表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第13章 神殺し編
296/477

第283話 真の契約

 気付けば、そこには黒龍の姿をした黒がいた。


 まるで最初からそこにいたかのように。



『“まるで”ではなく、俺は最初からここにいた。この、幽世(・・)に。」


「幽世!?」



 それは神の領域を意味する単語だった。


 ここが幽世?



「じゃなきゃ、死んだ俺が愛息子とタイミングよく再会なんてできないだろ?」


「た、確かにそうだけど・・・え?」



 父さんの方を振り向くと、父さんの隣には平安装束に似た格好をした男が立っていた。


 その男からは神気が放たれ、すぐに神だと気付く事が出来た。



「ああ、隣にいるのは俺が生前契約していた神、日本の軍神の1柱、経津主神(フツヌシ)だよ。一応、お前が涎を垂らしていた時にも会わせた事があったんだけどな?やっぱ覚えてないか。」


「―――――!!」



 有名な軍神だった。


 日本神話の中で建御雷神と共に語られる日本を平定した軍神、刀剣や武芸の神格を持つ有名な神だ。


 父さんが昔、丈の父親に巻き込まれて戦っていたのは知っていたが、まさか契約をしていたなんて・・・って、3柱の神と契約している俺が言う事でもないか。


 お祖父ちゃんも“あの神”と契約しているし。



「――――あ!そういえば、父さんは何で俺のことに詳しかったんだ?守護霊だった訳でもないのに。」


「ああ、それはそこにあるお前の剣の中に入っていたからだ。」



 父さんの指差した先には、意識を失う直前に落としてしまった布都御魂剣が宙に浮かんでいた。


 そして布都御魂剣の前には小さな巫女姿の少女が不機嫌そうな顔をして立っていた。



「ふ、布都御・・・」


「このタワケェ!!」


「グホッ!?」



 俺はドロップキックをもろに受けた。


 この黒髪の少女、彼女は俺の神器に宿る“神”、布都御魂大神だ。


 その彼女はすごく怒っている。



「このヘタレめ!!あれ以上ウジウジしておったら、妾がお主を殺しておったところじゃ!!」


「す、すまない・・・!後で詫びをする。」


「うむ!妾はは最近話題の『デカ盛りスイーツ』を所望するぞ!」



 けどすぐに良くなった。


 彼女は現世の食事を必要とはしないが、基本的に無類のスイーツ好きで偶に供物(・・)を要求してくる。



「ああ、彼女にもこっそり協力してもらった。結構快適だったな♪」



 父さんは笑いながら話していく。


 どうやら生前の契約により、経津主神が力添えしたようだ。


 今まで現れなかったのは、死者が軽々しく現世に関わるのを禁じられていたからだった。


 直接会うのは一度限り、つまり今だけということだ。


 そして終われば、今度こそ成仏する。



「それについては何も言うな。俺は自分の子供の成長を見る事ができたから十分満足だよ。」



 それは嘘だ。


 根拠は無いが、それだけは分かる。



「それよりも、さっきから相棒が待ちくたびれているぞ?」


『待ちくたびれてはいない。』



 幽世は現世とは異なる理が働いているから時間は気にするなと言いたいのだろう。


 けど父さんは一歩下がって俺を黒の方に視線を送ったので、俺も黒の方を向き、黒の話を聞き始める。



『―――先に言ったとおり、勇吾、お前との間に真の契約を結ぶ。』

「前にも聞いたが、“真の”というのはどういう意味だ?従来の契約とは違うのか?それとも、今までの契約は仮契約だったということか?」


『――――後者だ。5年前、当時のお前では俺との契約はリスクが大きすぎた。俺の方から契約を結ぶと確約した為、後のお前の成長に懸け、俺は一部の制限を付けて契約を結んだ。お前も薄々気づいているだろう。お前の知っている俺の姿は、“本当”の姿ではないということを。」


「それは・・・。」


『あの頃の・・・先程までのお前では俺の闇の力を受け止める事はできなかった。だが今、お前が過去の呪縛を浄化(・・)したことにより、その制約も消える。真の契約とはそういう事だ。ようやく乗り越えられたな、勇吾。』



 黒の眼差しは今までになく力強く、同時に今までで一番温かみのあるものだった。


 そして何時の間にか俺の体を暖かい光が包み込み、体の奥底から力が漲ってきた。



『――――完了した。』


「終わったようだな。さてと、そろそろお別れだな。」


「父さん・・・」


「そんな顔をするな。お前は父さんがいなくても大丈夫だ。自信を持って行ってこい!ああ、これも持っていけ!」



 父さんは何かを投げ、俺がそれを受け取る。


 それは、束だけでも相当な長さを誇る剣だった。



「これって、父さんの『十握剣(トツカノツルギ)』!!」


「そうだ。神代の時代、元は1本だったのが複数に分かれたしまった神剣の一振り、そこにいる彼女、『布都御魂剣』や、『天羽々斬剣(アメノハバキリノツルギ)』の兄弟剣、名を『神度剣(カムドノツルギ)』だ。これをお前に託す。今のお前なら、この剣も使いこなせる筈だ!』


「・・・父さん、ありがとう!」



 俺は受け取った神度剣の柄を握り締めると、新たな主を認めるかのように神度剣は神々しい光を放った。



「――――来い!布都御魂!」


「うむ!イイ顔つきになったようじゃな。妾の同胞も・・・いや、勇吾よ、次は『神殺しの(つるぎ)』である妾に恥をかかせぬ戦いをするのじゃ!」


「ああ!!」



 布都御魂もやる気十分のようだ。


 俺の手には布都御魂剣と神度剣、二振りの神剣が握られている。


 力が、気合が漲ってくる。


 あの日に失った熱いものが胸の奥から奔流となって押し寄せてくるのが感じられる。



「―――ああ、そうそう!これ以上、お前に誤解されない様に教えておくか。」


「何?」」


「お前は8年前のあの時―――――」



 そして父さんは、8年間ほとんど誰も気付かなかった真実を語り始めた。




「――――父さん、行ってくる!」


「ああ、行って来い!」



 全ての話を聞き終え、俺は二振りの剣を手に黒と共に幽世を発とうとする。


 次に会うのは俺が天寿を全うした時、いや、その時にはもう父さんは輪廻の流れに乗って転生しているのかもしれない。


 今度こそ本当に今生の別れになるんだろう。


 だけど、俺にはもう後悔は無い。



「黒!」


『――――オウ!』



 俺はその後は一度も後ろを振り返らなかった。


 父さんに見送られながら、俺と黒は目の前を一直線に向かって進んでいき、現世へと戻っていった。





--------------------------


――京都市――


 シャルロネーアはホロケウカムイだけを見つめながら“支配”の力を発動させた。


 既に彼女には勇吾の事など興味が無く、微塵も注意を向けていなかった。



『フフフ――――《混沌之絶対支配(アブソリュート・ルーラー)》♪』



 混沌の神より授かった力を元に創作した力を発動させる。


 《魂縛の魔眼》と《混沌の神毒(アポフィス・ポイズン)》により一時的に動きを封じ、能力を低下させた上で隙を作る。


 その隙を突いて《混沌之絶対支配(アブソリュート・ルーラー)》で支配する。


 この方法により、インドラやシヴァのような天空系の神や大物主のような蛇神系、闇御津波神や八大龍王のような龍神や龍族はほぼ確実に支配される。


 この力の大元、闇と混沌を司り、太陽神などの天の神の敵である蛇神、『混沌王』アポフィスの力があるからこそ成す事が出来る神の御業に等しい行為だった。


 そしてその力が今、今度はアイヌの古き狼神にも使われた。



『―――――え?』


『・・・・・・。』



 使われたはずだった。


 だが、ホロケウカムイは先に受けた毒の影響で体を僅かに(・・・)痙攣させてはいたが、シャルロネーアに支配はされていなかった。


 それどころか、1秒単位で時間が経過する毎にホロケウカムイからは痙攣が治まっていき、纏っているオーラも力強さを増していった。



『・・・やはり、想定外の神格には効果が無―――』


『「シャル様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」』


『――――!』



 状況を推測しようとするシャルロネーアの声を遮るように、1組の悲鳴が急接近してきた。


 そしてその直後、その悲鳴の主はシャルロネーアの目の前で巨大なブレスに飲み込まれていった。



『「アアアアアアアアアア・・・・・・・・・」』



 並の龍族のそれとは比較にならなうほど高密度なブレスに飲み込まれ、その男は消滅していった。



『何故・・・?』



 驚愕により、シャルロネーアの思考に僅かに乱れが生じた。


 今消滅したのは、シャルロネーアが今回の実験のために用意した戦闘員の1人、上級悪魔と契約し悪魔武装化も使える中堅レベルの戦闘員だった。


 その男が龍のブレスで消滅した事自体には彼女は何も驚いていなかった。


 彼女が驚いたのは、男を消滅させたブレスを放った存在だった。


 彼女の計画通りでならまず有り得ない、“彼ら”が自分の支配を看破して自分達に牙を向くなど想定外だった。


 だが、事実は確かに目の前に存在していた。




『『『よくも我らを愚弄してくれたな?』』』




 八大龍王は怒りを露にしてシャルロネーアを何時の間にか囲んでいた。


 その目は他者に支配されたものではなく、自らの意思で動いているものの目だった。



『《混沌之絶対支配(アブソリュート・ルーラー)》が破られた?』



 試作型の検証段階とはいえ、特定の神に対して絶対的な支配力を持つ《混沌之絶対支配(アブソリュート・ルーラー)》が破られた事に、その瞬間、彼女は間違いなく動揺していた。


 そしてそれは、()が戻ってきた直後でもあった。



「《黒龍双斬撃》!!」


『―――――ッ!?』



 予想外の不意打ちを受け、シャルロネーアの背中から生えていた翼は切り落とされる。


 そして僅かに遅れ、背中から鮮血が噴き出した(・・・・・・・・)



『うっ――――!!』


「俺を舐め過ぎだ!シャルロネーア!!」



 シャルロネーアが慌てて振り向くと、そこには怪我1つ無い姿の勇吾が二振りの神剣を構えていた。



(――――ッこれは!!何が起きたの!?)



 その姿を見て、勇吾がほんのつい先ほどとはまるで別人のように変わっている事に気付く。


 常人よりも長い時を生き多くの経験を蓄えているが故に、彼女は勇吾に対して初めて言葉にできぬ恐怖を抱いたのだ。


 そして、勇吾達の反撃が始まった。






・神度剣:十握剣(十束剣)の1つに数えられる剣。大国主の息子のアヂスキタカヒコネが持っていた剣。別名:大量剣。


・十握剣はしばしば1本だけだったり、複数あったりと解釈されますが、本作ではものもと1本だったのが複数に分かれたという設定になります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ