第343話 良則VSアベル
――光輝王城 王立闘技場――
(考えてみれば、奴らは『飛龍王』……瑛介の父親と接触していたんだ。『蛇』と敵対している以上は、奴の呪への対抗策として既に解呪法を完成させていてもおかしくは無い。ここには、必要な材料が全て揃っているんだからな)
勇吾はエリオット達を一瞥しながら昨日のことを振り返っていた。
頭を過ぎるのは、今回は所用で不参加の友人と、異世界の実家にいる義弟の顔だった。
彼の優先事項の1つ、「サマエルの呪いの解呪」がすぐ目の前にある。
あの夏、『四龍王』の1人から聞いた解呪方法は2つ、1つは呪いの大元であるサマエルの討滅、もう1つは新しい解呪法の開発である。
勇吾はこの2つの方法の内、後者の方に優先して今の今まで必要な材料を集めていたが、目の前にいる相手は彼がこの方法を知った時点で材料の全てを揃えていた。
1つ、浄化の力を持つ神剣、または聖剣
2つ、蛇や龍に属するものを滅ぼす『滅龍神器』
3つ、強力な浄化能力を持つ人間、または神獣や聖獣
4つ、錬金術に長けた者
5つ、七大天使クラスの『天使の力』
勇吾はこの5つの内、2つ目の『滅龍神器』以外は全て揃えていた。
だが、『黎明の王国』の方はとうの昔に全てを揃えていた。
世界中から『神器』を集めている彼らは浄化の力を持つ神剣(聖剣)も、『滅龍神器』も持っている。
強力の浄化能力も、彼ら全員が持っている。
優秀な人材に恵まれている故、錬金術師も当然いる。
最後の『天使の力』も、現役の七大天使の契約者も含め、この国には最高位クラスの天使が複数存在している。
やろうと思えば、何時でも解呪法を開発できる状態だった。
そして、彼らは実際に完成させていた。
(おそらく、瑛介の存在が伝わった時点で奴らはこの手札を手に入れていた。あとは絶好のタイミングで使えば、俺は…俺達は奴らの提案を拒否できなくなる。ここに来る前から、俺達は奴らの筋書き通りに動かされていた訳だ……)
まんまと相手の掌で踊らされたと、勇吾は自分の無力さに多少の苛立ちを感じていた。
仮にも相手は一代で国を立ち上げ臣下達を纏め上げて国を治めている器の持ち主、知略でも容易に勝てる相手ではないと理解していながらも、勇吾は悔しさを抑えられずにいた。
「――――最後に、ルールを再度確認する。勝負は7本勝負、先に4勝した方の勝利とする。引き分けの場合、互いに負けていない者全員が出場しての延長戦を行う。戦闘中、高位契約召喚で喚びだせる神格及び神獣などは1柱までとする。各試合の勝敗は、一方が戦闘不能になるか降伏するかのいずれかとする。質問は?」
「はい!ル――――」
「却下。他にはあるか?」
「俺は――――」
「無い。早速、始めてくれ」
「皆、酷くね?」
「「「………」」」
彼らは悩んだ。
このバカ、本気で結党に参加する気だ、と。
高い頭脳を持つエリオットですら、丈への有効な対策は思いつけなかったのである。
「―――陛下、取り敢えず警察に猥褻物として引き渡したらどうです?」
「「「それだ!!」」」
「おいおい、俺はち〇こかよ~?」
その後、アベルの冗談交じりな助言に誰もが同意した。
そして、本当に警察がやってきた。
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――『大海ステージ』――
王立闘技場は『六星守護臣』の1人、ジュード=マクミランの能力により建造され、観客席に囲まれた中央の舞台は試合ごとにその姿を変える――――異空間になっていた。
通常のコロシアムステージを始め、草原、砂漠、空中、大海、火山、地底、月面など数多くのステージに変わる仕組みになっている。
観客席も、毎回各ステージ全体を観客達が常に一望できるような仕掛けが施されていた。
そして今回、『勇吾と愉快な仲間達(バカ命名)』VS『黎明の王国』の決闘の第1試合の舞台となったのは、陸地が皆無の大海ステージだった。
「私の相手は、君ですか」
「名古屋以来ですね。アベル、さん」
「ハハハ、気軽にアベルと呼んでくれて構いませんよ?」
第1試合は護龍良則とアベル=ガリレイの対決になった。
これには観客―――特に女性陣と一部の男性陣が大興奮した。
中には興奮しすぎて鼻血を出し、そのまま恍惚の顔で気絶するものもいた。
「美少年VS美声年……!!」
「攻めはどっち!?」
「ハァハァ……2人に掘られたい……!」
「天国!?ここは天国なの!?」
ものすごく盛り上がっていた。
多少、危ない意味で。
だが、観客達がこの試合に注目しているのは両者が美形だからという理由だけではなく、両者が共に良い意味で名の知れた者同士だからでもあった。
良則は大国の現国王の弟で、龍皇アルビオンを始めとした名のある神格や神獣と契約を果たし、神殺しも達成した神童、主人公兄妹の末弟、伝説の《閃拳》の継承者、『マジで規格外な一族』、『時空を超えて女にモテるイケメン』、『飢えた獣を呼ぶ童貞』、『腐女子の御馳走』など、此方側では数多くの異名で語られている超有名人。
対するアベルは、その立場上、最近までは派手な行動は見せず、知名度でも未だに良則より劣るが、それでも世界の裏側の大物達を始め、一部の者達からは様々な異名で呼ばれていた。
ある者は『青の使徒』、またある者は『金曜日の祝福者』、またある者は彼の仲間も含め『神滅の三原色』とも呼んだ。
そしてここは彼の故郷、この国に住まう者の誰もがアベルの人柄と強さを知っている。
彼らにとってアベルは――――『六星守護臣』は英雄であり、誇りなのだ。
だからこそ、観客の国民達は異世界でもなお広めている神童と自分達の英雄が戦うこの試合に盛り上がっているのだ。
「――――公務でもありますが、個人的には全力で楽しませてもらいます。勿論、本気で勝ちに行きます」
「僕達だって、負ける気はないよ!」
「そうですか。では、完璧に勝たせてもらいます」
アベルは不敵にほほ笑む。
名古屋の時は幼馴染4人と、勇吾が契約している海神ネレウスの力でどうにか手加減していたアベルに勝つことができたが、今回は良則だけで戦わなければならない。
以前よりも強くなったとはいえ、良則が本気のアベルに勝てる確率は決して高いとは言えない。
しかし、それでも良則は目の前にいる強敵に対し、本気で勝ちたいと闘志を燃やしていた。
(アベルさんは強い!だから、勝ちたい!)
普段の良則しか知らない者なら想像も出来ないかもしれないが、彼もまた強敵を前にすると人並みに燃えるタイプなのである。
今の良則にとって、アベルは全力を出して乗り越えたい壁なのだ。
「―――時間です」
ステージ全体に鐘の音が響き渡る。
それが、試合開始の合図だった。
「では、初手は私から行きます!」
最初に動いたのはアベルだった。
彼が右手を上に上げると、大海原が激しく脈動し、次の瞬間には巨大な大波となって良則に襲い掛かった。
「《紺碧の大激流》!!」
白と青の戦いが始まった。




