第341話 赤の龍王
――光輝王城 高級レストラン――
その夜、勇吾達は光輝王城に一泊することとなり、場内にあるとある高級レストランで細やかな晩餐会が催された。
地球のとは異なる文化圏の趣向を感じさせるVIPルームで行われた晩餐は、やはり地球とは異なる文化の料理が次々に運ばれていく。
その味はそれなりに多くの異世界を旅してきた勇吾達も初めて経験するものばかりで、反対側の席が気になりながらも未知の料理に舌鼓していった。
「ウマ~♡この肉、何の肉なんだ?」
異世界料理初体験の冬弥は、牛でも豚でもない不思議な味のする肉に感激していた。
白狼族である冬弥の味覚は人間のそれよりも繊細で、特に肉類に対しては人間には決して分からない深いレベルまで味わう、つまり肉には五月蠅いのである。
その冬弥の舌を満足させる未知の肉に、兄の慎哉も興味津々の様子だった。
「――――ドラゴンの肉です♪」
「「「ブッ!」」」
日本人組は全員吹き出しかけた。
そして、同じ料理を食べている龍王3人の方に視線を向け、全く気にせず食べている様子に若干引いた。
ドラゴンの肉を食べる龍王、彼らからすれば共食い、弱肉強食の図を見ているようなものだった。
「……共食い?」
慎哉は思ったことを素直に口に出した。
だが、当の龍王達は微塵も気にはしておらず、代わりに勇吾が答えた。
「龍族の竜は別の生き物なんだよ。人間とサルが別の生物なのと同じ理屈だ」
「いや、人間はサルを食べないだろ?」
「食べるぞ?」
「食べるわよ?」
「食べますよ?」
「食べたよ~♡」
「いや、普通に食えるぞ?」
「――――食える」
「……マジで?」
「「「マジで」」」
慎哉と冬弥はショックを受けた。
そしてそこに、アベルが補足を加える。
「中国では猿の脳は珍味ですよ。あと、日本でもニホンザルは食べられます。妊婦に猿の胎児を食べさせたりとか」
「「グロ!」」
「ニホンザルは草食なので、普通に美味しいですよ?」
「食べたことあるのかよ!?」
「スゲエ、カルチャーショック……同じ日本人なのに」
「鍋料理は美味しかったです♪」
知りたくなかった日本の文化を知り、慎哉と冬弥はショックを受けた。
しかもその後、キングコングモドキの料理も出てきてひと騒動が起きるのだが、それは省略する。
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――光輝王城 中庭――
晩餐後、勇吾達は用意された客室で休憩を取り、約3名は大浴場へと勝手に直行、残された者達は自由行動となってそれぞれ客室で休んだり場内を回ったりしていた。
そんな中、黒王とアルビオンは互いに誘った訳でもないのに共に城の中庭に訪れていた。
「…………」
「…………」
2人は沈黙し、立ったままその場を動かなかった。
そして数分が経ち、夜風がまた少し冷たくなってきた頃、その男は何の前触れもなく2人の前に姿を現した。
「――――来たか」
アルビオンはそう呟くと、久しぶりに会う目の前の男を睨んだ。
赤。
そう、赤だった。
髪も両目も、炎よりも強く深い赤、赤という一色が擬人化したような男だった。
「やはり、お前だったか」
アルビオンはその男を懐かしそうに、けれど警戒の目で見つめ返した。
その男は、アルビオンと因縁深い相手、己と対を成す龍王であり、時に好敵手、旧友であった。
「――――久しいな。白の龍皇?」
「ああ、確かに久しいな。赤の龍王」
『赤の龍王』ルベウス――――『白の龍皇』アルビオンと同じくイギリスはウェールズの伝承に登場する今では最古にして最強の龍王の1人である。
その名はアルビオンの名が「白」を意味するように、ルベウスの名も「赤」を意味する。
現在では伝承元であるウェールズに国旗にもなっている、有名な龍王である。
「そこにいるのが、新しい“黒”だな?」
「御初に御目にかかる。“赤”の龍王。我は当代の“黒”の龍王、黒王。若輩者ではあるが、“黒”の氏族の王を務めさせてもらっている」
「ルベウスだ。他に“銀”もいるようだが……あれはいいか。しかし、このような場でお前と再会するとはな。アルビオン?」
「やはり、あの『王』が契約している龍王はお前だったか」
アルビオンは自分の直感が間違っていなかったと心の中で頷いた。
『黎明の王』が“龍王”の一角と契約しているという情報は数十年も昔からアルビオンと黒王も“噂”として聞いており、アルビオンは直感的にルベウスのことだと気付いていた。
だが、直接会って確かめた訳でもないので、今の今まで確信していなかった。
「ああ、お前も久方ぶりに契約者を得たようだな?しかし、凱龍の末なのは分かるが、あのバカの血も引いている人間とは……」
「……それは言うな。少なくとも俺の契約者は、“あの血”は色濃く引いてはいない」
「だが、その逆も一緒に居るようだが?」
「「…………」」
アルビオンだけでなく、黒王も視線を逸らした。
詳しくは語らないが、龍族は元祖バカの一族とは色々因縁があるのだ。
「まあ、それはいい。それで、今夜は何の用だ。再会を喜びに来た訳ではないだろ?」
「そうだ。お前に確認しておきたい事がある。どうやらお前―――いや、お前達は俺達よりも、現状に詳しいようだからな」
「……サマエルのことか?」
「話が早くて助かる」
アルビオンはニヤリと笑みを浮かべる。
アルビオンにはどうしても確かめたい事があった。
それは神代から気にかけてはいたが、当時はついに真実に至る事が出来ずに闇に葬られてしまった謎、それを目の前の旧友は知っていると、少なくとも自分よりは詳しいと確信していたアルビオンは今夜確かめに来ていたのだ。
そしてその確信のとおり、ルベウスはその謎―――「サマエルの秘密」について知っていた。
「いずれ、明日にでも俺の契約者の口から語られるとは思うんだがな」
「だがその前に、同族であるお前の口から聞いておきたい」
「俺からも、頼む」
「……そうか」
自分は新参者だと自覚しているからか、黒王は軽く頭を下げて頼み込んだ。
「いいだろう。俺の知る範囲だけになるが、“奴”について話そう」
そして、ルベウスは自分達が知っている《盟主》サマエルの情報を語りだした。
「『楽園の蛇』は……盲目の神は偽者の創造神であり、そして――――」
そして次にルベウスの口から告げられた言葉に、アルビオンも黒王も平静を装う余裕すらできず、驚愕の顔を見せた。
「――――――黙示録の獣だ」
・サル……今の日本では狩猟許可を持った一部の人しか食べられないそうです。




