第301話 不本意だが、アメリカ行き決定
2週間ぶりの投稿……時間がもっと欲しい。
異変を察知してから約5分、状況についての情報が俺の下にも次々に入ってきた。
それによると、太平洋アメリカ沖の上空に突如として出現した高密度魔力体、上位級の天使――それも七大天使クラス――は出現地点より西に向かって移動、アメリカ西部の荒野に墜落したそうだ。
幸い死傷者はゼロだったが、現場を走行していた運送トラックが1台立ち往生しているらしい。
「どうやら、ゆっくりお茶を楽しんでいる場合ではなさそうですね。たった今、呼び出しがきました。」
「…今回の件、お前らも直接動くのか?」
「状況の変化にもよりますが、基本的にはいつも通り傍観することになるでしょうね。なにせ、今回の舞台はアメリカですから。」
「ああ……」
アメリカ…というか、北米大陸は大魔王一族の縄張りだったな。
そんな所で下手なことんすれば一巻の終わりか、場合によっては終わりのない無限地獄に落とされてしまう。
過去に、『創世の蛇』の末端構成員が大魔王を嘗めまくってワシントンに潜入した際、そいつは全裸で竜巻の中でシェイクされながらアメリカ横断十往復した挙句、インドの山奥にある茶畑で延々と働かされているらしい。
縄張りで好き勝手する奴は、神も悪魔も関係なく始末して下僕にする。それが大魔王だ。
そんな超ハイリスクな場所に踏み込むのは、アベルじゃなくても御免だ。
俺も嫌だ。
「そういうわけで、この件はそちらにお任せします。きっと今頃、ギルドに調査の依頼が出ているはずですよ。」
「やらねえよ!」
「きっと、一部の御友人がいち早く依頼を受けていますね。」
「トレンツ!リサ!ヨッシー!急いでバカどもを拘束しろ!」
俺は急いでバカの取り押さえに動いた。
頼むから間にあってくれ!
「頑張ってください。冒険者は『危険を冒す者』ですからね?」
「行かねえよ!!俺達は危険は冒すけど、自殺はしねえよ!!」
なに爽やかスマイルで帰ろうとしてるんだ!
もう俺達に全部押しつける気満々じゃねえか!!
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From:新世紀バカ(仮称)
Sub:新クエスト、ゲッツ♪
なあなあ、
新鮮ほやほやの依頼をみんなで受けて来たから今すぐ行こうぜ~!
きっと面白いぞ~!
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あ・の・野・郎~!!
「では、また会いましょう。あ、この場は私が奢りますのでご心配なく。」
さらっと帰りやがった!
あいつ、爽やかそうに見えて、実はかなり腹グロじゃないのか?
それはともかく、あいも変わらず悪い期待を微塵も裏切らない奴だな!?あのバカ!
相棒の龍王がとある異世界に入り浸るようになってからは若干は大人しくなったと思ったのに、またこれか!
「……とにかく、バカを縛ってからみんなで会議だな。」
俺は買ってきた物が入ったエコバックを忘れずに持ち上げ、喫茶店を後にした。
余談だが、今回利用した喫茶店はこの日を境に売り上げが急増し、とある宗教の枢機卿が常連になったことで一部の信心深い外国人旅行客の人気スポットになった。
あの天使、ティッシュみたいにそこら中に加護をばらまいてないか?
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――《ガーデン》 会議室――
「天使が落ちてくるって、かなり珍しいよな?」
「まあ、滅多にある事じゃないな。」
「契約や神託以外で天使…それも七大クラスの上位の天使が現世に来るのは、まずありえないわね。…例外はいるけど。」
リサは細目で逆さ釣りにされているバカを見た。
あのバカ、本当にアメリカに行く依頼を受けてきやがった。
もう、大魔王とまた関わってしまうフラグは完全に成立してしまった。
「なあ丈、ウリエルは今回のことで何か言ってるのか?」
俺がバカを睨んでいる中、トレンツは平然とした顔でバカに質問をしていった。
そう、このバカは七大天使の一角を担うウリエルと契約しているんだ。
経緯は謎だけどな。
「その前に下ろしてくんね?あ、それと俺、解体されるアンコウの気持ちが少し解った気がする!」
「だったら、アンコウみたいに解体してあげるわ!」
「うわ~い!今夜はアンコウ鍋だ~!」
「はしゃぐな!揺れるな!それと今夜は湯豆腐だ!」
「ああ、また京都から食材が届いたんだっけ?」
「それも有名な老舗豆腐店の限定品みたいだよ?」
「勇吾の曾お祖母さんに感謝ね♪」
「俺、湯豆腐は薬味を欠かさない派~♪九条葱ヨロ~♪」
「脱線しすぎだ!」
今後のミーティングのはずが、何時の間にか飯会議になるところだった。
「それで、どうなんだ?」
「え?何が?」
「……リサ、このバカをアマゾン川に捨ててきてくれるか?」
「任せて!」
「イエ~イ!ピラニア食い放題!!」
このバカを懲らしめる手段はこの世に存在するのか?
「――――遅くなった。」
「黒!」
そこへ、所用で来るのが遅れていた黒が会議室に入ってきた。
黒、龍王を継承してからかなり忙しいようだな。
同じ龍王でも、あのバカ龍王とはエライ違いだ。
「――――大体の事情は把握している。北米大陸西海岸付近に上位天使が出現したそうだな。それも七大クラスとか?」
「ああ、それについての調査を、このバカは勝手に受けてきたんだよ。」
「ペロロ~ン♪」
「気持ち悪いから動かないで!!」
「……それで、早速現地に向かうのか?」
「そうだな……」
バカを一瞥した黒の質問に俺は考える。
正直、大魔王一族の縄張りには行きたくないし、バカが勝手に受けてきた依頼もペナルティを覚悟すればすぐにでも取り下げることは出来る。
大魔王一族の縄張りで天使の捜索、普通に考えたらデメリットしかないな。
数ヶ月前だったら、七大天使クラスの“天使の力”欲しさに危険など考えずに乗り込んでいただろうけどな……。
俺の今の最大の行動目的の1つは俺の実家で暮らしている義弟の父親、シド=アカツキの捜索だ。
だが、そのシド=アカツキは数十年前に『創世の蛇』の《盟主》1柱であるサマエルに強力な呪いを掛けられてしまい、少しでも親しい人間とは一緒に居られなくなり世界を放浪する身となった。
親しい人間と一緒にいると、その人間はサマエルの呪いによって死んでしまうからだ。
そしてこの呪いは、シドが契約している龍王、『天嵐の飛龍王』ヴェントル、瑛介の父親にも掛けられていて、奴も親しい龍族とは一緒にいられなくなっている。
この呪いの解呪には、それこそ伝説級のものが複数必要で、その内の1つが、上位天使の中でもさらに上位の天使の“天使の力”だ。
(最初はアベルと取引を考えたが、今は必要は無いからな。)
どういう経緯か、バカがウリエルと契約したお陰で『天使の力』の問題はクリア済みだ。
新たに手に入れる必要はねえ。
「気にはなるが、今回は……」
俺は依頼をキャンセルしようとした。
だが、バカは何がなんでも俺達をアメリカに行かせたいらしく、必殺の言霊をぶつけてきた。
「俺、ロトの父ちゃんにアメリカで会ったぜ?」
「「「!!!???」」」
「この前、銀洸とアメリカのイベントに行った帰りに寄ったドーナッツ店でファーストコンタクトしたよん♪」
「「「………。」」」
このバカ、殴っていいよな?
俺の今までの苦労は何だったんだ……。
「……もう遅いかもしれねえけど、一応は調べに行くか。」
「そ、そうだね。一番新しい手がかりがあるかもしれないしね。」
「ねえ、このバカをハドソン川に捨ててきていい?」
「「どうぞどうぞ!」」
水質汚染を引き起こさないなら好きなところに投棄してこい。
「アメリカ行きは決定か。ならば、次は人員の選択か。」
「……相変わらず冷静だな。黒。」
「人員と言えば、今日はミレーナは来ていないようだな?」
「ああ、ミレーナなら何時もの面子と一緒に『剣聖』のところに行っている。そういえばあいつら、なんだか最近挙動不審だよな?」
ミレーナもレアンは、最近は晴翔や琥太郎達と一緒に行動する事が多くなった。
というよりは、晴翔と一緒にいる事があからさまに多くなった。
京都の事件以降、どうやら2人の親密度は急上昇、俺達から見てもデキているようにしか見えなかったな。
けど、それを含めても最近はなんだか様子がおかしい。
「勇吾、気付いていなかったのか?」
「ん?」
「……いや、何でもない。近い内に当人達から聞く事になるだろう。」
「?」
黒は何かを隠しているようだ。
その証拠に、今一感情が読めない平常モードの黒の顔が少し、正確には唇がほんの少しだけ、一瞬ニヤけていた。
「NO~!川はNO~!湯豆腐食えないじゃん!?」
バカは処刑執行者に引きずられながら会議室から去っていった。
さてと、アメリカ行きの話は中断して、俺は夕飯の仕度の続きをするか。
寒くなってきたから、今夜の湯豆腐は格別に旨いのは間違いなしだな。




