第24話 神宮晴翔の闇
・晴翔のターンです。
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―――――何でこうなった?
闇の中で晴翔は心の中で苦悩していた。
小学校までは何もかも順調だった。裕福な家庭で育ち、両親の期待にも答えていった。それが2度の受験の失敗で何もかも変わってしまった。
家を追い出され、家族との関係を絶たれてからはひたすらひねくれた。境遇の似た一樹達と出会ってからは5人でいる事が多くなった。家には怒る親がいないので好き勝手に遊び、時にケンカなどもして過ごしていった。
ある日、偶々同級生の立花琥太郎が一樹と廊下でぶつかった。互いに何度か挨拶した程度の関係で親しい訳ではないが、彼は晴翔とは違い高校生活を楽しんで過ごしていた。剣道部で顧問の注目を受けているという噂も聞いていた。話だけ聞いても自分と違う状況の琥太郎に対し、次第に晴翔は嫉妬を抱くようになった。
(―――――何で俺より幸せそうな顔をしているんだ。)
最初は理解ができなかった。容姿は至って平凡、家庭もサラリーマンの父とパートで働く母のありふれた一般家庭だった。裕福でエリート家族の晴翔とは全く違う環境だった。
(こんなの、理不尽だ!)
嫉妬は次第に怒りへと変わった。
(お前も不幸になれ!)
後になって、それがどれだけ身勝手な考えだったのかと後悔した。
だが、その時にはもう後には引けなくなっていた。最初は軽いカツアゲ程度だったのが今では大勢を巻き込んだ悪質なイジメになり、自分だけ抜け出す事ができなくなった。
(俺は、何がしたかったんだ―――――――――。)
自分で自分が分からなくなっていた時、この事件が起きた。いつも一緒にいた友人2人が殺され、今は晴翔自身も命の危機にあった。
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どこまでも続く闇の中、晴翔達は混乱していた。
「ど、何処だよここ・・・・・!?」
「し、知るかよ―――――!」
「もうイヤ!何でこんな目に遭うのよ!?」
口々に恐怖や不満の声があがる。誰もが状況についていけず、次第に小競り合いになり始めた。彼らは皆、自分のストレスを他人にぶつける事でしか発散できなかった。今までは琥太郎にそれをぶつけていたが、今は自分達しかいない。
暗闇の中なのにもかかわらず、何故か自分達の姿だけがうっすらではあるが見える事に誰も疑問に思わなかった。今の彼らの思考は分からない事の連続で麻痺し、自身のストレスをどうにかして発散する事しか考えられなくなっていた。
晴翔は次第に自分の中で苛立ちが急激に大きくなるのを感じていた。自分の不満を吐き出すだけの友人達、理解を越えて勝手に進む現実、その全てに怒りを抱くようになってきた。
「おい、お前も何か言ったらどうなんだ!?」
「―――――――――――せえな。」
「あぁ!?」
「うるせぇって、言ってんだよ!!」
ついには抑えきれず怒りが爆発した。
その後の事を晴翔はハッキリと覚えていない。怒りのままに言葉を吐き、男女関係なく殴っていた事しか覚えていなかった。
「ハァ、ハァ、ハァ・・・・・・・!」
互いに血が出るまで殴ったのか、体中に痛みが走り、拳は血で濡れていた。
「もう・・・何なんだよ・・・・・。」
それが何に対して言ったのか彼には分からなかった。
胸の奥底から生まれる激情は止まる事を知らず、未だに沸き上がってくる。晴翔の顔は血と汗と涙が混じり合い、髪もクシャクシャになっていた。
「アアアアァァァァァ―――――――――――!!」
「グゾ!グゾ!グゾ!グゾ!」
「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね―――――――!」
晴翔の周りではもはや正気ではないのが一目で分かるほど相手を殴り合っている少年と少女の姿があった。既に数人は一方的に殴られ、生きているのかも分からなくなっていた。
その光景を見ているとさらに負の感情が湧きだし、目の前の光景全てが憎く壊したくなってきた。
さらに―――――――。
『―――また落ちたのか。』『―――恥ずかしいじゃない。』『―――もう駄目だな。』『―――家から出て行け。』
『―――邪魔しないで。』『――――迷惑かけるな。』『――――負け犬め。』
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――!!!!」
晴翔が必死で忘れようとしていた過去が蘇る。何所からともなく声が聞こえ始め、その声全てが晴翔を否定していくものだった。耳を塞いでも声は聞こえ続ける。晴翔は聞こえてくる声から逃げようと絶叫し続け、力いっぱい耳を塞ぎながらその場に蹲った。
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闇の中を移動する中、黒王はピクッと耳を動かし進行方向の少し右側へ視線を向けた。
『―――――――――いたぞ。』
「本当!?」
『どうやら、マズイ所まで進行しているようだ。』
黒王が何を見ているのか琥太郎は分からない。だが、その真剣な口調からは状況の深刻さが伝わってきた。
『――――――何人かは既に虫の息に近い。急ぐぞ!』
「――――――うん!!」
そして2人はそこへと向かった。
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「俺はやった!言われた通りにやった!何が悪い!ちゃんとやってきたじゃないか!!」
晴翔はそこにいない誰かに向かって怒鳴り続けた。
自分を見限った両親、挫折した自分を憐れむ教師、勝者顔で自分を侮蔑する同じ塾だった者達、その全てに絶叫に近い声で怒鳴り続けた。
何時の間にか周囲の闇が濃くなり、すぐそこにいた友人達の姿もほとんど見えなくなっていた。何より、晴翔自身の姿も闇の中に溶け込むように見えなくなり始めている。
『――――何だ、落ちたのか?』『―――――頑張れよ。』『――――ちゃんと努力したの?』『――――じゃあな、負け犬。』
「五月蠅い!五月蠅い!五月蠅い――――――――!!!」
中学時代に通っていた進学塾の生徒達、受験に失敗した時までは互いに分からない所を教え合ったりしていた。中学受験で挫折した晴翔にとっては信頼できる仲間ができたと思ったが、それは幻想にすぎなかった。
同期の生徒の中で晴翔だけが失敗し、他の生徒は全員第1志望に合格すると周囲の眼は一変した。昨日まで親しいと思っていた生徒達は受験に失敗した晴翔を蔑む目で見るようになり、嘲笑する言葉をぶつけてきた。晴翔は絶望し、逃げ出して行った。
『―――――屑だな。』『――――最低。』『――――イジメルとか卑怯だな。』『――――お前が死ねばいい。』
聞こえてくる声は次第に一番よく知る声になっていく。
それは晴翔自身の声だった。晴翔自身の声が彼を否定していく。その一言一言全てが、今まで隠していた自身の本音であった事が余計に彼を追いこんでいく。
「みんな消えちまえぇぇ――――――――――――――――!!!」
『みんな』には自分自身も含まれていた。
闇は更に濃くなり、晴翔は闇の中に消えて行こうとしたその時だった――――――――。
『オオオオオオオオオオオォォォォォ―――――――――――――――――――――!!!!』
鼓膜を破るかのような咆哮が闇の中に響き渡った。
・晴翔は本当はイイ奴かも・・・って、展開になってきました。
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