第359話 助っ人(強制)
――闘技場――
試合が終了が告げられると同時に戦闘舞台である異空間が解除され、試合の映像が流されていた闘技場の中央には2人の人間の女と1体の龍が現れ、観客席に居た勇吾達と反対側の席に居た『六星守護臣』の面々が各々の仲間の下へと向かった。
「ミレーナ!レアン!」
勇吾は気を失ったミレーナに駆け寄り、まずは命に別状はないか確認する。
「ミレーナ!勇吾、ミレーナの状態は!?」
「落ち着けって!ミレーナなら大丈夫だ。魔力を殆ど失っているが命に別状はない。ミレーナよりもレアンの方が重傷だ」
「本当!?」
「ああ、どうやらあの爆発の瞬間、ミレーナの固有能力の1つが自動で発動して命を護ってくれたようだ。多少の火傷や打撲はあるが、この程度ならすぐに治せるさ」
「よ、よかった~~~」
ミレーナの無事を確認し安堵したリサは力が抜けた様にその場に座り込んだ。
勇吾は応急処置を施すとそっと床に寝かせ、彼女よりも重傷のレアンデル方へと移動する。
「黒、どうだ?」
「……命の心配はない。だが、あの爆発を間近で受けた分、ダメージはミレーナの比ではない」
「そうか……」
レアンデルは気絶した今も『神龍』の状態を維持していた。
そのお蔭で身体能力等が上昇し命を繋いでくれたのだろうと黒王は勇吾に話し、レアンデルの体に触れて幾つかの術を掛ける。
すると、レアンデルの姿は神龍から人間のものへと変わっていった。
「応急処置は施した。あとは個々の医師達に任せればいいだろう。この国にはそれなりに龍族もいるようだからな」
「そうか。取り敢えず、もう安心だな」
安堵の息を漏らすと、勇吾は同じく気絶しているルビーの方へと視線を向ける。
彼女は甲冑姿のジャン=ヴァレットに抱き抱えられながら医療班の下へと運ばれていた。
彼らの様子から、ルビーもまた命に別状はないようだ。
「……まだ3戦してこれか。というか、どの試合もステージの意味が無いな。どれも最後は宇宙に言っているし」
溜息をつきながら、勇吾は今までの3試合を振り返る。
「お~い!」
「勇吾!」
そこへ慎哉と冬弥の双子がやって来た。
「勇吾、結局3戦目は引き分けってことになるのか?」
「ああ、あっちの大将も座ったままポーカーフェイスしているから異議は無いんだろ。なにせ、戦っていた全員が同時に戦闘不能になったんだからな。引き分けとしか言えないだろ」
「3人とも派手に吹っ飛んだからな~」
「距離とか関係なく吹っ飛んだよな?」
第3試合、ミレーナ(+レアンデル)とルビーの試合は引き分けに終わった。
あの最後の爆発の直後、ルビーは胸をミレーナが放った矢に貫かれ、宿していた神の力も失い精霊化も半分熔けた状態で気を失っていた。
ミレーナとレアンデルの方もあの爆発に防御魔法を使う余裕も無く飲み込まれ気絶、レアンデルに至っては肉体に大ダメージを受けてしまった。
「けど、最後のアレって何だったんだ?」
「あれか……」
慎哉の言う“アレ”とは、追い詰められていたルビーが最後にした攻撃の事である。
「アレはおそらく、自身に複数の神の力を宿して、それを自分の力と融合させてぶつけたんだろう。大雑把にいえばトレンツがしたのと似たようなやつだな。おそらくは、加護を授けている火神と豊饒神の2柱だろう」
「あ~、それで(無理がたたって)気絶してるのか~」
「いや、気絶したのはミレーナの矢が直撃したのが原因だろうな。まあ、トレンツの時より遥かに無茶な行為だったからどの道気絶してただろうけどな」
「どゆこと?」
「トレンツは同じ属性の神を宿したのに対し、あの女は火と土の属性の異なる力を宿したから反動も大きく出たようだ。それでも、本職の巫女だからか、代償もあの程度で済んだみたいだな。普通はミンチか異形化だ。ディオンのは異常……バグだな」
「うへ~」
嫌な物を想像したのか、慎哉は若干顔色を悪くさせていた。
「しかもディオンの時みたいに精神が最低限安定していない状態でやったんだ。殆ど暴走同然に爆発して当然だ」
勇吾は呆れながら慎哉と冬弥にルビーの行った無茶について語っていく。
彼の言うとおり、人間がその身に神の力を宿す際はその者の精神が安定している必要があり、不安定な状態で行えば最悪廃人になるか力に肉体を浸蝕され異形化することになる。
トレンツとディオンはそのリスクを認識しており、実際に行った際も精神を強く集中させるなど前準備
もしていた。
それに対してルビーは追い詰められた状況に焦り、しかも最初に宿したアグニの力が安定してない状態で強引に豊穣神の力を宿したので半ば暴走に近い結果になってしまったのだ。
もっとも、やっていなければ確実に敗北していたのだが。
「――――――しかし、これで3戦2勝1引き分けか。こうなると最終的に引き分けになる可能性も出てくるな」
「で、次は誰が出るんだ?」
「それを今考えてるんだ」
ミレーナ達が医療班に運ばれていくのを見届けた勇吾達は観客席に戻る傍ら、次の第4試合は誰が出るかを話し合っていた。
「相手側で残っているのはジャン、ファラフ、ジュード、そして国王か」
観客席の椅子に座り、勇吾は反対側に居るエリオット達を一瞥する。
相手側で残っているのはスイスの一件でその力の一端を見たジャン=ヴァレット、アメリカの一件で遭遇した2柱の天使の転生(?)であるファラフ、京都の事件では裏で動いていたジュード=マクミラン、そしてこの国の王であるエリオット=M=ゴッホの4人。
一方、勇吾達でまだ戦っていないのは勇吾を含め、黒王、慎哉、冬弥、リサ、丈、銀洸、あとついでにウリエルである。
(ウリエルは雰囲気からして終始傍観し続ける気にしか見えないから戦力外、黒王と銀洸、あと冬弥は契約者と一緒に出るだろうから、残っているのは俺と慎哉とリサ、あと丈だけか……。俺と丈は善いとして、慎哉とリサには荷が重いよな……)
ここに来て勇吾は悩んだ。。
最大7戦するこの決闘で現在は2勝1引き分け、実質、あと2勝すれば勇吾達が勝つわけなのであと2試合を勇吾と丈が連勝すればそこでこの決闘は終わるのだが、ミレーナの時のようにまた引き分ける可能性も考えれば残る2戦も考慮しなければならない。
だが、相手側で残っているメンバーを考えれば慎哉とリサの2人にはあまりに荷が重いとしか言えず、せめてあと1人いればと勇吾は考えていた。
そしてそこへ、タイミングを見計らっていたかのようにそいつらは戻ってきた。
「「やほ~♪」」
「……テメエら、今の今まで何所行っていた!?」
勝手に居なくなってたと思ったら、また勝手に戻ってきたバカコンビに勇吾は怒りの視線を向けるが、2人は柳に風と言わんばかりに軽く受け流した。
「人手に困ってるそこの貴方に吉報ダヨ~ン☆」
「何だ?セールスなら余所でやれ!」
「そんな事を言わずにさ~、困ってるようだから助っ人連れてきたんだぜ?ほいさ!」
「うわ!?」
「!?」
相変わらず良くも悪くも――殆ど悪い方よりの意味で――マイペースな丈は、何も無い空間に穴を開けて片腕を突っ込むと、中から1つの簀巻きを取り出して床に転がした。
「「あ!」」
「おい!」
「次、コイツを出そうぜ?」
丈はザムズアップしながら勇吾達にそう告げた。
ストック尽きた……




