第338話 黎明の王国へ
――勇吾サイド――
「では、出発しましょう」
アベルがそう言うのと同時に、俺達の視界が一瞬暗転した。
奴らの転移系能力なんだろう。
暗転から1秒と掛からず、俺達は日本とは異なる場所に移動していた。
「――――到着です。ようこそ、『黎明の王国』へ」
白亜の城壁に囲まれた同じく白亜の城、俺達は『黎明の王国』の本拠地にやってきた。
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――『黎明の王国』 光輝王城――
「やあ、一部の人を除いては初めましてかな?」
「「あ!京都の土産屋にいた奴!」」
「覚えていてくれて嬉しいよ。『白狼』の御子くん?」
白亜の城で待っていたのは京都の事件で会った少年だった。
確か名前はジュード…ジュード=マクミランだったな。
見た目は俺よりも年下だが、内面は俺よりも遥かに老齢なのが感じ取れる。
ショタジジイか。
「“ジジイ”は酷いよ?」
「「「心を読むな(まないで)!!」」」
「ハハハ、これは失礼」
俺以外も同じ事を思っていたようだ。
それはそうと、俺達に気取られる事無く心を読むなんて、やはり只者じゃないな。
ステータスを見ようとしても何も見れなかった。
《隠形術》か、それ以上の隠蔽能力で隠してるんだろう。
「初めましての人もいるので御挨拶を。僕はジュード=マクミラン、『黎明の王国』の6人の幹部、『六星守護臣』の筆頭を務めている者だよ」
「つまり、アベルよりも格上ってことか?地位も、力も?」
「そうだよ♪」
俺の質問にジュードは笑いながら答え、横で聞いていたアベルは苦笑した。
「――――じゃ、中に案内するよ。場内は見た目より複雑だから、迷わない為にも勝手な行動はしないでくれるかな?特に……そこの君達?」
「へ?」
「え~?」
「チッ!」
あのバカ共が……
予想はしていたが、着いた早々に勝手に動こうとしたみたいだな?
しかも今回は何故かウリエルまでついて来ている。
あのバカ天使、何しに来た?
「おい、何でお前までいるんだ?」
「面白そうだからだ!!」
「威張るんじゃねえ!!」
ドヤ顔のウリエルを殴り飛ばす。
「痛えな~?別にいいだろ?駄目なら最初から招かれたりはしないだろ。なあ、イェグディエル、ザフキエル?」
ジュードの方を見ながら、ウリエルは笑みを浮かべた。
『神の番人』、か……。
つまり、ジュードも天使と契約しているか、天使そのものということだな。
「――――その話はまた後で。今は玉座の間へ案内するよ。何度も言うけど、勝手な行動は慎んでくれる?」
「おい、バカ!!」
「ぎゃぼ!?」
このバカ、グレイプニルで縛らないと危なすぎる。
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――玉座の間――
バカ×3をしっかりと拘束した後、俺達はアベルとジュードの案内で城の中を移動した。
慎哉と冬弥は観光しているみたいに大興奮していたが、俺は城内にいる人間に警戒を怠らず、終始場内を観察していった。
そこで気付いたんだが、この城は外から見れば西洋式の城だが、城内はフロアごとに様式が大きく異なり、同時に床や壁に仕込まれている魔法の術式もその様式に合わせて異なっていた。
例えばアジア風のフロアには東洋魔術……陰陽術や風水、仙術などを組み合わせた術式が仕込まれており、案内板等に書かれている文字の1つ1つにも“力”が込められている。
これは――“城”としての機能にしては仕掛けが多過ぎるな?
おそらく、この城は“城”以外の役目があるんだろう。
気にはなるが、訊いても答える訳がないし、調べる隙も無いだろうから今は置いておくか。
「――――玉座の間へはこの昇降機を使うよけど、これは許可を持たないものが勝手に乗ると……ああなるから気をつけてね」
「ビビガア~!!」
バカは感電していた。
ちなみにスタンガンレベルじゃなく、思いっきり雷レベル以上だ。
このバカじゃなけりゃあ、まず死んでたな。
ジュードもそう思って先走ったバカを止めなかったんだろう。
「では、皆さんどうぞ乗ってください」
バカが1人ダウンしていることには誰も触れなかった。
そして、アベルとジュードを含めた俺達15人を乗せた昇降機は静かに上昇を開始し、10秒とかからずに玉座の間に到着した。
少し薄暗いその部屋には魔法具のランプが幾つも浮かんでいて、その光景はまるで……
「魔王の部屋っぽくね?」
「ラスボス~?」
「確かに、我等が陛下はラスボス級ですね」
「ハハハ、そう言えばそうだ!」
アベルとジュードは思いっきり笑った。
おい、お前らがここで笑っていいのかよ?
間違いなく、お前らの主人に聞かれているぞ?
「ええ、聞かれてるよ♪」
「だから読むな!!」
「心は読んでないよ?呼んだのは君の顔だから」
「YU~GO~、早とちり~!」
このバカ、後で東京湾の漁礁にしてやる!
「さて、盛り上がってきたところ悪いですが――――時間です」
「「「――――!!」」」
空気が――――変わった!
今立っている場所が一瞬で別の場所のような……また何処かに転移させられたと錯覚するような感覚に襲われる。
同時に殆ど抑えられているが、微かに漏らしている存在感が伝わってくる。
………ヤバいな。
この存在感、間違いなくアベル達の『王』のものだ。
アベル達の実力からして相当な実力者なのは解っていたが、それでも理解が足りなかった。
あの奥にある玉座に座しているのは、間違いなく最高位クラス……全開状態のシヴァやインドラよりも上の奴だ。
下手したら、『大魔王』ラートン=B=スプロットと同格か、それ以上の奴だ。
他の皆も気付いたのか、バカトリオ以外は息を飲んだ顔をしている。
そして、薄暗かった部屋の灯りが一気に明るくなって、屋の奥にいるそいつの姿が見えてきた。
「――――この方が我等が王です」
まるで芸術品のような、美しい整った真紅の髪と宝石のような美しい瞳、見た目は俺達と同年代だが、纏っている空気から俺の数倍の時を生きている事が窺える。
けど、それでも実年齢は100歳を超えていない気がする。
なんとなくだが。
そして俺の勘が当たっていることを証明するように、ジュードの奴が俺を見て笑みを浮かべやがった。
やっぱ今も心を読んでるだろ?
そうなんだろ?
笑顔で首を横に振っているのは肯定ととっていいんだよな?
……「随分とキャラが変化したね?」って顔をしてやがる。
「―――ゴホン!!」
アベルがわざとらしい咳払いをした。
ああ、スマンスマン。
「YU~GO~,ちゃんと人の話は聞こうぜ~?」
「「「お前が言うな!!」」」
「……君達、ちゃんと場を考えてくれませんか?」
「わ、悪い……」
アベルは苦笑していたが、内心はどっと疲れているみたいだ。
俺が言うのもなんだが、気持ちはよく分かる。
「――――賑やかな連中だな?」
待ち草臥れたのか、玉座に座っていた『王』は笑みを浮かべなが口を開いた。
その声は若々しく聞こえる一方で、年季を感じさせる重さがあった。
「よくぞ来た。俺が『黎明の王国』の王、エリオット=M=ゴッホだ」
その少年に見える男は俺に視線を向けながら名乗った。




