第290話 蒼空の検査結果報告
――京都市(勇吾サイド)――
カース達が去った後、俺達は戦いの後始末に追われていた。
後始末と言っても、戦闘は結界内で行われたから現実側の京都の被害はそれほど大きくない。
インドラとシヴァが起こした暴風雨により、一部で交通事故が発生したり通行者が突風で転んで怪我をした人はいたが死者は1人も出ていない。
家屋への被害も、殆どが窓を開けっ放しにしていた家が水浸しになった程度で、半壊や全壊に至った家は1件だけで済んだ。
途中から参戦してきたスサノオ達は、現世に残留した過剰な魔力や悪魔達の残した邪気などを浄化した後、すぐにそれぞれの縄張りに帰って行った。
例えここが京都とは言っても、神々が現世に関わるのは可能な限り控える為の判断だろう。
ただ、京都を守ってくれたお礼も込めて俺達全員の体力や怪我を完全回復させてくれた。
現在、バカが不在の為に継続中の結界の中には俺達以外にはホロケウカムイと、シャルロネーアに操られていた八大龍王が残っている。
同じく操られていた闇御津羽神だが、彼女は俺達に感謝をした後、同胞の神がいる貴船山へ療養の為に向かっていった。
俺はと言うと、現世側で唯一被害を受けた九条家に来ていた。
「――――そう、曾祖母さんが8年前のことを・・・。容体は?」
「問題ない。今は自室で寝ているところだ。」
俺がシャルロネーアと戦っている間、曾祖母さんが8年前の父さんの死の真相を知り、そのショックで体調を崩したそうだが、幸いにもお祖母ちゃんの治療で生命の危機に至る事は無かったようだ。
「・・・その顔だと、過去とは少しはケリを付けられたみたいだな。」
「うん、父さんのお蔭で。」
俺は父さんから受け継いだ十握剣、神度剣を見せながら幽世であった事を話していった。
戦いの後、新生・布都御魂剣(仮称)は再び布都御魂剣と神度剣に分かれている。
あの融合は一時的な現象だったようだ。
元は1つだったとはいえ、永い時を経てそれぞれ別個の存在になっているのかもしれない。
その辺りの話は、後で布都御魂にでも訊いてみる事にしよう。
「・・・そうか、大吾は逝ったのか。」
「経津主神様には、後でお礼に伺わないといけないわね。それと勇ちゃん、無事で良かったわ。」
「お、お祖母ちゃん!?」
相当不安だったのだろう。
お祖母ちゃんは一筋の涙を流しながら俺の体を抱きしめた。
一方、その周りでは放心状態のまま立ち尽くしていたり、生温かい液体を流しながら気絶していたり、呆然としている親戚一同がいた。
「・・・お祖父ちゃん、アレは?」
「絶賛、現実逃避中の自称九条家当主とその身内達だ。ほんのごく僅かだが『蛇』の連中や神々の気に当てられて、耐性の無い者達はああなってしまっている。夜が明けるまでは復活しないだろうな。」
「メッキが一瞬で吹っ飛んで正気を失った訳か。」
「そういうことだ。」
「はいはい、そこを通りますから退いてください!」
俺とお祖父ちゃんが勝手に納得していると、何枚もタオルを持った家政婦1名が俺の前を横切っていった。
「ハイハイ、若旦那様も若奥様も風邪をひきますよ!お風呂を沸かしましたから入ってきてください!お嬢様達もです!」
大人達の殆どが気絶していたり放心状態に陥っている中、家政婦の淑子さんだけはテキパキとタオルを配りながら容赦なく背中を叩いていった。
随分、元気なお婆さんだな。
「・・・何であの人は元気なんだ?」
「彼女は基本的に怖いもの知らずだからな。度胸の塊のような人だ。」
「そういえば、お義父さんの霊魂が現れた時も平然としていたわね?」
「ああ、軽い霊媒体質で怪異には子供の頃から慣れているそうだ。そのせいか、《魔法耐性》も《精神耐性》も共にレベル3だったりするんだが。」
「それは・・・凄いな。」
普通の、それも日本の一般人がそれだけの耐性を持つ事なんてそうそうある事じゃない。
一体、どんな人生を歩んできたんだろう?
「さあな、『九条家七不思議』の1つなのと、俺が知る限りだと京都最強の家政婦なのだけは確かだ。身の熟しを見ていれば解るだろうが、彼女は弓道の柔道の有段者だ。過去に引っ手繰り犯を39人、強盗犯を13人、詐欺師を20人程捕まえて何度も表彰されている。」
「どんな家政婦だよ!?」
それでもあくまで一般人らしく、裏にも表にも何も無いとのことだ。
まあ、稀にそういう人はいるけど・・・
「・・・・・・何なのよ、これ!?」
彩を始めとする再従兄弟達は呆然としながら淑子さんに背中を押されて半壊したこの場を後にしようとしていた。
大人達と違って精神的に許容量が大きいせいなのか、再従兄弟達はショックを受けているようだが現実逃避するほど深刻ではないようだ。
再従兄弟達の中には亮介に瓜二つの大輝、渉に瓜二つな将和もいる。
こちらの問題も早めに解決させておかないといけない。
フェランの実験の被害者は年齢から考えて渉と将和の2人だろうが、そうなると亮介と大輝はという話になる。
魔力の特徴の一致から考えても他人の空似とはまず有り得ない。
間違いなく2人は一卵性双生児なのだろうが、蒼空に頼んだDNA鑑定の結果が出るまではこの事を当人達に話す事は勿論、会わせるのも避けた方がいい。
それは渉と将和も同じだ。
だが、こういう時に限ってバカコンビ辺りが空気を読ま・・・いや、むしろ読んだ上で渉と亮介を連れてきそうな気がするな。
「勇吾、あの飛龍はお前の仲間か?」
「え?」
お祖父ちゃんに言われて空を見上げると、この屋敷の上空から1体の飛龍が降下してくるのが見えた。
あれは瑛介?
他にも知っている気配が・・・・嫌な予感がする・・・。
「『ただいま~~~~~♪』」
クソ!
本当に毎回嫌なタイミングで出てきやがるなあ!?
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――京都市 九条家(蒼空サイド)――
「・・・これは一体、どういう状況だ?」
俺―――諸星蒼空が頼まれていた検査結果を携えて勇吾の父方の祖父の実家に来てみると、そこには何とも言えない空気が漂っていた。
庭ではバカとバカ龍王が地面に減り込んでおり、縁側ではそれを呆れながら見ている晴翔やトレンツ達、そして大座敷で座布団の上に正座している人々・・・。
上座に座っている老女が勇吾の曾祖母なのだろう。
どことなく、勇吾に似た雰囲気を漂わせている。
「――――悪いな、この時間に来てもらって。」
「そう思うなら、しっかりと報酬を払うことだな。しかし、一難去ってまた一難とは、お前の一族は呪われているんじゃないのか?又は、どこぞの運命神に厄介事を押し付けられているとか?」
「それは・・・言わないでくれ。」
「とはいえ、随分と雰囲気が変わったようだな?」
「そうかな?」
声からしても、勇吾はこの短時間で随分と変わったと俺は思う。
背負いすぎていたものから解放されたのかどうかは俺の知るところではないが、今の勇吾は随分と自然体と言うか、年相応の少年らしい空気を纏っているように思えた。
「それはそうと、頼まれていたDNA鑑定の結果を持ってきたが、ここで報告してもいいのか?一応、本人達は揃っているようだが?」
俺は座敷の中を見渡しながら勇吾に訊ねる。
座敷の中には勇吾や勇吾の祖父母、曾祖母、そして今の時間なら名古屋の自室で寝ている筈の亮介や渉達も緊張しながら正座していた。
そして彼らと向き合う様に座っているのは、亮介と渉に瓜二つの少年だった。
「ああ、構わない。何人か足りないが、明朝まで目を覚ましそうにないし、当人達が早く知りたがっているからな。」
「そうか。なら、さっさと報告させて帰らせてもらうか。」
俺は用意された席に腰を下ろし、持ってきた検査結果報告書を人数分出してこの場に居る全員に渡した。
「――――先に結果だけを言えば綺麗に一致した。高岡亮介と九条大輝、加藤渉と九条将和はともにDNAが同じ、つまり一卵性双生児だった。この結果に不服があるなら、後日民間の機関に依頼して再度検査して
もらえばいい。」
「「「――――!!」」」
「やはり、そうだったか。」
「世間は狭い――と言いたいところだが、幾らなんでも出来過ぎた話だ。裏で糸を引いている奴がフェラン以外にもいるだろうな。」
「ああ、それは俺も考えていた。」
フェランが行った嬰児交換、15年前と10年前の2度行われた話は聞いてはいたが、その10年前の1組が勇吾や俺の知り合いの渉と勇吾の再従弟、しかも更に別の再従弟と亮介もとなれば偶然とは考えられない。
フェランとは別に、裏で糸を引いている誰かがいると考えるのが自然だろう。
この2組に共通する点から考えて最初に思い浮かぶ人物は――――
「――――『黎明の王国』のアベル=ガリレイか。だが、俺には・・・」
直接面識のある勇吾は納得できないようだが、現時点では他に思い当たる人物はいない。
少なくとも俺にはだが。
「ハイハ~イ!!俺、『黎明の王国』からメッセージを預かってるヨ~ン♪」
「「!!」」
外でめり込んでいたバカが封筒を片手にやってきた。
勇吾はそれを素早く奪って中身を取り出し、俺と一緒に中に入っていた数枚の便箋を読んでいったが、1枚目に書かれていたのは今まさに俺達が求めていた解答だった。
『 犯人は 悪神ロキ です。 』
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――勇吾サイド――
今日はもう本当に疲れる1日だった。
バカが持ってきた手紙には、都合よく俺達が知りたかった情報だけが書かれていた。
ただし、最初の1枚目だけはジュード=マクミラン個人が独自のルートで調べた情報のようであり、本題は2枚目以降だった。
どうやら、シャルロネーアに支配された状態だったとはいえ、複数の神を殺した俺達を『黎明の王国』に招待したいそうだ。
以前、ディオンから伝えられたアベルの条件を満たしたと判断されたようだ。
だが、今の俺にはそんな話はどうでもよかった。
「よう!久しぶりだな、勇吾?」
「士郎か。話は聞いている。異世界で活躍していたようだな?」
8月から異世界ルーヴェルトに召喚され、その世界で『蛇』と戦っていた大羽士郎は前に会った時よりも幾分逞しい姿で久しぶりに顔を見せにきた。
本当は先月の初めに帰ってきたそうだが、あの時は例の事件で直接会う機会がなかったから、こうして会うのは3ヶ月ぶりになる。
「いやあ、勇吾の加勢に入りたかったんだけどさ、カースの分身軍団や魔物軍団に囲まれて行けなかったんだよ!数の暴力って厄介だよな?全滅させたけど!」
「本当にどんだけ強くなったんだ?」
「それは勇吾もだろ?あ!後でステータスを確認しておけよな?俺の能力でささやかなプレゼントを贈っておいたから♪」
「?」
それだけ言うと、士郎は衝撃の事実を知ってオロオロしている渉を連れて名古屋に転移した。
訊きたい話は沢山あったが、今は渉のことも考えて自重する。
あの蒼空からの衝撃的な報告の後、九条家は再び混乱に陥っている。
亮介は意外とすぐに落ち着きを取り戻し、自分と双子の兄弟である大輝と簡単な会話をして名古屋に帰っていったが、今帰った渉と、別室にいる将和にはショックが大きすぎた。
渉の方は士郎がいれば大丈夫だろうから、将和の方は俺の方でサポートしておこう。
「これで解決・・・にはならねえよな。」
屋敷の外では八大龍王が騒いでいる。
バカコンビが『蛇』の拠点に侵入した際に回収した封印状態の神の中に人質にされていた彼らの身内がおり、無事に封印も解けて喜んでいたのだ。
ただし、封印状態の彼らの身内が銀洸の口から吐き出されたという事実は目撃者全員に口止めされているが。
「さてと、今夜はすぐには休めそうにないな。」
その後、俺が《ガーデン》の自宅に帰宅したのは日付が変わる時刻を過ぎてからだった。
ああ、明日の朝食当番は俺だったな。
~おまけ~
剛則「どうやら終わったようだな。」
良則「剛兄!!来てくれたんだ!?」
剛則「これでも急いだんだがな。それより、バカはどうした?」
約全員「「「アッチ!」」」
バカコンビ「「ギクッ!!」」
剛則「おいバカ共、ここに来る途中、狭間で『創世の蛇』の構成員達が見るに堪えない姿で漂流していたが、どっちの仕業だ?」
バカコンビ「・・・・・・。」
剛則「それとそいつらから聞いたが、奴らの本拠地で何をしてたんだ?」
バカコンビ「・・・・・・・・・・・・(ソソ~)。」
剛則「――――逃げられると思ってるのか?」
バカコンビ「―――――(ビュウッ!!)!!」
剛則「やれ、闘龍!」
闘龍「おう!大人しく叱られろ!!」
バカコンビ「「キャアアアアアアア!!」」
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良則「剛兄、今夜は泊ってく?」
剛則「ああ、世話になる。」
良則「あの2人は?」
剛則「海の底だ。」
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