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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第14章 天使編
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第325話 悪魔の母

ヨッシーのターン!

――良則サイド――


 僕達はアルビオンの先導で異空間の遥か上空へと向かっていた。


 丈と銀洸の創りだした異空間は現実と瓜二つだが、必ず“端”が存在する。


 2人なら地球まるごと1つ再現した異空間を作ることも可能だが、普段は燃費や強度を優先して何時も半径200~300kmにしている。


 それは空も同じで、今僕達がいるのは地上から2万3000m付近だ。



「あそこが境界みたいだね?」


『……感じるか?』


「うん!」



 肉眼では見えないその境界の先にいる存在を、僕はハッキリと認識し、《神眼》でその正体を看破した。


 そうか、彼女達が今回の一連の事件の黒幕!


 向こうも僕達が見ている事に気付いてはいるけど、まるで些細な事のように余裕の笑みを浮かべている。


 その笑みは美しくも見えるけど、それ以上にそこの見えない邪悪さを秘めていた。


 意志を強く保っていないと、僕でもその邪悪に飲み込まれそうだった。



『――――変わらないな』


「アルビオン?」


『周りを掻き乱しその結果を高みから見下ろし享楽にふける。その腐りきった魂はあの頃と変わらずか』



 アルビオンは珍しく怒っていた。


 いや、普段も丈や銀洸に対して怒っているんだけど、アレはヽ“怒る”でもクールな方で偶に周囲の空気も凍結させるものだった。


 だけど今の“怒る”は違う。


 クールとは正反対のヒート、火山が噴火するかのような、下手をしたら地上の全てを焼き尽くしてしまう攻撃性を帯びたものだった。


 ここまで感情を熱くさせたアルビオンを僕は見たことがない。



『安全圏にいると、何人も手の届かない場所にいるとたかをくくっているか。こちらも相も変わらず、甘い(・・)



 アルビオンの両目が鋭く光る。


 正確にはアルビオンの《龍眼》が手加減容赦なくフル稼働して境界の向こう側にいる彼女達(・・・)を捉え、その眼力で彼女達から全ての余裕を奪いつくした。


 僕の眼にも彼女達が想定外の事態に顔を歪ませるのがハッキリと映った。



『――――穿て』



 重い。


 アルビオンの口から深く思い一言が漏れた直後、目の前の空間に巨大な穴が開いた。


 そしてその中へ、アルビオンの《神龍術》が放たれる。




『――――《無限白龍天浄神光(エターナル・ホワイト)》』




 向こう側(・・・・)に太陽が生まれた。


 僕の感覚が正しければ、今アルビオンが放った光の《神龍術》に使われた魔力は最低でも500万、アルビオンの大半の魔力が今の一発で失われた事になる。


 戦いに置いてそれはあまりに無謀だが、その効果は強烈だった。



『『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』』



 向こう側から悍ましい悲鳴が聞こえてくる。


 人間のものではない、醜悪な魔物が死にかけているかのような悲痛な声が僕達の耳に届いた。


 そして向こう側から1人の女性が飛び出してきた。


 背中から10枚以上の漆黒の羽を生やし、羽と同じ色のドレスを着たその姿は妖艶さを漂わせていたが、その顔は妖艶さとはかけ離れた怒りに満ちた鬼のような形相をしていた。


 神話の時代、聖書の神によって最初の男(アダム)と同時に生み出された最初の女、その多情で淫乱な性格の末にアダムと別れ、代わりに多くの悪魔と交わる事で『悪魔の母』となった女性。



 悪魔でもあり、同時に女神でもある存在――――リリス。



『“魔”に属する存在全てを浄化し抹消する非情なる白き太陽、全ての次元においてこれが使われるのは今回が初。この世で最初に使う相手が『最初の女』とは、随分と皮肉な話だな。――――リリス(・・・)


『ア…ル……ビオン……!!』



 全身に闇を纏ったリリスは憎悪に満ちた目でアルビオンを睨む。


 大瀑布の如き悪意が僕達に襲い掛かるが、僕もアルビオンも微塵も動揺はしない。


 それどころか、アルビオンの視線は既にリリスには向けられてはいなかった。



『ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!』


『ようやく出てきたか――――ナアマ』



 穴の向こうからもう1人の女の悪魔が出てくる。


 いや、リリスと違って悪魔と言うよりは堕天使といった方が正しいかもしれない。


 そしてその正体を僕は知っている。



「魔王の母……!」



 七大魔王の1柱、《色欲》のアスモデウスを始めとする多くの悪魔を生んだもう1人の『悪魔の母』。


 リリスの妹や娘だとも、または売春の天使とも言われているナアマ。


 《神眼》で見た時は妖艶だったその姿も、今はアルビオンの攻撃で全身が焼き爛れている。


 そしてリリスと同様、周囲に悪意を撒き散らしながら憎悪に満ちた目で僕達を睨んできている。



『白トカゲの分際で、よくも私の顔を……!!』


『顔だと?光に焼かれ崩れたその顔こそが貴様の素顔ではないのか?多くの男を貶め、1つの神話の世界だけでは飽き足らず、数多の親和の世界にも根を張り神格を得た貴様に相応しいと思うが?』


『……言ってくれるわ!!』


『それは貴様も同じだろう。ナアマ。己の欲に溺れ、アザゼル達を嵌めて天界の知恵を奪った末に世界を一度滅ぼしかけ、完全に堕ちた後も多くの悪魔を生み落して数多の世界に災厄を齎した邪悪の素顔。それが露になっただけだろう』


『白の………!!』



 僕は…僕達は只見ている事しかできなかった。


 何時もならすぐに戦闘にはいるんだけど、今はアルビオンと2柱の神格(・・・・・)の只ならぬ空気に息を飲んで見ているしかなかった。


 リリスとナアマ、多くの悪魔を産み落とし、多くの天使を誘惑して堕天させた2柱とアルビオンの間にどんな因縁があるのか。



〈なあヨッシー、アルビオンってあの悪魔達とどんな関係があるんだ?知ってる?〉



 トレンツが《念話》で問いかけてくるが、僕もすぐには答えを出せなかった。


 アルビオンの過去については僕もその大半は知らないし、リリスやナアマとの因縁となるとこの場で答えを出すには材料が少なすぎた。


 リリスは僕の知識の中でもかなりの数の顔を持つ神格、その幾つもの顔の中からアルビオンと関わりのある顔を特定するのは決して容易な事じゃない。



〈分からない。リリスはキリスト教だけじゃなく、ユダヤ教やイスラム教、他にもギリシャやバビロニアなど、いろんな地域の神話や伝承に出てくる存在が習合した神格だと言われていて、僕の知識だけじゃその全容を把握する事が出来ない悪魔の1柱なんだ。アルビオンはイギリスのウェールズ地方の神話で語られているけど、そこで関わったのかも分からないんだ〉


〈けど、あの様子だとかなり深い因縁がありそうだぞ?〉


〈うん。それに、今この異空間の中にはリリスやナアマと因縁のある人達が他にもいる〉



 僕は意識の一部を下へと向ける。


 思った通り、()の視線はこっちに向けられている。



『――――フフフフフフ、まだ“金”の事を根に持っているのだとすれば、随分と器が知れていますわね。神格を得ているようですが、たかだか龍王の域を超えられない白トカゲ風情が――――』



 リリスが妖艶な笑みを浮かべた直後、悪意の大瀑布が更に強く、より禍々しくなって僕達に襲い掛かり、今まで傍観していた僕は拳をより強く握りしめた。



『アハハハハ―――――ウフフフフフフフ―――ヒヒヒヒヒ――――』



 ナアマの方は狂ったように笑い始め、それと同時に姿が変化し始めた。


 白かった肌は一瞬で色黒くなり、耳はエルフのように尖って手足の爪は獣のように鋭く伸び始める。


 頭にはヤギの角が生え、堕天使の羽を除けば女性型悪魔の定番のような姿になった。


 けど、定番な姿とは裏腹に、纏っている魔力は前よりも数段濃密になり、邪悪さも増していた。


 一瞬、僕とナアマの視線が合った気がした。



『フフフ……可愛い男の子が一杯ね?坊や……戦いなんて野蛮な事は止めて、私と楽しみません?坊や達も、戦いなんて嫌でしょ?もう…戦わなくてもいいのよ。坊や達に必要なのは武器でも敵も無く……私の“愛”ですのよ?さあ、おいで……』



 何言ってるんだろう?


 どこか不思議と甘い響きの声が僕達の耳に届く。


 それと同時に妖しい魔力が降り注いできたが、僕が軽く手で払うとその魔力は一瞬で消えた。



『フフフフフ………』



 ナアマは相変わらず微笑んでいる。


 攻撃する気は無いのかと思った時、僕の横をトレンツがナアマの方に向かって通り過ぎようとしていた。


 アルバスも一緒に。



「トレンツ!?」


「ヤベ……なんか、戦いなんかどうでもよくなってきた……」


『ああ、なんか……気持ちが楽になってくるようだ……。あの人のところに行けばもっと……』


「アルバス!?まさか……!」



 2人の様子を見て、僕はすぐに2人がナアマの精神攻撃を受けていると悟った。


 ナアマは息子であるアスモデウスと同様に《色欲》の悪魔であり、淫行を好む神格だ。


 天使だった頃の『見張る者(グリゴリ)』達を堕落させて堕天させたのも彼女だ。


 僕は何とも無いけど、トレンツとアルバスはナアマの精神攻撃を受けて堕落させられかけているんだ。



「―――ゴメン!!」


「ゴッ!?」


『ガッ!?』


『なっ―――!!』



 僕は加速移動して2人の頭を殴って正気を取り戻させた。


 殴ると同時に精神耐性を強化する魔法も流し込み、少なくとも半日は精神攻撃を完全防御できるようにしておいた。


 その様子を見たナアマは、余程予想外だったのか目を丸くした。



『痛っ!あれ、俺は何してたんだ?』


「イタタタ…!(あ、何か知らないけど起ってる!?)」


「良かった!2人とも、ナアマの精神攻撃を受けて正気を失いかけてたんだよ!」


「マジで!?ヤッバ~、ボス戦で真っ先に死ぬとこだった~!ヨッシ~サンキュ~♪(俺の貞操の危機だったぜ!)」


『チッ!つまんねえ手に堕ちるとこだったな!』



 正気に戻ったトレンツとアルバスの2人は気を引き締め直してナアマを睨みつけた。


 ナアマ、僕の仲間を堕天使達の時のように堕落させようとするなんて許さない。



『おい、何があった?』


「2人とも大丈夫なの!?」



 瑛介やリサ達が僕の周りに集まってきた。


 どうやらトレンツとアルバス以外はナアマの精神攻撃の影響は受けなかったみたいだ。


 僕は《念話》を応用して一瞬で事情を説明し、理解したみんなも僕と一緒にナアマの方を見た。


 そのナアマは、自分の精神攻撃が効かなかったりあっさり破られた事に僅かに動揺を顔に浮かばせていたが、それも数秒と持たずに今度は圧倒的な殺意の奔流を僕達に浴びせてきた。



『私の愛を拒むなんて――――――!忌々しい!!』



 ナアマの狂気は周囲の空間を歪ませていく。


 普通の人間なら軽く100回以上はショック死しそうな空気が充満する中、僕達は決して物怖じしないで彼女と対峙し、攻撃のタイミングを狙った。


 アルビオンの方も、リリスとの戦闘を今まさに始めようとしている。


 あの様子だと、リリスの相手は誰にも譲らなさそうだ。


 なら、僕はパートナーを信じてナアマとの戦いに集中する事にする。




『――――――死ね!!』




 ナアマが動く。


 それと同時に僕達は一斉に動く。


 黒幕との決戦の火蓋が切って落とされた瞬間だった。






【名前】『淫楽の魔王』ナアマ

【年齢】????  【種族】堕天使

【職業】魔王  【クラス】悪魔の母

【属性】闇

【魔力】7,632,000/8,000,000

【状態】正常

【能力】魔王之魔法(Lv5) 魔王之武術(Lv4) 色欲之力(Lv5) 淫蕩波動 魔王眼 狂化 心毒

【加護・補正】物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv5) 精神耐性(Lv5) 闇属性無効化 全状態異常無効化 全能力異常無効化 完全詠唱破棄 高速回復 高速再生 始まりの血脈 天の知識 悪魔を生みし者 堕とす者 惑わす者 龍王殺し 神殺し 盟主の妻 邪天使王サマエルの加護





『リリス』…元は大地母神、夜の女神だとされている。聖書の神がイヴよりも先に生み出した女だとされ、アダムの男性優位な態度に嫌気がさして去って行き、ルシフェルを始めとする悪魔と交わって多くの悪魔を生み出した。男の天敵とも言われている。


『ナアマ』…ナーマーやナヘマーとも呼ばれる。リリスの妹か娘、またはアダムとイヴの子孫だとも言われ、時には売春の天使とも言われる。七大魔王の一角であるアスモデウスの母でもあるが、淫行が大好きで子供には興味が無い。『見張る者(グリゴリ)』の天使達を誘惑して堕天させた張本人でもある。


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