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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第14章 天使編
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第313話 蛹屋

――勇吾サイド――


 その瞬間、俺達は町の空と大地から光と闇の波動が放たれ、空中で衝突するのを目視した。


 相反する2つの波動の衝突は天と地を同時に襲い、俺達が立っている大地は荒波の如き大地震に襲われ始めた。



「キャッ!!」


「おおおっ!?」


「揺れる~!僕と街がシェイキング~!」


「チィィィィ!!」


「皆!宙に跳んで!」



 普通の人間なら立つ事さえ不可能に近い激しい揺れが襲う中、俺達は空中に避難する。


 自身とは別に空中も突風や雨雪で荒れていたが地上よりは大分マシだった。



「ふう……」


「この揺れ、震度7強はあるぞ!」



 空中から地上を見下ろすと悲惨な光景が目に映った。


 地震に耐え切れずに崩壊し始める建物、必死に外に逃げ出し車線を外れた車両に轢かれてしまう住民達、阿鼻叫喚と化した光景に俺達は戦慄した。


 そんな中、さっきまで俺達がいた公園の中で泣き叫ぶ小さな子供の姿があった。


 地震のドサクサで親から逸れてしまったのか、何もできずに泣き叫んでいる。


 そこに地震に耐え切れなくなった遊具が子供に向かって倒れ始めた。



「――危ない!!」



 俺は迷わず宙を蹴り、間一髪子供を助け出した。


 子供は何が起きたのか理解しておらず、俺の腕の中で泣き続けた。


 近くにこの子の親もいるんだろうけど、この状況じゃ見つけるのは…いや、それよりもこの街全体、州全体が未曾有の大惨事に陥っている。


 しかもこれは自然に起きたものじゃなく、本来同時に開くはずの無い2つの“門”が開いた事による人災でもある天災だ。


 この地震は1分や2分じゃ収まらないぞ!!



「―――丈!銀洸!」



 俺はこの状況でも緊張感が無いダブルバカを呼ぶ。


 あいつ等は平時はバカだが、こういう非常時はちゃん…と働く。


 今のこの状況をどうにかするにはこの2人の力でないと不可能だ。



「ハイヨ~!」


「緊急プロセス始動~!」



 ダブルバカの魔力がサンフランシスコを超え、州を越え、アメリカ西部のほぼ全域に広がっていく。


 アメリカ西部という空間内の状況を瞬時に把握し、空間内にいる民間人全員に《防御魔法》をかけているのだ。


 これで地震の一次被害による死傷者は大分減らせる筈だ。



「勇吾!アレ見ろ!!」


「おいおい、マジかよ!?」


「嘘だろ!!」



 状況は安堵の息を少しも零させてはくれなかった。


 俺の感知能力はサンフランシスコの地上と上空の2ヶ所に開いた“門”から何かが出てくるのを感知していた。


 魔力の質から考えて、天使と悪魔で間違いないだろう。


 それも雑魚じゃなく、間違いなく高位の天使と悪魔だ。


 魔力の反応からして、どちらも同じ場所を目指しているように窺える。


 この方向、まさか!



「あれ~?天使さんと堕天使(・・・)さんが慎哉達のいる図書館に向かってる~?」


「あらら?なあなあ、慎哉達ってもしかしなくても図書館の地下(・・・・・・)にいるんじゃね?なんか、知らない人と一緒にいるっぽいけど、この人強そうじゃね?」


「「!!」」



 予想はしていたが、やっぱり慎哉達は勝手に動いていたか。


 しかも知らない人と一緒にだと?誰だ?


 図書館の職員や政府関係者という可能性はまずないだろう。


 向こうからしてみれば只の子供でしかない慎哉達と政府施設の中で共に行動する理由は無いし、それ以前に慎哉達を施設の中に入れる事は絶対にありえない。


 かと言って、今の慎哉達に警備が厳重な政府関係施設に侵入するスキルはないはずだ。


 ならば、一緒にいる謎の人物はこの手のプロ、“こちら側”の人間の可能性が高い。



「まさか、親父…!!」



 話を聞いていた泉希の発言に俺は無新同意する。


 現時点で考えれば『蛹屋』である可能性は十分に有り得る。


 ただ、面識のない慎哉達が一緒に行動するかという疑問が残るが。



「逃がさねえ!!」


「泉希!?」


「俺達も行くぞ!!」


「おう!!」



 泉希達は宙を蹴って図書館に向かおうとする。


 だが、そこを黒が先回りして止めた。



「放せ!龍族!!」


「―――落ち着け。行くなら俺達も一緒だ。」


「「「!!」」」


「銀洸、慎哉達の現在地は捕捉しているな?」


「モチ~♪何時でも転送可能だよ~」


「なら、全員を慎哉達の下に転移させろ」


「了~解~♪」



 俺は助けた子供を運良く無事だった母親の下に返し、その後すぐにダブルバカの《転移》で慎哉達の下へと移動した。


 場所は市立図書館の地下にある政府関連施設だ。







--------------------------


――サンフランシスコ 市立図書館――


 時は少し遡る。


 『黎明の王国(キングダム)』の幹部であるファラフからの協力を得る事になった慎哉達は図書館の地下フロアに来ていた。


 最初、慎哉はファラフの事をすぐに勇吾達に知らせようとしたが、ファラフから今図書館内(ここ)(念話)を含めた魔法や能力の使用は――魔力に反応する罠や、外にいるかもしれない“何者か”に気付かれるリスクを警戒して――可能な限り控えた方がいいと注意されたので勇吾達とは連絡を取らず、半ばファラフに流される形で動くことにしたのである――――というのは建て前で、実際は慎哉達の独断行動である面が濃かった。


 慎哉と冬弥は単に勇吾達が中々来ない事に待ち草臥れ、瑛介は父親と面識があると思われるファラフから早く情報を引き出したいという焦りから勇吾達を待たずに独断で動く事にしたのである。



「―――ここまで見た限り、この下(・・・)へ何者かが侵入した形跡は無い。下で人が慌てている様子も無い。」


「じゃあ、まだ何も起きてないってことか!」


「確証はまだない。相手が私よりも格上だった場合、完全に痕跡を消すことも可能だろう」


「既に盗まれた後って可能性もある訳か」


「―――進もう」



 慎哉達はファラフの後を追う様な形で図書館の真下にある施設へと侵入していった。


 魔法も能力も極力使わず、主にファラフの持つ技術力により数々のセキュリティを突破し、施設内にいる警備員や政府関係者の目も掻い潜っていく。


 どうしても必要な時は魔力を外に感知されないようにしながら魔法を使い、この世界の一流スパイもビックリな速度で目的の場所へと辿り着いた。


 そこは普通の銀行にある物よりも遥かに頑丈且つ巨大な金庫の形をした保管庫だった。



「(ここのようだ)」


「(うわあ、マッチョな警備員が……)」



 金庫こと保管庫に着くと同時に、ファラフは警備員と各セキュリティを封じる。


 まるで呼吸をするのと同じように感じられるほど無駄が無かった。



「(――――どうやら外ここに来た侵入者は私達が最初らしい。その“何者か”は未だここまで目的を果たしてはいないと見ていいだろう)」


「(……なあ、ちょっと訊いていいか?)」


「(―――何か?)」



 周囲に“何者か”の痕跡や罠が無いかを調べているファラフに、瑛介は真剣な表情で先程から訊きたかった質問を始めた。



「(…父さんを知っているのか?)」


「(何度か面識がある。最後に会ったのは此方の時間で約3ヶ月前、この世界とは別の、辺境の世界で会った)」


「――――ッ!!」



 瑛介は息を飲んだ。


 僅かな可能性に期待してアメリカに来たが、父親と最近面識がある人物と出会えるとは思ってもいなかったのだ。



「(―――呪いが掛かっていたようだが、アレはあくまで同族…龍族にのみ影響を及ぼすもの、私には無害も同然)」


「(それで!今は何処に…!!)」


「(龍族の存在しない異世界を転々としながら――――)」



 2つの“門”が開いたのはこの時だった。


 一部の人間の祈りや儀式がキッカケとなって開いた2つの“門”、その中でも冥界の門から放たれた闇の波動により発生した大地の揺れは地下にいる慎哉達に容赦なく襲い掛かった。



「「じ、地震んんんんんん!!??」」


「な、何だ…!?」


「……“門”が同時に開いた?」



 揺れは秒単位で激しさを増していく。


 普通の地震(・・・・・)なら揺れを和らげるこの施設の構造も殆ど意味を為さず、遠くから大勢の人々の悲鳴が聞こえてきた。



「――――この感じ!」


「おい、これって!」


「…………」



 暫くして今度は“門”から出てきた天使と堕天使の気配が伝わってきた。


 しかもそれは、真っ直ぐに慎哉達の下へと向かっていた。



(懐かしい魔力だ……)



 もう随分と会っていない嘗ての同胞達の気配に、ファラフは思わず笑みを浮かべそうになる。


 だが、直後に真上から急降下してくる別の気配に気付きそちらにも警戒する。



「――――来る」


「「「!?」」」



 ファラフだけが気付く中、その男は彼らの前に姿を現した。



「―――――ッ!?」


「なっ!!」


「「おお!?」」



 その男、俗に『蛹屋』と呼ばれるその者は音を立てることなく着地すると同時に慎哉達に視線を向け、

直後に顔を驚愕の色一色に染めた。


 驚愕したのは慎哉達も一緒だが、4人の中でただ1人、その人物だけは他の3人とは違う意味の驚愕の顔を浮かばせていた。



「貴方は――――!」


「―――――――」



 その人物、ファラフは信じられないものを見た様な顔で『蛹屋』を凝視した。


 そして『蛹屋』もまた、この場に居るとは微塵も思っていなかったファラフの存在に絶句していた。



「貴方は、まさか――――」



 ファラフはその名を喋ろうとする。


 それは『蛹屋』の名前、真の名、ファラフにとって決して忘れることのできない名の一つだった。


 ファラフは『蛹屋』を知っていた。


 彼の首を狙う賞金稼ぎ達よりも、彼を父と慕う泉希達よりも、この世の全ての人間達よりも彼のことを知っていた。


 それさ『蛹屋』も同じだった。


 だからこそ、彼は言葉を失うほど動揺していたのだ。



「まさか―――――」



 ファラフは理解した。


 昨夜、ラジエルを地上に下りられないよう邪魔をしたのが誰か、何故『蛹屋』がココに来たのかも全て。


 全てを理解し、ファラフは彼の名を呼ぼうとした。


 その時、まるで奇跡に似たタイミングで勇吾達が転移してきた。



「慎哉、無事か!」


「冬弥と瑛介もいるか!?」


「親父!!」


「「「師匠!!」」」



 勇吾達は慎哉達の無事を確認し、泉希達も『蛹屋』を見つけて呼び叫ぶ。


 しかし、突然の乱入者の登場にもかかわらず、彼らは互いに視線を反らさなかった。


 そして、ファラフはその口からその名を呼んだ。









「――――シェムハザ」










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