第273話 『蛇神』大物主
その名を聞いた直後、周りがポカンとする中、隆一の母はその神の名をすぐに理解した。
「・・・『大物主』、確か奈良の大神神社の主祭神でしたね。古事記にも登場した神だったはず。」
「詳しいですね?」
「この程度、基本的な教養の範囲です。皇室とも縁のある神ですからね。」
その基本的な教養すらない者達は、目を逸らしたり顔を真っ赤にしていた。
大物主―――それは「古事記」等にも登場する神であり、日本の初代天皇・神武天皇の祖父の1人でもある神である。
水神であり雷神でもある、豊饒や厄除けの神としても知られている。
「有名な話は、古事記の中で国造りに悩む大国主の前に現れた話ですね。それによれば、大物主は大国主の和魂であるとされているとか。」
「それ故、必然的に大国主と同一視され、同時に大国主と習合された大黒天としても祭られている。祭神とする社が増えたのは明治初期からですが。」
「神仏分離ですね。」
隆一は頷いて答える。
明治初期、王政復古を実現する為に神道国教化を進め、逆に仏教の力を殺ぐために神と仏を明確に区別する神仏分離令が発令された。
これにより、腐敗した仏教僧に苦しめられていた一部の民衆が動いて多くの寺や仏具が破壊されていった。
その結果、香川の金刀比羅宮を始め、多くの寺社で旧来の本尊に代わって大物主を主祭神とするところが増えていった。
大物主は大国主の和魂、つまり半身であり同一視されながらも別個の神としても信仰されているのである。
「―――だが、大物主の伝承には色々矛盾する点もある。古事記において、大物主は大国主の和魂、つまり穏やかな側面であるとするが、一方で荒々しく祟りを起こす側面も持っている。そしてその本性は蛇神で、死を司る神でもある。」
隆一は思う。
大物主は大国主の和魂でと記されているが、それを言ったのはあくまで大物主本人が言った事であり、それが事実とは限らないのではと。
神の穏やか側面である和魂であるにも拘らず祟りを起こす蛇の神格、それはどちらかと云えば同じ蛇神である夜刀神に近い神格だ。
そして大物主は大国主と同様に多くの異名を持つ事から、大物主は多くの神と習合し、その経緯で大国主とも習合され大国主の和魂となったのではないかと。
(蛇神といえば、昼間も夜刀神が暴れていたな。あれは金神が原因らしいが、同じ日に、それもインドラとシヴァが顕現しているこのタイミングでとなると・・・。)
全てが必然、そう思った時だった。
突如、遠くにあった神気が急速にこちらに接近してきた。
「――――これは!」
『バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』
そして目にする。
白の巨象の牙の餌食になりそうなのを避けながら軍神と戦う自分の孫の姿を。
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「勇吾!!」
「勇ちゃん!!」
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――勇吾サイド――
恐ろしい神だ。
あの巨大な雷撃の瞬間、咄嗟に自分やトレンツ達を闇の《防御魔法》で守ってどうにか耐えたが、その後の猛攻は一息つく暇すらないほどのものだった。
インドラだけでなく、奴の乗るアイラーヴァタも厄介だ。
空から降り注ぐ大量の水を武器にしながらインドラを援護しつつ、凶器としか言えない4本の牙も駆使して攻撃してくる。
おそらく、黒と神龍武装化をしていなければインドラではなくアイラーヴァタの特攻だけで俺は命を落としていただろう。
それ程の力だった。
『――――進メ!』
『バオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
そしてアイラーヴァタの突進を布都御魂剣で受けた俺はそのまま一方的に押され、そのまま京都市上空まで押されていった。
『バオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!!』
「おおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
どうにか突進の勢いは弱まったが、どうやら更に状況は厄介になったようだ。
何故なら―――
「HEY!ビッグなホワイトエレファントと一緒に―――」
「黙れバカ!!空気読め!!」
そこにはバカコンビがいた。
そして一緒に、僅かに禍々しさを纏った蛇神がいた。
他にも顕現している神がいたのか。
『―――落チロ!』
「クッ!!」
アイラーヴァタの上からインドラが手を上げ、空から無数の雷が落ちてくる。
正直戦い難い。
バカの結界があるとはいえ、街の中で戦うのは――――
「《エクストリームデストロイアロー》☓9999!!」
「って、おい!!」
バカがインドラ達に向かってとんでもない強襲をした。
奴の『魂の武装』の1つである《飛龍の弓》から放たれた9999本の矢はインドラの雷を貫いてインドラに直撃していった。
インドラの破壊力も相当容赦がないが、このバカの攻撃もかなり容赦がなかった。
『グオオオォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
『バオォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!』
「よし!!効いてる♪♪」
「「よし!!」じゃないだろ!!」
「アウッ!!痛いよユ~ゴ~!?」
「お前、俺どころか周りごとハチの巣にするつもりか!?お前の攻撃で結界が壊れたりしたらどうするつもりだ!!」
「エ~~~~?今までそんなミスは・・・」
「過去に11回あっただろ!!」
「ブゥ~~~~!!」
何がブゥ~だ!
お前にはいろんな前科が有り過ぎるんだよ!!
でもまあ、結界に異常は無さそうだな・・・って、この下は九条家じゃないか。
お祖父ちゃんやお祖母ちゃんだけでなく、親戚一同がこっちを見上げている。
チビッ子達は何故か大興奮しているが、大人達は曾祖母さん以外は呆然としている。
「だってさ~~~!」
「何だ、バカ?」
「こういうのって相性が重要じゃん!ユ~ゴ~が戦っているインドラや象さんは高火力攻撃の方が有効そうじゃん!逆に俺の戦っている巨大蛇くんは同じ雷撃とか使ってくるけどインドラほど攻撃範囲は広くないし、俺よりユ~ゴ~の方が相性よさそうじゃん!」
「ム・・・。」
〈確かに一理はあるな。勇吾、ここは相手を交換した方が賢明だと思うが?〉
俺の中で黒がバカの意見に賛同する。
確かに、俺だとインドラとは相性が悪そうだ。
「それに~、ユ~ゴ~はまだ《神龍武装化》を十二分に使いこなしてないじゃん?ついでに言えば、黒くんも契約以降元の姿になった事がないじゃん?」
「うっ・・・!」
このバカ、痛い処を突いてくる。
「だから~、この際だから相手をチェンジしない?ついでに、俺のスキルを見本にしてパワーアップしちゃおうぜ~♪アニメの主人公みたいに♪」
「嫌だと言ってもやるんだろ?」
「Yes!!」
「はあ・・・・。」
これ以上コイツの話すのはやめよう。
こっちだけが一方的に疲れるだけだ。
『ギャオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
「―――で、あの蛇の正体は何なんだ?」
「オ・オ・モ・ノ・ヌ・シ♪」
こいつの喋り方も虫だ。
それにしても大物主か。
成程、確かにあの神は蛇神にして軍神、そして崇り神の側面も持っていたな。
しかし、今日1日だけでこれだけの数の神と戦うことになるとは異常だな。
・・・何か、『蛇』以外の意志も感じるのは気のせいか?
「銀洸~!相手チェンジだよ~!」
『オッケェ~~~!』
そして俺とバカは戦う相手を交換した。
「あ!ユ~ゴ~、トレンツ達はどしたの?」
「あ!」
〈・・・・・・。〉
まあ、大丈夫だろう。
『バオオオオオオオオオオオオン!!』
「インドラの元気な象さん復活!」
誤解を招きかねないことを言っているが気にしない。
今は目の前の蛇神との戦いに集中すべきだ。
俺は布都御魂剣を握り直し、未だにバカコンビに敵意を向けている奴に斬りかかった。
「《夜斬り》!!」
『ギャオオオオオオオオオオオオ!!』
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――京都市上空――
その女は遥か上空から地上を見下ろしていた。
決して誰にも気付かれない結界に守られた彼女だけの領域を展開し、月と星の光を浴びながら自身の成果を観ていた。
「フフフフ、当初は幾つもの壁があったけど、《盟主》様から頂いた加護のお蔭で順調ね♪」
彼女は久しぶりに満ち足りた気分を味わっていた。
長期の研究の末に完成した新たな禁術、神を縛り支配する術。
多くの試行錯誤の末、《盟主》の1柱から与えられた加護により、多少の制約はあるが最高神クラスさえも使役可能にする術を彼女はついに完成させたのだ。
「さあ、もっと私を魅せて頂戴?」
彼女の名はシャルロネーア、『創世の蛇』の幹部の1人である狂気の科学者――――。
・大物主:大国主と混同されがちですが、元は別の神様だったという見解が多いようです。混同される要因になった古事記の「大国主の和魂です」という逸話もあくまで大物主が言った事なので事実かどうかは証明されていませんし、和魂なのに祟る神様だというのも矛盾します。ですので、当作品では大物主と大国主は別個の神として扱います。




