第300話 アベルとの再会
新年あけましておめでとうございます。
本年最初の更新です。
そして祝300話!
よく、ここまで続けられたものです。
――東京 某所(勇吾サイド)――
それは師走のとある平日の夕方、日用品の買い物を終えて帰宅の途に就いたばかりのことだった。
すっかり日が短くなり、辺りがだいぶ暗くなった街の一角を歩いていると、その男は不意に俺の視界の中に現れた。
「……。」
「――――お久しぶりです。」
「…アベル=ガリレイ。」
そこにいたのは、約5ヶ月前に名古屋であった『黎明の王国』の幹部の1人、アベル=ガリレイだった。
周囲を歩く他の歩行者と違和感のない冬の装いをしたアベルは、一見すれば他意の無い様な笑みを浮かべながら俺に向かって手を振っていた。
「一緒にお茶でもどうですか?」
「………。」
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――東京 とある喫茶店――
「いい店ですね。もしかして、行きつけのお店ですか?」
「いや、俺も初めて来る店だ。」
「その割には、随分と馴染んでいるようですが?」
俺とアベルは、一番近くにある喫茶店に入り、紅茶を飲みながら軽い雑談を交わしていった。
「城の中にある私の行きつけの店のお茶も絶品ですが、この店のお茶も中々ですね?」
「…へえ?」
どうやら、こいつらのアジトは城のようだ。
それもアベルの言い方からすると、かなり大きな造りのようだ。
「―――招待状、読んでくれました?」
「…ああ、読んだぜ。日時とか、詳細は書いていなかったけどな。」
京都の一件の後、バカが持ってきた招待状の内容はしっかりと覚えている。
『及第点です。
私達の王国に招待しましょう。
陛下も皆さんに会えるのを楽しみにしています。』
これだけの内容だった。
それ以外には、地図どころか日時も記されていなかった。
「日時はそちらの都合に合わせる、という意味で書かなかったのですが、上手く伝わらなかったようですね。申し訳ありません。」
アベルは頭を下げて謝罪するが、どこかワザとらしかった。
もしかすると、あの中途半端な内容の招待状を口実に俺に会いに来ようと考えていたの…かもしれない。
「――――場所については、あくまで極秘なのでお教えできません。そちらの都合の良い日にこちらから迎えを寄越しますので、。」
「それ、意味あるのか?丈と銀洸に、秘密も何も全部台無しにされるんじゃないか?」
「そ、それは………」
目が思いっきり泳いでいるぞ。
その様子じゃ、バカへの対策はまだ不十分のようだな?
てか、普通は無理ゲーだけどな。
「それはそうと、随分と雰囲気が変わりましたね?そして、随分と強くなりましたね?夏の時とはまるで別人ですよ?」
「(…逃げたな。)まあ、誰かさんに祝福された、どこかの勇者が好き放題にチートを量産したからな。今じゃ、俺達全員が伝説の英雄クラスだ。」
「ハハハ…そうですか。私が言うのもなんですが、彼のことは予想外でした。まさか、堕ちた彼の龍を《盟主》から解放しただけでなく、神格を取り戻させた上で契約するとは思ってもいませんでした。」
「しかも今では複数の龍王や神とも契約…いや、あいつの話はもうやめだ。キリがない。」
「そうですね。この話題の続きは、また別の機会に…」
チートバーゲンセール勇者の話はここで終わった。
「――――ところで、天界の動きについて、そちらはどこまで把握してますか?」
「――――!」
目付きが変わったな。
どうやら、ここからが今日の本題のようだ。
しかし『天界』か………
「…七大天使のお前の方が詳しいんじゃないのか?俺たち以上の専門家だろ?」
「確かにそうですが、そちらにも例外といいますか、規格外の方がいますので…」
「……。」
痛い処を突くな。
アベルの言うとおり、俺の仲間には天界の事情に通じている者が数名いる。
あいつ等なら、アベルの知らない情報を持っている可能性はある。
「…天界で何かが起きたのか?」
「簡潔に言えば、天使達の間で不和が生じているようです。聖書の神が亡くなって数百年、神の後継を巡って一部の天使達が問題行動を起こしているとか。」
「ウリエルといい、天使も俗物だな。」
「元人間もいますから。」
主を失ってとうとう調和が崩れだしたか。
天界の主である神は死んでいる。
子供を生んで不死不滅と全盛期の力を失い、人間の罪をその身に受け続けた挙句、弱ったところを狙われたりして死んだんだよな。
本来、高位の神は死んでも何度でも復活する不滅の存在が多いが、聖書の神は救世主ともう1人を生み出した時に失っている為、2度と復活する事は無い。
だが、何時までも天界の玉座を空けたままにしておけない。
何だかんだで世界三大宗教の一角に2000年以上もの間信仰されてきた連中だからな。
それなりにプライドが高いし、神の不在で他の宗教・神話郡に舐められるのを嫌う天使も少なくないと聞くからな。
天界の体制を変えようと動く連中が出てきたんだろう。
俗物と言ったが、アベルが言ったように今の天使の中には元人間もそれなりの数がいる。
それどころか、他の宗教・神話郡からヘッドハンティングされて天使に転職した奴もいる。
そのせいもあって、表沙汰にはされていないが、天使の間にも複数の派閥が存在する。
「今のところ、あの御二方以外では七大天使が有力候補と囁かれているそうです。私の中の、イェグディエルも含めて。」
「ま、当然の流れだろうな。それ以外だと、熾天使や智天使、座天使の連中くらいか?」
「そうですね。その為、現在天界では神の後継になろうと、手始めに七大天使の座を狙う者も出てきているようです。特に元七大天使は、再び返り咲こうと躍起になっているとか…。」
「…もう天使も人間と大差なくなってきているな。」
「…イェグディエルも「お恥ずかしい限りです」と言っています。」
天使達の権力闘争か。
『創世の蛇』だけでも面倒なのに、さらに面倒なのが増えるのは勘弁してほしい。
別に俺はキリスト教徒でもユダヤ教徒でもないし、正直、天界がどうなろうと知ったことじゃない。
だけど、七大天使については興味がある。
あれは時代とともに面子が入れ替わっているから、今はどのような顔ぶれになっているか知っておきたい。
「―――アベル、今現在の七大天使はどんな面子になってるんだ?」
「四大天使は今も変わらず不動です。残る3名は私の中にいるイェグディエル、そしてメタトロンとザドキエルです。」
有名な四大天使とイエグディエル以外には、メタトロンとザドキエルか。
やはりまた面子に変動が起きているようだ。
確か前は、サンダルフォンがいたはずだからな。
「彼らは皆別格の天使なので、よほどのことが無い限りは入れ替わりは無いでしょうね。あるとしても、歴代の七大天使同士の争いになるでしょうが。」
「現世を巻き込むなよ?」
「努力しますが、そちらの今の立場を考えますと、巻き込まれないというのはまず有り得ないと思います。」
「うっ…。」
否定できないな。
只でさえ、俺達は神殺しとかしているせいで色んな連中に顔を覚えられているし、何よりトラブルメーカーのバカがいる。
こっちが関わらないように努力しても、一瞬で台無しにされる恐れがかなりある。
「それに、『蛇』と…七大魔王(悪魔)の一角と何度も戦っている以上、必然的に天使とも関わることになります。それ以前に、彼は七大天使と契約してますから…」
アベルが言ってる魔王とは大魔王のことじゃなく、『幻魔師』のことだ。
奴の中には堕天使であり、七大天使と対となる七大魔王の1柱、《傲慢》のルシフェルがいる。
実質、俺達は魔王と戦っているのと同じなのだ。
そしてあのバカ、丈はどういう訳か七大天使の1柱、《勇気》のウリエルと契約している。
関わりたくないと思っても、事実上不可能に近いな。
「七つの『大罪』、それに『美徳』か…」
「魔王…悪魔は『大罪』を司り、天使は『美徳』を司り、それらは常に対をなしています。もっとも、『大罪』は《怠惰》のベルフェゴール、《色欲》のアスモデウス、《暴食》のベルゼブブが討滅されてしまっていますが。」
「悪魔の方も、権力闘争とか起きてそうだな。ただでさえ、爵位のある上級悪魔がこの数ヶ月で何柱も当滅されているからな。」
俺達も倒しまくってたからな。
特に京都とかで……
「そういえば、今の七つの美徳はどうなってるんだ?七大天使同様、あれも時代や宗派によって異なるし、正式なのは天界に通じてないと分からないからな。」
「そうですね。今の『美徳』と対応する天使は――――」
そしてアベルは現在の『七つの美徳』について語った。
『七つの美徳』は、有名な『七つの大罪』と対を成す感情で、『大罪』が人間を悪へと貶める感情に対し、『美徳』は『大罪』に打ち克つ為の感情を差す。
そして『大罪』にルシファーを始めとする悪魔や堕天使がいるように、『美徳』には七大天使がそれぞれの感情を司っている。
そして現在、七つの『美徳』とそれを司る七大天使は―――
――――《色欲》のアスモデウスに対する《純潔》のメタトロン
――――《強欲》のマモンに対する《救恤》のイェグディエル
――――《怠惰》のベルフェゴールに対する《希望》のザドキエル
――――《暴食》のベルゼブブに対する《智慧》のラファエル
――――《嫉妬》のレヴィアタンに対する《慈愛》のガブリエル
――――《憤怒》のサタンに対する《勇気》のウリエル
――――《傲慢》のルシフェルに対する《謙譲》のミカエル
となっている。
ちなみに、俗に四大天使とも呼ばれているミカエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエルはここ数千年間、七大の座を不動のものとしている最古参の天使だ。
「――――と、いったところでしょうか?」
「成程な。それが今の七つの美徳か。」
アベルの話に、俺は何時の間にか聞き入っていた。
アベル…というより『黎明の王国』についてはまだ信用できないが、今の話は不思議と信用できるし、アベルの眼からも嘘でないと確信できる。
俺は純粋にもっと話を聞きたいと思い、より詳しい話を訊こうとした。
異変が起きたのはその時だった。
「「―――――!!」」
俺とアベルは、ほぼ同時にその異変を感じ取った。
まるで真冬の街の空気が、一瞬で真夏の空気に変わったかのような感覚だった。
その異変は俺達が今いるこの街限定じゃなく、この世界そのものに起きているものだと俺達は直感した。
「――――これは!!」
「まさか…!!」
俺とアベルは即座に異変の正体に気付いていた。
この感覚、いや気配、間違えるわけがない。
これは…!!
「――――天使が、現世に下りてきた!?」
その1分後、アメリカ西部の荒野に正体不明の“何か”が墜落したという情報が俺の下に齎された。
七つの美徳は宗派や時代によって異なります。
本編に提示したのは、あくまで当作品だけの設定ですのであしからず。




