第371話 丈VSジュード①
――闘技場――
「い~や~!双子がグチャグチャ~~~!!」
「喧しい!」
気持ち悪い動きをするバカを床に沈め、勇吾達はステージの方へと走っていき。
試合終了と同時に勝者であるファラフと、敗者である慎哉、冬弥がステージの上に転送され、慎哉と冬弥は五体満足ではあるが意識を失ったまま倒れていた。
「慎哉!冬弥!」
「あれ?ミンチにされて成形された?」
「消えろ!」
バカはお星様になった。
だが、数秒で隕石となって地上に戻ってきた。
「――――あの異空間の中では如何なる攻撃を受けても最終的には死ぬ事はありません。そういう仕組みになっていますからね」
「……アベル」
2人の容体を確認する勇吾の下にアベルが歩み寄る。
既に最初の試合でのダメージは癒えているらしく、疲れも見せない爽やかな顔で勇吾達に近付いた。
「今回の決闘ので勝利条件は相手を戦闘不能にするか、降伏させるかの何れかですからね。戦闘不能に関してはうっかり致命傷を相手に与えるケースも考えられるので、戦闘舞台となる異空間には「殺されても現実の死ではない」という設定を施してあるんです。空属性を極めている方なら大抵は出来る技術です」
「僕も出来るよ~」
「そんですね」
アベルの説明にバカの片割れが手を振りながらアピールをする。
勿論勇吾達には無視され、その後は医療班が来て慎哉と冬弥を運んでいき、試合は2勝2敗1引分のまま第6試合へと移っていった。
『黎明の王国』側の出場者は六星守護臣の最後の1人であるジュード=マクミランであり、既にステージの前にまで出て来ていた。
一方、勇吾達はというと……
「……コイツしかいないのか」
「うん。もう、他には居ないね」
「私は戦力外なのね……」
勇吾達は溜息を吐いていた。
正確には溜息を吐いたのは勇吾だけで、良則とリサは苦笑、黒王とアルビオンは遠い所を見つめ、ウリエルは準備体操をしていた。
トレンツはまだ試合のある勇吾達の代わりに慎哉達に付いていったので此処にはいない。
そして、残るバカはというと……
『あーあー!テステス、マイクのテスト中でーす!』
マイクを持ってステージの上に立っていた。
その姿に何故か観客達は大歓声を上げ、一番近くで見ていたジュードはニヤニヤと笑みを浮かべていた。
『闘技場に集まってくれたエブリバーディ!お待ちかねの超次元バトルタ~イムDAZE!バトるのはこの俺、歩けば神も龍も振り向かずにはいられないスーパーボーイの護龍丈、静修真っ盛りのクールソウルな15歳DAZE!』
闘技場は熱い歓声に包まれた。
その光景に勇吾達は引き攣った顔をしていた――黒王とアルビオンは時空の彼方を見つめ続けていた――が、観客席に居るこの国の民衆は今までの試合の観戦でテンションが上がっており、更に次の試合に出場する2人は良くも悪くも有名人であり、戦えば例外なく派手なバトルを魅せてくれると理解していたので彼らのテンションは今もうなぎ上りなのだ。
『――――対するは永遠の時空美少年、淑女も恥じらうフレッシュスマイルを毎日貴方にデリバリー!今日はビューティフルな素肌を見せるかもよのジュード=マクミラ~ン!齢を訊かないのは時空を超えたアルティメットルールDAZE!』
女性の観客達が命を削るかのような大歓声を上げ、ジュードはスマイルを送りながら手を振る。
その中には異世界でも執筆活動をするBL作家も混じっており、新しいCPを開発するべくペンとネタ帳をしっかりと持ち、刹那の光景も見逃すまいと全身の神経を研ぎ澄ませていた。
他にも研究者やら地元新聞記者やらが滅多に見る事の出来ないバトルの中でも絶対に見逃したら大損するバトルを生で観ようと熱を上げていた。
変人も常識人も惹きつけるバカのスピーチは試合開始直前まで続き、途中、内容に腹を立てた勇吾が殴りこむトラブルも発生したが、それすらもバカはコメディに変えていったのだった。
そして試合開始の時刻となり、バカはジュードを指差して勝利を予告する。
『Hey!ユーは俺の世界でジ・エンドさせるZE!』
「じゃあ、さっさと始めようか?」
『OK!Let’s Killing Time!』
「後ろで君の幼馴染が大剣を投げようとしてるよ?」
『ノー・プロブレム!俺は死ぬまでバカだから、天寿を全うするまで不死身DAZE!真のバカは自然死以外では不死身DAZE!』
「そうだね♪」
観客席で勇吾が布都御魂剣を鎖鎌の様に振り回しているにも拘らず、バカはジュードと息の合った(?)会話を交わしていった。
『あ、ちょっとTime!戦う前に1つだけ質問、OK?』
「OK♪」
『ユー達のラブな人ってWho?』
「ジャンはバツ2で今は独身だね。それ以外は今の処は……ああ、アベルには居るみたいですね?この前ケーキを買って何処かに言ってましたから」
「「「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」」」
観客席から女性達(一部男性)の魂の悲鳴が世界に響き渡った。
「先輩、何で知っているんです?」
アベルも若干引き攣った笑みを浮かべながら尊敬する先輩へ疑問をぶつける。
だが、その先輩は「フフフフ」と不敵に微笑むだけで答える気は毛頭ないようである。
「陛下は募集中だよ?というより、王様なんだから、そろそろ相手を見つけて貰わないと国家的に困るんだけどね♪」
「「「―――――――ッシ!!」」」
今度はガッツポーズをとる女性陣が現れた。
おそらくは全員が肉食系なのだろう。
今から自分達の王のハートを手に入れる算段を練り始めていた。
相手は王様なので正妻以外にも妾の座も複数存在している分、ある意味では六星守護臣よりも勝機が高いと睨んでいる者も少なくないようで、決闘とは別に仁義なき女の戦いは勃発しようとしていた。
「……」
その王様本人はというと、表情こそ変えてはいないものの、纏っている空気は若干険しくなっていた。
彼の瞳は「余計なお世話だ」と語っており、同時に「さっさと始めろ」とも語っており、傍のテーブルの上に置かれたグラスは空気に耐え切れずヒビが入っていた。
(……先輩、私の胃に穴が開きそうです。早く試合を開始してください)
アベルは冷や汗を流しながらジュードと丈の試合が早く始まる事を願っていた。
だが、彼の願いは空しく、試合が開始されたのはこの10数分後で、その間に少々腹黒なジュードとバカな丈の会話のせいで両選手用観客席の空気が悪くなっていったのだった。
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――宇宙ステージ――
第6試合の舞台は宇宙だった。
今までの試合は、それも試合開始と同時に破壊尽くされていった末、最終的には宇宙戦になっていたので、ある意味では最も試合に相応しい舞台であった。
一部の観客からは「最初から宇宙でよくね?」という呟きがちらほらあったが、舞台を創造した張本人は普通にスルーした。
「さあ、戦いの開始だよ!」
「チラリもあるかもよ?」
ジュードは丈に、丈は観客に声をかけて戦いの火蓋を上げた。
両者は互いに魔力を瞬時に練り上げると、それぞれ相手にてを向けてその力を解放させながら、力の名を観客席にいる全員の耳に届くように叫んだ。
「「《世界の終焉》!!」」
宇宙が崩壊した。
両者が唱えた魔法は、神話に登場する神々が行使する力と同格――――“神話級”魔法だった。




