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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第5章 日常Ⅱ
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第35話 馬鹿の前では勇吾は壊れやすい

・本日2話目です。



 馬鹿がプチ(・・)異世界を創造しちゃった日の午後――――――――


 結局、慎哉の修業は午前中の数時間だけで終わり、午後からは良則達の引っ越しの買い出しとプチ異世界、暫定名称《ガーデン》の整備に充てられる事になった。


 馬鹿は外に出すと危険なので家に見張りを付けて軟禁しておき、それ以外は郊外のショッピングセンターへ買い出しに行くことになった。



「買い出しって、何買うんだ?」


「いろいろあるわよ?化粧品とかはそれなりに向こうから買って来たけど、生活用品のほとんどはこっちで買わないといけないからね。食料品も含めてまとめて買わないといけないからここを選んだのよ。ここにはホームセンターとこもあるしね?」


「――――――日本円あるのか?」


「ギルドで予め換金してきたから大丈夫よ。」



 慎哉とリサは生活雑貨店の中に入っていった。


 昼食後、馬鹿が何時の間にか用意したクジで分担―――馬鹿は軟禁のため除外―――して様々な店舗の集まるショッピングセンターへ来ていた。


 くじの結果、慎哉とリサは生活雑貨店、勇吾と良則は家電店やホームセンター、ミレーナと黒王は食料品店等の担当になり、残ったトレンツは家で馬鹿の監視となった。決まった後は別行動となり、2人は大型の生活雑貨店で買い物を開始したのである。




--------------------------


 一方、家電量販店に来ていた勇吾と良則は落ち着いて買い物ができなかった。



「あのう、写真撮っていいですか!?」


「もしかしてモデルさんですか?」


「この後、一緒にお茶などどうです?」



 後から後から続々と詰め寄ってくる女性陣に2人は早くも疲労に襲われていた。


 週末の午後、そこに買い物に来るイケメン2人組、しかも片方は本物の王子―――正確には先王の王子だが―――なので一般人にはない独特のオーラに包まれている。そんな彼らを暇を持て余している若い女性陣が黙って見逃すはずがなかった。



「(ねえ、これどうしよう?)」


「(知るか!お前は毎日こうなってるだろ。こいつらのほとんどはお前目的だろうが!)」


「(え?さっきの子は明らかに勇吾に気がある感じだったよ!)」


「(知らねえな。さっさと買うものかって帰るぞ!)」



 小声でこの状況について語り合う2人――――――


 昨日からと言うもの、幼馴染達のペースに流されている勇吾は地がほとんど丸出しになってきた。まあ、慎哉もとっくに気付いているので普段のメッキに意味はなくなってきてるのだが。


 その後も厄介な集団に追われながらも必要な家電などを選んでいく。電球やドライヤーなどの小さい物を始め、TVやPCなど中学生位の少年2人が買うにしては異常な量の物を選んでいくが、今はしつこく追ってくる集団の方が目立ったのでそれを気にする者はいなかった。



「あのう、彼氏になってください!」


「(初対面で!!??)」



 次第に怖いもの知らずなチャレンジャーまでもが出始めた。

 2人は時間と共にエスカレートしていく追跡者に悪戦苦闘しつつ、自分達の役目を果たしていくのだった。




--------------------------


 数時間後、約2名(・・・)を除いて難なく買い出しを済ませた一同は家への入り口のあるボロアパートの前に集まっていた。


 全員、買った物はあらかじめ用意してあった『四次元エコバック』に入れてきたのでほとんど荷物は持っていない。なお、このバックの製作者はあの馬鹿だったが安全確認は済んであるので問題はなかった。



「なあ、ホントに大丈夫なのか?」



 慎哉は精神的に疲弊した勇吾と良則を気遣うが、彼以外にはいつもの事なのでスルーしていた。



「はあ、大丈夫だ。さっさと中に入るぞ。」


「慎哉君、これは2人にはいつもの事だから気にしなくてもいいわよ。今日はアウェイだったからで、明日からは普通にやり過ごすから大丈夫よ。」


「そうよ!こいつらは年がら年中モテまくってるんだから心配するだけ損よ!」


「マジで?リア充じゃん!!」


「お前ら・・・・・・・。」



 好き勝手言う3人に殺意が芽生えそうになる勇吾だったが、家の中に軟禁してある馬鹿が気になったので抑えた。



「・・・とにかく行くぞ!」



 そして、アパートの扉からガーデンの家へ戻った。





「・・・・・ねえ、この家って2階建てだったよね?」



 玄関で良則は、嫌な予感を感じさせる事を呟いた。彼の直感がどれだけ当たるか知る勇吾は、額に汗を流しながら急いでリビングへと向かった。



「またやりやがったか・・・・!」



 リビングへ来ると、出かける前よりスペースが広がっていた。


 それだけじゃない、天井を見上げると吹き抜けが高くなっていた。数時間前は2階までだったのが、今は5階にまでなっている。この家は勇吾が自身の能力をフルに使って創ったもので普通なら改造などできない。だが、チートレベルになるとその制約も無視される。今、この家を好き勝手に改造できる人物は1人しかいない。

 そして、その人物がこれだけで終わるはずがない。



「丈―――――!!!!何所に行きやがった――――――!!!!」



 さっきまでの疲れが怒りで一瞬で吹っ飛び、勇吾は大声で怒鳴りながら馬鹿の捜索に入った。


 勇吾は元々熱くなり易い性格だった。それを修業の積み重ねで普段から冷静さを保てるようになったが、馬鹿からの度重なるストレスでとうとうブチギレたのだった。



「お~~~~!何かでかくなってるなぁ!?」


「・・・・・・トレンツに任せたのが間違いだったわね。あのクジ、探知には引っかからなかったけど、やっぱり何か仕込んでたみたいね。」


「―――――仕掛けのない物を作った方が少なかっただろう。」


「「た、確かに・・・・・・。」」



 怒り狂った勇吾を見ながら、数時間でリフォーム――――ではなく改造された家を見る5人。慎哉はすぐに荷物を置いて階段を上っていき、リサは目を引き攣りながら自分の軽率さを呪う。黒王は冷めたように呟き、それに良則とミレーナが同意する。




「何ィィィィィィィ!!!!」




 外から勇吾の叫び声が聞こえてきた。それを聞いた一同は急いで家の外へと向かう。



「おい、どうしたんだよ勇吾?つーか、キャラ崩壊してね?」


「いや、むしろこっちが素なんだが。だが落ち着け勇吾、熱くなり易いのが欠点だと言ったのはお前だろう。」


「・・・・!?悪い。」



 黒王の言葉で頭に昇った血が下がった勇吾は、自分が何に驚いたのかみんなにも見せる。そこで見た光景に、誰もが驚き、そして(黒王以外)呆けた。



「―――――また・・・・・。」


「何か計画でも立ててる――――――?」


「いや、いつも通り気まぐれだろう。これを見るに、トレンツも自分から参加したと見れるしな。」


「―――――そう言えば、トレンツって〇ラ〇もんでこう言うの好きだったよね。〇の王国とか〇じ巻き〇市とかハマってた気がする。」


「あ~~~~、あったわね!確かDVD持ってたはずだわ!」



 一同が見た先にあったのは草原でも森でもなく、見事に開拓され造られた町だった。


 地面は平らに整備され、アスファルトではなく煉瓦のようなブロック状の石が綺麗に敷き詰められた道路が延びていた。そして道路に沿うように幾つもの家などが建ち、屋根にはソーラーパネルが設置されており、家々の間には河と繋がった水路ができていた。



「うわっ!勇吾の家がセレブの屋敷みたいに――――――――!!」



 慎哉がさっきまでいたはずの家の方を見ると、そこは家と言う言葉では不相応な豪邸が立っていた。外観は西洋式、高さは5階建て、隣には幾つもの建物が併設させられていた。そこは最早、町の領主の館そのものだった。



「向こうには農地が広がってるよ。それに風車とか・・・・・・。」


「時代とか文化とかごちゃ混ぜにした感じがするわね?」


「趣味のままに造ってるな。――――――2人がいたぞ。あそこだ!」


「――――――!そこか!!」




 その後、ガーデンの中を逃亡する2人を追撃、そして拘束した。トレンツは拳骨をお見舞いし、主犯の馬鹿はロープで縛って逆さ吊りにした。



「なあ、思ったんだけど勇吾は何であそこまで怒ってたんだ?家がでかくなったのはイイ事じゃねえの?」



 慎哉は良則に問いかけると、「そっか、まだ知らないんだった。」と呟きながら答えてくれた。



「魔法と無縁に暮らしてきた人には分かり難いだろうけど、簡単に言えば、こう言う魔法で創った空間というのは個人の資産・・・・いや、例えるならネット上のホームページみたいなものなんだ。普通、ホームページは制作した管理者にしか設定変更とかできないけど、それを権限のない人が勝手にアクセスして内容を大幅に変えたりするのは――――――」


「あ、ハッキングか!」


「うん、正確にはクラッキングだけど、こういった半永続型の魔法には製作者のオリジナルのものが多いから、それを勝手に改造するというのはオリジナルのデータを奪う事に等しいんだよ。悪質な人だと、勝手に魔法のデータを盗用してしまう人がいるしね。」


「ああ、そりゃ怒るな。」


「そう言う事だよ。」



 つまり、勇吾は「自分の魔法で創った自宅」と言うサイトに不正アクセスされた挙句、その中身を勝手に改造されまくったのである。ましてや、自宅である以上はプライバシーも沢山詰まっているも同然なので、それを勝手に弄られたのならブチギレて当然であった。



「――――覚悟はできてるんだよな?」


「あ、俺って今、解体される前のアンコウみたいじゃね?」



 馬鹿は縛られた両足をヒレの様に動かしながら魚の真似をしていた。



「貴様はマズイ鍋にしかならねえけどな!」


「え!?俺って廃棄処分されんの?資源の無駄遣いじゃね?」


「ヤカマシイ!!」



 そして本日2度目のOSHIOKIが始まった。





--------------------------


 OSHIOKI終了後、一同は買い出しの品の整理を行い、その後は数時間で出来上がったガーデン内の町の探索を始めた。案内は馬鹿に任せると碌な事にならないのでトレンツが行い、一同は「自分達の町」の中を歩いて行った。



「・・・にしても、勇吾の家もだけど建物とかってどうやって創ってるんだ?空間とかは何となく分かるんだけどよ?」



 慎哉は当然の疑問を呟いた。



「―――方法はいくつかある。1つは特殊魔法の中に分類されている《建築魔法(ビルド)》、これは材料さえあれば大抵の建築物を作る事ができる。これは生産系の魔法の中では結構メジャーだから使える奴は結構多いし、俺も使える。」


「だな!俺も使えるし、近所でも結構それでリフォームとかするとこも多いしな。」


「けど、これってちゃんとした建築知識とかないと欠陥住宅になっちゃうわよね?」


「うん。だから、公共施設とかの建設はちゃんと資格を持った人が担当してるんだよ。」


「へぇ~~~~~!」



 勇吾達の説明に慎哉は感心していく。



「続けるぞ?2つ目は属性術を使った方法。これは主に土属性や木属性の複数の属性を持っていないと使えない方法だからあまりメジャーじゃない。3つ目は、それ以外の能力を使う場合だ。」


「それ以外?」


「―――馬鹿のステータスも既に見たと思うが、『能力』の中には全体的に見れば魔法に含まれるが、能力欄の分類上では別の『能力』そして分類されているものがある。馬鹿の場合は《錬金術》だな。」



 そう言うと、勇吾は目の前にPSを表示させる。そこには馬鹿のステータスが表示されていた。慎哉には後で説明されるが、PS端末、通称「PST」のアプリの中には一度閲覧したステータスを保存できるものもあり、勇吾が表示させたのは以前保存しておいた馬鹿のステータス情報だった。


 勇吾は馬鹿のステータスの中から《錬金術(Lv4)》をタッチして詳細を表示させた。




【錬金術(LV4)】

・用意した材料を使い、『魔法薬』、『魔法道具(マジックアイテム)』、『特殊金属』等の特殊な効果を持った物を作る事ができる。

・魔法効果を持たない物なら材料と知識次第で大抵の物を作る事ができる。(生物は除く)

・ようはハ〇レンみたいなテ〇ン錬成ができるってことだ!「真理の〇」を開けずしてできるなんて超チート!家でも食器でも何でも錬成し放題だ!お前の想像を創造しろ!!




「・・・・・・・・なあ、この解説、どう見ても日本人が書いてるよな?」


「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」」」」」」



 みんな沈黙した。


 数秒の沈黙の後、複雑な表情で答えたのは良則だった。


 良則は気が遠くなるような声で話していった。



「そのう―――――、この《ステータス》の魔法を作ったのは僕の祖父なんだよ・・・・・。」


「ヨッシー、気を確かに持て!!」


「あんたが悪い訳じゃないのよ!!


「え、何?これ作ったのって――――――」



 ふらつきそうになる良則をトレンツとリサが支える。


 その後、良則の説明の続きを黒王が語り始めた。



「――――――護龍烈(ごりゅう れつ)、凱龍王国の先々代国王で良則と丈の祖父、そしてこの世界の日本人だ。」


「――――――!マジで!?」



 慎哉は驚きの声を上げた。


 良則は王子なのはステータスを見た時に分かっていたし、彼らの故郷の事も昨晩の宴会で聞いていたが、良則と丈の祖父の事は初耳だった。。



「――――旧姓飛鳥(あすか)(れつ)。この世界でも数少ない、異世界の存在と(・・・・・・・)移動法を知る一族(・・・・・・・・)の長男だったが、家督を弟に譲って当時の王国の第1王女と結婚して国王となった。その後は、数々の異世界で得た知識を元に新魔法などを開発して向こうの世界の発展に貢献していった―――――結果的(・・・)にはだが。」


「――――結果的には?」



 黒王は意味深な言葉を最後に付けた。



「―――――――性格が丈に似ていると言う事だ。」


「ああ、なるほど。」



 慎哉は一瞬で納得できた。


 性格が丈と似たタイプなら勇吾達の態度も納得がいく。あの《ステータス》も趣味全開で作ったものだろうと容易に想像できた。



「もういいだろ。話を戻すが、こういった生産系の能力を使えばこれだけの物が作れる、以上だ。トレンツ、取りあえず屋敷に併設している建物から案内しろ。」


「OK!まずはこの修業棟(トレーニングゾーン)だ!見た目は体育館だが中は更に別空間になっていて派手な修業がやり放題!しかも、中の時間の流れは自由に加速可能だ!」


「おお!《スローワールド》の改善版か!!」


「・・・・欠陥品で悪かったな。」



 勇吾は少し不貞腐れるが、一同は次の場所へ向かった。



「ここは図書館と研究室のゾーンだ。まだ中身はほとんどないけど、これから増やしていく予定だぜ!」


「比較的真っ当ね――――――今のところは。」


「まだまだあるぜ!裏の方にはプールやスケートリンク、それに露天風呂が完備されてる!」


「「グッジョブ!!」」



 露天風呂の一言に歓喜の声を上げる女子2人。その後も屋敷の敷地内を歩いて行くが、そのどれもがどこぞのセレブ邸顔負けの設備ばかりだった。



「―――次は町の方だな。時間がなかったからまだ1つしか造れてないけど―――――」


「十分だ!」


「――――じゃあいくぜ!今いるトコが屋敷のある中心エリア、ここを中心にして居住エリア、工業エリア、農業エリアと広がっている。それとは別に、風力や太陽光を利用した発電エリアも造ってあるぜ!!」



 どうだ、と自慢するように案内していくトレンツに呆れながらついて行く一同。たった数時間でここまでやられたら本職の人達の立場はなくなってしまうだろう。



「私達しか住人がいないのにここまでする必要あるの?」


「その辺は()が何か企んでるみたいだぜ?」


「フラグ立ってね?」


「―――――よし、後で吐かせるぞ!」



 最後に嫌なフラグが出たのを最後に、一同は屋敷の方へと戻っていった。


 その後、馬鹿は本日3度目のOSHIOKIを受ける事になったのは言うまでもなかった。










・馬鹿は無駄に博識すぎます。1人で建国とかもできちゃいますが、周囲がそれを許さないので今のところは大丈夫です。


・感想などお待ちしております。


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