第286話 優勢
――京都市(冬弥サイド)――
魂が引き裂かれそうな痛みから解放されたと思ったら、今度は怪獣軍団とのバトルになり、俺や兄貴の体力は限界に達しようとしていた。
コレ、いくらなんでも無茶苦茶だろ!?
次から次へと怪獣があふれ出てきて、倒しても倒してもキリがない!!
『―――って、今度は空の方がおかしいぞ!?』
『どうしたんだよ兄・・・っ何だ!?』
足で怪獣の一体を押さえ込みながら、俺は空を見上げて唖然とする。
何だよあれ、凄くヤバそうな力が空に広がっている・・・!?
『ギャオオオオオオオオオオオオ!!』
『冬弥!!』
『あ、しまっ・・・・!』
横から別の怪獣が毒々しい牙を剥きながら襲い掛かってくるのに、俺は対応するのが遅れてしまった。
ヤバい・・・!
「―――《錦秋の陣》!」
『え?』
『ギャウンッ!?』
突然、鮮やかな光が俺の周りを包み込み、怪獣はその光に弾かれて吹っ飛んでしまった。
「間に合ってよかったです。」
『あ――――!』
そして俺の目の前に、数時間前に会ったばかりの1柱の女神が舞い降りてきた。
綺麗な茜色を身に纏った女神、秋の女神の竜田姫だった。
『竜――――』
「紅葉です。昼間の感謝の意味も兼ね、私は皆様に加勢致します。他の方々も、現世を守る為に加勢してくださるようです。」
『“他の方々”・・・?』
「はい。」
そして次の瞬間、俺達の目の前には何柱もの神々が降臨する光景が広がった。
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――京都府上空(勇吾サイド)――
俺達の前に現れた少年は、自らを『黎明の王国』の者だと宣言した。
『六星守護臣』の意味はまだ分からないが、おそらくは幹部を意味する単語だろう。
少年―――いや、外見は少年だがおそらくは俺の何倍もの時を生きているであろう目の前の男は、ニッコリと笑みを浮かべるとポン!と合掌のポーズをとる。
そして――――
「《世界を照らす聖光波》!!」
合掌した両手を開いた瞬間、眩い金色の光の波動が世界に放たれた。
そして、シャルロネーアの体から出続けていた《盟主》の力が一瞬にして消滅した。
それどころか、さっきまで無限に産まれ続けていた魔物が、ピタッと生まれなくなっていた。
『そんな―――――!?』
「ふう、これで最悪の事態は回避されたよ。さあ、後は君達の仕事だ。」
そう言って、少年の姿をした男は俺達の前から姿を消した。
色々考えたいところだが、今は目の前のシャルロネーアが先だ!
『良則!!』
『うん!!』
『調子に乗らないで!!《黒き斬撃の暴嵐》!!《混沌の息吹》!!』
シャルロネーアは混乱しつつも音速移動をしながら攻撃を再開するが、心が乱れた攻撃など俺達に効く訳がない!
『『おおおおおおおおお!!』』
猛攻!とにかく猛攻!!
俺達は口からブレスをとにかく連射していく。
属性融合された高密度魔力のブレスはシャルロネーアの体をどんどん抉っていく。
魔力をケチる必要などない。
ありったけの力を奴にぶつけてやる!
『―――――っ!』
俺達の猛攻の前にシャルロネーアは逃げ場を失い、俺が攻撃しながら増やしていた《闇分身》と、良則の《光分身》に包囲された。
焦りを浮かべるシャルロネーアに対し、俺達は一斉に大技を放とうとする。
だがその瞬間、奴は怪しい笑みを浮かべた。
『フフフ、隙だらけよ?』
『なっ――――』
分身達が一瞬で全滅した。
俺には何が起きたのか全く見えず、気付いた時には全ての分身が黒い大蛇に喰いちぎられていた。
『―――さようなら、坊や♪』
『勇吾!!』
次の瞬間、俺の目に映ったのは、複数の黒い大蛇に四肢を喰いちぎられた良則の姿だった。
『―――これが現実よ♪』
『良則ィィィィィィ!!!』
俺は悲鳴に近い声を上げながら良則に近づく――――フリをし、すぐに真横の空間を容赦なく斬る。
『え?な・・・何故・・・・!?』
『俺の心の闇を刺激したつもりだったんだろうが、同じ手は何度も通じはしねえよ!』
そして周囲の景色は歪み、真の姿を現した。
四肢を喰いちぎられた良則も、怪しい笑みを浮かべたシャルロネーアは藍色の霧となって消えていった。
替わりに、俺の真横には腹を横一線に斬られた本物のシャルロネーアの姿があった。
『お前の最も得意とする魔法は《幻影魔法》、そして《精神魔法》だ。並の達人でさえも現実と区別がつかなくなる幻を見せ、それを本物として認識させる。8年前も、お前はそうやって俺を騙していた。』
『き・・・気付いて・・・・たの・・!?』
『そうだ。《神龍之魂縛聖牢》!!』
『ギャアッ―――!?』
俺は《神龍術》を使ってシャルロネーア本体を拘束する。
丁度その直後、シャルロネーアの体に異変が起きる。
奴の体内の魔力が大きく乱れ、数秒ほど姿がブレたと思ったら、4つに分裂した。
「そ、そんな!?」
『グルルルルルルルルゥゥゥゥ・・・・・・』
『アアアアアアアアアア!!!』
『――――何?』
外見から判断して、シャルロネーア、ヴリトラ、ティアマト、カスピエルだろう。
この現象はおそらく・・・
「ヤホ~!解析完了したぴょ~ん!最古級の龍王あ~んど、外野から参戦の神様の解析はしんどかったよ~ん!」
『マイド~!』
バカコンビは無視する。
俺は、いや、俺達はシャルロネーア達に止めの攻撃を放つ。
『うおおおおお!!《神滅之白光龍皇閃拳!!》』
良則はシャルロネーアの遥か上空から流星群の如き閃拳を放つ。
《神眼》、《精神耐性(Lv5)》、《超直感》を持つ良則には奴の精神系の攻撃は一切効かず、逆に《光術》等を行使することで蜃気楼に似た幻を作って欺き、最大技を出せる位置まで移動していたのだ。
そして俺もまた、奴が拘束されて動けない間に十分な力を溜め込んだ新生・布都御魂剣(仮称)でシャルロネーア達に止めを刺す。
『《黒之羽々斬》!!』
溜め込まれた魔力により黒く巨大化した新生・布都御魂剣(仮称)を横に振るう。
そして同時に良則の攻撃がシャルロネーア達に直撃し、夜空を一瞬で昼間のように明るく照らす大爆発が起きた。
この時、俺はすぐには気付かなかったが、俺が新生・布都御魂剣をを振るった瞬間、その唯でさえ巨大化した刀身はどっかの巨大レーザーブレードのように全長数十kmにまで伸びていた。
『ギィヤアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」
『グルォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!』
『ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
シャルロネーア達の断末魔が世界に響き渡る。
本体を横一線に斬られ、同時に光の流星群の直撃による大爆発に飲み込まれた奴らは真っ白に染まった世界の中に溶けるように消えていく。
最初に消滅したのは堕天使カスピエル、『皇帝』と称された堕天使は漆黒の翼と共に光の中に消えていった。
それに続いてシャルロネーアと2体の龍も消滅しようとしていた。
だが、その中で『魔龍王』ヴリトラは絶叫しながらも俺に対して牙を剥いた。
『グルァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!』
『――――!』
流石は何度も生と死を繰り返す古き龍王、この状況でも狂ったように俺に襲い掛かってくる。
俺はすぐに返り討ちにしようと構えるが、それは無駄に終わった。
「ハイハ~イ!飛び込みさん1名デ~ス!」
『1名さん、御案ナ~イ♪』
俺とヴリトラの間に巨大な穴が出現した。
『あ!』
『グルォッ!?』
ヴリトラは穴の中に自分から飛び込む形となり、為す術も無くこの世界から退場した。
横に視線を向けると、バカコンビがハンカチや旗を振りながら「バイバ~イ♪」と声を上げている。
一瞬、ヴリトラが凄く不憫に思えてしまったが、すぐに首を横に振って気にしないことにした。
そして残ったシャルロネーアとティアマトの方へと視線を戻した―――その時だった!
―――――ハハハ、随分とやってくれたねえ?
突如、聞き覚えのある不快な声とともに巨大な手が俺達の真上に出現した。




