第365話 琥太郎VSジャン⑥
――城塞都市ステージ――
『熾閃纏いし聖天槍』、その真の力は槍単体の力のみで時空を穿つことを可能とする。
蜂の巣よりも隙間なく穿たれた蒼空は夜空よりも暗く、その奥には何があるのか全く見えなかった。
『―――――』
「!!」
琥太郎は背後に刀を振るった。
それを何時の間にか背後に居たジャンは楯で受け止める。
ジャンは琥太郎の《極超加速》の速度を僅かであるが越えて動いていた。
(――――鎧が無い分……!!)
どうやら、鎧を捨てた事で速度も上がったようだ。
琥太郎は負けじと更に加速する。
自分への負荷など無視して。
『―――――来い!』
「おう!!」
刹那の間に交わされたこの言葉が、この試合最後の会話となった。
そして、蒼と紅の軌跡が空を裂いていった。
序盤は琥太郎がジャンを押していた。
最大限まで研ぎ澄まされた2つの刃が手数でジャンを圧倒、距離を一定以上離さないでいくことでロンゴミニアドのメリットを一部封じ、プリトウェンに注意しながら相手に僅かな余裕も与えぬよう攻め続ける。
時折見せるフェイントにも怯まず、一気に決着にまで追い詰めるべく己の全てをぶつけていった。
――――バキッ!
その音を聞くまでは――――
(あ…………!)
その音をキッカケに、琥太郎の中でも何かが崩れた。
自身への負荷を無視した戦い方、当に限界に達していた琥太郎の肉体と、張りつめていた彼の精神は、彼の前の前でそれがひび割れると同時に崩れ始めた。
――――バリンッ!
ロンゴミニアドに貫かれ、琥太郎の刀の片割れは刀身が粉々に砕かれた。
破片から蒼い光が霧散し、死んだように輝きを失った破片が琥太郎の視界を舞う。
――――バリンッ!
それに遅れること100分の1秒、もう片方の刀もプリトウェンの前に刀身が折れた。
プリトウェンには当たらないように剣筋を逸らしたつもりが、刀身がほんの僅かだけ掠った直後に、まるでロンゴミニアドの一突きを受けた様に真っ二つに折れた。
((…………))
琥太郎達は頭の中が真っ白に染まった。
何が起きたのか、すぐには理解できなかったのだ。
油断はしていなかった。
していたら間違いなく瞬殺、既に敗北していた。
だが、もう理由を考える時間など残っていなかった。
『――――《熾天使騎士之必閃槍》』
そしてジャンの槍から閃光が放たれた直後、琥太郎達の意識は完全に消し飛び、同時に城塞都市ステージを跡形もなく消滅させた。
閃光が消え、そこに残ったのは敵を倒し終え再び緑の全身鎧を着装したジャンだけだった。
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――闘技場 観客席(選手用)――
闘技場全体が熱い歓声に沸く中、約1名、絶望のどん底に落ちたような顔で悲鳴を上げていた。
「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO――――――ッッ!!」
「「「喧しい!!」」」
「ぶばぼほっ!?」
この世の終わりかのような悲鳴を上げる丈をフルボッコした勇吾達は、再び視線をステージの方へと戻す。
ステージの中央には異空間がが解除されると同時に甲冑姿のジャンと、ボロボロに傷付いた琥太郎、そして鷹の聖獣―――暁が現れた。
「琥太郎!!」
「あ、待てよ、慎哉!」
真っ先に選手用観客席を飛び出したのは慎哉だった。
それを追いかけるように冬弥も飛び出していく。
「ったく!大事は無いと思うが!」
そして勇吾も飛び出していく。
ジャンの実力から命の心配はないと確信しつつも、やはり心配なのかすぐに先に飛び出した2人を追い越して琥太郎達の下へと駆け寄り、容体を確認する。
「……ふう」
「勇吾!どうなんだよ!?」
「大丈夫だ。かなり負荷がきてるが、死ぬほどじゃない。何があったかは知らないが、生命力のしぶとさも桁違いに上がっているな。それこそ、どっかのバカ並みに!」
「「え、マジで?」」
「マジだ!」
慎哉と冬弥が色んな意味で唖然とする横で、気絶した琥太郎は医療班に運ばれていく。
暁の方も人化させられてから運ばれていった。
「――――で、何で琥太郎は負けたんだよ?途中までは互角…だったのに?」
ステージから誰も居なくなり、勇吾達も観客席に戻ると慎哉は未だ納得がいかないかのような顔で勇吾に問いかけた。
その問いに対して勇吾は、慎哉の疑問が当然だと同意しながら答えていった。
「まあ、な。アレは俺もすぐには解らなかったが……あれは、年季の…経験の差としか言えないだろうな」
「?」
「矛盾する言い方だが、琥太郎はジャンを追いこんではいたが、同時に追い込んではいなかったんだ。数百年生きてきたジャンの方が琥太郎よりも余裕があったということだ。ま、考えてみれば当然なことだけどな」
「「???」」
慎哉だけでなく、冬弥の頭上にも?マークが浮かんでいた。
「言い換えるなら、ジャンは一方的に攻撃されているのに頭が凄く冷静で、反撃の一手を考えながら余所見ができる余裕があったということだ。逆に琥太郎はあの攻撃で勝負を決めようと集中し過ぎて、ジャン程の余裕は無かった。小さな小細工を仕掛けられていてもな」
「「あ~!」」
勇吾の説明に2人は納得する。
漫画や小説の中でも似たような状況――敵に追い詰められた主人公の心が逆に冷静になるシーン――を読んだことがあるので勇吾の例えは分かり易かった。
「琥太郎の戦い方は決して悪いものじゃないが、今回は相手が悪かったとしか言えないな。練度も経験も、圧倒的にジャンの方が上、何より1対1の決闘は騎士の十八番、勝利を掴むためのコツも使い方もジャンの方が上だった訳だ。琥太郎は俺達も気付かない位巧妙に誘導され、武器を両方失った途端に精神の均衡が崩れ、ジャンが必殺の一撃を入れるのに十分過ぎる隙が出来た訳だ」
「ああ、成程!」
「騎士と言えば一騎打ちだからな!」
「……お前らがどんな騎士像を思い浮かべているのかは知らないが、まあ、今回はこっちの完敗だな。というか、もしかしたらこの決闘自体のルールの1つ、「高位契約召喚で喚びだせる神格及び神獣などは1柱までとする」の解釈を間違っていたとしたら、今回は最初から琥太郎に不利だったかもしれないが」
「「え?」」
「俺達はこのルールを、「召喚で呼べる契約相手は1人まで」と解釈していたし、今までの試合でもそれで問題は無かった。けど、もう一度ルールを読み返すと、このルールの対象となる召喚対象は「神格及び神獣など」で、暁のような「聖獣」が当て嵌まるかはハッキリしていないんだよ」
「「あああ!!」」
勇吾の今更な指摘に、2人は互いを見ながら声を上げた。
彼らが今まで気付かなかったのもある意味仕方がない。
第一試合で戦った良則が契約していたのは全部「神格及び神獣」に当て嵌まり、続くトレンツは神格本体を召喚しなくても十分に戦って勝ち、ミレーナに至っては契約相手自体レアンデルだけしかいないので気にも留めなかった。
だが、琥太郎の場合は違う。
もし、勇吾の推測通り、あのルールに「聖獣」が適応外だったなら……
「もしかしたら、夜鋼も召喚できたかもしれないな。まあ、今更抗議しても結果は変わらないと思うし、戦った当人がそれを認めない気もするしな。それ以前に、ルールの適応内である可能性もあるし、向こうも1体ずつしか召喚していないから……適応内である可能性は高いし、抗議しても言い直されるだけだろうな。というか、それで結果が変わっていた保証は何処にもない………いや、絶対適応内だろうな!でなけりゃ、そこで沈んでいるバカがルールの網を潜ってバンバン召喚して決闘を無茶苦茶にしていただろうからな!絶対!!」
勇吾は床に顔を埋められている丈を指差しながら2人に言い、それを聞いた2人は丈がバンバン召喚して試合を混沌に変える光景を想像する。
そして「ああ……」と、苦笑しながら納得した。
(皮肉だが、こういう意味では琥太郎が暁だけを召喚しなかったのは幸いだったな。あの王なら、例え夜鋼も召喚していても認めていた可能性もあるが、そうなると「神格を持たない聖獣や幻獣」は召喚し放題、という前例が出来上がってしまう。そうなったら、確実に碌でもない事が待っているに決まっている……)
タコ踊りをしながら復活する丈と、何時の間にか大量の揚げパンを買ってきた銀洸を見ながら勇吾は少しだけ安堵するのだった。
結局、この話は此処で終わり、流れは次の第5試合へと変わった。
「―――――さてと、次の試合はどうするか……」
一息吐きながら、勇吾はエリオット達の方へと視線を向ける。
向こう側の次の出場者は決まっているようで、中性的な顔の人物が観客席からステージに出ると、観客達が再び大きな歓声を上げた。
「次は、ファラフか」




