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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第14章 天使編
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第305話 目的

――アメリカ 荒野――


 慎哉達が街で情報収集をしている頃、勇吾達は街から東に離れた、天使が墜落した荒野に来ていた。


 アメリカの東西を結ぶ道だった場所は無惨にも道を断ち切られ、巨大なクレーターが出来上がっていた。


 現場は軍によって封鎖され物々しい雰囲気に包まれていた。



「表向きは隕石落下という事になっているようだな。現場の兵士達の多くもそういう認識らしいな」



 現場から少し離れた崖から様子を見ていた勇吾は、脇に展開したPSを操作しながら封鎖区域の中で行われている事の内容を調べていた。


 本来ならミレーナが担当する作業なのだが、今は彼女が不在なので勇吾が担当していた。



「だが上層部の一部は、これが隕石によるものではないと認識しているのだろう。この国の政府は、今回のような超常現象を始めとしたこちら側(・・・・)の事を認識しているからな」



 そして勇吾の隣では、黒王が自身を中心とした半径200km圏内を監視、不審なものは決して逃さないようにしていた。



「―――お待たせ!」


「行ってきたわよ!」



 そこに、封鎖区域に潜入していた良則とリサが戻ってきた。


 2人は隠形しながら封鎖区域に侵入し、直接クレーター内部まで調査に行っていたのだ。



「どうだった?」


「ほぼ予想通りね。クレーター内部はかなり高密度な“天使の力(テレズマ)”で満ちてたわ。綺麗にクレーターの内部だけにね」


「そうか。なら、黒の感知網にできた穴は…」


「“天使の力”のせいね。密度が高くて龍王クラスの感知能力も阻害してたのよ。ハッキリ言って、この国の軍が封鎖してくれたのは正解ね。一般人が中に入ったら、確実に覚醒とかの変化が起きてしまうわ」



 リサはクレーター内部で見てきた事を事細かに話していく。


 クレーターの中は高純度高密度の“天使の力”が充満し、内部は勿論、地下数十mまで綺麗に浄化された状態になっていた。


 ただ、“天使の力”は地下にこそ染み渡っているが地上にはあまり拡散しておらず、クレーターの境界線から外には微塵も漏れ出てはいなかった。


 まるで、最初からそうなるように調整していたかのように。



「軍は防護服を着用してからクレーターに入っているけど無意味ね。特に耐性の低い人や信仰心の厚いキリスト教徒はもろに影響を受けてるわ。放心状態になったり、突然号泣しながらお祈りを始めたりとかしていて軍は大混乱よ」


「それに、クレーターの中に入った人の中には覚醒(・・)している人も少なくなかったよ。ステータスを確認してみたら、加護持ちの人は100%覚醒していて、そっちでも混乱しているよ」


「覚醒者が…!天界の連中は何やってるんだ!!」



 予想以上の状況に、勇吾は憤慨した。


 この世界においては本来なら滅多に出現し無い筈の覚醒者の大量発生、しかもその元凶が現世に下りてきた天使となればそれは天界側の大失態である。


 他の神話の神々がそうであるように、天界の天使達もまた現世に直接干渉する事は禁止されている。


 今回のクレーターのような覚醒者を大勢発生させるような行為は間違いなくこの禁止事項に触れてしまい、現世に大きな影響を及ぼすのは明白だった。



「落ち着け勇吾。十中八九、天界の派閥争いで現世への対応が遅れているのだろう」


「足引っ張りあってるって……人間の政治家か!!」


「(天使には)元人間もいるからな。確か、生前は王侯貴族だった者も数名いた筈……」


「話題逸れてるよ!」



 天界に対する愚痴はそこで終わり、話は今後の天使の捜索に移った。


 現状から判断して標的の天使は墜落現場に戻ってきてはおらず、別の場所へ移動しているのは明白だった。



「―――神の神秘(ラジエル)は何の目的で現世に来たのよ?契約者探し?」


「どうなんだライ…っていねえ!!」


「…何時もの事だ」



 つい先程までいた筈の(ライ)に勇吾は憤り、黒王は表情を崩さず西の方、慎哉達が情報収集をしているサンフランシスコの方へ視線を向けた。


 そして目を細めながら言葉を続ける。



「…あくまで俺の推測だが、ラジエルは『本』を回収しに来た可能性が高い。俗に言う、『ラジエルの書』をだ」


「それは俺も可能性の1つとして考えてはいた。神話や伝承によれば、『ラジエルの書』はラジエル本人がアダムに渡し、それに嫉妬した一部の天使によって海に捨てられたがその後もエノクやノア、ダビデやソロモンなど多くの人の手に渡り今は行方知らずの幻の『本』だ」


「この世のありとあらゆる神秘が記されているとされ、持ち主に望む知識を与えると言われてるよね?」


「ああ、一説によればソロモン王が72柱の悪魔を召喚して使役できたのはこの『本』のお蔭だとも言われている。ただし、持ち主に読むだけの器が無ければ只の読めない本(・・・・・)、精々珍しい古代の遺産としか認識されない。情報通りならな」


「それがアメリカにあるかもしれないってことね。また大魔王がパクッてたの?」


「「「………」」」



 リサの最も現実的(・・・・・)な意見に勇吾はあからさまに嫌な顔をし、良則は苦笑、黒王は聞いてすらいないといった感じでサンフランシスコの方を向いた。



「……それなら、とっくにラジエルの屍が何所かで発見されている筈だ。または下僕にされて遊園地の見世物にでもなっている」


「それもそうね。じゃあ…」


「仮にラジエルの目的が『本』だとして、奴はまだ『本』を見つけられていないと見るべきだな。既に見つけたいるなら、その情報がウリエルを通して(バカ)に伝わっているだろうからな」


「バカが隠しているだけかもよ?」


「それを言っちゃ……」



 勇吾達は様々な仮説を立てていく。


 ラジエルの目的とその行動、現在地、現在地については十中八九アメリカ西海岸沿いである可能性が高いという考えで一致した。


 東には地獄があるのだから。


 そんな中、PSに別行動中の慎哉達からの通信が入ってきた。



「慎哉か?」


『なあ、丈達がホットドックの大食いチャレンジしてるぞ?』


「マスタードをぶちまけてやれ!!」


「アルカトラズに……プリズン○レイクとか言いそうね」


「それで、本題は何だ?」


『天使の目撃者を見つけたぜ!』


「「「!!」」」



 勇吾達の視線がPSに映し出された慎哉に集中する。


 画面の端ではホットドックを頬張っているよく知る銀髪が見えたが勇吾達は完全無視し、慎哉からの報告に集中していった。


 報告中、慎哉の声に混じってバカの声が聞こえてきたが、それも全員無視した。



「―――ビンゴだな。ラジエルは、図書館に侵入しようとしていたに違いない。けど、何者かによる結界のせいで侵入がかなわなかった」


『図書館?』


「ああ、目撃情報にあったラジエルが現れた地区には大きな図書館がある。表向き(・・・)には観光客も利用する公共図書館だが、裏では極秘文書の保管や歴史的価値のある訳アリ(・・・)な本などの復元や解読を行っているとされている場所だ」


『へ~!って、何で知ってんだ?』


「前にミレーナがハッキングして集めた情報の中にあった」


『それ、犯罪じゃね?』


「セーフだ」


『言い切った!』



 慎哉のツッコミを聞きながら、勇吾は別のPSを開いて過去にミレーナが集めた情報を表示する。


 それはアメリカの中枢をハッキングして集めた情報の中でもある分野に関する情報だった。


 世間では都市伝説にもなっている「怪事件」から、過去に実際に起きた「怪現象」を含めたオカルトや超能力に関する調査記録や研究記録だった。



(アメリカ政府の一部は“こちら側”の事を認識している。そのお陰で少しでも怪しいものは調査してリストにまとめてある。…大魔王のせいもあるけどな)



 勇吾は僅かにため息を吐く。


 アメリカには大魔王一族がいるせいで、ほぼ毎日のように“こちら側”の事件が時と場所を選ばず発生し続けている。


 主に大魔王の賞金や名声、暗殺狙いの身の程知らずな異世界人による事件が殆どだが、時には運悪く大統領や政府高官が巻き込まれしまうケースも少なくない。


 そして知ってしまった者の中には「超能力部隊」などを思いつく輩が存在するのだが所詮はド素人、優秀な科学者を集めて研究させてもまともな成果を上げられず、多額の予算を投じて作った実験部隊も暇潰しでやってきた大魔王の文字通り(・・・・)一息で吹き飛んでしまった。(吹き飛んだ自称超能力兵士はガラパゴスで発見された)


 その件以降、政府上層部は無闇に能力開発をしようとはせず、本物と疑わしい代物が発見されれば厳重に管理し、文献などは復元と解読などをして保管するに留まるようになった。


 もっとも、中には未だによからぬ事を企む者がいるが……。



「――――これは最新のデータじゃないが、あの図書館の中にはアジアやヨーロッパの魔導書が何冊か保管されているみたいだ」


「それって……」


「可能性が一気に上がったね」


『なあなあ、何の話だ?』


「今から話す」



 勇吾達は先程立てた推測を9割方確信した。


 ラジエルの目的は『ラジエルの書』、そしてそれは町の図書館に高確率で保管されている。


 だが、その図書館は何らかの力で守られていてラジエルも侵入ができなかった。



「――――この図書館にはかなり強力な力を持った魔導書か神器…聖遺物が保管されている気がする。()だけど。」


それ(・・)だな!」


「きっとそうね!」


『ヨッシーの勘は怖いほど当たるよな♪』



 良則の勘により、確信は9割から10割になった。


 勇吾達はすぐに慎哉達と合流すべく移動を開始する。



(―――の前に、上空で監視しているトレンツを呼び戻さないとな)



 空を見上げ、勇吾はここには居ない幼馴染を《念話》で呼ぼうとする。


 だが、その直前で逆に向こうから《念話》が勇吾達の下に届いた。




〈なあ、町の方に妙な連中を見つけたけど、どうする?見た感じ、人間じゃないっぽいぞ?〉







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