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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第15章 黎明の王国編
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第360話 琥太郎VSジャン①

――城塞都市ステージ――


 海岸に望む城塞都市を囲む城壁の上で、『六星守護臣』ジャン=ヴァレットは海の先に見える水平線の更に先、見える筈の無い遠い過去の景色を見つめていた。


「…………」


 比較的長命な者の多い『黎明の王国』の中でも最も長い時を生きているジャンにとって、只の人間だった(・・・・・・・)頃の記憶はとても懐かしく同時に哀愁に満ちたものだった。

 彼には故郷が3つある。

 1つは今居る『黎明の王国』、2つ目は地球世界のヨーロッパにある生まれ故郷、そして3つ目は本当なら余生の全てをそこで過ごす筈だった同じく地球世界のとある島――――。


「――――時間か」


 対戦相手の気配を察知し、ジャンはそこで思考を切り替える。

 その片方の手で神器『プリトウェン』を構え、もう片方の手で槍型の神器を握り締める。

 今は仕える王に勝利を捧げる事のみを考え、ジャンは城壁から地上へと飛び降りた。





--------------------------


「はあ……」


 立花琥太郎は深い溜息を吐きながら立ち尽くしていた。

 時間は遡ること10分前、剣道部の練習を終えた琥太郎は家に帰る前に本屋に立ち寄ろうと繁華街へと足を運んでいた。

 そして本屋に入ろうとした刹那、琥太郎の人並み外れた感覚が身の危険を逸早く察知し、彼は殆ど反射的に地面を蹴り音も無く跳んで数百m離れたテナントビルの屋上へ移動したが、直後に全身を視えない何かで拘束されてしまった。

 説明するまでも無く丈と銀洸の仕業である。

 自覚も封じられ、問答無用で拉致された琥太郎が次に視たのは何時も以上に引き攣った顔をした勇吾達の姿だった。

 そして、琥太郎は丈に一方的に簡単な説明を聞かされ、そのまま戦場へと放り込まれたのである。


「取り敢えず、殺し合いじゃないんだよね?」


 中世ヨーロッパ風の城塞都市の中で、学ランに日本刀という不釣り合いすぎる格好の琥太郎は城壁から音も無く下りてきた全身甲冑姿のジャンを見ながら呟いた。

 大雑把な説明しか受けてはいないが、ここには友人の家族を救う為に必要である事と、これはあくまで試合であり殺し合いではないという事だけは理解していた琥太郎は、目の前の対戦相手をジッと見つめながら静かに構えを取る。


―――――ヒュゥ


 すると琥太郎の下に風が集まり彼の全身を包み込んでいき、彼の服装は学ランから蒼い羽織に袴という、時代劇に出てくる侍のような格好へと変化した。

 全身甲冑のジャンに比べれば防御力が圧倒的に低そうに見える装備だが、実は『魂の武装(スピリット・ウェポン)』の1つであり、魔力や闘気などを纏っていない物理攻撃は悉く無効化し、魔法に対しても恐るべき防御力を誇る防具なのである。

 何処で手に入れたのかは省くが、琥太郎との相性が高いそれは彼の防具と言うよりは体の一部のように馴染んでおり、また、それは防具だけに限らず彼の武器(カタナ)も同様であった。


(――――この人、師匠と同じ域(・・・・・・)に立つ人だ。間違いなく、技術も経験も僕よりも圧倒的に上)


 ミレーナや晴翔達と共に異世界で修業の旅をしてきた琥太郎は、目の前に立つジャンの強さを見ただけで悟っていた。

 間違いなく、まともに戦っても自分では手も足も出ない相手であるという事を。


「ジャン=ヴァレットさん、ですね?」

「……そうだ。お互い、直接会うのはこれが初めてだな。立花琥太郎」

「は、初めまして」


 取り敢えず初対面の挨拶をする琥太郎に対し、ジャンは何処か重苦しい声で返す。

 予め勇吾達の関係者全員の情報を知っていたのか、ついさっき来たばかりの琥太郎の事もジャンは知っているようだ。


「あのう、勘違いかもしれないですけど……もしかしてジャンさんは――――」


 琥太郎はジャンに対して、彼の名前を聞いたときから抱いていた疑問をぶつけようとした。

 スイスの一件の後、勇吾の口からジャンの名前を聞かされた時から彼と同様に抱いていたある疑問を。


「これから刃を交える者同士の間に問答は無用。知りたい事があるのなら、私に勝利してから訊くことだ」

「!」

「行くぞ」


 琥太郎の問いを途中で遮ったジャンは右手に持った槍の神器を突きだし、瞬きする間も与えずそのまま突撃してきた。


「――――ッ!」

「……」


 鋭い突きに対し、琥太郎は冷静に刀で槍の軌道を逸らす。

 1秒にも満たない一瞬の出来事だったが、今のやり取りで2人は違うの力量の差をより正確に理解した。


(成程、極東の『剣聖』によく鍛えられている)


 ジャンは琥太郎の刀裁きに光るものを感じ取る。

 このまま努力を怠らず研鑽を積んでいけば、将来は新たな『剣聖』に至ることもできる器であると。


(――――この人!!気配は誤魔化しているけど、間違いなく剣聖(ししょう)と同格!)


 琥太郎は纏っている気配だけでは測りきれないジャンの底知れない強さの一端を垣間見て、驚愕すると同時に今の自分よりも遥か高みに立つ存在と戦えることへの喜びを感じていた。


「――――フッ!」

「強い!」


 空気が変わった。

 何処となく重苦しい漢字だったジャンの空気は僅かに和らぎ、次の瞬間には急速に研ぎ澄まされていく。

 琥太郎方も、先程よりも遥かに雄々しいものへと変化していった。

 そして2人は各々の持つ武器に意志と力を注ぎ込み、その“名”を相手に紹介するかのように声に出して叫んだ。


「――――《天神刀・蒼天翔王丸》!!」

「――――《聖王槍・ロンゴミニアド》!!」


 進化を続ける『魂の武装(カタナ)』と伝説の王が用いた『神器(やり)』が正面から衝突する。

 その衝撃に地面が円形状に陥没してゆき、周囲の建物も半壊したり全体に亀裂が走るなど、衝撃の強さを示すように瓦礫と化していった。


「「……」」


 お互いに相手の目に向け視線を送り、次の瞬間には2人とも姿を消したようにその場から移動する。

 そして音速を優に超えた世界で2人は刀と槍を交えていった。



(――――虚空八花閃!)



 8体の残像がジャンを囲み、白亜の斬撃を浴びせる。

 その軌跡はまるで宙に裂く白い花のようだ。


「……」


 だが、ジャンの鎧には疵1つ付いていなかった。

 ジャンは心眼で琥太郎を捉えながら、『神器』ロンゴミニアドを振るった。






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