。
だが、炎の拳は穴を貫通して結界に直撃、ジュードを中心とした半径2㎞を飲み込む大爆発が発生した。
「勇者の拳を阻むものはこの世に存在しない!」
相変わらず顔だけはイケメンだったが、自称勇者の放った炎の鉄拳により街は広範囲に亘って爆発に飲み込まれている。
観客席の方でも子供達は大興奮だったが、冷静に状況を見れる人達は言っている事とやっている事の矛盾に顔を引き攣っていた。
無人の異空間とはいえ、大都市を大破壊するヒーローが存在していいのかと、内心でツッコんでいるのであるが、そのツッコみは当然丈本人には届いていない。
当の本人は自分のしていることに何の矛盾も感じていないのか、さらに炎の鉄拳を連発して近未来都市を爆炎と爆音の世界へと塗り替えていった――――かに見えた。
「――――勇者の拳を阻むものはいないようだけど、無傷でいられるものは存在するようだよ?」
爆炎と爆音は消滅した。
消し飛んだのではなく、何の前触れも無く一瞬で消滅し、何処も破壊されていない無疵の街と無傷のジュードの姿があった。
「な、何~~~!」
それを見てワザとらしく驚愕する丈。
「しかし、君が創った街とはいえ、僕ごと吹っ飛ばそうとするなんて勇者として失格なんじゃないかな?ヒーローなら街を破壊しちゃダメだよ♪」
「正義の鉄拳は悪を討つ正義の拳!皆の街を破壊しない!」
「……そうみたいだね」
ジュードのツッコみをドヤ顔で返す丈。
それはその場で思い付いた言葉ではなく、事実、この世界での彼の攻撃は彼自身が標的と認識した対象しか傷付ける事は無く、天災級の力を使っても彼が意図しない限りは彼の攻撃で街が破壊される事は無いという都合の良すぎるものであった。
もっとも、都合良く敵を倒す事は出来なかったが。
「――――顕現せよ!黎明の空より生まれし神威を断つ霊刀!」
丈は天に右手を掲げ、夜明け色に輝く一振りの刀を出現させ、その刃先をジュードへと向ける。
温かい光を放つ刀を握るその姿はまさに悪と戦う正義の味方、観客席では大人も一部の大人も大興奮、中には席から立ち上がって彼の名前を叫んでいた。
「斬る!!」
悪を討つべく、正義の味方は刀の力を解放させて敵に斬り込んでいった。
その姿はさながら、魔王に挑む勇者そのものだった。
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――闘技場 観客席(選手用)――
勇吾達の反応はハッキリと3つに分かれていた。
「「……」」
黒王とアルビオンは完全に読書に耽っており、大長編小説を速読しつつ紅茶を飲み、その耳には補助魔法により外の音は聞こえないようにしていた。
「ガハハハハハハハ!最ッ高!流石は俺の契約者様だな~♪」
ウリエルは相変わらずホットドッグやポップコーン(キャラメル味)を食べながら爆笑しており、近くに居るであろう“向こう側”と契約している天使達の白い視線も完全にスルーしながら観戦にふけっていた。
もっとも、ファラフの方はウリエルの存在すら視界から抹消させているのだが。
「……野郎ハ殺ス」
「アレはコメディ系冒険小説ならラスボスになっているバカね。ラスボスになる前にこの場で葬った方が良いわね。そうね。王室にもその辺の旨を伝えて正式な許可を……」
「どうしよう……明兄や剛兄が知ったら軍を率いてくるかも……上手く国際問題にはしないだろうけど、きっと歴史に残るスキャンダルに……」
勇吾、リサ、良則の幼馴染3人組は夜でもないのに夜闇の様に暗い空気を全身に纏いながら独り言をブツブツと呟いていた。
特に良則は自分の敬愛する兄達の怒りが爆発して黎明の王国が大パニックに陥る様な大事件に発展するのではないかと、このままでは胃に穴が空くのではないかというほどにストレスを急激に溜め込んでいたのだった。
『――――虚像を掃え!超次元、疾風八・風・斬!!』
ステージの上では丈が特撮映画のようなエフェクトを無駄に上手く使いながら派手なバトルを繰り広げ、対するジュードも空から剣の雨を降らせたり十字型の巨大光線をを撃つなど、こちらも丈に負けないほど派手な攻撃を仕掛けていた。
しかし、それらの攻撃はどれを見ても最上級以下の魔法ばかりで、最初にだしたような神格級の攻撃は一度も使っていなかった。
それはつまり、2人とも本気で戦っていないということを意味していたのだが、その事に気付いているのは観客を含めても極僅かだった。
2人の無駄に派手な演出によりテンションが最高潮に達しかけていた観客達には、これから始まる本当の戦いを察知する程の冷静な思考は失われていたのである。
『さて、子供騙しはこの辺りにして、お互いそろそろ本気を出させてもらおうかな?』
そして、本当の戦いは不意に訪れたのだった。
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「さて、子供騙しはこの辺りにして、お互いそろそろ本気を出させてもらおうかな?」
数分が過ぎ、B級映画では足元にも及ばない派手なアクションバトルが一通り繰り広げられると、不意にジュードが意味深な笑みを浮かべながら呟いた。
「――――な!第二形態に進化するだと!」
「しないしない」
「暗黒変身……!」
「しないしない」
丈が1人だけワザとらしく戦慄している中、ジュードは一歩前に出る。
すると、先程まで彼の右足が立っていた場所には黒い足跡が残り、その足跡は時間と共に大きくなってゆき、次第に原型を崩して広大な近未来都市を侵食するように広がっていった。
「――――舞台変更だよ。――――浸蝕しろ。《虚構の神話世界》」
黒が世界に広がり、異空間が再び作り変えられていった。




