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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第14章 天使編
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第330話 VSリリス②

――地下保管庫前――


『――――黙れ』



 その一言と共に、ウリエルには凄まじい威圧の奔流が襲い掛かる。


 だが、ウリエルは何処か涼しそうな表情で先程の続きを話し始めた。



『ヒワとヒヤだったな。お前とイヴの娘の間に生まれた巨人の忌子(ネフィリム)は?1日に1人千頭以上の獣を喰らい、他のネフィリムと一緒に地上を荒し回った挙句、亡き“主”の裁定によって洪水に飲まれて死んだ『見張る者(グリゴリ)』の子供達は』


『黙れと言っている』


『あの時のお前の泣き崩れる姿は、俺やミカエル達も一生忘れられねえよ。なあ、シェムハザ?お前は世間では魔法使いの生みの親とかって言われているが、その本質は魔法なんか関係の無い、只のお人好しな“父性”の………』


『ウリエル!!』



 シェムハザは怒声を上げる。


 その迫力に近くにいた泉希達は一瞬怯むが、会話の内容が無視できない内容だったため必死で耐えた。


 この会話を聞き逃したくなかったからだ。



(親父に子供……!?どういう事だよ………)



 泉希は自分の義父(または師)に子供がいた事を今の今まで知らなかった。


 まだ武蔵達と出会うより前、まだ2人きりで旅をしていた頃に「師匠に家族は居るのか?」と訊いた事があったが、その時は「……いない」と返され、泉希はそれを天涯孤独だと認識した。


 その時はシェムハザを人間だと思っといたのだから誤解するのも無理もなかった。



(俺は……親父の子供の代用品なのか……?)



 泉希の義父兼師匠(シェムハザ)に対する思いがここに来て揺らいだ。


 クズと言っても過言でもない実父によって人生を狂わされて以降、彼にとっての父親と呼べる存在はシェムハザだけだった。


 口数が少なかったが、力の使い方以外にも様々な知識を教え、彼が危機に陥った時は何度も助けてくれた。


 泉希は実父など比較にならないほどの強い信頼を抱いており、それはシェムハザが姿を消した後も不動の思いだった。


 だが、ウリエルの口から告げられるシェムハザの過去と、それに対するシェムハザの反応を目にしたことで、泉希の心は大きく揺らいでしまった。


 それは他の4人も同様だった。


 「裏切られた」と、一瞬思ってしまった。


 そしてその隙を突かれてさまった。




――――フフフフ…………



――――お久しぶり(・・・・・)。そしてサヨウナラ。




 一瞬の出来事だった。


 その一瞬で、泉希達5人の意識は闇に浸食され、その手際の良さは無駄に敏感なバカ達の網を一時だがかい潜るほどだった。


 尚、網を潜られたバカはと言うと――――



(あ、しまった!テヘ♡)


(猿も木から落ちる~♪僕もヘマする~♪)



 全然余裕みたいだった。


 そして、状況は急変する。







--------------------------


『『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』』


『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!』


『グルアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


『ギアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』



 5体の黒き獣の咆哮が響き渡る。


 その目を狂気に染める2体の黒馬、狼、虎、そして鷲、禍々しい力を全身に纏わせた5体の獣達の咆哮は周囲を破壊していった。



『おいおい……』


『お前達―――!!』


『この力……。最早呆れるしかない悪足掻きだ。リリス(・・・)よ』



 その様子を、ウリエルは素直に驚き、シェムハザは目を大きく見開いて叫び、ファラフは呆れながら“黒幕”の名を呼んだ。


 そして5体の獣が纏う黒い靄のような力の一部が中に昇り、集合して1つの人型を形成していった。


 リリスだった。



『フフフフフフ……。お久しぶりね、嘗ての玩具に、愚かな神の狂信者達』


『リリス……!!』


『フフフフ、あの忌々しい白トカゲにもお返しをしたいところだけど、今は自重(・・)するとしましょう。今は、この“神殺し”を使い、私の新しい“器”を作りましょう』



 妖しい笑みを浮かべるリリスを、シェムハザは殺気の籠った目で睨む。


 それを見たりリスは、より一層笑みを深めた。



『その目、その目こそ私が見たかったもの。怒りと絶望に染まった目こそ、私を喜びと快楽で満たしてくれるわ』


『ここから失せろ!』


『フフフフ、そんな口を聞いていいのかしら?今、この子達の命は私が握っているのよ?』



 リリスはシェムハザ達を見下しながら話し続ける。


 つい先程までは全ての神格を失い、下級悪魔や妖怪程度にまで落ちぶれていたリリスだが、他人の心の隙間に浸け入れるという本質は健在だった。


 そして都合よく隙を見せた5人の少年達、しかもその内の2人は――正確に言えばその“魂”は過去に(・・・)リリスとナアムの精神浸蝕を直接受けており、その時の傷跡は薄らではあるが今も“魂”に残っており、それがリリスの侵食をより受け易くする隙間となった。


 そして、5人に同時に憑りついたリリスは、彼らの体を支配するのと同時に大量の魔力を吸収し、一時的にではあるが神クラスの力を取り戻したのだった。



『シェムハザ~?貴方の大事なこの子達が、あの巨人(ネフィリム)の二の舞になったら、貴方はどんな顔をするのかしら?』


『―――――ッ!リリス、それ以上は……』


『フフフフ、それにしてもこの子達も本当に哀れね。特に水馬族の子達、折角輪廻の流れに乗れたのに、辿り着いた先でもまた、不幸を繰り返すなんてね』


『何を言っている?』



 シェムハザが訝しみながら訊くと、リリスは邪悪な笑みを浮かべながら彼の知らない「事実」を告げようと口を開く。



『本当に愚かな男ね。大罪を犯したあの時から変わっていないわ。私達の誘惑に対し1人反抗しながらも、周りの流れに飲まれて一緒に堕ちていったあの頃から微塵も。我が子の末路に絶望し涙を流しながらも1人も救えなかった時と全く同じね』


『何が言いたい?』


『近くに居過ぎて気付かないのかしら?嘗て貴方が―――――』


「え~!あのダブル黒馬、シェムハザの息子の生まれ変わりなの~?ビックリ~!」


『救え…………』


『な………に……?』



 その場に微妙な空気が流れた。


 リリスは自分の口から衝撃的事実を告げ、更にそこから過去の傷を抉るようにシェムハザを絶望のどん底へ落とそうとした。


 だが、その計画は空気を読まないバカ共によって呆気なく砕かれた。


 しかし、シェムハザは誰の口から出たなど全く気にせず、雷が直撃したかのように動揺した。



『何を、言っている!?』


『フフフフ、それは――――』


「俺の解析(チート)によると、なんか天使の死んだとっつぁん、洪水で死んだネフィリム達の魂を長い時間をかけてリフレッシュさせて、後は自動で輪廻の流れに入るように仕込んでたっぽい!神、マジチート!」


『そ~いやあ、洪水の時、ネフィリムが次々に溺死するとこを生で見て泣いてた気がするな?“主”って、聖書的に言えば俺ら天使の一応親父だし、死んだネフィリムは“主”の孫ってことになるからな~。きっと、初孫達が死んで超ショックだったんだな~』


「神ショ~ック!あれ?その理屈だと、巨人、ウリエルの甥って事にならなくね?」


『別に俺ら、兄弟姉妹って意識は殆ど無いからな~。元人間は別だが』


「じゃ~、泉希達って元祖転生キャラ~?」


「でもチート無しって、神、マナー違反じゃね?」


『アリじゃないか?魔王が人間の庶民に転生するみたいな感じで?』

「巨人→人間→聖獣→ブラック怪獣(今ココ!)~?波乱万丈~?」


『「だな!」』


『『…………』』



 シリアスな空気が悉く台無しになった。


 リリスも、テンションが一気に冷めてしまって、自分が何をしに来たのか忘れかけている様子になっている。


 一方で、シェムハザはリリスに寄生されている5人の弟子達を凝視、その“魂”の深層部をくまなく見て行く。



『……ファラフ?』


『ウリエルも知らなかった。ならば、“主”が意図的に隠していたのだろう。ミカエルとメタトロンならば、知っていた可能性もあるが……』


『そうか』



 背後で静観している元同胞への確認を済ませ、シェムハザはリリスへ視線を戻す。


 それに気付いたリリスは、不機嫌な目で睨んできた。



『気が変わりましたわ。この子達を使い、再度この世を破壊と暴食で埋め尽くしますわ』


『………』


『貴方達はこの子達を傷つけられない。あの時も、止めを刺したのは天使でも堕天使でもなく、死んだ神なのだから』


『…………』



 リリスは語る。


 かつて地上の娘と『見張る者(グリゴリ)』の間に生まれた巨人ネリフィム、地上の獣を大量に食い続け、果ては共食いを始めてしまった怪物。


 聖書の神はノアの一族だけを助け、地上を水で洗い流し、ネフィリムは全て死に絶えた。


 その際、天使と堕天使は直接ネフィリムを殺してはいない。



『貴方達は互いに争う事はできても、この子達とは戦えない。父であるシェムハザも、あの時は伝令役だったウリエルも、天から傍観していたケルビエルも手は出せない。例え転生した魂だとしても、半分は自分達と同じなのだから。同族間では子をなせない天使にとって、この子達は数少ない天使の子供なのだから』


『『『…………』』』



 誰も反論はしなかった。


 リリスの言うとおり、天使は基本的に子供を作る事はできない。


 永遠に近い生を持つ天使は、子孫を残す必要がないからだ。


 だが、例外として異種族との間では子を作る事ができる。


 しかしそれは聖書の神が健在だった頃は禁忌であり、故にシェムハザ達は天を追放された。



『――――害悪でしかない怪物でも、貴方達にとっては大事な(天使の)子供。自らの手で殺める事など決してできない。あの時と同じように、ここで地上が破壊されるのを見ていなさい』


『『『………』』』


『さあ、この煩わしい場所を抜け、現世を破壊しに行きましょう!』


『『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!』』



 リリスと合図で、聖獣形態の泉希達は再び咆哮を上げて空へと昇っていった。


 その姿は次第に歪んでゆき、丈達が創った異空間を無理矢理抜け出そうとしていた。


 そしてリリスは泉希達よりも遅れて昇って行き、優越感に満たされながらシェムハザ達を見下ろす。


 その表情には自分の優位性を微塵も疑っていなかった。


 天使も堕天使も今の自分には手を出せない。


 何故ならこちらには人質がおり、自分と一体化しているから。


 彼らを殺したくない彼らは自分に手を出す事は出来ない。


 決して。


 自分はこのまま現世に戻り、現代に破壊と混沌を齎す。



(そして我が夫を――――《盟主》サマエル様を現世へ――――)



 リリスは天を見上げ、遥か遠くにいる夫へ向けて手を伸ばした。


 リリスの真の目的、それは己の夫であり、『創世の蛇』の《盟主》の1柱、『楽園の蛇』サマエルを現世へ降臨させる事だった。


 その為に必要だったのが天界と冥界の“門”を現世に開き、現世に多くの天使や堕天使を誘き寄せる事

だった。


 その幾つかの目的は果たされ、あとはリリスが直接“最後の仕上げ”をするだけだった。


 そう、このまま行けば人間の世界は破滅の危機に陥る――――はずだった(・・・・・)








――――ドスッ!!







『………え?』


『――――過去は何度も繰り返される。それは否定しない。だが、“今”もそうだと、何を根拠に考える?』


『シェム……ハザ!?』



 シェムハザの手刀が、リリスを背後から貫くまでは――――






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