第26話 決着
・3連休最後の日なので本日3話目の投稿です。
時は遡り、黒王が琥太郎と合流し晴翔達の捜索に当たっていた頃、勇吾と慎哉は悪魔の軍勢と戦い続けていた。
「《吹雪の群狼》!!」
慎哉の周りに雪と氷でできた狼の群れが現れ、空中を駆けながら空を飛ぶ悪魔に襲い掛かる。悪魔達は硬化させた羽を弾丸のように放ったり、口から炎や電撃を吐いて応戦する。
多くの狼が悪魔の攻撃で粉砕するが、何体かは攻撃を掻い潜って数体の悪魔に衝突し、直撃した悪魔は体の表面が凍り付き、飛行する事ができなくなり墜落した。
「《氷結の爪撃》!!」
墜落した所を冷気を纏わせた爪で切り裂く。切られた悪魔は全体が凍り付き、粉々に砕け散った。
慎哉は焦らず確実に悪魔の数を減らしていく。今の慎哉は勇吾と黒王の容赦ない修行の甲斐もあり、下級悪魔とも戦えるレベルにまで成長していた。
『グ……《竜巻の連弾》!!』
アンドラスは小型の竜巻を連射して地面を蜂の巣にしていく。
勇吾は攻撃の隙間をかいくぐり、動きを加速させながらアンドラスを攪乱
していく。
「《ファイヤーアロー》!《ダークアロー》!」
「小賢しい!《斬撃の嵐》!!」
勇吾から火と闇の矢が数十本放たれ、アンドラスは剣から黒い暴風と斬撃を同時に放ち、目の前にある物全てを吹き飛ばした。
瓦礫や埃が宙を舞い、その中に人の影も気配もなく、アンドラスの目の前には無惨に破壊された大地しか残らなかった。
『ギャハハハハハ!!バカな奴だ!人間のガキごときが俺に勝てる訳ないだろうが!だが、久しぶりに本気で楽しませたのには感謝してるぜ?って、もう聞こえてねえよなぁ!』
アンドラスは勝利を確信し、異空間全体に響くかのような歓喜の声をあげた。
まだ生き残っていた配下の悪魔達も攻撃を止め、主の声に呼応して声をあげていった。
「嘘だろ……!?」
遠くからその光景を目にした慎哉は、一瞬、最悪の状況を考えてしまう。だが、それは取り越し苦労に終わってしまった。
「《断空斬》!!」
『――――――――ッガ!?』
声と共にアンドラスの右腕と右翼が切断された。
『ガギャァァァァァ―――――――――――!!!』
歓喜の顔は一瞬にして苦痛に一変し、アンドラスは激痛に耐えながら自分を斬った相手の方へ振り向く。そこには、黒衣を纏い、身の丈を越える大剣を持った勇吾の姿があった。
『貴様ぁぁ、さっきのは幻術かぁ・・・・!?』
「そうだ。もう終わりだアンドラス!」
ガチャ・・・
金属音と共に、アンドラスの体は布都御魂剣から伸びた鎖に縛られていた。
『グオォォォォ――――――!!』
アンドラスは鎖を引きちぎろうとするが、《封印》の効果を持つ鎖はしっかりとアンドラスを拘束し続ける。
『アンドラス様!!』
下級悪魔の1体が声をあげ、怒りの形相で勇吾に襲いかかろうと飛び出す。他の悪魔達もそれに続くように飛んでいき、慎哉はポツンとその場に残された。
勇吾は自分に向かって飛んでくる悪魔達を確認すると、布都御魂剣を天に
向かって掲げて叫んだ。
「――――――――雷火!!」
ドゴォ――――――ン!
直後、轟音と共に何本もの稲妻が悪魔達に降り注いだ。
『『ギャアァァァァ――――――!!』』
『貴様ぁぁ!!』
蒼い稲妻はアンドラスの兵達を一体も残さず焼き払っていき、残された悪魔はアンドラスのみとなった。
稲妻が止むと、空から暢気な声が聞こえてきた。
『ハッハッハ!やっと呼んでくれたなマイフレンド!ライ様、ここに参上―――――!』
「ライ・・・・・。」
『い、異邦の神だと!?』
現れた存在にアンドラスは焦りを含んだ声で驚愕した。
空に現れたのは蒼い巨鳥だった。より詳しく言うなら雷光を纏った蒼い―――鶴の頭をした―――雉であった。
「マジかよ!あれがライ!?」
『おうよ!どうだ慎哉、俺のカッコいい登場シーンは?』
アンドラスとは別の意味で驚愕する慎哉に、ライは暢気に自分をアピールする。
「……ライ、いいからやるぞ!」
『――――!?』
『OK!じゃあ、いつもの詠唱いってみよう!』
ライに対し、少し不機嫌になりながらも、勇吾は詠唱を始めた。
「――――舞い降りし蒼翼の天神、契約の元、邪を焼き付くす雷火を我が身と我が剣に宿せ!世に仇なす敵を祓う神雷を我に貸せ!!」
詠唱を唱えた直後、ライの全身から蒼い雷光が放たれ、一本の稲妻が布都御魂剣に落ち、勇吾の全身を雷光が包み込んでいった。
「――――――《雷装》!」
『バ……馬鹿な―――――――!?』
全身に雷を纏い、すべてが黒かっら装備の色が蒼へと変色する。
雷光と共に勇吾から魔力が放出され、その凄まじさに拘束されたアンドラスは圧倒され、戦いが始まって初めて恐怖に染まった。
普通の人間から見ればただの青い雷光を纏っているだけだったが、アンドラスのような悪魔には人間が神の力を、それも悪魔すら滅ぼせるほどの力を宿しているのが一目でわかる光景だった。
「終わりだ!」
『―――――ッ!!ふざけるな!!』
アンドラスは自身に残った魔力を半ば暴走する勢いで放出して鎖の封印を無理やり破ろうとする。手負いとはいえ、爵位級悪魔の魔力はその質と量ともに凄まじく、その勢いに布都御魂剣の封印でも完全には抑えきれないのか黒い暴風が吹き荒れだした。
『オオオオオオォォォォォォォォ――――――!!舐めるな人間がぁぁぁぁぁぁ――――――!!!!』
「―――――しぶとい!」
勇吾はアンドラスの最後とも言える足掻きに動じることなく剣を強く握りしめ、その先に魔力を集中させる。剣先から放たれる雷光は周囲一帯を眩しいほど照らしていった。
そして勇吾がアンドラスに斬りかかろうと布都御魂剣を振り上げた時だった。
ゴオオォォ――――――――!!!!
アンドラスの真下、アンドラスから溢れ出していた黒い魔力でできた沼地から一本の無色の柱が付き出て来た。文字通り無色だった柱は勇吾の放つ雷光の中ではハッキリと視認できた。
『グギャァァァァァァァァァァァァ――――――――!!!!』
無色の柱が空の上まで貫いた直後、アンドラスは今までにないほどの苦痛の絶叫を上げた。口から赤黒い血を吐きだし、暴走し始めていた魔力の放出はその勢いを弱めだした。
そしてアンドラスが絶叫したのとほぼ同時に、柱の突き出した場所から黒い龍が両翼を大きく羽ばたかせて飛び出してきた。それが黒王であると確認すると、勇吾は笑みを浮かべながら視線を送った。
『―――――――全員助けた。やれ!!」
『―――――ガッ!?』
そして勇吾は布都御魂剣を大きく振った。
「《破邪雷霆》!!」
ドゴォォ――――――――――!!!
激しい雷が斬撃と共に嵐のように放たれ、アンドラスを一瞬で飲み込んだ。
轟音が異空間中に響き渡り、アンドラスの姿は雷の嵐の中で影になり、そしてすぐに跡形もなく消えていった。紀元前から数千年間、神話の世界で名を残し続けた地獄の大侯爵の最後だった。
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戦いが終わり、異空間の大地に広がっていた闇の沼地もアンドラスと共に消滅し、勇吾は黒王やライと共に地上に降りて慎哉と合流した。
『ハッハッハ――――!どうだ、俺と勇吾のコン―――――――』
『五月蠅い』
『―――ッタア~~~!』
暢気なライをゴンッと黒王が殴った。
「なあなあ、見たか俺のデビュー戦―――――!?」
「ハア……五月蠅いのが増えただけか……」
『……今更だな』
ライと慎哉のテンションを前にドッと疲れが出た勇吾はその場にへたり込んだ。黒王の背中からは琥太郎達が降ろされ、気を失っている十数人の少年少女達は適当に地面に寝かされた。
『――――――肉体の方の傷は粗方治した。だが、他は専門家に診せないと分からない』
「後遺症は確実だろうな。」
地面の上で眠っている少年少女達、そして琥太郎の背中で何時の間にか疲れて眠っている晴翔を見る。彼らは今回、望まずして悪魔や勇吾達と関わり、『縁』ができてしまった。
ここにいる慎哉がそうであるように、『縁』ができた以上は心身の何れかに何らかの後遺症が残るのは確実だった。
『おいおい、何ネガティブシンキングしてんだ?死人を増やさずに済んだんだから結果オーライじゃねえか!』
「――――って、お前何時から知ってたんだ?」
『ん?俺神様だぜ?日本国内の事なら神スキルで何所でも知り放題だぜ!何だったらお前の姉ちゃんのスリーサイ―――――』
『「黙れ!」』
黒王の拳骨が落ちた。
「――――――――神様?」
琥太郎が信じられないという顔でライの方を見る。
『おうよ!こう見えてもまだまだヤングな神様だぜ!ご利益は――――――』
『「言わなくていい!」』
また殴られる。
そう見ても神様らしくはないが、巨大な雉が喋っている時点でその類である事に間違いはなかった。または悪魔みたいな人間の敵の可能性もあるが。
「ま、何時もこんな感じだから気にしない方がいいぜ?」
「ハハハ・・・・そ・・・うす―――――――」
「って、おい!?」
『『「―――――――!」』』
慎哉の隣で様子を見ていた琥太郎は、突然糸が切れたようにその場に倒れそうになった所を慎哉に受け止められた。すぐに気付いた勇吾が駆け寄り、背負っていた晴翔を下して容体を確認していった。
『―――――命に係わる事はないが………』
「急いで病院に運ぶぞ!!」
勇吾はすぐに《スローワールド》を解除して現実世界に戻り、琥太郎達を病院へと運んで行った。
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――ヨーロッパ某所――
一方、アンドラスが勇吾によって倒された直後、早朝になったばかりのヨーロッパのある施設の中でパリンッとガラスが割れるような音が響き渡った。
照明をほとんど点けていない薄暗い部屋の中、小柄な人影が僅かに動き、クスクスと微笑する。その声は声変わり前の少年とも、若い女性とも取れる中世的なものだった。
「ハハハ、やられちゃったか――――――」
その人影、『幻魔師』と呼ばれる少年か少女か分からない人物は床の上に砕け散ったガラス人形を見下ろしながら呟いた。破片の多くは原型を保っていなかったが、その中にひとつだけ、どうにかフクロウの頭に見える破片が混じっていた。
「―――――日本ね……。僕の出番も意外と早いかもしれないな。ハハハ!」
散らばった破片に興味をなくし、幻魔師は笑いながら薄暗い闇の中に消えていった。
・次回、アンドラス編のエピローグです。思った以上に長くなっちゃいました。




