第315話 激突
――サンフランシスコ上空――
天使と堕天使の両陣営は街の中心地区の真上で接触した。
天使側は単身で来たサリエルと、ハニエルを筆頭とする200に達する天使の軍勢。
対する堕天使側はガドレエルとアザエルを筆頭に130近い堕天使の軍勢だった。
数では天使側が優勢だが、堕天使側は自分達の召喚を行った学生達の体を乗っ取ることで制約のある現世において100%の力を行使する条件を満たしていた。
天使も堕天使も、現世で全力を発揮するには人間の契約者を得るか、または何らかの方法で受肉する必要があるのだ。
その点で言えば、天使側は一時的に実体化はしているものの、本来の力を発揮できない状態にあった。
『おやおや?貴方は1人で来たのですか。サリエル?』
『―――――』
『無視ですか。別に構いませんが、どうやら汚らわしい者達が来たようです』
『ははははは!誰かと思えば七大から没落したサリエルとハニエルじゃないか?』
金髪碧眼の青年の姿をしたガドレエルは愉快そうにハニエル達に向かって叫ぶ。
対するハニエルは自分の美貌をさり気無く見せつけながら堕天使達を見下ろしていた。
『――――』
一方サリエルはどちらも無視して目的地へと向かおうとした。
彼らの狙いは等しくこの真下にある『ラジエルの書』を始めとする力を持った『本』の数々、それらは彼らに絶大な力を与えるものだった。
ハニエルは既に無き神の後継となるなる為、ガドレエルは天界への復讐の為、その他の者達は忠誠心だったりおこぼれ目当てだったりと様々だった。
そしてサリエルの場合、その目的は他の者達とは大きく異なっていた。
『―――――!!』
サリエルが図書館に特攻しようとした時、街中どころか大陸中にその魔力の奔流が広がった。
それは数百年ぶりに力を解放した堕天使の頭目の1人、シェムハザの魔力だった。
そして、その波動が彼らに与えて影響は絶大だった。
『まさか――――!?』
『な、何っ――――!?』
『これは―――――シェムハザ様!?』
嘗て熾天使だったシェムハザの登場は天使にも堕天使にも大きな動揺を与えた。
シェムハザは天使だった頃は天使長ミカエルを始めとする古株の天使の1人で、その力はミカエルには劣るものの七大天使クラスだった。
その為、堕天した後もその名は天使達に大きく影響を及ぼしていた。
(グ…マズイ……!)
ガドレエルは焦った。
今回の現世への来訪は召喚を利用したとはいえ彼の独断、このままでは首領であるシェムハザに裁かれるのは避けられないと思ったからだ。
隣にいるアザエルも顔を青くしている。
『ガドレエル………』
『……仕方ない。予定を変更して……』
予定を変更して天使達を殲滅し、その手柄でシェムハザの裁きを避けようとガドレエルが考えた時だった。
今度は巨大な光の波動が解き離れた。
ファラフ(ケルビエル+ゼルエル)の波動である。
『まさか―――――!』
『ハニエル様、この波動は智天使長ケルビエル様の……私の気のせいでなければ、ゼルエル様の波動も混ざっている気が!?』
天使達にも動揺が走った。
それはハニエルも同様だ。
元七大天使とはいえ、ハニエルの階級はそれほど高くは無く、現在は中位階級の1つである権天使の長という立場で智天使長であるケルビエルよりも階級は下であり、彼女自身もケルビエルには頭が上がらなかったりもする。
さらに言えば、ハニエルには本来重大な役目があり、現世にいるのは本当はかなり不味い事で、上司にバレたら――実際はもうミカエルにバレてるが――大変なことになる。
『あ!そうですわ!』
だがハニエルは気付いた。
自分の役職の1つは天界の第三天、つまり天界の牢獄の司令官である。
そして目の前にいる堕天使と言う反逆者達、彼らを捕縛し連れて帰れば今回の行動の言い訳が成立し、ケルビエルやミカエルに捕まっても不問にできると。
ついでにこの下にある『ラジエルの書』も利用できる。
本来の目的とはずれるが、今はそうは言ってもいられなかった。
『――――予定変更ですね』
そして天使と堕天使の戦いは勃発した。
そんな中、サリエルだけは周りを気にすることなく目的地へと向かっていった。
元・七大天使の中であり熾天使であるサリエルはシェムハザもケルビエルも畏るるに足らないようである。
『あ!貴方達、サリエルを追いなさい!!』
『あの野郎!アザエル!』
『ああ』
皮肉だが、天使も堕天使も今考えている事は何処までも一緒だった。
だがこの直後、世界は丈と銀洸の結界に飲み込まれていった。
そして、天使と堕天使の戦いに勇吾達も参戦することになる。
--------------------------
――勇吾サイド――
バカの空間操作により今いる施設から地上までの間が大きな空洞になった。
見上げれば沢山の天使と堕天使がいて、その一部がこっちに向かって降下してくる。
その中でも真っ先に下りてきている天使からはかなり強い力が感じられた。
『―――あれは熾天使サリエルか』
その天使を見た黒はすぐに正体を見抜く。
大鎌を持った鋭い目付きの天使、あれが有名なサリエルか。
元・七大天使の1柱だったな。
『奴は邪眼の使い手だ。気を付けろ』
「なら、使われる前に潰すだけだ!」
『フッ――――』
「慎哉と冬弥は俺達と一緒!ヨッシー、お前達は上の方を任せた!」
「うん!」
「「「OK!」」」
「…無茶はしないでよ?」
「分かってるよ!」
良則達は上空へ行き、俺と黒、そして慎哉と冬弥は目の前から迫ってくるサリエルとその他大勢に向かって攻撃を開始する。
黒は『鎧』を身に纏い、抑えていた力を解放する。
慎哉と冬弥は白狼の姿になり、冬弥は『鎧』を装備する。
慎哉は更に《共に戦う強さ》を発動させて俺達の思考を繋ぎ、一時的に互いの能力の一部を使えるようにした。
『――――――』
敵の先頭に立つサリエルは口を開かないまま大鎌を振るってくる。
その後ろから来る天使と堕天使もこっちに向かって攻撃を放ち始めた。
「《森羅万象双星斬》!!」
『『《双聖・神狼之咆哮》!!』』
俺は二重の斬撃を、慎哉と冬弥は白く輝く咆哮の一閃を放つ。
そして黒も、魔力を右手に集めサリエル達に向かって放った。
『―――《漆黒天裂神龍爪》』
3つの技が敵に直撃した。




