第354話 ミレーナVSルビー①
お久しぶりです。
2ヶ月以上更新が停滞していましたが、今日から再開します。
――観客席(選手用)――
「“契約”って、ヨッシー以外でも沢山できるのか!?」
慎哉はもっともな疑問をぶつけた。
ぶつけられた勇吾は、首を横に振りそうになったがすぐに止めた。
「いや……でき…るものなのか?王国だと王族なら大抵できそうだし………『大魔王』の一族も大抵そうだし……可能、みたいだな?」
「あっはっはっはっは!!何処にでもやらかしちまう奴は居るってことだな♪」
ウリエルはまだ爆笑していた。
本当にツボにはまり過ぎたらしい。
「はあ……」
「ねえ~ねえ~!今度、神狩りに行かな~い?」
「イチゴ狩りや葡萄狩りみたいに言うな!」
素でとんでもないことを言うバカその2を勇吾が黙らせる。
と、そこに『黎明の王国』側から医療班がやってきた。
「遅くなり申し訳ありません!陛下から、負傷者はメディカルルームに送るようにと仰せつかっております!」
どうやらディオンの神器『ハルパー』による傷を気にしてくれているようだ。
ハルパーに付けられた傷は《不老不死》を持つ者には厄介な効果を与えるらしく、念の為に精密検査も受けさせるようにとエリオットに言われたそうだ。
そうでなくとも、負傷者は手厚い治療を受けられる事になっているようだ。
トレンツが運ばれていく際、第1試合に出た良則も同行を求められたが、問題ないと断った。
そして、勇吾達は次の出場者を決める話に入った。
「んじゃ、次は俺が……」
「「やめろ(て)!」」
勇吾とリサは本気で止めると同時に、次の対戦相手がルビー=スカーレットであると確信する。
無駄にチートなバカは、未来予知か何かして次の相手が誰かを特定したと長年の経験から見抜いたの
だ。
そしてそれは正解である。
「じゃ~ぼーーー」
「「「却下!!」」」
「え~?」
「……私が行くわ」
バカその2を黙らせていると、ミレーナが手を挙げて立候補した。
「相手は火属性の使い手なんでしょ?だったら、私の方が相性が良いんじゃない?」
「ミレーナ!けど、貴方は戦闘向きじゃ……」
リサは心配そうにミレーナを見る。
今までのミレーナは、戦闘では勇吾達の後方支援が中心で、単独で戦う事は少なかった。
幾ら火属性のルビーと相性が良い水属性だとしても、支援型のミレーナでは厳しいと思うのは当然だった。
「以前ならね♪」
すると、ミレーナは自分のステータスをこっそりリサにだけ見せた。
「!!」
「修業の旅の成果を見せてくるわ♪」
そう言って、ミレーナは次のステージへと向かった。
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その頃、エリオット達も次の出場者を決定していた。
「――――行け、ルビー」
「陛下の御心のままに」
ルビーはエリオットに跪きながら笑みを浮かべる。
勇吾達の予想通り、『黎明の王国』側の次の出場者はルビー=スカーレットだった。
「ディオンの方はどうだ?」
ルビーがステージの方へ向かうと、エリオットは隣に立っているファラフに向かって、先程メディカルルームに運ばれたディオンの容体を尋ねた。
もっとも、この世界の主であるエリオットなら今居る選手用観客席からでも世界全体を視る事もでき、
ディオンの容体も知ることは可能だ。
それは『六星守護臣』の全員も当然知っており、本来ならここでエリオットがディオンの容体をファラフに尋ねる事に意味は無い。
普段ならば。
「――――別状はない。元よりディオンは不老不死、それに加えて神力への適正は極めて高い。向こうと同様になるかはまだ不明だが、命の危険が皆無なのには間違いない」
「そうか」
話はそこで終わった。
エリオットは今の話を向こう側で聞いている龍王を一瞥することなくステージの方へと視線を移し、直に始まる第3試合の開始を静かに待った。
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――密林ステージ――
第3試合の舞台はアマゾンを彷彿させる密林だった。
高温多湿、一面に熱帯植物が生い茂り、水辺にはワニやピラニアといった肉食生物の姿も見え隠れしている。
空には太陽と一緒に厚い雲の姿もあり、あと1時間も待たずに豪雨が降り注ぎそうに見えた。
「フフフ、舞台はランダムで決まるのだけど、どうやらハズレを引いたみたいね♪」
密林の中でも一際背丈の高い大樹の枝に立ちながらルビーは苦笑した。
彼女の得意とする属性は火、それ故に戦いの舞台が火山地帯や可燃物に満ち溢れた場所であった方が戦術的に有利だったが、今回の舞台は木々こそ沢山あるが同時に湿度も高く水も多い、更に天候も熱帯特有のスコールの気配を感じさせている。
このステージは属性的には木と水の属性が有利なステージであり、火属性のルビーにとっては少々不利な環境だった。
もっとも、それだけで相手に負けてしまうほど彼女は決して弱くは無い。
内心では相手には丁度いいハンデかもしれないとさえ思っている。
「逆に貴方はアタリを引いたみたいね?」
「あまり意味の無いアタリくじだけどね。前の2試合みたいに舞台を破壊すれば立場は逆転しちゃうんだから。」
「フフフ、安心して。私は先の2人ほどの火力は持ち合わせていないわ♪」
「顔にウソって書いているわよ?」
「フフフフフ」
別の枝の上に立つミレーナは全然幸運じゃないと言わんばかりに顔を向けながらルビーに言葉を返した。
既に試合は開始されているにも拘らず、両者とも先制攻撃を仕掛けるそぶりを見せていない。
にも拘らず、両者とも互いに隙を見せないようにしていた。
「フフフ、けど、そろそろこちらも勝たないと観ていてくれている人達にも申し訳ないわね。一方的な試合なんて刺激が少なくて退屈なだけだもの」
「アレを退屈と思える人なんているの?」
「フフフ、この国の民衆は順応性が高いのよ?貴方の故郷と似た意味でね」
「……成程ね。この国も濃いのね」
ミレーナの脳裏に、祖国の濃すぎる人々の顔が思い浮かぶ。
当代と先代の国王は別としても濃すぎる王族、それに順応し日常として受け入れている国民、個性豊かな龍族達、同類に引き寄せられて異世界から集まってくる濃すぎるバカ達、客観的な目で見ればとても真っ当で普通とは言えない。
次に思い浮かぶのはこの国、『黎明の王国』の上層部の顔。
常時青スーツの青年、同じく全身鎧の騎士、死神ピエロ、子供、ハイブリッド転生天使、一部のヘンタイから熱烈な人気のあるオッパイ女、そしてカリスマ国王、こちらも随分と濃すぎる面々である。
それに順応している国民達もまた、随分と逞しい事だろうとミレーナは思った。
「それじゃあ、そろそろ勝たないとブーイングが飛ぶかもしれないわね」
「フフフフ、そういうことよ。あら?」
「あ!」
ポツリと、空から雫が落ちてきた。
それは1滴、2滴と数を増やしてゆき、10秒も過ぎた頃にはバケツを引っ繰り返したような大豪雨になった。
「フフフ、そろそろいいかしら?」
全身に大量の水を浴びせながらルビーは微笑む。
同時にミレーナも動く。
大樹の枝から跳び上がり、自身の周囲に幾つもの光り輝く文字の羅列を出現させる。
「――――《言霊の大海》」
宙に浮かぶ数多の文字、現代文字から古代文字まで、あらゆる言語体系の文字達が豪雨が降るジャングルの宙を舞っていく。
「フフフ、綺麗な光景ね♪」
豪雨が降り注ぐジャングルを幻想的に彩る文字達を眺めながらルビーは右手を前へ出す。
そして中指の先に小さな炎が灯った瞬間、その炎はミレーナから視界を奪うほどの閃光を放ちながら弾けた。
「《緋の庭園》」




