第344話 良則VSアベル2
――大海ステージ――
アベルは良則の拳を避けた。
「流石に初手で勝てませんか」
アベルの初手、紺碧の大波は良則に直撃する事は無かった。
大波が良則を飲み込んだ直後、彼はアベルの背後に瞬間移動し、そのまま攻撃に移った。
(分かってはいた事ですが、さっきのが直撃していれば一気に勝負を決められたんですけどね)
アベルは自分の読み通りだと思いつつも、僅かに残念にも思っていた。
アベルの初手である《紺碧の大激流》、この技の効果には「標的の魔力の強放出及び溶解」、「体力・精神力の急消耗」がある。
仮に良則が回避できなかった場合、彼の魔力は強制的に外に放出されてそのままアベルに奪われてしまい、体力と精神力も一気に削られて状況は一気に不利になってしまっていた。
例えバリアなどの防御を張ったとしても、その防御さえも魔力ごと海水に吸収されてしまうので結果は同じである。
それを回避できたのは、良則が《超直感》を持っていたからに他ならない。
(《超直感》もですが、何やらこの短期間で爆発的に力が増したようですね。ですが、私も負ける気はありませんよ?)
アベルは笑みを浮かべ、嵐の如く襲ってくる連撃を避けながら次の一手に移る。
(次はかわせますか?)
アベルの次なる攻撃、彼を中心とした全方位に1億以上の光線は放射され、次の瞬間には、大海ステージは青い光に飲み込まれた。
(強い……!)
青い光の中、良則は改めてアベルの圧倒的な強さを実感していた。
初手から容赦ない(またはえげつない)攻撃を放ち、良則の音速を超える猛攻にも顔色1つ変えずに避け続け、そして今は空属性による防御・回避を許さない空間破壊攻撃を全方位に向かって一斉掃射する。
一見遊んでいるかのようにも見える表情とは異なり、本気で自分に勝とうとしているアベルの強さを前に、良則は驚きと同時に興奮を覚えていた。
(アベルさんも、名古屋の時よりも力を増している!)
当たり前だが、以前よりも強くなったのは良則だけではなかった。
アベルもまた、名古屋で戦った時よりも更に力に磨きをかけていた。
そして、以前は一部しか閲覧できなかったステータスも、今は隠す気は無いのか、全て見る事が出来た。
【名前】『青の使徒』アベル=ガリレイ
【年齢】47 【種族】人間
【職業】聖守護騎士長 情報局局長 【クラス】守護者
【属性】無(全属性)
【魔力】7,125,600/7,460,000
【状態】正常
【能力】攻撃魔法(Lv5) 防御魔法(Lv5) 補助魔法(Lv5) 特殊魔法(Lv5) 属性術(Lv4) 精霊術(Lv5) 闘気術(Lv4) 武術(Lv4) 錬金術(Lv4) 隠形術(Lv5) 天地眼 超解析 事象分解 曙光の煌焔 天之神託 境界行軍 絶対契約 怒天の霹靂 常盤の理 虚空城壁 量子世界etc
【加護・補正】物理耐性(Lv4) 魔法耐性(Lv5) 精神耐性(Lv5) 全属性耐性(Lv4) 全状態異常耐性(Lv5) 全能力異常無効化 完全詠唱破棄 思考加速 並列思考 超回復 空間認識 看破 隠蔽無効化 天使の器 鋼の魂 低燃費 健康眼 真実の瞳 百戦錬磨 明鏡止水 聖者 努力者 祝福する者 調律者 竜殺し 悪魔抹殺者 神殺し 天魔殺し 不老長寿 王の加護 十二使徒の祝福 熾天使イェグディエルの契約 森神ヴィーザルの契約 英雄神ミスラの契約 天空神アテアの契約 etc
内容が物凄く増えていた。
前回は閲覧できていた【加護・補正】の内容も格段に増え、あの時は極一部の情報しか公開していなかったことが窺えた。
(けど、負ける気は無い!)
意志を燃やし、《閃光化》を発動させ、良則は閃光となった。
景色を埋め尽くす青い光を貫く閃光の刃となってアベルに襲い掛かった。
「ッ!!」
「――――――――ッ!!」
アベルの顔が変わった。
良則に対する驚愕ではなく、僅かな迷いと慢心も捨てた明鏡止水の境地に入ったのだ。
そして、全くのノーモーションで光速の世界へ入り、閃光となって襲い掛かる良則の拳を片手で受け止めた。
「「―――――ッ!!」」
高速の世界で、2人の視線が交差する。
良則の方は、アベルが自分と同じ様に体を変化させたことに驚いてはおらず、逆に想定内だと思っていた。
当然だろう。
彼はアベルのステータスを見ていたのだから。
アベルの能力には《量子世界》があり、これを見た良則は肉体を変換させたりする事ができるかもしれないと考えていた。
そしてその推測は的中した。
「《廻光》―――ッ!」
「《光子千刃波斬》!」
互いの空いた手から放たれる波動と斬撃が衝突し、彼らの真下にあった筈の海は跡形もなく吹っ飛んだ。
正確には吹っ飛んだ海水の4割は一瞬で蒸発して消えた。
「「―――――――――ッ!!」」
しかし、2人はその事を関知せずに戦闘を続けた。
白と青、2色の光の軌跡がステージ内を走ってゆき、数秒ほどずれて戦闘の激しさを報せる轟音が鳴り響いていった。
序盤こそ詠唱ありでの魔法攻撃もあったが、戦いの激しさが増すにつれて両者ともに無意味な詠唱は全て破棄し、会話も殆ど無い激戦と化していった。
(精霊の力を闘気と融合させた……!)
(上手い!今のを《属性術》を無意識に使って受け流しましたか!)
(なら、《森羅万象の翼》だ!)
(新たな『魂の武装』!)
互いに相手の手の内に驚きつつも、次々に相手の知らない技や能力をぶつけて翻弄させようとしていく。
時には相手の力を奪って回復し、時には相手の技を複写して返し、時には時限式の魔法で相手を嵌めたりと、互いに一歩も譲らない戦いが繰り広げられていった。
大海原だったステージも戦闘の影響で完全に干上がってしまい、空にはこの世のものとは思えない様な暗雲が渦巻いて、まるで神話の1ページを思わせるような光景が広がっていた。
「――――縛れッ!!」
「あっ―――――!!」
不意にアベルが声を上げた直後、それまで光速で動いていた良則は強制的に体の自由を奪われてしまう。
(―――――《拘束魔法》!それに、空中魔法陣!)
良則は見た。
自分が、空中に描かれた巨大な魔方陣の中心部に居るということに。
そして魔方陣は1つではなく、良則を挟み込みように上下に何重にも描かれていた。
それらの魔方陣は、アベルが良則との光速戦闘中に自分の移動の軌跡を利用して描いたものであり、その効果は彼の無詠唱魔法の5倍以上の拘束力を持っていた。
今の良則なら力ずくで破る事は可能だが、その場合、最低でも数秒ほどの隙が生じてしまう。
そしてその隙を、アベルが見逃す訳が無かった。
「――――《星を滅する天の一撃》!!」
巨大な光の柱が良則に直撃する。
遥か上空より放たれる超高密度のエネルギーが、太陽の炎の如き高熱を周囲にばら撒きながら良則を飲み込んでいった。
それは星1つを破壊する聖なる一撃、鉄さえも一瞬で蒸発させる光と高熱の柱だった。
並の者なら死を自覚することなく肉体が消滅する。
だが、アベルはまだ攻撃の構えを崩していない。
まだ、戦いは終わっていないからだ。
「――――――アルビオン!」
光の柱の中で、相棒を喚ぶ声がした。
そして、光の柱は1柱の“存在”の登場により跡形も無く弾け飛んだ。




