第274話 バカの全力?
――京都市 下鴨神社(賀茂御祖神社)――
勇吾達がインドラやシヴァ、大物主と戦っている様子は多くの神々も観ていた。
その中の1柱、京都の守護神である賀茂建角身命はお茶を飲みながら空を見上げていた。
「―――お前の言うとおり、しばらくは手を出さなくても良さそうだな。疾風?」
「はい。可能な限り、彼らだけの力で戦わせてあげてください。そうでなければこの先、彼らはきっと後悔することになります。」
「経験者は語るか。確かに、黒幕と戦うという事は神と戦うのと同義、軍神と破壊神とはいえ、全力以上の力を出せない相手で挫けていては先が思いやられていると云うもの。」
「ええ、私達は彼らが存分に戦えるように都の守護に徹するだけでいいでしょう。問題だった素戔嗚様の所も、奇稲田姫様達が(力ずくで)説得してくれたので大丈夫です。」
賀茂建角身命は「そうか。」と言うとまた一口茶を啜った。
彼らは今回の戦いに関しては基本的に参戦しないことにしていた。
当初、京都にいる神々はインドラとシヴァの襲撃に対して自らの手で倒そうとしていた。
相手は異教の最高神にして破壊神であるシヴァと神の軍の総司令官である軍神インドラ、暴れられれば京都の街は一溜りも無いのは明白だったので当然とも言える判断だった。
そこに最初に異を唱えたのは賀茂建角身命の末裔であり、神使である八咫烏の疾風だった。
勇吾達と面識のある彼は神々が出るのをしばらく待ってほしいと意見し、その意見は間接的に彼らと縁のある少彦名や建御雷、そして国之常立らの賛同もあって認められた。
「それにしても、帝釈天や大黒天だけでなく大物主まで操られているとはな。『蛇』の《盟主》達はまたもや我らと事を構えるつもりらしい。」
「・・・今回の事に手を貸したのは誰なのでしょう?」
「僅かに漂う匂いから察するに、アポフィスであろうな。彼奴は太陽神の天敵であり蛇神でもある。天空神の側面を持つインドラとシヴァにとってすれば、奴の力は劇薬も同然、自我を封じたり操る隙を作るのも容易かっただろうな。」
「そうなると、大物主様は同じ蛇神である面を利用されたのでしょうか?」
「おそらくな。《盟主》の大半は“蛇”と関係する神格が多い。他の蛇神達を支配するのもそう難しくはないだろうな。」
険しい表情を浮かべながら、賀茂建角身命は丁度自分達の真上で戦っている者達の姿を眺めた。
下鴨神社の上空では、《神龍武装化》した良則がトリシューラを振り回すシヴァと激しいバトルを繰り広げていた。
「―――飛鳥と護龍の血を引く子供か。既に神殺しをした事があるようだが、何処か力を抑えている節があるな。」
「・・・確かに。」
そして1柱と1人は地上から戦いの行く末を見届けていくのだった。
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――良則サイド――
シヴァとの戦いは熾烈だった。
シヴァの攻撃、主に雷撃はリサ達に防いでもらい、僕はアルビオンと神龍武装化をして攻撃に専念していった。
リーチの差は差ほど問題なかった。
近・中・遠距離と、シヴァは武器を巧みに使って対応するが、僕の場合は《閃拳》1つで全て対応できた。
けど、無尽蔵に近い魔力(神力)を持つシヴァのパワーの前に次第に押され始めていった。
『――――蠅ガ!』
「クッ――――!!」
機動力は僕の方が上なのに、まるで意味がないかのようにトリシューラで正確に僕を狙ってくる。
急所に当たりそうになったのも1度や2度じゃなく、リサがサポートしてくれなかったらかなり危なかった。
「このままだと・・・!!」
〈・・・全力を出せばいいだろう?〉
「出してるよ!」
何を言ってるんだアルビオン!?
最高神クラスの神様相手に全力を出さない訳がないじゃないか。
〈誤魔化すな。ここ半年、お前は俺の知る全力を出し切った事は無い。だからこそ、横浜での件ではカースの“端末”程度に苦戦した。〉
「それは・・・」
襲ってくるシヴァの拳を受け流し、懐に一撃を入れながら僕は言葉に詰まってしまう。
・・・確かにアルビオンの言うとおりなのかもしれない。
本当は心当たりが幾つもあった。
強敵と戦う時、全力以上の力を出さないといけない時、僕は無意識の内に力を抑えていた気がする。
それはアベルの時だったり、カースの時だったり、ウィルバーの時もそうだったのかもしれない。
同い年で実力も近い丈の戦いと比べれてみる。
うん、丈の方が僕より数段上に見える。
僕から見ても、丈はチートと思いたくなる時が何度もあるしね。
だとしたら、僕は何で全力を出せなくなったんだろう?
〈時期的に考えれば、お前が初めて神殺しを果たした頃に重なるな。〉
「――――!」
音速を越えるトリシューラの突きを避け、背後で大爆発が起きる。
僕は図星を突かれた気がして言葉を失ってしまう。
『神殺し』―――それはそのまま言葉どおりの意味で、神格を持った存在『神』を殺す所行を指す言葉だ。
僕は半年ほど前、春も中盤に差し掛かる頃に、こことは違う世界で1柱の神を殺した。
〈『夢の魔神』、あの世界の住民の夢を支配していた神を現に引きずり出し、当時のお前の持つ全ての力を出して倒滅した神だ。だが、勝利の代償かのようにお前の心に小さくも濃い黒点が生まれた。〉
「・・・。」
〈全力が怖くなったのだろ?〉
ナンディンの体内に衝撃を打ち込んで全身に激痛を与える。
痛みで暴れるナンディンから飛び降りたシヴァはトリシューラに熱帯を思わせる風を収束させていく。
〈神を殺せる自身の力に恐怖を感じたのだろ?何時か、自分の強すぎる力が大切な者を、護りたいものを傷つけるのではと?〉
リサとゼフィーラの魔法がシヴァの攻撃の嵐を必死に防いでいるが、そう長くは続きそうにない。
ナンディンも怒り狂って突進を開始する。
〈呆れるほど小さい悩みだ。〉
「え?」
〈良則、お前は頭が良いがそれが時々仇になることがあるな。〉
それ、褒めてるの?褒めてないの?
あ!広範囲攻撃が来る。
〈勇吾達もお前の全力で死ぬことは決して無い。〉
「でも・・・」
〈人一倍賢い頭でよく考えてみろ。お前の不安が間違っていないのなら、何時も空気を読まずに全力を出すあのバカにとっくに全員殺されている!!もしくはお前の祖父や叔父に!!しかも無差別大量虐殺(ビシッ!)!!〉
「・・・ああ!!!」
「どうしたの良則!?」
その刹那、理不尽な力により僕の心の奥に潜んでいた小さな闇は「納得できるかー!!」と叫ぶかのように光速を軽く越え、銀河の果てまで飛んでいき、銀河版ギネス間違い無しの哀れな消滅をしたのだった。
僕は何で気付かなかったんだ!?
アルビオンの言うとおりだ。
バ・・丈は普段から冗談では済まされないペースで力を使いまくっている。
今だって気配がする方に視線を向ければ・・・
「刀よ、暁色に染まり神話を斬り裂け!!《エクストリーム・バニッシュスラッシュ・テンペスト》!!」
『グアアアアアアアアアアアアアアア!!!』
「時空の力を司りし白銀の龍王よ!契約の元、真の姿を現せ!チェンジ!究極形態!!」
『イェンロンフォーム!!』
銀色の光に包まれ、銀洸の姿は一般的な東洋龍の細長い姿から背中から猛禽類の翼が生え、両手両足も大きく長くなり、角もより逞しい形状に変化していった。
あれは銀洸の祖父、嘗ては四霊や瑞獣とも呼ばれた『界の龍神』と同じ姿だ。
「GO!!銀洸!!」
『《雷電封殺銀柱》!!』
『グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!??チ、力ガアアアアアアアア消エルウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!』
『バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!??』
巨大な銀色の柱がインドラの力を削いでいるようだ。
というか、無茶苦茶な魔力の出量だよ!!
「合わせるのは俺の勇気!根性!熱血!希望!煩悩!青春!その他!くらえ、俺の究極魔法剣技!!超絶!!《暁之龍牙神殺衝》!!」
全世界のツッコみ役の人を総動員したくなった!
日本を通り越してお隣中国も吹っ飛ばそうとしているのかと言いたくなるほどの出鱈目な斬撃がインド
ラ達を飲み込み、その神性を切刻んでいく。
『滅龍奥義――――!!』
それ!!
著作権的にヤバい技じゃないよね!?
「ヨッシー!!危ない!!」
「うわっ!?ちょっと邪魔!!」
『ンモ゛~~~!?』
「え・・・!?」
〈・・・・・・。〉
僕は突進してきたナンディンをアッパーで成層圏まで殴り飛ばした。
銀洸!お願いだからパクリ技はやめてよね!!
『―――《銀王爆閃波》!!』
インドラは最後の足掻きなのか、このタイミングで神器『金剛杵』を出して銀洸の奥義を防ごうとした。
けど、丈はそれさえも無駄にする。
「《アポーツ》!ラッキー!神器ゲットだぜ!!って、これ偽物~~~~!?」
『バカナ・・・ギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア・・・・・・』
そしてインドラは討滅された。
愛用のヴァジュラ(偽)をパクられて・・・。
中東では魔王や悪神と称されていた名高きインドの軍神には哀れすぎる最後だった。
アレを最初から出していれば・・・いや、どの道パクられていたよね?
〈・・・理解できたか?〉
「うん。」
〈付け加えるなら、あのバカどもに比べれば、お前の全力はかなり安全だ。保険付きのな。〉
「分かったよアルビオン!僕も今度こそ全力を出してみるよ!」
そして僕は拳を握り締めて向き直る。
今倒すべき敵は目の前にいる破壊神シヴァ!
今までは苦戦していたけど、ここから一気に攻め通させてもらう!!
・賀茂建角身命:八咫烏に化身する神様。別天津神で造化三神の1柱である神産巣日神の孫。京都の守護神とされている。神使も八咫烏。




