第262話 夜刀神&金神
――慎哉サイド――
巨大角蛇を吹っ飛ばそうとした時、今度は変な怪獣が俺達の前に現れた。
お陰で攻撃は失敗だ。
『今度は何だよ?』
「虎?犬?牛?」
『キメラか何かか?』
「それより乗ってる奴の方を見ろよ!あからさまにヤバそうだぜ?」
目の前の尻尾が2本のよく分からない怪獣もだが、それに跨っている明らかに人間じゃない怪人からはあからさまに危険な気配がした。
鬼にも悪魔にも見えるが、多分どっちでもなさそうだ。
その手には斧槍っぽいのがあるし、凄く禍々しい感じがする。
『ヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒハハハハハハハハハハハハハ!!!』
『オオオオオオオオオオ!!忌マワシイ邪神ガ!!貴様モ滅シテクレルワ!!』
どうやら味方って訳じゃなさそうだ。
第一印象としてはどっちも邪神か悪神っぽいけど、この前みたいな《大罪獣》の気配は全然しない。
取り敢えず、《ステータス》で確認してみるか。
まずは巨大角蛇からだ。
【名前】夜刀神
【年齢】1422 【種族】蛇神(夜刀族)
【職業】土地神 崇神 【クラス】荒ぶる神 下級神
【属性】水 土
【魔力】5,193,000/5,320,000
【状態】興奮(小) 裂傷(微) 凍傷(微)
【能力】水術(Lv4) 土術(Lv4) 隠形術(Lv4) 神術(Lv3) 蛇神之猛毒 毒吸血 人化
【加護・補正】物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv3) 精神耐性(Lv3) 水属性耐性(Lv5) 土属性耐性(Lv4) 毒無効化 麻痺無効化 蛇神 祟る者 蛇眼
やっぱ神様だった。
しかも「荒ぶる神」って、荒神の親戚か何かか?
じゃあ、こっちの怪人っぽいのは?
【名前】金神
【年齢】??? 【種族】金神(悪神)
【職業】悪神 【クラス】遊行神 動く災厄
【属性】闇
【魔力】4,330,000/5,200,000
【状態】狂乱(中)
【能力】闇術(Lv4) 古代呪術(Lv4) 神術(Lv2) 槍術(Lv3) 斧術(Lv3) 邪毒
【加護・補正】物理耐性(Lv3) 魔法耐性(Lv2) 精神耐性(Lv2) 闇属性耐性(Lv4) 全状態異常無効化 殺戮者 忌避すべき災厄 悪神 騎獣同化 狂った神 邪神の眷属
見た目通りの悪神、しかも「邪神の眷属」なんていう厄介な補正付き。
どっちも魔力的には敵の方が上だが、放置はできない。
「これ以上面倒な事にならない内に倒すぞ!」
『おう!俺もさっさと片付けて戻らないといけないからな!』
俺は両手に白狼の手甲鉤を装着、冬弥と二手に分かれて2柱の神に攻撃を開始した。
『ヒィハハハハハハハハハハハハハハ!!!』
「くらえ!《氷結の爪撃》!!」
俺は冷気を纏わせた爪で金神に斬りかかり、金神は持っていたハルバードを振ってきた。
闇を纏ったハルバードと激突し、俺は思わずバランスを崩しそうになるが、逆に金神のパワーを利用して全身を動かし、顔面に蹴りを一発入れてやった。
「トレンツ直伝!氷王キーック!!」
『ギャボア!?』
「オラオラ!《百連・氷結の爪撃》!!」
俺は金神と金神が跨っている怪獣に連撃を浴びせていった。
手加減なんて必要ない相手だ。
持てるパワーを全部出して攻め続けて行ってやる。
『ルオオオオオオオオ!!』
「うおっ!」
『避けろ兄貴!《神獣之咆哮》!!』
『ルゴオオオオオ!!??』
『ヒィアアアアアア!!??』
「ナイス!」
怪獣が吐いた黒いブレスを避けちゃ直後、その横から冬弥のブレスが怪獣に大ダメージを与える。
怪獣は硫酸を浴びせられたかのように悲鳴を上げ、一緒に浴びた金神も同じように悲鳴を上げた。
やっぱ、冬弥の攻撃は暗黒系というか邪悪系には効果が抜群みたいだ。
流石、俺の自慢の弟だぜ♪
「どんどん行くぜ!《吹雪の群狼》!!」
氷で作った百を超える狼が一斉に金神に襲い掛かった。
だが、やっぱり神なのか、金神は全身から闇を放出させ、それを触手みたいに操ってハルバードも振りながら狼達を破壊していく。
そして怪獣も、2本の尻尾の先を刃物のように尖らせ、尻尾を意のままに操って攻撃してきた。
口から発射されるダークブラスター(仮称)も連発している。
「――――《氷槍千弾》!!」
一旦上に飛んで距離を取り、周囲に槍状の氷柱を千本出して金神目掛けて一斉掃射した。
半分近くは金神が纏う闇の力に邪魔されてしまったが、残りの何割かは金神や怪獣の体に命中し、2つの絶叫が周囲に響き渡った。
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――冬弥サイド――
兄貴が頑張っている頃、俺も目の前の巨大角蛇と激戦を繰り広げていた。
『おおおお!!《吹雪の咆哮》!!』
俺が張った濃霧を利用しながら相手の隙を突くように氷のブレスで攻撃し、周囲を凍結させながらかわそうとする奴を追いながらブレスを出し続けていった。
『狼如キガ!!我等夜刀ノ力ノ前ニ平伏セ!!』
『わ!?』
俺は思わずブレスを止めて横に跳んだ。
奴から魔力の波動が出たと思ったら、地面から間欠泉のように水柱が飛び出してきた。
それも1つや2つではなく、俺や兄貴の周りに何本も噴出してきて、それは只の水柱から水の竜巻にな
って動き始めた。
こいつ、水神の類だったのか!
『こんなもの、全部凍らせてやる!!』
『―――うねろ!』
『クッ!!』
迫ってくる竜巻を凍らせようとしたら、竜巻がまるで蛇のようにうねりだし、先端がまさに蛇の口のように変形して俺に襲い掛かってきた。
俺は凍らせるのを一旦諦めて回避に専念した。
すると、奴は笑い声を上げながら次の攻撃も初めてきた。
『ハハハハハハハハハ!!押シ潰サレロ!!』
直後、空からバケツを引っ繰り返したかのような豪雨が降り注いできて、その圧力で俺の体を地面に突き落としだ。
『グハッ!!お、重い・・・・!!』
「ガハ!?」
『兄貴!!』
地面に押し潰されたのは俺だけじゃなかった。
もう1柱の神に対して優勢だった兄貴は周囲一帯に降り注ぐ豪雨の直撃を受けて地面に叩きつけられていた。
マズイ、聖獣の体の俺とは違って兄貴は生身の人間、今ので骨が何本もいっちまったかもしれない!!
『イィィィィヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!』
『終ワリダ侵略者!!』
数十本の竜巻が毒牙を持つ蛇のように、一斉に俺に向かって襲いかかてきた。
兄貴の方も、相手の神が巨大な闇の塊を出してぶつけようとしている。
クソ・・・神2柱相手に俺達だけで戦うのは無茶だったのかよ・・・!?
「―――――《祓ノ風-白-》!」
その時だった。
誰かの声が聞こえた思った瞬間、俺達を地面に押し付けていた豪雨が一瞬で消えて無くなっていた。
それどころか、真上から暖かい日差しが降り注いでくる。
だが、竜巻までは消えてはおらず、今まさに俺に直撃しようとしていた。
『ナッ―――――!?』
『――――――ッ!』
敵が驚愕している隙に、俺は間一髪で竜巻の集中攻撃から逃れ、素早く兄貴の下まで跳ぶと、まだ立ち上がれていない兄貴の襟を咥えて奴らから離れた。
『―――――ソコカ!!』
だがその直後、巨大角蛇は角からビームのようなものを放ち、それを俺の真横を通り過ぎ、辺り一帯を覆っていた濃霧を貫いた。
悲鳴が聞こえたのはそのすぐ後だった。
「キャアアアアアアア!!」
『え!?』
それは女の悲鳴だった。
慌てて悲鳴のする方を振り向くと、濃霧の中にぽっかり穴が開いていて、その中で誰かが中から地面に向かって墜落しそうになるのが見えた。
俺は反射的に動いてしまい、墜落しそうになる彼女を背中でキャッチした。
「う―――――!」
『おい!大丈夫か!?』
「え、ええ・・・。ありがとうございます。お蔭で助かりました。」
『いや、こっちの方が助かった。もう少しで兄貴共々ミンチになってたところだった。』
背中に乗せた少女(?)は丁寧な口調で感謝の言葉を述べた。
背中の上だからハッキリとは見えないが、その少女は綺麗な茜色の着物を着た長い黒髪の少女だった。
まるで時代劇に出てくるようなお姫様のように艶やかで、俺は思わず見惚れてしまいそうになった。
(・・・・・・人間、じゃないよな?)
馬鹿かもしれないが、その姿に見とれた俺は、彼女の美しさが人間のものじゃないと思ってしまった。
だけど、その直感が当たっていることを俺はすぐに知ることになる。
『ヒヒヒヒヒヒハハハハハハハハハハハハハハ!!』
『「――――――!!」』
『死ニゾコナイガ!コレデ死ネ!!』
女に見惚れている場合じゃなかった。
2柱の神は巨大な藍と黒の魔力の塊を生み出し、それを俺達に向かって撃ち出そうとしていた。
だがその時だった―――!
「《時と空の束縛》!!」
『ガッ――――!?』
『イッ―――――!?』
2柱の神は時間が止まったかのように動きを停止させた。
直後、空から青と黒の2つの光が降ってきた。
「《黒光神龍波斬》!!」
『《蒼ノ雷霆》!!』
俺のよく知る声が聞こえた瞬間、獣に乗った神は獣ごと一刀両断になり、巨大角蛇は激しい雷に撃たれ、悲鳴も上げることも出来ずに黒焦げになって敗れた。
最も、悲鳴を上げたところで落雷の音でが邪魔で聞こえなかったけどな。
「・・・勇吾、ライ・・・?」
あ、兄貴が復活した!
けど、なんだか様子が変だった。
・金神:陰陽道における方位神の1柱で、金神がいる方角は常に凶とされ、その場所を犯すと家族が7人死ぬと言われています。主に岡山県辺りで伝承が残っており、金神の祟りで多くの家族を失ったという怖い話があります。
・夜刀神:角の生えた蛇の神様です。夜刀神とは元は1柱の神様ではなく、種族名に近いようです。




