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黒龍の契約者―Contractor Of BlackDragon―  作者: 爪牙
第13章 神殺し編
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第271話 牛と象

――京都市 妙円寺(良則サイド)――


 それは龍脈の中から出現した。



『ンモオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』



 暴風雨と雷の轟音すら掻き消しそうな鳴き声が響き渡った。


 龍脈の中から現れたそれは、綺麗な乳白色の毛に覆われた巨大な牛だった。



「何、あの牛!!聖獣!?」


『リサ、あれは聖獣よりも高位の存在です。あの者からは強い神性が感じられます。』


「もしかして、聖牛ナンディン!!」


「知ってるの?」



 僕は頷いてリサに返答した。


 『聖牛ナンディン』―――乳白色の毛を持つ牝牛で、破壊神シヴァの乗り物であると同時に、全ての四足歩行動物の守護神。


 シヴァが踊る際には、その踊りに合った音楽を奏でるとも言われている神聖な存在だ。


 インドで牛が神聖視されている要因の1つであり、インドにはナンディン単体を祭る場所も存在するけど、やっぱりシヴァと一緒に祭られる事も多い神獣だ。



「シヴァとセットってことは、もしかして・・・」


「多分、リサの考えは間違っていないよ。」



 僕とリサは冷や汗を流しながらナンディンの方を向く。


 その直後、ナンディンのすぐ横に落雷が起き、雷光と共にそれは再び僕達の前に現れた。



「――――シヴァ!」



 本物の・・・いや、本体の(・・・)破壊神シヴァはさっきまで僕達が戦っていたシヴァとは別格の気を放ちながら宙に立ち、空から落ちてきた2つの武器、トリシューラとピナーカをその手で受け取った。


 さっきの巨人よりも数段小さいが、それでも僕の倍以上の巨体のそれは、閉じていた両目をカッと開き、血走ったような赤い瞳を光らせながら僕達を凝視した。



『良則!!』


『リサ!!』



 アルビオンとゼフィーラは何時になく真剣な声で僕達の名を叫ぶと、護るように前に出て一斉にブレスをシヴァに向かって放った。


 そして、僕達と破壊神シヴァとの第2ラウンドが始まった。




--------------------------


――京都帝釈天(勇吾サイド)――


 インド、というよりヒンドゥー教では特に神聖視されている動物が幾つか存在する。


 1つは牛、これは最高神の1柱である破壊神シヴァの乗り物が牛であることや、牛はインドでは農耕で多くの人々に恩恵を与えてきた事が原因である。


 ただし、同じ牛でも水牛は――悪神マヒシャの化身であるから――神聖視されていない。


 2つ目は象、牛と同様に神の乗り物とされていることが原因の1つとされている。


 それ以外ではシヴァの長男であるガネーシャの頭が象である事も関係しているだろう。


 そして現在、俺達の目の前には白い巨象が半透明な翼を羽ばたかせて飛翔している。



「―――アイラーヴァタ!」



 その名は「大海から生まれた者」を意味し、自由に空を飛んで天候を操り雨を降らせるとされている神獣であり、軍神インドラの乗り物であもある。


 その特徴である白い体に左右に2本ずつの牙、そしてその巨体を空へと運ぶ両翼の姿は力強さに満ち溢れていた。



『どうやら、あれが本体のようだ。』



 黒はアイラーヴァタの背中を見つめながら呟いた。



「――――インドラ!」



 アイラーヴァタの背にはインドラが跨っていた。


 先程までの巨人の姿ではなく、精々人間の2倍程度の背丈だったが、その姿を見た瞬間、俺は15年の人生の中でも1,2を争うほどの戦慄に襲われた。


 インドラの全身からは英雄神が持つ勇猛な気と、パズズのように魔王と称される悪神・邪神が持つ邪悪な気が同時に放たれていた。



『おいおい、これは・・・!』


『フ、フン!面白くなってきたな・・・!』



 その圧倒的な存在感に飲まれたのか、アルバスと翠龍も俺と同じように戦慄していた。


 いや、戦慄なんかしている場合じゃない!!



「黒!!神龍武装化だ!!」



 俺はありったけの声で叫んだ。


 今の奴が暴れたらマズイ!!


 幾らバカコンビが広範囲に結界を張っているとはいえ、あれが全力で暴れたら最悪のケースも考えられる。


 なら、奴が全力を出す前にこっちが全力を出して奴を討滅するか、弱らせて『蛇』の呪縛から解放するしかない!!


 俺と黒はすぐに《神龍武装化》を行い、先制攻撃を放った。



「《黒龍夜光斬》!!」



 この大地ごと斬り裂くつもりで放った斬撃は真っ直ぐにインドラとアイラーヴァタに向かった。


 だが、その斬撃はインドラに触れはしたが、決して傷を付けることはなかった。



『――――フンッ!』


「なっ!?」



 片手で受け止められた。


 インドラは己の右手で俺の斬撃を受け止め、そしてガラス板や氷を砕くように握力で斬撃を粉砕した。


 違う。


 さっきまで戦っていたインドラとは明らかに違う・・・!




『消シ炭ニナレ!!』




 冗談でも比喩でもなく、インドラは直径100m級の雷撃を俺に向かって放った。





--------------------------


――同時刻 京都市 九条家――


 勇吾の父方の祖父、天雲隆一は周りの雑音を聞きながらも自身の《千里眼》で勇吾達の戦いを見守っていた。


 隣に座る祖母・天雲瑠璃もまた《精神接続(マインドコネクト)》という魔法で隆一が視ているものを一緒に視ていた。



〈勇ちゃん、さすがにピンチみたいね?〉


〈ああ、昼間の下級神や先日の悪神・邪神と違い、今回のは格が違うからな。キツイ戦いにはなるだろうな。だが、勇吾も既に3柱の神と契約を果たしている。何より俺達の自慢の孫だ。負けはしないさ。〉


〈そうね。それに、イザという時は・・・それはそうと、こっちの黒幕(・・・・・・)は誰だと思う?〉


〈・・・経験上、“奴”だろう。〉



 2人は孫の戦いを見守りつつ、今いる九条家の中の異変に思考を巡らせていた。


 実はこの2人、この家で起きている異変、勇吾の仲間と瓜二つの子供が一族の中にいることに以前から気付いていた。


 正確には、親族の子供の中に『力ある存在』から干渉を受けた形跡のある子供が2人いることにである。


 最初に気付いたのは九条家の先代当主、つまりは隆一の亡き父の葬儀に参加した時だった。


 他人のプライバシーを覗く趣味はない隆一だったが、冒険者としての癖で葬儀の参加者全員に《ステータス》を使い、その際にこの世界では普通は有り得ない内容を持った子供がいることに気づいたのである。


 勿論、この事実はギルドに報告され、ギルドを通して関係各所も動いて捜査が行われたにもかかわらず、当時は何故か(・・・)真実には至れなかった。


 それが2ヶ月前、勇吾が調査した北海道での一連の事件で事件は大きく動いた。


 逮捕され凱龍王国に護送されたフェランが過去に日本で行った実験が明るみになり、隆一は真実を一気に半分(・・)に至ることができた。



(妹の孫の件は『蛇』の事件、なら、兄さんの孫は誰がということになるが・・・。)



 年齢的な面を考えればフェランが10年前のフェランの実験の被害者は隆一の下の妹の孫であり、これは(勇吾は知らないが)警察の捜査でも既に裏付けが取れている。


 そうなると問題なのはもう1人の方、隆一の兄であり九条家の現当主の孫は“何の事件”に関わったのかということになる。


 模倣犯とも考えられるが、隆一は長年の経験から犯人に目星を付けていた。



(―――“奴”なら特に深い理由も無くやるだろうからな。今も、上からこの京の都で起きている全ての出来事を楽しんでいるのだろう。)



 ほとんど勘でしかないが、隆一はそれだけで確信を持っていた。



「―――に住んでいるんだ?」


「またその質問か?いい歳してしつこい男だな?」


「お前の事は何十年も調査させたが、未だに何処に住んでいるのかすら不明だ。それどころか、財界の一部の有力者達から圧力がかかる始末。一体、お前は何をしているんだ!?」



 一方、昼間からしつこく隆一を問い詰めている現当主率いる九条家一同は隆一夫妻の秘密を引き出そうと必死になっていた。


 特に隆一の兄である現当主・九条(ただし)は兎に角必死だった。


 隆一が良家との縁談を独断で破棄して破棄した当時は跡目争いの敵が減ったと喜んだが、数年経つと世間の目が気になる事もあって弟の居場所を確認しようとした。


 だが、九条家の総力を出しても何も分からず時間だけが過ぎていき、いっそ失踪者として死亡扱いにしようとしたタイミングで隆一は妻子を連れてヒョッコリ現れた。


 その後も数年に1度の間隔で九条家を訪れては子供が生まれたことを報告して何処かへ帰っていく弟一家を疎ましく感じていた義。


 しかも、来る度に隆一が持参してくるお土産は目や舌の肥えた九条家一同も唸らせる芸術品や茶菓子ばかりだったので突き帰すことが出来なかった。


 一体何所に住んでいるのか分からない弟一家を追跡すべく、一度その手の業界のプロに隆一を追跡させた事も会ったが、半日も経たない内にそのプロ達は帰ってきて契約解除を申し出てきた。


 トラウマを抱えながら。


 さらに、しつこく調査を進めていく内に国内外の経済界の大物から圧力が掛かってきた。


 特に飛鳥グループ総帥直々の忠告(・・)には九条家そのものが震撼し、それ以上の調査を断念せざるを得なかった。


 故に、今となっては本人の口から聞きだすしかなかったのだ。


 今となっては、単に意地になっているだけだが。



「さあ?心当たりがないな。」


「嘘をつくな!!」


「他に話すことがないのなら私達は帰らせてもらうぞ。明日も早いからな。さあ、行こう瑠璃。」


「ええ、あなた。」



 流石に何時間も無駄話をするのに厭きた隆一は立ち上がり、親族が睨んでいるのも気にせず妻と共にその場を後にした。


 その時だった。



「「――――――!!」」



 突然、真上から何かが落下する気配がしてきた。



――――ドッゴォォォォォォォォォン!!



「「キャァァァァァァァァァァァァ!!」」



 そして聞こえてくる子供達の声、隆一と瑠璃はすぐに現場へと走っていった。


 そして向かった先で見たのは―――



「痛タタタタタタ!ゴメ~ン、家壊しちゃったよ~~~ん♪」


「「・・・・・・・・・・。」」



 一部半壊した屋敷、そこには空気を読まない(バカ)がいた。


 そして壊された天井のからは豪雨が降り注ぎ、その上空には2つの巨影があった。



『ギャオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!』


『ノオオオオオオオオオオオオオオオン!!』









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