第29話 ダンジョン
日本での初依頼開始です。
神やら悪魔やらと戦ってばかりで依頼を全然受けてませんが、今回から受け始めます。
――2011年7月15日 日本 東北地方の山奥――
アンドラスを倒してから三日後の午後、勇吾と黒王、そして慎哉の3人は東北地方のとある山中に来ていた。
3人は登山道からも外れた獣道を通り、人目につかない場所に隠れるように存在する洞窟の前で止まった。洞窟の入り口は所々崩れていたが、そこら中に人の手が加わった跡があった。つまり遺跡である。
「―――――依頼書通りの場所にあったな。」
「おお~~~!何かいかにもダンジョンって感じだな!」
「――――実際、中から魔力が漏れ出している。ダンジョンと呼んでも構わないだろう。」
そう、彼らの目の前にある遺跡はゲームでよくあるダンジョンであった。内部からは自然のものではない魔力が蠢く気配が外にまで漏れ始めていた。彼らはこのダンジョンの調査に来ていた。
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事の始まりの今朝に戻る。
アンドラスの一件の事後処理も粗方終え、ギルドへの報告も済ませた翌朝、勇吾はコーヒーを飲みながら目の前に展開したPSを操作していた。すると、唐突に新しいPSが展開し、そこにはギルドからのメールが載っていた。
「―――――依頼か?」
そこに乗っていたのは冒険者への仕事の依頼情報だった。それも勇吾個人を指名した依頼だった。
冒険者ギルドへの依頼の中には特定の冒険者を指名して依頼するものがある。ただし、通常の依頼と違ってギルドに払う手数料がかかるので、指名する場合は依頼主が経済的に裕福である場合か、依頼内容が重要なものばかりである場合が殆どである。
勇吾は依頼主の欄を見て納得した。
「――――教授か!」
そして依頼内容には以下のような事が書かれていた。
【依頼名】『日本国内の遺跡の調査と神器の存在確認』
【依頼主】王立竜江大学異世界民俗学研究室(代表:白沢清司教授)
【募集期間】――
【募集人数】指名:天雲勇吾
【ランク】Dランク
【内容】異世界[A-2055](通称・地球)の日本国内の山中で先日新たな遺跡が発見されたのでそこの調査を頼みたい。遺跡からは遠隔探知で特殊な魔力を計測し、検証の結果日本の皇祖神の1柱、天照大神に類似する事が判明した。同研究室は日本神話に記された神器、『十種神宝』の可能性があると考え、早急の調査を依頼する。なお今回は遺跡の調査を優先し、神器に関しては存在確認のみとし、回収そのものは依頼に含まないものとするが、可能ならば回収を希望する。遺跡の詳細な位置については添付した地図を参照すること。
「―――――――!?あのアマテラス縁の神器だと!?」
「どうした勇吾?」
「黒、教授から俺宛の依頼が来て――――――アマテラス関係の神器があるらしいからその調査をって!」
「―――――!ほう、それはどっちだ?」
「・・・・・『十種神宝』だ。」
「それは―――――――!」
勇吾からの知らされた内容に、黒王も驚愕の顔を見せた。
その後、勇吾は依頼を受諾し、添付された地図を元に情報収集を開始する。当初は2人だけで調査に向かう予定だったが、誰かの密告によって慎哉に耳にも届き、慎哉が自分も行きたいと駄々をこねたため、渋々3人で行く事となったのである。
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勇吾は探索魔法を駆使して遺跡内部の様子を調査した。それによると、遺跡のほとんどは地下部分に存在し、最下層に問題の神器らしき存在が確認された。
ただし、遺跡内部には侵入者を拒む仕掛けなどもあり、何より魔力を放ちながら動く何かが無数に確認された。
「これは――――地霊・・・精霊の類か?」
「少なくとも邪なモノではないだろう。中の魔力は神気を含んでいる。ここは聖域の類と見ていいだろうな。」
「ダンジョンじゃん!」
「はしゃぐな!時間は限られているんだから、さっさと行くぞ!」
「なあなあ、アイテムとか見つけたらどうなるんだ!?」
慎哉は目を輝かせながら勇吾の顔面近くまで迫り、それを勇吾は片手で押し返す。
「基本的には発見者の物になるが、中には貴重な物があるからギルドや専門機関に報告するのがマナーだな。お前はこの世界の一般人だから、発見物はとりあえず俺がギルドに報告するから大丈夫だろ。」
「よ~~~し!目指せ一攫千金!!」
「―――――――ハア。」
既に気分はトレジャーハンター状態の慎哉の姿に溜息を吐きつつ、内部探索に必要な補助魔法をかけていく。内部では戦闘の可能性も十分にある為、勇吾も慎哉もすでに既に武器は装備済みである。念の為、遺跡周辺に一般人が近づかない様に隠蔽魔法もかけておいた。
「じゃあ、行くぞ!」
「ああ。」
「レッツゴー!!」
そして3人は遺跡内部へと入って行った。
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――遺跡内部――
『コーン!!』
宙を移動しながら狐の霊が火を吐いてくる。
襲ってくる狐は全部で5匹、宙を駆けながら勇吾達に向かってきた。
「うおっ!(《アイスアロー》!)」
「―――――ッフン!」
慎哉は氷術で作った氷の矢を連射し、勇吾は布都御魂剣を振るって迎撃していく。
ここは遺跡の入り口があった階層から2つ下の階層にあたる。上の2階層は風化などが進んでただの古代遺跡となっていたが、3人が今いる階層に入った途端、目の前の狐が襲い掛かって来たのである。
3人は―――正確には勇吾と慎哉だけ―――順調に撃破し、ようやく攻撃が収まったところで小休止に入った。
「フウ、まさにダンジョンだな。あれってモンスター?」
「いや、あれはこの辺りに棲む狐の霊が精霊化したものだ。それがこの遺跡に集まって守護者のような存在になったんだろう。」
「―――みたいだな。ステータスにもそう出てるしな。」
勇吾は先程の戦闘で調べた狐のステータスを表示させた。
【名前】火狐
【種族】精霊
【クラス】守護者
【属性】火
【魔力】8,230/9,700
【状態】興奮
*【詳細】・野生の狐の霊魂が火属性の精霊になったもの。
・何らかの要因により、その場所を守護する為の存在となっている。
「あ、ホントだ!」
「クラスや職業に《守護者》がある場合は特定の対象を現在進行形で守護している事が多いんだ。」
「――――ん?黒、確かお前の職業って―――――?」
「――――守護者だ。俺の場合は土地じゃなく勇吾を護ってるわけだが。」
「黒!」
「それって保護者?」
「フッ、そんなものだ。」
「変な言い方するな!!」
勇吾は顔を真っ赤にしながら文句を言うが、黒王は面白そうに笑みを浮かべながら適当に流していった。その様子を見て、マジで兄弟みたいだなと思う慎哉だった。
「いいから奥へ進むぞ!」
「ラジャ~!」
「ああ。」
顔を真っ赤にしたまま、勇吾は先頭に立って奥へと進んでいく。その後に続き、慎哉と黒王も遺跡のさらに奥へと進んで行った。
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その後も順調に進んで行き、この遺跡を守護する精霊や遺跡各所に設置された罠なども解除しながらさらに3階層下へと進んで行った。
この辺りになると、階層全体に強い魔力が充満しており、不快感はないが不思議な感覚に包まれる。それはこの場所の神聖さを表すかのようだった。
「なあ、何か光の粒みたいなのがチラチラしてんだけど?」
「遺跡のそのものの魔力だろうな。感じからして光属性のようだが・・・・《スキャン》!」
《土地解析》
【魔力】1,400,000/1,400,000
【属性】光
【状態】結界作動中 自動浄化中
「うおっ!魔力が100万オーバーって、俺の学校より上じゃん!?」
「―――――やはり、入る前から気付いていたが、この遺跡そのものが邪悪を拒む結界になっているな。光属性となると、やはり強力な神性が遺跡に宿っているようだな。」
「ああ、研究室の予想通りアマテラス縁の神器がある可能性が高いみたいだ。」
《スキャン》で出た結果にそれぞれ別の意味で驚く3人。
すると、慎哉はさっきから思っていた疑問を勇吾に訊いてみた。
「なあ、アマテラスって日本神話に出てくる神様だよな?月読とかスサノオとか姉ちゃん的な?」
「そうだ。男神の伊弉諾の左目から生まれた太陽を神格化した女神で、この国の皇室の先祖とされる神だ。最も、中には女神じゃなく男神という説もあるけどな。」
「ゲ・・・・!何か嫌だなあ、俺は女神だと信じるぜ!」
「勝手にしろ。あくまで沢山ある話の1つにすぎないからな。」
「おう!で、そのアマテラスの神器って三種の神器のことなのか?」
「・・・・・当たらずも遠からずだな。」
「どっちだよ?」
慎哉の問いに対し、曖昧な答えを返す勇吾はしばらく考えながら説明しだした。
「日本神話の神器で有名なのはお前が言った『三種の神器』、つまり《八咫鏡》、《八尺瓊勾玉》、そして《天叢雲剣(草薙剣)》だが、実際はもっと沢山ある。俺が今持ってる《布都御魂剣》もその1つだ。」
勇吾は自分が今握っている《布都御魂剣》を見せながら言う。ちなみに、布都御魂剣はレプリカも何本か作られ、そのうちの1本は現在では国宝に指定されている。
「――――その中でアマテラスに関係する神器の中に『十種神宝』があって、これは三種の神器に対応するとも言われている10種の神器だ。その昔、饒速日命と云う神が天から降りる際にアマテラスから授かったとされ、皇位継承の証とも言われている。日本各地にそれらしいものが埋蔵されてるが、公式には現存しないとされている歴史上失われた神器なんだ。」
「じゃあ、その失われた神器があるのか。どんな神器なんだ?」
「分けると、鏡が2種、剣が1種、玉が4種で比礼が3種になっている。効果はそれぞれ違ってるが、有名なのは死者を生き返らせる玉、《死返玉》だろうな。」
「―――――!マジかよ!?」
「――――本当だ。」
驚愕する慎哉の問いに答えたのは黒王だった。その表情は真剣そのもので、一瞬にして周囲の空気が重いものになるなるような錯覚が起きた。
「―――――十種神宝は元々神の世界の道具だ。その力はこの世の『理』そのものに干渉する事ができる。あくまで神が使う場合に限った話だがな。人間には過ぎた物だ。」
「ここにあるのが10種全てか、または数種なのかは分からないがこれほどの遺跡を造るとなると1種のみと言う事はないだろうな。」
「ヒョエ~~~~!」
途中からは頭が追い付かなくなったのか、慎哉はただ驚くしかできなかった。
勇吾と黒王の説明が終わると、3人が進む方向から新たな精霊の気配が近づいてくる。
「――――――とにかく、今は最下層に進むことだけ考えるぞ。」
「お、おう!」
それぞれ武器を構え、前方から襲い掛かってくる精霊の迎撃の準備に入る。
だが、彼らは気づく事はなかった。彼らのいるこの遺跡の中、神器の祀られている聖域には先客がいたと言うこと。それがあまりに上手に気配を消していた為、遺跡を守護している精霊ですら感知する事ができなかったと言う事に―――――――――――。
「――――――――フフフ。」
緋色を纏った彼女は優雅に微笑んでいた。
・東北や関西の神社には「十種神宝」らしいとされる物が所蔵されてますが本物かどうかは不明だそうです。本物だったら全部国宝級です。




