第259話 勇吾と祖父母
・主人公のターンです。
――京都駅前(勇吾サイド)――
俺は久しぶりに京都の地に立っていた。
黒は気を遣ってくれているのか、今朝から別行動中だ。
今は俺1人、祖父母との待ち合わせ場所へと向かっていた。
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俺が前に京都に来たのは6年前、父方の祖父の実家で曾祖父の葬式に参加した時のことだ。
その頃の俺は父さんが死んでから2年が経ち、色々な出来事を経てようやく立ち直り始めようとしていた時期だった。
母や2人の姉、そして叔父叔母従兄弟と一緒に初めて会った祖父の親戚達は、俺達に対して冷ややかな態度だったと思う。
家が決めた許嫁との結婚を破談にし、祖母と共に親戚達が決して追いかけて来られない国へと駆け落ちした祖父は親戚達にとっては6年前の時点でも腫れ物でしかなく、初対面の父の従兄弟達も厄介者を見るような目で俺達を見下していた。
――――駆け落ちした挙句、長男を早世させるとはな。不吉な男だ。
――――とんだ恥晒しが帰ってきたものだ。
――――一家総出で遺産を盗みに来たか。意地汚い。
葬儀の間、親戚は祖父の陰口を言いたい放題喋りまくり、当時の俺は肩身の狭い思いをしていた。
数時間だけだが。
――――貴方達は何処の学校に通ってるのかしら?
高級な喪服を着た親戚の1人が、あからさまに俺達を嘲笑したそうな顔で話しかけてきた時だった。
親戚は自分の子供、つまり俺の再従兄弟の自慢話をしながら俺達がエリート校に通っているのかて訊ねてきたのだ。
大方、俺達が碌な教育を受けさせてもらっていないのだろうと思っていたんだろう。
それがとんでもない勘違いだとも知らずに。
そして、姉弟を代表して返答したのは長女の汐南姉ちゃんだった。
――――MIT(マサチューセッツ工科大学)です♪はい、これが学生証♪
その場が一瞬にして凍り付いた。
汐南姉ちゃんが出した動かぬ証拠の前に、親戚達の顔は激変していた。
そして汐南姉ちゃんは親戚達に対し、更なる攻撃を開始した。
――――パパは12で(異世界の大学を)卒業したけど、皆さんはどうでしたか?
親戚の大人達の大半は一斉に顔を真っ赤に染めた。
その後も姉ちゃんの容赦無い言葉攻めは続き、親戚達は反撃も出来ずに叩きのめされたのだった。
きっと、あの時の汐南姉ちゃんは祖父や父を罵倒する親戚にブチ切れていたんだろう。
そしてそれは鈴音姉ちゃんも同じだった。
――――あ、曾御祖父ちゃん!
葬儀の日の夜、親戚以外の人も集まった食事の場で、鈴音姉ちゃんはみんなにも聞こえる声で外を指さした。
そしてそこにはさっき葬儀したばかりの、俺の曾祖父の幽霊が浮かんでおり、その姿はその場の全員の目にハッキリと映っていた。
俺はその時初めて曾祖父と邂逅した。
――――ギャアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!
――――あ、貴方・・・・・!!??
――――お経!!お経は何所だああああああ!!??
―――――住職さああああああああんんんん!!!!!!!!
その後は阿鼻叫喚の渦だった。
親戚達は我先にと逃げ出そうとするが、何故か出入口は全て封鎖され、直後に停電が発生、ラップ音やポルターガイスト現象の前に大パニックになった。
それは1時間以上続き、祖父が曾祖父(幽霊)に酒の入ったコップを渡したのと同時に怪現象は止まった。
祖父が最後の親子酒を交わすと、俺は手招きされたので祖父と曾祖父の元に駆け寄った。
すると、曾祖父は優しい顔で俺の頭を撫でた。
――――大きくなったのう・・・勇吾・・・
それが最初で最後の曾祖父の言葉だった。
息子と和解し、成長した曾孫の顔を見て満足した曾祖父は光に包まれて成仏していった。
その後、親戚達の多くは病院送りになり、曾祖母だけはどうにか自力で平静を取り戻しながらも複雑な顔で俺や祖父を見ていた。
さらにその後、火葬も終えて親族が集まった中での遺言書の発表でも一波乱があった。
『―――現金は全額曾孫達に均等に分配することとする。』
この一文で親戚達は大いに反発した。
実は孫より曾孫が大好きだった曾祖父の遺言は法的に有効とされ、結果的にこの時点で孫が大勢いる祖父サイドに遺産の多くが流れたのだった。
気付いていると思うが、祖父の一族は旧家で政財界にもそこそこ影響力を持つ。
それ故にか、プライドの高い親戚達は子供も必要最低限しか生もうとはせず、おまけに育児に無関心な利益優先指向の者が多かった。
つまり、祖父の兄弟姉妹同様、甥や姪も子供が多くても2人しかおらず、それどころか未婚の者も少なくなかった。
祖父の兄、つまり死んだ曾祖父の長子にも孫は3人しかいない。
それに対し、祖父には子供は二男二女の4人、孫は当時で俺を含めて15人いた。
つまり、曾祖父の遺産-その中でも現金-の大半が俺の祖父側に相続されたのだ。
これには親戚達は猛反発!
――――ふざけるな!これは無効だ!
――――有効です。by顧問弁護士
――――そうだ!実は私が付き合っている女性がおめでたで・・・
―――私、今月妊娠しました!
あの手この手で遺産を手に入れようとする親戚達は、ついには隠し子まで出してきたりもした。
『―――尚、隠し子や隠し孫がいた場合も有効とする。』
この一文が火に油となり、親戚の男性陣は妻子がいることも忘れて隠し子を暴露し始めた。
正直、当時9歳の俺はドン引きした。
『ただしその場合、曾孫達の遺産の管理権限は養育者に与えられ、認知はおろか育児もしていない親及び祖父母は干渉できないものとする。』
曾祖父はバカには金が渡らないように念を押していた。
結局、土地や有価証券等は曾祖母が引き継ぐこととなり、親戚達に残ったのは家庭崩壊のフラグだけだった。
後で知った事だが、俺達が凱龍王国へ帰国して1ヶ月も経たない内に親戚内では離婚騒動同時多発的に発生したり、最後の悪足掻きと言わんばかりに連日夜に励んだり、病院に駆け込んだりなど大騒ぎだったらしい。
俺にはあまり関係ないことだが・・・。
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今では懐かしい思い出だ。
更に付け加えるなら、あの葬式事件から1週間程経った頃、俺は祖父から『布都御魂剣』を託された。
入手経路は未だに不明だが、俺の勘だと…いや、何でもない。
俺は駅前を歩き、待ち合わせ場所のカフェの前で待ち人の夫婦を見つけた。
「お祖父ちゃん!お祖母ちゃん!」
「おお、待ってたぞ勇吾!!」
「また大きくなったんじゃない?」
「成長期だから当然だろ?」
白髪が一本も見えない黒髪、肌の張りが強く小皺も少なく見た目だけなら初老にも見えないほど若い老夫婦、この2人が俺の祖父母である天雲隆一と天雲瑠璃だ。
どう見ても還暦を過ぎた夫婦には見えないだろうが、祖父母は正真正銘64歳、今は凱龍王国のとある島でカフェを経営しながら悠々自適に暮らしている。
「――――にしても、来るなら俺にも連絡してよ。俺、あのバカから聞くまで全然知らなかったんだぜ?」
「ああ・・・・、それはまあ、なあ・・・?」
「・・・ええ、色々とあったのよ。バカとか、そうバカとか色々と・・・・。」
「ああ、そういうことか。」
つまり、全てはバカ族の陰謀だったわけだ。
大方、バカの父親か祖父辺りが勝手にプライバシーを詮索しまくって祖父母の来日計画を知り、色々と迷惑行為を行ったようだ。
あのバカ、後で必ず締める!!
「まあ勇吾も座れ。一杯飲んでから出発するとしよう。」
「うん。」
俺は開いているイスに腰を下ろし、コーヒーを注文した俺は祖父母と少しばかりに雑談に入った。
祖父母とこうして話すのは随分久しぶりだ。
2人とも相変わらず元気で若い、兎に角若い。
曾祖父の葬儀の時もあまりの若さに親戚中の嫉妬を買ったものだ。
「―――――それにしても、随分な時期に帰って来てしまったものだ。京都がここまで騒がしくなっているのは初めてだな?」
祖父は周囲の“気”の流れを見渡しながら呟いた。
一般人は誰も気付いてはいないようだが、俺達のようなこちら側の人間の目には今の京都が普段とは違う様に映っていた。
空を見上げれば普段は見かけない筈の神気、つまり神仏の気が飛行機雲のように残っている。
それは今日の街を神仏が頻繁に移動していることを意味し、普段は現世に極力干渉しない神仏が頻繁に移動しているという事は、現在の京都は非常事態が起きているという事だった。
「俺の情報だと、近い内に『蛇』がまた事件を起こすらしいよ。どうやら今度は、最高神クラスの神格を操って暴れる気らしい。」
「ほう、最高神クラスとなるとかなり有名なのが出てきそうだな?それにしても、とうとうそこまでの事件を起こすまで活発化してきたか。となれば、向こうの主力が動きだすのもそう遠くないだろう。そうなれば――――分かっているな、勇吾?」
「はい。」
祖父が言いたい事はよく分かっている。
『創世の蛇』の動きが今以上に活発化すれば、それに比例して死のリスクも高まってくる。
いや、今でも十分に死のリスクが伴っている。
今までの戦いでだって、一歩間違えれば死んでいた場面はいくらでもあった。
俺が今生きていられるのは多くの幸運や、沢山の仲間達が居てくれたお蔭だ。
だけど、今以上の危険となれば―――――祖父は警告しているんだ。
身を引くなら今の内だと、相手は俺が思っている以上に危険で半端な気持ちで戦える相手ではないのだと。
「―――お祖父ちゃんの気持ちは嬉しいよ。けど、俺はもう決めているから。」
「勇ちゃん、それでも私達は・・・」
「瑠璃、もう言うだけ無駄だろう。」
「でもアナタ・・・!」
「私達の孫だ。そして大吾の息子でもある。なら、何を言ったって止まりはしないのは私達が一番理解しているだろう?」
祖父が宥めると、不安そうな顔をしていた祖母はしばらく沈黙した後、どこか吹っ切れた様に溜息をついた。
そうだよお祖母ちゃん、俺は途中で止める気はないんだ。
「――――フウ、本当に蛙の子は蛙なのね。だけど勇吾、1つだけ約束して頂戴。何があっても、絶対にみんなと一緒に帰ってきなさい。あなたのことを心配しているのは私とお爺さんだけじゃないんだからね?これから会いに行く曾祖母さんだって、本心ではあなたのことを思ってくれているんだから。」
「はい!」
「なら良し!」
たった一言の返事だったけど、それで十分に俺の覚悟は伝わったようだ。
気が付けば注文したコーヒーが届いている。
思っていたより長く話し込んでしまったようだ。
俺と祖父母は冷めてしまわない内にコーヒーやお茶を飲み干すと、予定より時間を浪費してしまったので急いで出発する事にした。
その道中、祖父はふと思い出したように俺に訊ねてきた。
「――――ところで勇吾、先程のお前の話だが、『蛇』がどの神格を操っているのかは把握しているのか?」
「うん、インドの2柱の神で、インドラとシヴァだよ。」
「・・・帝釈天と大黒天、いや大国主か。インド最強の軍神と破壊神、よりにもよってこの2柱
とはな。油断するなよ?」
「ああ、油断なんかできる相手じゃないのは十分に理解している。ただ、戦場がココになる事だけが気がかりなんだよ。」
「ああ、バカか・・・・。」
「うん、バカが何かやらかしそうで不安なんだよ。絶対に何かやりそうだからな。」
「バカだからな。」
「バカだからな。」
「・・・2人とも、他の通行人にも聞こえているんだから口に出すのは止めなさい。」
その後も小声で「バカ」を連発させながら、俺は祖父母と共に祖父の実家である九条家へと向かった。
・勇吾のお姉さんは敵には容赦しません。叩けるだけ叩きのめします。




