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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第15章 黎明の王国編
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第369話 慎哉VSファラフ③

――山岳ステージ(だった何も無い異空間)――


『くっ――――!』


 ファラフに襲い掛かった冬弥は、痛みに耐えながら直ぐに距離をとる。

 攻撃が当たると思われたあの瞬間、冬弥の爪は視認できない何かに阻まれた挙げ句、ファラフに与えるはずだったダメージの全てが彼に襲いかかった。

 ファラフの完全解放状態でのみ使用可能な能力の1つ《自動攻撃反射》、彼にダメージを与えうる攻撃の全てを反射する能力であり、冬弥の攻撃はこれにより彼自身に跳ね返ったのである。

 距離を取り、今度は氷のブレスを吐くが、ファラフに直撃する前に蒸発して消えた。


(攻撃は反射されて、ブレスは蒸発!おまけに存在自体が超火力砲台ってチート過ぎるだろ!)


 直接攻撃は全部自分に跳ね返り、得意のブレスも直撃する前に蒸発してしまう。

 物理的な干渉も反射される以上、冬弥の《神喰狼王之暴食牙(フェンリル・ファング)》も使うことができない。

 一方で、相手は一撃で冬弥を殺すことの出来る攻撃を出し惜しみなく使ってくる。

 どう見てもファラフが一方的に有利だった。


(オマケにバックに太陽があるし!)


 ファラフの背後に見える太陽、それが何なのかは冬弥にも分からないが、少なくとも高密度のエネルギー体で爆発させるとヤバい(・・・)という事だけは見ただけで理解できた。

 仮に爆発した場合、彼らの能力では防御も回避もほぼ不可能に近い大爆発が発生し、ファラフ以外の生命は消滅するだろうと冬弥の直感が告げていた。


『――――もう、終わりか?』

『!』

『なら、お前は此処で退場だ』


 無機質にも聞こえる声が冬弥に死刑を宣告する。

 冬弥は身の危険を感じて退避しようとするが、それよりも早くファラフの攻撃が彼を襲う。


『《刹那光爆》』


 冬弥の移動速度など歯牙にもかけない光速の爆撃が彼を一瞬で飲み込んだ。

 彼の全身を覆っていた霧は圧倒的な力の蹂躙の前に、力を逸らす事が出来ずに消し飛んでいき、そのまま彼自身も跡形も残らずに消えようとしていた。


(くっ――――――――――!!)

『――――――――――――――――――――――――ッッッ!!』


 だがその時、冬弥を庇うように彼の目の前に白銀の閃光が飛び込んできた。


―――――――――――――ッ!!


 白銀の一閃が光速の爆撃を切り裂いた。

 光速の世界での刹那の出来事、白銀の主は光速を越えていた。


『――――慎哉!』

『うおおおおおおおおお――――――――!!』


 弟の声が聞こえないのか、白銀の光を纏った慎哉は雄叫びを上げながら第二撃(・・・)もその爪で切り裂いていく。

 さらに続く第三、第四と続く爆撃も同様に切り裂いてゆき、切り裂かれた爆撃のエネルギーは周囲の空間に霧散し、まるでダイヤモンドダストのような光景を作り上げていった。


〈――――――冬弥、喰え(・・)!!〉

『――――!』


 絶え間無く続くファラフと慎哉の攻防の最中、慎哉は《念話》で簡潔な指示を送り、それを終えると爆撃を切り裂きながら前進していき、ファラフとの距離を詰めていった。

 残された冬弥は激痛に耐えながらも立ち上がり、周囲に漂っている光の粒子を凝視すると口を開けて粒子を口の前に集めていく。

 そして集まった粒子が白球状に集まると、それを《絶対干渉(パーフェクト・アフェクト)》を使った上で噛み付こうとした。


―――――――――《閃槌》


 それは空耳だったのかもしれない。

 だが、それが聞こえたと同時に、冬弥は光の鉄槌の直撃を受けた。






『――――――ッッ!?』


 弟との《念話》による繋がり(リンク)が突如途切れ、慎哉は思わず動きを乱してしまい、ファラフに隙を見せてしまう。

 当然、ファラフはその隙を見逃すことはなく、右手に光の長剣を出し、眼前に迫りつつあった慎哉を容赦なく斬り捨てた。


『ガッ――――――――!!』


 右前脚と一緒に腹が斬られ、慎哉は鮮血を撒き散らしながら真下へと墜ちていった。


『此処まで接近できた事は評価するに値しますが、敵の前で動揺し隙を見せてはまるで意味が無い。試合とはいえ、戦場に身を置く者としては失格としか言えない』

『――――ッ!!』


 慎哉は反論することが出来なかった。

 折角相手の目の前まで迫ったというのに、自分で動揺を見せて隙を突かれては自滅も同然だった。

 意識が半分闇に沈みゆく中、慎哉は自分の醜態に憤りと羞恥、後悔を抱きながらもどうにかこの状態から逆転できないかと思考を巡らせていく。

 だが、思考を巡らせるよりも早く意識が闇に沈んでゆき、更には殆ど霞んだ視界の中でファラフが追い討ちをかけるのが映った。

 慎哉には知る由も無かったが、それは先程冬弥を襲った光の鉄槌と同じものだった。


(クソ……!折角無理言って出た…の……に…………!)


 意識の殆どが闇に沈み、全身の痛みも感じなくなる。

 そして意識が完全に闇に沈む直前、走馬灯のように今までの人生の光景がフラッシュバックしていく。


――――冬弥と共にこの世に生を受けた光景

――――“悪意”により引き離され、もう1つの家族の下で過ごした光景

――――勇吾と黒王と出会い、そこから“こちら側”に踏み込んで過ごした光景

――――運命の悪戯か必然か、15年の時を超えての冬弥との再会した光景

――――冬弥と2人で強くなろうと修業に明け暮れた日々の光景


(……………)


 生まれた瞬間からファラフに切り捨てられる直後までの光景を見ていく中、慎哉は改めて自分の半生がどれだけ波瀾に満ちたものであったのかを知り、同時に自分にとってどれだけ掛け替えのないもので埋め尽くされているのかを知った。

 特に勇吾達と出会ってからの時間は、現実時間では半年にも満たないにも拘らず、それまでの人生以上に濃厚で価値あるものだった。


(…………まだ………)


 その事に改めて気づいた瞬間、闇の中に小さな火種が生まれた。


(……まだ……まだ………!)


 赤い火種は大きな炎へと変わり、消えかかった意識は一瞬で蘇った。


(まだ………終われるか!!)


 闘志によって炎は更に大きく燃え上がり闇を飲み込んでいく。

 このままでは終われない。

 終わる訳にはいかない。

 こんな醜態を晒したままで負ける訳にはいかない。

 自分の全てをぶつけていないのに、このまま情けなく敗北する訳にはいかないと、慎哉は自分達(・・・)に言い聞かせた。

 逆転の策がある訳ではない。

 だが、このまま負けるくらいなら、無茶をしてでも相手に一矢報いてやりたい。


――――お前はお前らしく、“ノリ”で答えを出しても良いんだ。


 心の奥に刻まれていた温かい言葉が再生される。

 古都での夜に聞いた父の言葉が慎哉の炎を更に滾らせ紅蓮の業火へと成長させ、業火は彼の魂を飲み込んで大きな変化を彼に与えていく。

 魂の変化は肉体へも急速な変化を与え、慎哉は自分が変わっていくのを自覚しながらも、それに対して微塵も迷いを抱かなかった。


(どうなっても、俺達は俺達だ!なあ、そうだろ、冬弥(・・)!)


 自分が変わっていく中で、慎哉は自分の魂の最奥にある、蜘蛛の糸よりも補足、けれどこの世のどの糸よりも頑丈な糸の先にあるものを感じ取り、獣が咆哮するが如く叫んだ。

 そして、返事はすぐに返ってきた。


〈―――――――――――ッ!〉


 慎哉は笑みを浮かべた。

 既に視界には全てを白一色で潰そうとする鉄槌が目と鼻の先にまで迫っているのが映っており、普通に考えれば既に何もかもが手遅れな状況だったが、それをハッキリと認識しながらも慎哉達は日常で見せるのと変わらないマイペースな笑みを浮かべていた。


『―――――!』


 光の向こうで誰かが驚愕するような何かが見えた気がした。

 直後に1000以上の光の鉄槌が降ってくるのが見えたが、今の慎哉には1つも1000も大差なかった。

 どの道、回避不可能な攻撃には違いないのだから。


(どの道絶体絶命、リスクなんか無視して全部ぶつけてやる!)


 ノリがテンプレ熱血キャラみたいだなと自覚しながらも、慎哉達は自分達の中にある“枷”の全てを破壊して全てを解放させた。

 そして、彼らを包んでいた業火は紅蓮から白銀へと変わり、弾けた。




『『―――――――《神爪・天裂撃》!!』』




 白銀の一閃が光の鉄槌を切り裂き、ファラフに襲い掛かり、ファラフの全身を覆っていた《自動攻撃反射》に直撃した。


『!』


 ファラフの両目が僅かに見開いた。

 白銀の一閃はファラフの障壁を貫通し、そのままファラフの左肩に直撃し、彼はこの試合で始めて目に見えるダメージを負ったのだった。


『……完全に殺すつもりで攻撃したが、それでも足りなかったか』


 見開かれた両目は再び細くなり、周囲を埋め尽くしていた光を鎮めながら一閃を放った者を睨む。


『枷を……いや、選んだか(・・・・)。『白狼』の御子達よ』


 ファラフの視線の先、そこに立っていたのは白銀の光を纏った白髪の少年だった。

 両腕に神気を帯びた白銀の手甲鉤を装着し、肩まで伸びた白髪の中からは人間のものではない獣の耳が飛び出し、背後には尾のようなものが伸び、口からは鋭い犬歯がはみ出していた。

 その姿を目にしたファラフは、少年の身に何が起きているのか瞬時に見抜いた。


『…………半神半人(デミゴッド)


 それは神と人間が交わって生まれる神と人間の狭間にある存在だった。






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