第346話 良則VSアベル4
良則がした事は単純だった。
アベルの力の流れを“破壊”した。
それは水量が増した川の堤防や、ガスやガソリンの流れるパイプを破壊するのと同じだった。
つまりは大惨事や大事故。
大技を放つ為に高密度の力で満たされた流れを破壊、それにより力は暴発して力の大元であるアベルに牙を剥いたのだ。
『―――――――――ッ!!』
アベルは自らの力の暴走による大爆発に飲み込まれていった。
爆発のエネルギーはアベルの纏っている“天使の力”を粒子の様に分解していく。
(これは……誤算でしたね)
アベルは良則の能力を見誤っていた。
京都の一件で『破壊神』シヴァが良則によって討滅された事はその場に居たジュードの口から聞いていたので、彼がシヴァの権能を1つ手に入れている事は予想していた。
だが、アベルはそれを「嵐の力」か「炎の力」だと考えていた。
破壊神と知られるシヴァだが、その破壊の力とは雨や雷といった「嵐の力」として知られていた。
また一方では、シヴァの「第三の目」からは炎が噴出される事から「炎の力」をも持っているとされている。
この事から、良則がシヴァから得た権能は「嵐」か「炎」のどちらかの力である可能性が高いと踏んでいたが、その推測は大きな勘違いだった。
(まさか、文字通りの「破壊の力」そのものだったとは……対象を、物質以外の…魔法や神聖術の術式や力の回路を触れずに破壊できるとは……)
苦笑しながらアベルは自分の敗北を直感した。
だが、タダでは負ける気は無く、さらに言えばそもそも負ける気は無かった。
『――――《絶対君臨の神冠》』
アベルの真上に光の王冠が出現する。
王冠から眩い光の粒子が降り注ぎ、彼を襲う力の暴走を鎮めていった。
(イェグディエルのもう1つの武器、けど、彼の前では長くは持たないでしょうね。一気に決めましょう)
拳を強く握りしめる。
魔法系統の遠距離攻撃ではおそらく良則には勝てないと判断し、ここからは強化した肉体による接近戦で一気に決めようとしていた。
『――――!?』
『《天聖闘気装》!!』
天使と人間の力を融合、その力を全身に纏ったアベルは今までない気迫に満ちた目で良則を睨んだ。
『――――ッハア!!』
『わっ!!』
青い鉄拳が良則を襲う。
咄嗟に避けつつ相手の力を受け流そうとする良則だが、僅かにタイミングがずれて弾き飛ばされてしまう。
(一気に決着を付ける気だ!!)
その一瞬の出来事で、良則はアベルが勝負を付けに来た気付く。
その意志を素直に受け取った良則は、自分も一気に決めに入ろうと動いた。
(《神龍鎧装形態》!!)
良則はその姿を鎧の龍に変えると、急加速してアベルと衝突した。
『『――――ッ!!』』
ここから先は格闘戦だった。
青と白の軌跡が何度も衝突しては衝撃を生み、時空を歪ませている事などお構いなしに戦い続けていく。
光の王冠の効果で一時的に自身の耐性を極限まで上げ、良則の持つ「破壊の力」が直接自分に及ばないようにしているが、それでも王冠が良則の力に対す手効果を長時間維持し続けるのは難儀だった。
だからこそ、アベルはこの格闘戦で勝負を付けようとする。
(恐るべき才能ですが、やはり経験などはこちらの方が一日の長がありますよ)
(――――けど、負けない!!)
『!!』
アベルの右上腕部に良則の拳が直撃する。
ダメージこそ小さいが、僅かにアベルの体勢が崩れ意識も乱す事ができた。
(今だ!!)
その小さな隙を、好機を良則は逃さなかった。
『うあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』
『――――ッ!!』
龍の拳撃の猛襲。
アベルの対応など物ともしない力の奔流が青い天使にダメージを与えていく。
『《白龍気功閃拳》!!』
『ガ………ハァッ…………!!』
鳩尾への重い一撃、アベルの意識が飛びかけた。
アベルは意地でも負けないとばかりに意識を無理矢理保ち、迫りくる良則に自身の持てる最後の力を振り絞った一撃を放った。
対する良則もこれで終わりだと、止めの一撃をぶつける。
『《光翼ノ天撃衝覇》!!』
『《超新星閃拳》!!』
2つの光が衝突し、1つの光が空間全てを飲み込んでいった。
それは勝者の光、敗者の光を圧倒し世界を染め上げた光だった。
――――勝ったのは、白い光だった。
『――――――――――ッ!!』
白い光の中で、青い天使は羽を散らせながら意識を手放した。




