第322話 VSガドレエル③
ガドレエルが消えて数秒後、瑛介はアルビオンの下へと移動した。
『――――肝心なところを任せて悪い』
『気にするな。お前は最善の手を選んだだけのことだ』
瑛介のすまなそうな言葉に対し、アルビオンはフッと笑みを浮かべながら答える。
あの時、瑛介が放ったブレスは攻撃ではなく《転移魔法》だった。
咄嗟の思い付きで《天空之支配者》の能力を応用し、《転移魔法》の形状をブレスのように加工して放ち、別の場所にいるアルビオンの目の前にガドレエルを送ったのだ。
勿論、アルビオンには《念話》で事前に連絡した上でだ。
あの爆発の際、瑛介は《天空之支配者》で爆発の流れを操作して直撃を防ぎ、《隠形術》で気配と姿を消して死を偽装、不意打ちの形で魔法を放つ事でガドレエルに攻撃の防御を選択させたのである。
あの状況でブレス(に見えるもの)を放てば、ガドレエルは反射的にそれが《滅却之息吹》と思い込んでしまう。
そして魔力弾を防いだ時と同じ様に《冥界之剛盾》を使い、隙ができると瑛介は考えたのだ。
あの楯は攻撃のみを防御するのに特化しており、攻撃力を一切持たない《転移魔法》は防げないという欠点があった。
瑛介はその事を戦いの最中、《飛龍眼》を使って見抜いていたのだ。
そしてこれらの結果、ガドレエルを倒すことができたのだ。
『“器”の人間を殺さずに敵を倒すのなら、お前の選択は最善と言える。戦場で己を過信しないのは恥じる事ではない』
『俺は浄化系が使えないからな』
そう、瑛介は浄化系の技や能力を持っていない。
それはつまり、堕天使本体のみを倒し、“器”にされている人間を解放する術を持たないということだ。
その気なら、アルビオンに頼らなくとも《滅却之息吹》でガドレエルを倒す事は可能だったが、その場合、“器”にされている人間もろとも消滅させる事になる。
“器”を殺す気の無い瑛介はガドレエル本体だけを倒す為にアルビオンに協力を求めたのである。
(……今度、アイツにあったら浄化系の能力を貰うか?)
『何か考えているようだが、まだ戦いは続いている。後にしろ』
『…ああ』
ここには居ない友人の事を思い浮かべていた瑛介だったが、アルビオンに窘められてすぐに意識を戦場へと戻す。
そしてその視線の先には、何やら暴走状態にある堕天使の姿があった。
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――慎哉サイド――
『オオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアオオオオオオオオオオ!!!!』
咆哮を上げながら、アザエルは全ての魔力を放出させて自身に纏わせ、俺達に向かって特攻をしてくる。
下でう〇い棒を食っている外野曰く、マダ〇テ&メ〇ンテっぽい攻撃らしい。
正直言って直撃は食らいたくない。
だってあれ、あからさまにヤバさ満々じゃね?
直撃した途端、広範囲を飲み込む大爆発とか起こしそうじゃん?
もう敵味方関係なく無差別攻撃って感じだ。
かといって、アレを完全に防御するようなバリアとかは俺持ってないし、出来そうな奴は今下で駄菓子を食ってる最中だ。
〈あ、チロ〇チョコ発見!〉
〈わ~い♪〉
こんな感じだ。
そんな訳で、攻撃は最大の防御的な作戦で行く事にした。
それはズバリ!必殺技だ!
『『――――白き理により、永久の静寂を与えよ。神代の風、神狼の息吹、森羅万象全てを凍てつかせ、白き砂塵へと化せ!』』
俺達は声を合わせて必殺技に必要な、《神狼術》の言霊を詠唱していく。
双子だから息はピッタリ、誤差も殆ど無く言霊が紡がれていく。
『『――――世を白く浄める咆哮!』』
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』
詠唱は完成した。
暴走アザエルがすぐ目の前まで迫ってくる。
俺達は最後に声を揃えて必殺技の名を叫んだ。
『―――《絶対凍結聖白光二重咆哮》!!』
巨大なエネルギーの塊と化しているアザエルに、俺と冬弥の必殺の咆哮が閃光になって飲み込んでいった。
これはあらゆるものを凍らせて浄化する《神狼術》を使った必殺技だ。
これが直撃したら、天使も悪魔も堕天使も魔力ごと氷漬けになってしまう。
ただ、これを使うと相手に関係なく俺達の最大魔力の3~5割を消耗してしまうから、1日に2発以上はまだ使えないし、使った直後は反動で最低2,3分間は身体能力が低下してしまうリスクがある。
だけど、お蔭でアザエルを倒す事が出来た。
『―――――――』
アザエルは纏っていた全魔力と一緒に氷漬けになって沈黙していた。
例えるなら大悪魔の氷像状態になっている。
念の為に確認してみるが、アザエルの魔力はしっかりゼロになっていた。
――――ビシッ!!
最初に亀裂が走ったのはアザエルの胴体からだった。
そして次の瞬間、アザエルの全身は氷の粉塵となって周囲に散っていった。
『フウ、これで…ヤバ、反動が……』
『慎…哉!』
急に全身が倦怠感に襲われる。
必殺技の反動が来たようだ。
俺の《白狼化》が解け、同じくふら付いている冬弥の背中に落ちた。
勝ったは良いけど、この調子だともう今回は戦線復帰は無理そうだ。
「冬弥、取り敢えず下に下りようぜ?」
『ああ』
下には下で面倒そうなのがいるけど今は仕方ないよな。
俺は冬弥の背中の上で寝たまま上空を見上げた。
地上の方じゃヨッシー達がまだ戦っているし、すぐ近くじゃ勇吾が天使とまだ戦っている。
なんか派手な爆音がバカみたいに聞こえてきたけど、気配を感じる限りじゃ皆勝っているようだ。
「この様子なら、天使も堕天使もすぐに全め――――」
直後、俺の視線の数m先に何の前触れもなく何かが現れた。
「!!」
『なっ!?』
気配を全く感じさせずに現れたそれに、俺も冬弥も咄嗟の反応が遅れてしまった。
背中から10枚以上の羽を広げたそいつは迷わず俺の方に右手を向けてきた。
俺は直感的に、その手が俺の心臓を狙っていると気付いた。
『……《生命の強奪》』
そいつの手から妖しい光が伸びて、俺を貫こうとした。
だが、その光は俺を貫かなかった。
『―――ようやく動いたかと思えば、その姿は何の冗談だ?』
『「く、黒!!」』
黒の尾が奴の手を弾いて攻撃を逸らした。
視線を黒の方に向けると、黒は険しい表情でそいつを睨んでいた。
『………』
『質問に、答えて貰う。ラジエル』
目の前の堕天使に対し、黒は普段は出さないような重い声で話しかけた。
コイツが、ラジエル!?




