第257話 修学旅行1日目③
――京都 八坂神社――
色々あったけど、1日目も残るはここ八坂神社と清水寺だけだ。
正直言って、この神社だけは来たくなかった。
何故って―――――
「―――ここ、八坂神社の本殿には素戔嗚尊を始め、櫛稲田姫命等、多くの神々が祭られています。」
ガイドさんが笑顔で説明をしてくれている。
そう、ここに祭られているのは名古屋で俺達に仕事を押し付けたり、弟の冬弥の元に突然現れたりした、あの素戔嗚尊なんだ!
正直、直接会いたくない神様だ。
「北守、さっきから顔色悪いぞ?風邪か?」
「い、いや、大丈夫だ・・・!」
落ち着け!
幾ら京都でも、もうこれ以上は神様は――――
「おう!見覚えのあるガキがいると思ったら、ホロケウんとこの倅じゃねえか!」
居たぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
頭の中で噂しただけで出てきやがったぁぁぁぁぁぁ!!
「おい、誰だよあのオッサン?北守の知り合いか?」
しかも他のみんなにも見えてる~~!!
いやまて、皆にも見えてるってことは他人の空似かもしれない!
ここは冷静に確認を・・・
【名前】素戔嗚尊
【年齢】不詳 【種族】神
【職業】軍神 【クラス】不良系オタク神
【属性】風 水 火 土 雷 光
*以下略
やっぱり本人でした~!!
ていうか、「不良系オタク神」って何だよ!?
何で他の人にも姿見えてんだよ!?
何で神様が革ジャン着てるんだよ!?
「弟の方もだが、騒がしいガキだな?」
「サヨウナラ!」
「おい、待て!!テメエに話がある!」
ついて来るなぁぁぁぁぁ!!
また厄介事を押し付ける気だろ!!
「逃げるなっつってんだろうが!!」
「「キャァァァァァァァ!!」」
「何だ~~~!!??」
うわっ!!突風が襲い掛かってきた!!
人前で力使っうんだ!!
一般の参拝客まで次々に倒れていってる!!
神話通り、迷惑な神様だな!?
「よぉ~し、これで逃げられねえな!」
ヤベエ、このままだと名古屋の時に続いて無茶を押し付けられてしまう!
「――――何が、逃げられないんですか?」
だがそこに、御子に似た格好の女性が俺と素戔嗚の間に入ってきた。
あ、凄い美人!
「ゲッ・・・奇稲田!」
「ゲッてなんですか、ゲッて?ねえ、ア・ナ・タ?」
って、ええええええ!!??
この美女、もしかしなくても素戔嗚の1人目の奥さんで有名な奇稲田姫!!??
嘘だろおおおおおお!!
あのオッサン神には勿体無い位の美女じゃね!?
「いや・・・その・・・これには訳が・・・」
「現世で不用意に力を行使し、こちら側ではない人々に怪我を負わせる訳とは何なのですか?」
「同感ですね。これは大問題ですよ、ス・サ・ノ・オ・様?」
「さ、佐美良・・・!!」
「私も一緒に聞かせて頂きましょうか?」
「神大市・・・!!」
何時の間か、素戔嗚のオッサンの両腕を和服姿の美女2人がガッチリとホールドしていた。
まさか、あのW美女も素戔嗚の奥さんか!?
おのれ・・・神リア充め!
「佐美良姫様、神大市姫様、御義姉様がまた引き隠らない内にヤッてしまいましょう!」
「「はい!奇稲田姫様!!」」
うわあ、抵抗も出来ずに連行されていったよ。
不良でオタクな神様も奥様にはかなわないのか。
あまり知りたくない、神道の裏話だな。
「この度は夫が大変な御迷惑をおかけしてしまい、誠に申し訳ありません。」
「え、いや、気にしませんから!」
奇稲田姫様は深々と頭を下げて謝罪してきた。
女神様に頭を下げさせちゃったよ・・・!
「せめてもの御詫びに、御学友の方々も含めて私の加護を差し上げましょう。京都内限定ですか。」
なんか加護を貰っちゃったよ!
京都内限定だけど、十分に凄い!
その後、奇稲田姫様は何度も頭を下げて謝罪しながら先を行く俺達を見送ってくれた。
ちなみに、ここ八坂神社にはスサノオファミリーが大勢祭られていた。
例えば――――
「キャー!ここが美のパワースポットよ~!!」
「美容水よ!美容水!全身で浴びるわよー!!」
「そこ!!悪ふざけは止めなさい!!」
同じ敷地内にある美御前社には、女性に大人気の『美容水』といい神水があったんだけど、そこにも神様がいた。
それも3人一緒に!
「私は美の女神、多岐津比売!」
「同じく多岐理比売!」
「そして日の本の美の頂点に君臨する、市杵島比売!」
「「「私達、宗像三女神!!」」」
オバカ系アイドルかと思った。
明らかに見えている俺を意識しながら、「打倒、アフロディーテ!」とか、「神道系アイドルよ!」などと叫んでいた。
宗像三女神については、前に丈がライとの会話に出てきた事があるから少しだけ知っている。
3人とも素戔嗚の娘で、美の女神であると同時に海の神様でもある。
面倒そうだから無視したけどな。
「「「無視しないでよ~~~!!」」」
しばらくストーキングされたけど、途中でまた奇稲田姫様が間に入ってくれて助かった。
はあ、俺にとってここは鬼門だな。
そして一通り見て回り、記念に御守とかを買ってバスに戻ろうとした時、初めて真面な男の神様に出会った。
「――――待て、もしかして、北守慎哉か?」
「あ、また神!」
そこで出会ったのは京都街並みに合う着物姿の男性だった。
全身に纏っている魔力から一発で神様だと気付いた。
「俺は五十猛神、お前のことはライからよく聞いている。さっきは親父が迷惑かけたみたいだな。」
そう言って、目の前の神様は頭を下げて謝罪してきた。
この神、マジであの須佐之男を息子…と思ったら、母親は奇稲田姫様だった。
なるほど、母親の血を正しく引いた訳か。
「京都には数日居るんだろ?なら、1つ警告しておきたい事がある。」
「警告?」
「ああ、どうやら数日中に京都で異変が起きるらしい。他所の神格どもからタレコミだが、信用できる情報だそうだ。例の、『蛇』がまた何かを始めるそうだ。」
「―――――ッ!!」
『創世の蛇』!!
まさかここでもその名を聞く事になるなんて・・・!!
あいつ等、今度はこの京都で何をやらかす気だ!?
というか、俺達の修学旅行はどうなるんだ!?
「ハハハ、そう難しく考えなくてもいいさ。京都は日本の中でもかなり特殊な土地だから、条件付きだが、他の場所では有り得ない事もここでは出来る。お前が想像時ているような事態にはそうそうなりはしないさ。」
「そうなのか?」
「それに、京のすぐ近くには・・・いや、なんでもない。短い間だが、この街を楽しんでいってくれ。」
ん?
今の、何だか妙に意味深だな?
詳しく訊こうと思ったけど、丁度集合時間になってしまったから五十猛神とはそこで別れた。
それにしてもまた『創世の蛇』か。
横浜や北海道の時みたいな事が起きるかもしれないってことか・・・。
念の為、俺はバスの中でこの事を勇吾達にもメールで知らせておいた。
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――京都 清水寺――
本日最後の名所は世界遺産の清水寺だ!
とにかく人の数が凄い!
俺達のように修学旅行に来ている学生や、秋の清水寺を観に来たツアー客、国籍問わず大勢の人で溢れ返っていた。
土産物屋の数も凄いし、何を買えばいいのか迷うな。
「なあ、北守は知ってるか?」
「何がだ?」
「よく「清水の舞台から飛び降りる~」とかって言葉あるじゃん!それを実際に実行した人が何人いるか知ってるか?」
「ああ、確か300人近く飛び降りたとかだっけ?」
「そうそう、それで生存率は85%だっていうから驚きだよな~♪」
「だな!」
多分、飛び降りた人の中には丈の先祖とかもいるんじゃないか?
って思うのは俺だけか?
なんてことを考えつつ、本堂を後にしようとすると、丁度入れ違いで別の学校の修学旅行生がゾロゾロと入ってきた。
俺らと同じ中学生みたいだな。
「え?」
「はぁ?」
「え?」
すれ違おうとした直後、向こうの学校の生徒が次々に俺を見ながら素っ頓狂な声を漏らし始めた。
「・・・何だ?」
よく見ると、生徒だけじゃなく向こうの教師も同じように俺を見て口をポカンと開けていた。
そしてその理由はすぐに明らかになった。
「「え!?」」
俺達はそこで立ち止まり、お互いを鏡を見るように見た。
「と、冬弥!!」
「あ、兄貴!!」
俺と冬弥は清水の舞台でバッタリ遭遇したのだった。
よくよく見れば、向こうのガイドさんが「道立氷室中学校 様」と書かれた旗を持っていた。
そして1秒も待たず、清水の舞台には学生達の驚愕の声が響きわたった。
・奇稲田姫(櫛名田比売):素戔嗚尊の最初の奥さん。子供には五十猛神、大屋津姫命、八島士奴美神等がいる。
・神大市比売神:素戔嗚の2番目の妻、子供に大年神、宇迦之御魂神がいる。
・佐美良比売神:素戔嗚の3番目の妻、子供には須勢理比売神がいる。
・宗像三女神:素戔嗚の娘である多岐津比売、多岐理比売、市杵島比売の3柱の女神の総称。美の女神である。




