第288話 カースウェル=ダルク=プライド
『――――穴が小さくなってる!』
上を見上げると、バアルの腕が出てきた穴が小さくなっていた。
あの穴の向こう側が『創世の蛇』の本拠地なのかもしれないが、今は深追いはしない方がいいだろう。
だが、そう考えてないバカは迷わずに攻撃を開始していた。
『《ドラゴン・ホーリー・ブラスター》×999!!』
まだ余力があるのか、バカは洒落にならない威力の攻撃を連発していった。
攻撃は全て穴を通過していき、奥から爆音がいくつも聞こえてきたのだが、何故か爆音がアニソンの演奏に聞こえてきたのは気のせいではないだろう。
だが、その爆音の演奏は最後まで続かなかった。
『やあ、初めましてだね♪』
穴の中から現れた、本日3人目のカースが片手でバカの攻撃を防いでいた。
そしてその瞬間、今まで感じた事のない様な禍々しい気配が穴の奥から流れ込んできた。
それだけじゃない、あのカースからは今までのカースとは比較にならないほどの強い力が感じられる。
『ゆ、勇吾!あのカースって、まさか!?』
隣にいた良則も戦慄しながら俺に訊ねてきた。
嫌な予感がした俺はすぐに《ステータス》を使った。
【名前】『幻魔師』カースウェル=D=プライド
【年齢】―測定不能― 【種族】半人半魔
【職業】魔術師 【クラス】真なる眷属
【属性】光 闇
【魔力】8,827,000/9,300,000
【状態】正常(?)
【能力】――測定不能――
【加護・補正】――測定不能――
こいつ、カースの“本体”・・・!!
度々現れる“端末”ではなく、その全ての“端末”の大元!!
『―――――ッ!!』
『ハハハ、驚かせちゃったかな?』
拳が震える。
大魔王一家を除けば、俺が今まで会った敵の中では間違いなく最強の男(?)だ。
今の俺達よりもずっと格上の敵、戦うのは絶対に避けなければ!
・・・と、今までの俺ならそう考えていただろうな。
『嘗めるな!!行くぞ、良則!!バカ!!』
『え・・・うん!!』
『ラジャー!!』
俺と良則とバカ、神龍武装化(神龍形態)した俺達はカース本体に向かって突っ込んでいく。
腕や足の1本や2本くらいは失う覚悟はある!
ここで奴を倒してやる!!
『これは熱いね♪けど、今は君達の相手をしている気はないからまた今度にしてくれないかな?』
『そっちには無くても、こっちにはある!!』
『しょうがないね。ちょっとだけ――――』
『《お返しボンバー》!!』
カース本体の声を遮るようにバカがまた変な技を放った。
とんでもない量の魔力を放っているようだが、その中にはカースの魔力も混ざっていた。
技名から察するに、吸収し続けていた敵の攻撃を圧縮して放っているんだろう。
俺達も負けるか!!
『《神龍螺旋斬衝》!!』
『《万を超えし極光閃拳-虹-》!!』
俺と良則もカースに向かって攻撃を放つ。
だが、カースは攻撃を避けようとはせずに右手を前に突き出した。
『《熾天使の守護掌》!』
俺達3人の攻撃を全て右手で受け止め・・・じゃなく、消しているのか?
俺達の中で最速の良則は瞬時に超速移動をするが、接近しようとすると何かに弾かれてしまい接近できない。
そして、カースは右手を下ろすと今度は左手を前に突き出した。
『《堕天使の簒奪掌》!』
カースの左手が怪しく光ったと思った直後、奴の両隣に2つの球体が出現し、片方の球体にはボロ雑巾になったシャルロネーアが入っていた。
そしてもう片方には、小さいドラゴンのような物が入っていた。
『――――相手をする気はないと言ったはずだよね?回収するものは回収したし、僕はこれで失礼するよ。バアルが深手を負わされた状態で君達6人を相手をするのもキツイのに、彼ら全員を同時に相手にするのは僕でも御免蒙るよ。』
直後、俺達の周りに幾つもの強大な力が出現し、俺の目の前に旋風が巻き起こった。
そして、風の中から剣を持った1人の男が姿を現す。
『ほう?このまま逃げられるとでも思ってるのか?』
『――――スサノオ!!』
現れたのは三貴子の1人、軍神スサノオだった。
それだけじゃない。
地上でシャルロネーアが生み出した魔物達と戦っていた八大龍王やホロケウカムイ、ホロケウカムイに氷漬けにされていた闇御津羽神、他にも直接目にするのは初めてだが強い神格を持った日本の神々が俺達の周りに集まってカースを睨んでいた。
父さんと契約していた経津主神はいないようだ。
『ハハハ、こうして直接会うのは何百年ぶりかな、スサノオ?それと他のみんなも久しぶりだね♪』
『黙れ!貴様、このまま無傷で帰れると思っているのか?あ゛あ゛!?』
『ハハハ、十握剣も天叢雲剣も持っていないのに随分と強気だね?けど、スサノオ以外にもタケミカヅチ達もいるのは厄介だから帰らせてもらうよ♪』
『逃がさねえって言ってるだろが!!』
直後、スサノオだけでなく他の神々も同時にカースに攻撃を開始した。
俺達も僅かに遅れて攻撃するが、カースは笑いながら閉じかけている穴の向こう側に下がっていった。
そして入れ替わりに、1人の男が穴の外に出てきて、一振りの剣を揮った。
――――神殺しの樹剣
まるで初めから何も無かったかのように俺達や神々の攻撃がかき消された。
だが、俺はそのことよりも男そのものに目を奪われた。
あの男、あの顔を俺は忘れる筈がない!
『―――『神話狩り』ペリクリス=サルマント!!』
『――――。』
8年前、父さんを直接殺し、他にも近年の龍王暗殺の犯人とされている『創世の蛇』の幹部 ペリクリスだった。
ペリクリスは俺を一瞥したが、何も言わずに穴の中に戻っていった。
『ミストルティンだと!?あの野郎、神器を改造強化してやがるな!』
スサノオは自分達の攻撃をかき消した剣を見て怒りに似た感情を露わにしていた。
そうだ、奴が使った剣は北欧の神器の1つ、『神殺しの樹剣』だ。
悪神ロキがバルドルを殺すのに使用した宿り木で作られた剣を奴は持っていた。
『じゃあ、さようなら♪』
ついに穴は人が通れないほど小さくなり、穴の向こうではカース本体が怪しい笑みを浮かべながら手を振っていた。
こうなれば、もうこちらから攻撃することはできない。
俺達は奴の苛立つ笑顔を見てるしかなかったが、苦渋の顔はすぐに呆然となった。
『『『あ!』』』
俺達は見た。
今にも消えようとする穴の向こうで手を振っているカースの後ろで、バカコンビがピースサインを送っているのを。
『――――またね♪』
カースは気付いていないようだ。
そして、穴は完全に消えたのだった。
残された俺達は、ただ呆然と宙に立ち尽くすしかなかった。
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――『創世の蛇』――
『シャルの治療は任せたよ♪』
『『了解しました!』』
勇吾達との戦闘後、カースは回収したシャルロネーアを医療班に引き渡し、ペリクリスと共に謁見の間を目指した。
彼の手にはシャルロネーアと一緒に回収したモノが収められた球体がある。
「それがティアマトの神格か?」
ペリクリスが訊ねると、カースはすぐに頷いて答えた。
「そう♪これが彼女の最たる神格、あらゆる命を生み出す『生命の根源』そのものさ。これさえあれば、魔獣だけでなく神さえも創ることができるんだよ♪」
「興味ないな。」
「だろうね。常に神話の力を無効化する君にはこういったものはあまり意味がないからね。それはそうと、天雲大吾の息子を久しぶりに見た感想は?」
「・・・・・・。」
ペリクリスは答えなかった。
話す義務が無いからだ。
「――――シャルはどうなると思う?」
だから話題を変えた。
「ステータスを確認したけど、あれは《盟主》様の力を借りないと再起は難しいね。バアルも同じ能力を受けたからついでに頼んでみるよ。」
「以前、ブラスやアイアス達が言っていた特異能力者か。」
「そうだね。さっきも、彼らに端末を幾つも潰されたよ。しかもそのすぐ後に、『奇童』にクラッキングされて端末は一瞬で全滅したよ。」
カースは苦笑しながら話してはいたが、内心ではかなりショックを受けたままだった。
長い年月をかけて様々な異世界に広めた自身の端末、それが全て一瞬で失われたのだから無理もなかった。
これにより、『創世の蛇』は生命線の1つを失ってしまった。
「親子三代、本当によくやってくれるよ。彼らは。」
「・・・・・。」
カースはまだ勇吾達に本気を見せてはいない。
だが、今回の一件で鉄壁の余裕に亀裂が入ったのは確かだった。
地球の有史以前から数多の世界で暗躍していたカース、決して誰にも追い詰められる事の無かった彼は初めての危機感を抱き始めていた。
だからだろう、彼は普段なら決して見逃すはずの無い彼らの侵入を見逃してしまっていた。
「――――けど、近い内に次の封印が解かれる。次は誰だろうね?ウロボロス様かな?天之常立様?それとも、バロール様かな?ペリクリスはどっちだと思う?」
「――さあな。」
「ハハハ、本当に君は――――」
「「「キャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」」」
「「――――!」」
悲鳴が聞こえてきたのはその時だった。




