第324話 分析
――地下保管庫前――
「あれ?あのダークエンジェル、魔王とブレンドされてね?」
『ブレンドってより、カフェオレじゃねえか?白と黒的に?」
「あれ~?マモンは前に倒してなかたっけ?」
『ああ、あのカオスなバロール事件の時のか!』
「全身イレ~イズしたんだけど~?なして?」
『あ~、きっとそれはマモンの半身だったんだな。マモンは双頭の鳥悪魔だけど、確か過去に分裂してメタトロンとバトッてたのを覚えてるぜ!』
「そしてまた合体!なんかエロくね?」
「くっ付いて~はなれて~?」
『そういやあの頭、両方同性なのか?』
バカ達は半分どうでもいい会話をしていた。
『なあ、お前らはどう思う?』
「「「知るか!!」」」
話をふられた泉希達は怒鳴り返したのは当然だった。
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――慎哉サイド――
『「魔王!?」』
なんか魔王キタ!!
なんか天使と魔王が合体してハイブリッド堕天使になってる!!
マモンってアレだよな?
七つの大罪の《強欲》を司っている大悪魔!
七つの大罪はよくネタに使われているし、ついでに既に《傲慢》には何度も遭遇しているから俺も知ってるぜ!
『―――今のお前の意志はラジエルではなく、マモンの方か?』
『………』
俺の目の前でラジエル+マモンに質問する黒だけど、相手は全然答えない。
というか、答える意志が全然無いって感じだ。
俺の野生の勘によれば、アレの中にはラジエルとマモンとは別に、第三の意志が入っている。
多分!
〈ピンポンパンポン~♪正解正解大正解~♪商品は何だ~!?〉
〈パッ○ンチョ~!〉
〈ミッキ~~!〉
〈あ、パイの〇発見♡〉
今の気分的にはえ○せんがいいんだけどな。
それは兎も角、あいつらの解析(?)によれば俺の勘は当たっているらしい。
だとすれば、その第三の意志は何者だ?
『《簒奪》』
『フン!』
俺の疑問とは関係なく、黒はラジエル+マモンとの戦闘を開始した。
けどその直後、横から大鎌を振りかざして乱入してくる天使がいた。
『《光輝の断罪鎌》!!』
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サリエルは光り輝く大鎌でラジエルに斬りかかる。
聖なる光の斬撃にて魔を消滅させる一撃だが、ラジエルはそれを片手で受け止めた。
『―――ッ!』
『《断罪》』
『『『!!』』』
刹那の後、周囲の景色は一変する。
ラジエルから放たれる閃光は周囲に純粋な破壊を撒き散らし、地下は一瞬にして地上へと変わった。
閃光により抉られた大地は中心に穴の空いた巨大なクレーターと化し、西端の海岸だった場所からは海水が流れ込み始めた。
「―――大丈夫か、黒!?」
『問題無い。《中立たる龍神の天鎧》がある』
光が止み、勇吾と黒王は合流していた。
光属性が弱点の黒王だったが、《中立たる龍神の天鎧》を装備したお蔭で最小限のダメージで済ませた。
「……なんとなくだが、全体像が見え始めたな?」
『――――サリエルの目的は『ラジエルの書』ではなくラジエル本人、罪を犯したラジエルを裁きにきたのだろう。サリエルは罪を犯した天使を裁く役目を担っている。天界の禁を破り現世に下りたラジエルを追ってくるのは当然だろう』
「文献によれば、サリエルは罪を犯した天使を裁いて堕天させるともあるが、ラジエルは既に堕天使と化している。裁くというよりは死刑執行だな。そしてラジエルの方は、今回の一連の事件の黒幕に嵌められてああなったってところか」
『大まかな筋書きはそんなところだろう。黒幕の目的は天界と冥界を現世と繋ぐ『門』の出現、または天使と堕天使の同時出現による現世の混乱…いや、混沌の発生か。いずれにせよ、まだ詳細を断定するには情報が足りない』
「……黒幕は誰だと思う?』
『天使を堕天させられる者など限られている。その中からサリエルを除けば――――。そしてその背後にいるのは……』
「『蛇』、か……」
サリエルがラジエルと戦っている間、勇吾と黒王は状況の整理を行っていく。
サリエルとラジエルの戦いは拮抗とまではいかないまでも、苛烈極まるものだった。
サリエルは聖なる力でラジエルを融合している|《強欲》の魔王ごと消滅させようとするが、今のラジエルは光・闇属性が無効化される為、サリエルの攻撃の殆どはどれも決定打にはならず、戦況は明らかにサリエルに不利な流れとなっていた。
一方のラジエルは、光と闇を属性融合させた攻撃を駆使してサリエルを追い詰めて行き、マモンの《強欲之力》も使ってサリエルの力を奪おうとしていた。
「慎哉達は下に下りたみたいだな?この感じだと、戦線復帰は難しいな」
『リスクの大きい大技を使った代償だろう。暴走したアザエルが相手では仕方ないことだ。それに、2人が健闘した甲斐もあり、アルビオンが黒幕の尻尾を掴んだ。これから引きずり降ろすようだな』
「黒幕はあいつらに任せて、俺達はラジエルの方を片づけるぞ。そろそろサリエルもヤバい。最初から全開で行くぜ?」
『ああ、問題ない』
遙か上空を一瞥した後、勇吾は黒王と神龍武装化を行い、ラジエルとサリエルの下へと向かった。
戦いは既にサリエルが一方的に追い詰められる形になっており、サリエルの全身は魔の力に汚染されて焼けただれた状態になっていた。
ラジエルの方はほぼ無傷であり、石像のように感情の無い瞳はサリエルを見ている。
『が……は……!』
『《聖光崩壊》』
『ガアアアアアアアアア!!』
一筋の閃光がサリエルの胸を貫き、直後に今まで経験したことのない激痛がサリエルに襲いかかる。
ラジエルが使ったのは対天使用魔法、便宜上「天使殺し」の力だった。
云わばガドレエルが使った「龍殺し」の天使版、天使を確実に死に至らしめる事の出来る効果を持った力である。
それは天界にとって禁忌の力であり、その知識は天界でも厳重に管理されていた。
ラジエルが、だ。
ラジエルは天界のあらゆる知識に精通し、その中には天使だけでなく天界そのものを滅ぼせる知識も含まれていた。
その知識が今、サリエルを絶体絶命の危機に陥れているのだ。
(抜かった……!!ラジエルの目は……!!)
知識と同様に厄介なのは“目”だった。
ラジエルの目はあらゆるものを見抜き、その情報を獲得、完全解析する等の能力がある。
敵の全ての情報を解析する事により敵の弱点を看破、常に最善且つ最高の一手を導いてくれるのだ。
これによりラジエルはサリエルの行動を未来が視えるかのように予測し、ほぼ無傷のままサリエルに致命傷を与えたのだ。
更にマモンと融合しているラジエルはマモンの《魔眼》も使えるので、サリエルは自身の“切り札”を封じられるハンデを負っていた。
この戦い、端から勝敗は決まっていたのだ。
『《天力消滅》』
既に「天使殺し」で致命傷を負っているサリエルに、ラジエルは対象をこの世から消す術を使おうとした。
その声に感情は無く、機械が作業を行っているような声だった。
そしてサリエルの体を構成する天使の力の量が危険域まで低下していく。
「《神龍断空閃》!!」
そこに黒龍化した勇吾がラジエルに斬りかかった。
ラジエルは1秒前に勇吾の動きを察知し、その攻撃内容を予測して紙一重に回避しようとしたが、何故か回避は失敗し攻撃の直撃を受けた。
サリエルですら殆ど傷を付けられなかったラジエルの体に、勇吾が初めて傷を負わせた。
『―――?』
「《雷炎閃》!!」
『!』
十字に斬った直後、勇吾は左手に持った神度剣の剣先から炎と雷を融合させた一閃を放ち、ラジエルの体を一直線に地面に沈めた。
そして勇吾が次にとった行動は更なる攻撃ではなく、既に風前の灯のサリエルの回復だった。
「《神龍天命波》!」
《神龍術》によりサリエルが負っていた「天使殺し」効果を排除、体の崩壊を止めて応急処置を施す。
風前の灯だったサリエルは住んでの所で助かったのだった。
『……礼を言う』
「やっと喋ったな?お前とも話したい事は山ほどあるが、それはこの件が全て終わってからだ」
〈来るぞ〉
精神に直接語りかける黒王の声で勇吾の視線はサリエルからラジエルに戻る。
地面に減り込んでいたラジエルは既に体勢を直し、勇吾の方に視線を向けながら浮上を開始した。
全身に纏っている力の強さも数段階増しており、ラジエルが勇吾を警戒している事が見て取れる。
(ここからが本番という訳か)
〈注意しろ。天使と魔王の融合体である以上、未知の能力を隠し持っている可能性は十分にわる〉
「ああ、分かってるさ!」
勇吾は両手にそれぞれ持っていた剣、布都御魂剣と神度剣を重ねて1つに融合させる。
京都の事件の際に起きた現象を修業により習得した《刀剣融合》により、複数の刀剣を何時でも融合させたり分離させる事が可能になっていたのだ。
2本の神剣が融合した事により、融合の戦闘力は更に跳ね上がる。
龍王をその身に纏い、2本の神剣が融合した武器を握る。
今の勇吾は一時的ではあるが、間違いなく神の領域に立っているのだ。
「堕天使か魔王かは知らねえが、さっさと退場しろよな?」
ラジエルに対して苦笑し、勇吾は攻撃を再開した。
その一方で、遥か上空では良則達が黒幕と接触しようとしていた。
次回はヨッシーのターン!




