第337話 ストーカー再び
・超久しぶりのキャラが登場します。
・誰?と思う人は、12話をチェックしてみてください。
――2011年12月某日 東京――
その日、2人の美男の狩人は下校時刻になると猛ダッシュで学校を後にして目的地へと先回りした。
「急ぐわよ、優子!」
「今日こそゲットするわよ、華!」
戸山華と泉水優子、東京の某公立中学校に通う少女であり、女心を揺さぶる美男子を求めて全国を飛び回る狩人だった。
彼女達が2人揃って街に出る時の目的はただ1つ、イケメンをそのブレインメモリーにロードする事である。
「北守君は日直だからまだ学校の中よ!」
「先回りするなら今日しかないわ!」
そんな彼女達の最近のターゲットは大物だ。
彼女達の同級生、北守慎哉の仲間達である。
始まりは1学期の後半、ある日の放課後に校門前で慎哉を待っていた2人組のイケメンを目撃した事だった。
その日以降、彼女達は犯罪擦れ擦れな尾行を繰り返し、その度に新しいイケメンを発見してテンションを上げていた。
だが当然のように本人達に尾行がバレ、ここ数ヶ月は尾行をする前に逃げられて彼女達の欲求不満はピークに達しようとしていた。
だから今日、慎哉が日直で何時もよりも下校するのが遅いのを見越して先回りを決行したのだ。
「着いたわ!」
「あそこよ!」
着いたのはボロいアパートだった。
昭和臭の漂う、空き部屋の多いそのアパートに慎哉が頻繁に出入りしているのを2人は突き止めていた。
同時に、この数ヶ月の間に不特定多数のイケメンが出入りしている事も突き止めていた。
ある点においては、探偵も公安も顔負けの情報収集能力である。
「情報によれば、今日の北守君はイケメン達と外出する予定よ!」
華は燃えていた。
どうしてかは分からないが、慎哉の周りにはイケメンが沢山集まる。
まだ全員を堪能した訳ではないが、日増しに増えているのを知っていた。
「(見て!ドアが開いたわ!)」
「(出てくるわ!)」
アパートのドアが開く。
2人はシャッターチャンスを逃すまいとカメラを構える。
この日の為に買い換えた、高画質のデジカメである。
「――――じゃあ、俺は行く。気を付けろ」
「うん。またね剛兄!」
出てきたのはイケメン兄弟だった。
兄の護龍剛則と、弟の良則である。
((キャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア♡♡♡♡))
大興奮だった。
2人はシャッターを押しまくった。
全ての動作をも捕えようと、カメラを持つ手と逆の手には携帯電話を持って動画も撮影する。
100%盗撮、警官に見られたら問答無用で交番行きである。
「…………」
「「――――!」」
良則と別れ階段を下りた剛則はふと足を止める。
気付かれたのかと思い、2人はすぐさま隠れる。
そしてそっと角から顔を覗かせると、既に剛則の姿は無かった。
「ミステリアスなイケメン!!」
「(爽やかイケメンのお兄さん!イケメンのお兄さんはやっぱりイケメン!)(じゅるり)」
「(イケメン兄弟の禁断の……愛♡)(じゅるり)」
「(キャア~~~!)」
2人は腐っていた。
親に隠れて買っている薄い本の影響で、そっち系の想像力が豊かになりつつあった。
「(ハァハァ……また誰か出てくるわ!)」
「(今度は誰!?)」
2人の目はかなり危なくなっていた。
「ちょっとコンビニでヤング〇ンガン買って来るな~♪」
((金髪外国人!?))
出てきたのは金髪のイケメンだった。
天使ウリエルだった。
また懲りずに御忍びで現世に来たようだ。
「(光ってるわ!何だか知らないけど、光ってるイケメンよ!?)」
「(眩しい!この世のものじゃないくらい、眩しいイケメンだわ!)」
本当にこの世の者ではない(笑)
「じゃ~僕も行く~♪」
((銀髪!?))
更に銀髪少年も出てきた。
言うまでもなく、銀洸である。
「(本物!本物の天然シルバーイケメンよ!)」
「(キャ~!年下だけど美味しそ~♡)」
2人は年下もイケる口だった。
迷わず写真を撮りまくる。
後でパソコンで編集してプリントアウトして楽しむのだ。
「―――お前は行くな」
「え~?」
白髪の美青年が出てきた。
((ホワイトーーー!!))
二次元でしか見た事が無かったタイプのイケメンに、華は鼻血を流し、優子は意識を朦朧としかけた。
そして数分後、学校の方角から慎哉がやってきた。
屋根を飛び越えて。
「(北守君、忍者だったの!?)」
「(凄~い!)」
アパートの中に入って行く慎哉を見ながら、2人は屋根を飛び越えていた行為はあまり気にしなかった。
今の彼女達にとってはさほど重要ではなかった。
彼女達の関心はイケメンだけなのだ。
そして10分後、またアパートの扉が開き、中から慎哉を始めとした集団が出てきた。
((キャ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~♡♡♡♡))
優子は黒王を見て鼻血を流した。
華は見た目だけはイケメンな丈と、丈の首を鷲掴みにしている勇吾とその隣に立つ良則に腐った想像力を爆発させた。
2人は幸せになった。
「そろそろ時間だな?」
「向こうから迎えに行くと書いてあったよだよな?何で来るんだ?リムジン?」
「ヘリじゃね?」
「どこ○もドア~!」
「空から島が降りてきたりして……」
「ラピュタ!墜落の呪文の用意だ!」
「―――天界に帰れ」
実に賑やかな光景だったが、その中に1つだけ混ざっている異物に華と優子は水を差されたように不機嫌になった。
「「(女は邪魔!!)」」
リサのことである。
大勢のイケメンの中に立った1人混じっている彼女に対し、2人は未だ嘗て無い程の嫉妬の炎を燃やした。
自分と換わってほしいと思っているのだ。
そして2人の嫉妬の矛先に、更に1人の少女が入ってきた。
「昨日帰ってきたら、まさかこんな事になっていたなんてね?」
「ミレーナ!休んでなくてもいいの?」
「大丈夫よ。あの棟でしっかり静養したから」
((あの女も邪魔!!))
異世界から帰ってきたばかりのミレーナに対しても2人は嫉妬の炎を燃やした。
炎と言うよりはマグマに近いかもしれない。
だが次の瞬間、2人の嫉妬は一瞬で消滅した。
「――――お待たせしました。お約束通りお迎えに参りました」
世界中のどんなサファイアよりも美しい青を身に纏った青年、アベル=ガリレイが何所からともなく現れた瞬間、華と優子はほぼ同時に絶頂に達した。
そして2人はそこで意識を失い、鼻血を大量に流しながら恍惚に浸りながら路上に倒れたのだった。
その手には、意識を失う直前に根性でシャッターを押したデジカメとまだ動画を撮影中の携帯電話が握られており、以降、その中のデータは彼女達の永遠の至宝として半永久保存される事になる。
「では、出発しましょう」
彼女達が気絶したのを見計らい、アベルは勇吾達を自分達の本国、『黎明の王国』へと案内した。




