第30話 神の眷属
・十種神宝編は今週中で完結する予定です。前章が長かったので以降はできる限り短くまとめられるように努力します。
・では第30話お楽しみください。
外は既に日没を過ぎ、3人は小休止中に携帯食で軽めの夕食を済ませた。
遺跡探索は順調に進み、まもなく最下層に到着しようとしていた。しかし、深く進むほど遺跡を守護するレベルが上がってゆき、今では慎哉一人では倒しきれなくなっている。黒王が援護しなければ、おそらく重傷を負っていた事もあった。
そんな状況でも、勇吾はあえて手を出さず慎哉に経験を積ませる事にしていた。
「なあ、さっきから気になってたんだけどよ、調査なのに撮影とかしないのか?」
慎哉は勇吾の後ろを歩きながら問いかけた。
ここに来てから調査らしい事と言えば、入口で探索魔法を使っただけなので慎哉の疑問は当然のものだった。
「これだ。記録ならこの中に撮ってある。」
「?」
勇吾が見せたのはPSの端末機だった。
形状はスマートフォンに近く、勇吾は腰に提げたホルダーに入れていた。
「これに入れてあるアプリに目で見たものを映像化して自動で保存するのがある。これがあれば戦いながらでも調査が進められると言う訳だ。」
「何だよそれ!?欲しい!!」
便利アイテムに飛びつく慎哉。PSの事は既に知っていたが、その利便性の広さまでは知らされていなかった慎哉は目を輝かせていた。
「欲しかったら冒険者になることだな。まあ、しばらくは我慢しろ。」
「チェ~~!」
慎哉は頬を膨らませながら悔しがった。入院中の琥太郎が借り物とはいえ、既に端末を持っているのでなおさら悔しいのだろう。
「・・・・・・2人とも、そろそろ出発した方がよさそうだ。」
雑談を止めるように、黒王が真剣な表情で喋り出した。その視線の先には、遺跡の最下層へと続く坂道があった。
「黒?」
「微かだが、最下層で魔力が動いた。」
「「―――――!」」
「どうやら、本当の番人が動き出したようだな。」
勇吾も感覚を強化して探った。
すると、最下層で強力な精霊がこちらを警戒しているのが読み取れた。
「―――――此奴は!?」
「―――――最下層に近づく者が現れたら目覚めるようになっているようだ。」
「え、ボスキャラ――――!?」
「そういうことだ。気を引き締めて行くぞ。」
そして小休止を終え、3人は最下層へと踏み込んで行った。
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――遺跡内部 最下層――
最下層に到着すると、そこは今まで探索してきた階層とは大きく異なる空間が広がっていた。
「広っ!!」
「ああ、大したものだな。作られて軽く1500年は経っている筈だが――――――。」
「・・・・人間だけで造ったものではないな。」
その光景に勇吾も驚きの顔を隠せないでいた。
最下層に広がる空間は今までの階層とは異なり、天井までの高さが軽く30mはあり、広さも今までの数倍もあり、例えるなら古代の地下都市を思わせる光景だった。
「――――魔力もかなり濃い。しかも暴走せず正常に循環してる。」
勇吾は最下層全体に《スキャン》をかけてみた。
《土地解析》
【魔力】2,000,000/2,600,000
【属性】光
【状態】結界作動中 自動浄化中 警戒中
「―――――警戒中!?」
表示された結果に驚愕し、周囲への気配を感知してみる。
ここに来るまで待ち構えているだろう『番人』に注意をしてきた。だが、《スキャン》の結果には土地そのものが自分達を警戒していると表示していた。
そして勇吾達が気付いたのを察したかのように、それは現れた。
『オオォォ―――――――――ン!!』
「―――――上だ!!跳べ!!」
「ゲッ―――――!?」
犬のような鳴き声と同時に勇吾が叫び、3人はその場から急いで跳んで下がった。
直後、さっきまで3人が立っていた場所に光を纏った巨大な狼が上から現れ、前足を床に突き刺して砕いた。
「狼!?」
それは白い光に包まれた巨大な狼だった。
数日前に戦ったアンドラスが乗っていた黒狼などかわいく思えるほどのその狼、高さだけでも10m近くはあるその姿は、この遺跡の番人に相応しい風格を身にまとっていた。
「ボスキャラキタ―――――――!!」
「五月蠅い!黙ってづステータスでも調べてろ!!」
何だか慎哉が変なスイッチが入ったんじゃないかと思いながら、勇吾も相手のステータスを調べてみる。
【名前】守護王狼
【種族】精霊獣 【クラス】眷属
【属性】光
【魔力】2,800,000/2,800,000
【状態】警戒
*【詳細】・元はこの土地を統べた狼の精霊だったが、太陽神の眷属となり精霊獣へと進化した。
・知能が高く、人語も話す事ができる。
・土地の魔力を吸収する事でダメージを常時回復する事ができる。
「―――――クッ!その辺の下級神より上か!」
「――――魔力の質からしても、あの狼はアマテラスの眷属だろう。」
「うわぁ、まさにボスキャラって感じだな。常時回復ってヤバくね!?」
『――――――――――――去れ!』
「「「―――――!」」」
唐突に、守護王狼は勇吾達に視線を向けながら喋りだした。ステータスに表示されている通り知能が高いらしく、その言葉は人間と変わらないほど流暢な日本語だった。
『侵入者よ、ここは神聖なる場所。これより先へ進む事は神への敵対行為とみなす。命が惜しいならば、すぐにここから立ち去られよ。』
これ以上は通さない、という意思を表すかように威嚇する守護王狼。
「待て!俺達はこの遺跡の調査に来ただけだ!ここを荒しに来たわけじゃない!」
「そうだそうだ!神器があれば欲しいけど、盗らないからいいだろ!!」
『――――――ホウ?』
「お前は黙ってろ!!」
守護王狼は更に警戒心を上げた。
『ここへ来たのは神器の存在を知ってか―――――――――。ならば、力ずくで排除するのみ!!』
直後、守護王狼の周囲に無数の光の球が現れる。
「――――来るぞ!」
『討て!』
合図と共に光の球から光線が矢のように放たれた。
百を超える光線の矢は勇吾達に向かって襲い掛かり、3人は空中に飛んで避けていく。何本かは地上の遺跡群に当たって爆発するが、ほとんどの矢は意志でもあるかのように遺跡との衝突を避け、空中に逃げる勇吾達を追って行った。
「――――察するに、あれは個々の意志の弱い下級精霊を使役した攻撃法なのだろう。意志は弱くてもこちらの姿は見えるから追尾ができるのだろう。しかも、遺跡と同じ属性だからか、遺跡に当たって爆発しても破壊はしないようだ。」
「な、なるほど―――――!?」
必死に攻撃を避け続ける慎哉に対し、黒王は冷静に相手の攻撃を観察していた。
勇吾は《ダークアロー》を放って攻撃を相殺させていく。属性の相性で言えば、光と闇は互いに打消しあうので、勇吾の放った闇の矢は光の矢を次々に減らしていった。
「――――こうなったら戦って黙らせるしかない!黒!!」
「――――ああ、俺もこの姿では不利そうだな。」
黒王の全身を闇が覆い、その姿を一瞬で龍の姿へを変化させた。
勇吾も《黒装》を纏い、布都御魂剣を振り上げて守護王狼へ斬りかかる。
「《夜斬り》!!」
『――――ッ!それは――――!?』
斬りかかる瞬間、守護王狼は勇吾の持つ布都御魂剣を見て動揺するが、すぐに思考を戻して周囲に光の壁を張って勇吾の攻撃を防御する。
「クッ――――!」
『貴様・・・・・人間が何故、その剣を持っている!?』
「・・・・・・・。」
驚いた表情で守護王狼が問いかけるが、問われた勇吾はすぐに答えようとはしなかった。
『その剣!神代に名高き軍神、建御雷神様の神剣!今はわが主の末裔に授けられている筈のその剣を、何故、お前が持っている!?答えよ!!』
守護王狼はかなり動揺しているようだ。
それもそのはず、勇吾の持つ布都御魂剣は元々、日本神話に登場する軍神建御雷神が持っていた剣である。神話によれば、建御雷神は天照大神の子孫である初代天皇、神武天皇に授けられ、その後は10代天皇である崇神天皇の代まで代々受け継がれてきたのである。その後は現在の奈良県にある石上神宮に祀られ、後に地下に埋められた。明治になって当時の宮司の手によって発掘され、今は御神体として祭られているとされている。
布都御魂剣にはレプリカも存在し、茨城県の鹿島神宮にも同名の剣が奉納され、こちらは国宝にも指定されている。間違っても一般人が持っている代物ではないのである。
守護王狼の問いに沈黙し続ける勇吾、守護王狼も勇吾への警戒心をさらに上げてさらなる攻撃を放とうとするが、そこに黒王が降りてきて止めた。
『――――待て、この聖域の守護者よ。この者、勇吾は決して悪しき者ではない。』
「・・・・・黒。」
『―――――やはり神龍か。主は違うが、お前も神の眷属であろう。それが何故人間と共にいる?そして、なぜこの人間が神剣を持っているのだ!?』
『落ち着け、勇吾は布都御魂剣を盗んで使っているわけではない。そもそも、盗んで使う事などできない代物である事はお前も十分に知っているだろう?」
『―――――それは!』
黒王の指摘に守護王狼は言葉を詰まらせ、しばらく沈黙を続けた。
次第に攻撃の雨も消え、1人空中で戦っていた慎哉もようやく2人の元に合流した。沈黙が続いた後、落ち着きを戻した口調で話し始めた。
『――――――話を聞かせて貰おうか?』
『この剣、布都御魂剣は勇吾ではなく、彼の祖父が所有していた物だ。その経緯は俺にも不明だが、数年前、今はいないが剣に宿っていた神霊と勇吾が契約した事で正式な所有者となった。』
「お~~~、明かされる秘話ってやつ?」
「黙ってろ!」
少々興奮気味の慎哉に勇吾が軽くツッコみを入れる。
『・・・・信じられん。主の末裔でもない者が真剣をなど――――――。』
守護王狼は未だに信じられない様子だった。
慎哉も同じように聞いていたが、まだまだ専門知識の疎いので話の重大性にはピンとこないようだ。
『その事なら問題ない。勇吾は凱龍王の血統に連なるものだからな。』
『―――――――な!?あの――――――!なら、辻褄が合うか・・・・・・。』
再び驚愕するも、すぐに納得のいった表情になる。
『――――――納得した。神剣の契約者よ、数々の無礼失礼致した。』
「・・・・分かってくれたならそれでいい。」
「ふう、とにかくこれで安心?」
「――――半分はお前が原因だろ。」
「ごめんなさい!!」
勇吾は横に立つ慎哉に睨みつけ、慎哉はそれにビビって反省する。
『――――この国の神に選ばれし者ならばこの先へ進む資格を認めましょう。こちらへ――――――――。』
守護王狼は道を開け、奥へと案内するかのように歩き始めた。
『この先に、我が主がこの地に封じせし神器が眠っている。先程の謝罪も含め、その場所へ案内いたしましょう。』
「ああ。」
勇吾達は守護王狼の先導の元、最下層への最奥へと進もうとした。
その時だった―――――――――
ドゴ―――――――――――――――ン!!!!!
爆音が最下層全体に響き渡った。
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