第27話 事件は迷宮入り
アンドラス編エピローグです。
本当に長くなってしまいました。
次章からはもっと短めに書けるといいです。
――病院――
晴翔が目が覚めて最初に見たのは白い天井だった。
「・・・・・・・何所・・・だ?」
まだ意識がハッキリしない。
周囲から薬品の独特の匂いが漂って来たことから病院である事は何となくわかった。どうにか起きようとするが思うように体が動かなかった。
すると、隣から声が聞こえてきた。
「あ、起きた?」
「・・・・・立花?」
どうにか頭だけ横に動かすと、そこにはベッドの上で読書をしている琥太郎の姿があった。琥太郎は入院着を着ている。よく見ると晴翔も同じものを着ていた事から、自分達が病院に入院している事に気付いた。
「俺は・・・・・・。」
思考がうまく働かない。
晴翔は自分の記憶を遡って状況を理解しようとするがうまくいかなかった。
「今は7月14日の午前8時だよ。僕は一昨日の夜に起きたけど、神宮君はもう2日近く寝てたんだよ?」
「そんなにか?」
どうりで全身が怠い訳だ、と納得しつつ、そんなに眠っていた事に驚いた。
「どうりでボーとする訳だな・・・・。」
「そうだ、みんなにも知らせないと――――――!」
「・・・・・みんな?」
誰の事を言っているのか晴翔には分からなかった。
琥太郎は枕元からスパートフォンらしき物を取り出し、画面を1回タッチしてPSを展開させた。
「――――――――ハァ!?」
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――東京 天雲家――
場所は変わって勇吾達の家――――――
「そうか、これで全員が目を覚ました訳だな。」
『うん。まだ体が怠いみたいだけど、とりあえずは大丈夫みたい!』
「それは当然だな。俺達の見立てでも大事をとって今週一杯は入院していた方がいいだろうな。」
『医者もそう言ってたから、退院は早くても日曜日になるみたい。』
「そうか。」
勇吾は通信用PSを通して琥太郎と通話していた。琥太郎はスマートフォン型のPS端末機を大分使いこなすようになっていた。と言っても、勇吾が使っている物と比べれば大分機能が限定された―――スマフォでいうらくらく〇ンみたいな―――使いやすさ優先の簡易型ではあるが。
アンドラスを倒したあの直後、勇吾達は―――黒王とライはすぐに人型になって―――琥太郎達を病院へと運んだ。正確に言えば、人数が十人以上いたので人目がつかない様に隠蔽魔法を使いながら大病院の敷地内に瞬間移動して移動した。
当然、病院側は十人以上の急患に大慌てで動き回り、事件性を疑った職員の通報で家族だけでなく警察まで集合する事となった。勇吾はとりあえず慎哉だけは急いで家に―――瞬間移動で強制的に―――帰宅させ、警察には黒王とライとの3人で対応する事にした。
警察側は運び込まれた患者が捜査中の惨殺事件の参考人であり、つい先ほど起きた同時多発放火殺人未遂事件の被害者家族だったのですぐに関係を疑い勇吾達に事情聴取を行った。聴取に関しては勇吾と黒王は兄弟、ライは黒王の友人と言う設定で進めていき、路地裏でたまたま見つけただの、異臭がしただのとそれらしい事を言ったりして誤魔化した。細かい所はライの自称神のスキルを使っていろいろ現場を捏造したりした。
多少は疑われたものの、琥太郎達に目立った外傷も―――黒王が粗方治癒したので―――ほとんどなく、現場とされる路地裏にはプロが作ったと思われる毒物発生装置が発見されたので最終的に信用されて解放された。
その後、日没が過ぎた辺りで最初に琥太郎が目覚め、それを期に他の少年少女達も順に目を覚ましていった。琥太郎以外は目覚めた直後はかなり混乱していたが、今は大分落ち着いている。
彼らの多くは記憶の一部に問題が見られ、アンドラスと接触して以降の記憶が曖昧なものとなっていた。医師達は毒物による後遺症と診断したため、さほど疑問視される事はなかった。
勇吾達もその日はすぐに病院を去り、遅くまで事後処理を行い帰宅した。ただし、隙をついて深夜に何かをした者もいたが。
翌朝、家族や警察がいない隙をついて琥太郎の病室に侵入し、勇吾達の書いた筋書きを話しておいた。後は連絡手段としてPS端末機を渡し、使い方を簡潔に説明して病室を出ていった。
「じゃあ、午後にでもそっちに行こう。さすがに、平日の午前中に中学生
(に見える少年)が見舞いに行けば警察に捕まりかれないからな。」
『うん、わかった。』
「ああ、それと晴翔には知ってる範囲で事情を説明しておいてほしい。そいつは全部覚えてるだろうからな。」
『え・・・・・?』
「頼んだぞ。」
『う、うん・・・!』
通話を切り、PSを閉じる。
琥太郎達を治療した際、勇吾は黒王から戦闘中、琥太郎がステータス画面が見えていた事を知らされた。本来、ステータス画面はPSとは異なる。前者は純粋な魔法であるため魔力が扱える者にしか見えないのに対し、後者は科学技術も使用しているので設定すれば誰にでも見える。
本来なら見えない筈の物が見えた事に勇吾は驚いたが、黒王は既にその理由に至っていた。それによると、琥太郎は勇吾達と最初に会ったあの時点で覚醒しかかっていたらしい。それを聞き、勇吾も同じ答えに至った。
思春期に入った人間は、過度のストレスなどが影響して魔力が扱えるようになる事がある。いわゆる超能力者の多くはこのケースに当てはまる。琥太郎の場合、イジメのストレスとアンドラスとの接触が重なった事で覚醒しかけたらしい。ただ、最初に会った時点では本当に微妙な状態だった為勇吾は気づく事ができず、気づいた黒王もどうなるか微妙だった為黙っていたのだ。
晴翔にも同じ症状が見られた。おそらくは、あの闇の空間でのストレスと、元々の体質が重なった結果だろうと結論づけた。
「それにしても、またやってくれたな、ライ!」
「いや~~、どうせなら完全に覚醒した方が安全だろ?それに、面白くなりそうだし!」
「そんな理由で魔法を強制インストールするな!ったく、いつもの事とはいえ、大国主達には同情するよ!」
「あ、ウズメはしなくていいぜ?」
「知ってる!!」
そんな2人の様子をソファーに座って見ていた黒王は苦笑しつつ、テレビに視線を戻した。そこでは、昨日の事が報道されていた。
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――病院――
「ゴメン。」
事情を説明された後、最初に晴翔が言ったのは謝罪の言葉だった。一昨日までの彼を知る者が見れば、別人なのではと疑ったに違いない。だが、琥太郎にはそれが紛れもなく晴翔自身の本心であると確信できた。
その後、晴翔は憑き物が落ちたかのように自身の事を語り始めた。家族のこと、受験での挫折のこと、そしてイジメを始めた理由と後悔などを全て話していった。その内容に琥太郎は驚愕し、自分がどれだけ無知だったのか思い知らされた。
(本当に黒の想像通りだったなんて・・・・・。)
黒王の慧眼ぶりにも改めて驚かされた。
そして、今度は琥太郎も自分の事を話してゆき、次第に心を通わせていった。一時間も経つとお互いに笑いあえるようにまでなった。
「―――――ねえ晴翔君、僕と友達になろう。そして一緒にやり直そう!」
「――――――ああ。」
一瞬驚いた様子だったものの、晴翔はすぐに返事を返す。
琥太郎が言ったこの言葉がきっかけとなり、2人は本当の意味で立ち上がれるようになったのだった。
その後、病院食を食べながら病室のテレビを見ていると自分達の関係するあの事件について報道されていた。
それによると、事件は全て同一犯によるものと警察は判断して捜査を継続しているとのこと。死者に関しては最初の惨殺以降は出ていないと報じられていた。だが、あくまで死者が出ていないだけで被害者の数そのものはたった1日でかなりの数に至っていた。
アンドラスとの戦闘があったあの日、桜ヶ丘では様々な事件が連続して起きていた。1つ目は同時多発的に発生した放火殺人未遂である。狙われたのは晴翔の実家を含めたイジメっ子達の家で、どの家もあっという間に火の手が広がり全焼した。この時、通りすがりの人達のお蔭で全焼する前に中にいた住人は救出され、重傷者がいたものの死者は出ずに済んだ。
2つ目はバードアタック事件である。本来のバードアタックは飛行機のエンジンに鳥が入り込むなどで起きる事故と事を指すが、今回は飛行機ではなく、走行中の自動車に烏や鳩が群で衝突してきたのである。突然の出来事に慌てた運転手達が急停止するのも間に合わず、他の車両と衝突したり車道を外れて歩道に突っ込むなどの事故が桜ヶ丘や都内各所で発生したのである。そして、その運転手の中には晴翔の母親も含まれていた。
3つ目は都内各所で発生した傷害や暴行、殺人未遂事件である。昨日まで普通だった人が突然豹変し、衝動的に知人や職場の関係者などに襲い掛かった事件だった。しかも、事件が起きた場所は普通の住宅街や繁華街だけでなく、官庁街でも発生していた。犯人の多くは突然被害者に対して普段溜め込んでいた不満が突然爆発してしまったと供述していた。そして犯人や被害者の多くは桜ヶ丘市の住人やその関係者ばかりで、琥太郎達の知っている人物も含まれ、何より晴翔の兄も含まれていた。なお、この事件に関しては最初に発生したのは3日前からと報じられ、他の事件との関係は慎重に捜査されているらしい。
「―――――嘘だろ・・・親父だけじゃなく他も・・・・・!?」
「勇吾達から聞いたけど、全部あのアンドラスって言うソロモンの悪魔が僕に接触する前からやったみたいなんだ。」
「じゃあ、お前も俺らもマジで関係なく狙われてたわけか・・・・。」
もういないとは言え、アンドラスと言う悪魔の無差別ぶりに改めて畏怖する2人だった。
最も、彼ら以上に恐れているのは彼らの通う桜田中央高校の他の生徒達である。1日で大勢の生徒が事件に襲われて病院送りになった事は相当なショックになっているはずである。犯人はもうこの世にいないが、そんな事など知らない者達にとってはまだ事件が終わっていないのである。生徒も教師、そして保護者達も最早存在しないモノへの恐怖に未だ縛られているのである。
「―――にしても、いろいろありすぎてまだ頭がイテエよ。」
「ハハハ、魔法とかもあったしね。それにあのステータス画面みたいな・・・・エッ!?」
「ハッ!?」
晴翔の方を向きながら他意もなく『ステータス』と口に出した直後、琥太郎と晴翔の視界にそのステータス画面が展開された。
【名前】神宮 晴翔
【年齢】16 【種族】人間
【職業】高校生(1年) 【クラス】覚醒者
【属性】メイン:雷 サブ:空 風 土 火 水 氷
【魔力】7,800/7,800
【状態】倦怠感(弱)
【能力】攻撃魔法(Lv4) 防御魔法(Lv4) 補助魔法(LV2) 特殊魔法(Lv3) 雷術(Lv1)
【加護・補正】魔法耐性(Lv3) 雷神の加護
【開示設定】ON
「「・・・・・・・・。」」
もし、ここに慎哉がいたら第一声は「チートじゃん!」だったに違いない。しかし、ステータスの意味を知らない2人にとっては不可思議な現象でしかなかった。
「え――と・・・・・・。」
「・・・・ゲームかよ!?」
「・・・・確か慎哉がアンドラスを調べてた時に出てたのと同じ・・・ものだと思うけど。」
「じゃあ何か?これは俺のステータスってことなのか?」
「多分・・・・。何で出たのか分からないけど―――――。」
まさか神様に魔改造(笑)されていたと想像できる訳もなく、いよいよ混乱してきた。
「・・・・まさか、俺がお前にステータスって言った・・・・・ら!?」
今度は琥太郎のステータスが展開された。
【名前】立花 琥太郎
【年齢】15 【種族】人間
【職業】高校生(1年) 【クラス】覚醒者
【属性】メイン:風 サブ:光 雷
【魔力】4,100/4,100
【状態】正常
【能力】風術(Lv3) 光術(Lv2) 雷術(Lv1) 剣術(Lv4) 天翔丸
【加護・補正】魔法耐性(Lv2) 刀剣神の加護 剣士の瞳
【開示設定】ON
一般平均と比較すれば異常に分類されるだろうが、当然今の彼らに理解できる訳がない。
「――――わかるか?」
「全然・・・・。」
どうすればいいのか分からない琥太郎と晴翔。神の悪戯という、まさにその言葉通りの理由により、2人もまた新しい日常へと踏み込んでいったのだった。
その後、勇吾達が来るまでの間、2人はステータスをいじりながら色々検証していく。そして2人から事情を聞いた勇吾はライを追いかけ殴り倒し、慎哉は大はしゃぎするのだがそれは別の話である。
アンドラス編 完
・次回からはようやく幼馴染達が本格的に動き出します。勇吾も冒険者らしい(?)仕事をやり始めます。
・感想お待ちしています。




