第247話 間違い、そして・・・
『ソロモン72柱』の1柱、悪魔アンドラス、そいつが7月に桜ヶ丘を震撼させた惨殺事件の犯人だった。
悪質なイジメで追い詰められた琥太郎の前に現れたアンドラスは琥太郎と契約してイジメグループの生徒達を惨殺した。
そして翌日には残ったイジメに関わった者全員の家に不幸をお越し、イジメの主犯格だった神宮達を殺そうとした。
そこに事件を追ってきた琥太郎の仲間達が駆けつけアンドラスを討滅、その際の出来事がキッカケで琥太郎は神宮と和解してイジメは終わった。
僕は唖然とした。
まさか、あの悪質なイジメの元凶だった筈の神宮が、裏では逆にイジメを止めようとしていたなんて・・・。
「じゃあ、本当に俺の勘違いだったんだ。バカだな、俺は。自分が巻き込まれるのが怖くて逃げ出した挙句、逆に助けようとした奴に嫉妬して八つ当たりしてたなんて・・・。」
「きっと、僕達は似た者同士なんだと思う。」
「琥太郎?」
「暁に秘密を話している間に気づいたんだ。僕達は結局、中身が色々似てるんだよ。剣道が好きなところとか、追い詰められると視野が狭くなって真実が見えなくなってしまうところも。」
「・・・言われてみれば、そうかもしれない。良いところも悪いところもそっくりだったから、僕達は仲良くなったのかもしれない。」
俺が苦笑しながら呟くと、琥太郎は頷きながら話を続けていった。
「それと・・・これはあの時にある人から言われたことなんだけど――――」
――――お前が負いたい責任は悪魔と契約してしまった事ではなく、自分が弱かった事に対してじゃないのか?
「!!」
心臓が飛び出しそうになった。
そうだ、大事なことを忘れるところだった。
僕も弱かった自分を許せなかった。
琥太郎に助けられたあの日、弱い自分を見られたのが怖くて、恥ずかしくて逃げ出した。
だからこそ、僕は強くなろうとしたんだ。
「人を殺したのは悪いことだけど、それを理由に僕に謝るのは筋違いだと思うよ。それに、どっちかだけが謝るというのも違うんだと思う。」
「・・・そうだね。僕が琥太郎に謝る理由は弱かった事、弱さに負けて逃げた事とだけだったんだ。」
「僕も同じだよ。僕も弱さに負けて、結果的に暁を傷つけ追い詰めてしまった事を謝りたかったんだ。あ、それと大会の日の分はあの時に謝ってもらったからいらないよ?」
「あれって、謝罪に入るのかな?」
「入るよ!」
その後も僕達は色々話していった。
あの惨殺事件の真相については、一般人を“こちら側”に巻き込んではいけないという理由で遺族に対して、表だって謝ることができないらしい。
それは僕の場合も同じらしい。
例え警察に自首をしたとしても、両親の死因が高校生の力では不可能なので証拠不十分で不起訴になるらしいし、それ以前に生き残った家政婦さんが、犯人は大柄の中年男だと証言しているから逮捕すらされないだろうという話だ。
何でも、半大罪獣化した僕の姿や、僕の口から出たパズズの声が原因らしい。
さらに、遺体が短時間でミイラ化していたので、その手段を科学的に説明しないと犯人と認められないらしい。
「いくらなんでも、邪神の力ですって言っても・・・」
「信じてもらえないよ。さっきの話を言った人が言ってたんだけど、「どうしても罪を償いたいなら、生きてその方法を見つければいい。」って言ってたんだ。」
「生きて・・・か。」
「それと、「行き過ぎた贖罪は時に傲慢でしかない。自分を見失わず、追い詰め過ぎないことだ。」とも言ってよ。真意は他にあるみたいだけど、僕にはまだ分からないんだよ。きっと、それはこれからずっと考えていく宿題なんだと思うんだ。」
それは、僕にとっても一生の宿題なんだろうな。
今、俺にできる償いか・・・。
「俺、姉弟妹と一緒に生きようと思う!」
「え?」
「今回の件でみんな人間じゃなくなったからな。きっとショックで混乱するし、俺が支えになっていこうと思うんだ。今までは家族から逃げていたけど、今日からはしっかり向き合おうと思う。もう、復讐に逃げたりはしない!」
特にまだ目を覚まさない姉さんは相当取り乱すと思う。
見た目以上にプライドが高かったからな。
「そっか、決めたんだ。ねえ暁、1つ思いついた事があるんだけど。」
「何?」
その後、琥太郎は“あること”を俺に提案した。
俺はそれを承諾し、俺達は晴れて再び友人に戻ることが出来たのだった。
その様子を見ている者達がいるなんて、想像すらせずに・・・。
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――晴翔サイド――
俺は離れた場所から琥太郎達が上手く仲直りをするのを見届けていた。
いや、背後にいる2人も入れれば俺達だな。
「――――もう、大丈夫そうだな。」
「どうやら無用な心配だったようだ。」
俺と同様にあの2人を心配していた夜鋼と疾風が安堵を浮かべていた。
全く、あいつら、自分達が周りに心配されているのに気付いているのか?
「さて、後は本人次第だろう。2人は道を選んだ。あの者も、まだ人を捨てていないのなら・・・・・・」
「あの者?」
「いや、気にするな晴翔。」
「いや、気にするって!」
一体、誰の事を言ってるんだ?
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――勇吾サイド――
俺は2人の様子を移したPSを閉じると、剛則が用意した拘束用ベッドで寝たフリをしている男に話しかけた。
「あの2人はお前とは別の選択をしたようだ。」
「・・・・・・。」
「聞いてるんだろ?ファルコ=バルト。」
「・・・・・・。」
あくまで寝たフリを通すつもりか?
すると、壁に寄り掛かっていた剛則が仕事用の顔になってファルコに話しかけ始めた。
「ファルコ=バルト、お前の過去は勿論、今回の事件裏についても調べさせてもらった。契約していた悪魔、アンドラスについてもだ。」
「・・・・・・。」
眉間が揺れたな。
やはり内心動揺しているようだ。
「お前はドイツのとある名家の当主を父に持って生まれた。だが、本妻の子ではなく、当主とメイドとの間に生まれた不義の子だった。お前がそれを知ったのは、丁度今のあの2人と同じ年の時だ。そして、お前がバルト家に復讐した年でもある。」
「・・・・・・。」
また揺れたな。
「――――夫の浮気に激情し、同時にメイドに嫉妬した正妻がメイドを事故に見せかけて殺害、当時物心が付く前だったお前は事件後に書類上は養子としてバルト家に受け入れられたがそれはあくまで表向き、実際は腫れ物として扱われ、正妻からは虐待され、父親は無視され異母兄からも罵られたり暴力を受けてきた。これが復習の動機だろう。」
「・・・・・・。」
「あの事件の生存者からも証言を取ってある。お前は使用人達の立ち話から真実を知り、日に日に憎悪を増大させていった。そしてある日、悪魔アンドラスと契約したお前はバルト家の者を殺害し家を全焼させた。その後、おそらく『幻魔師』にスカウトされて『創世の蛇』に入った。それに相違ないな?」
「・・・・・・。」
ファルコは沈黙を通しているが、これは十中八九肯定しているんだろう。
夜鋼も言っていたが、やはり7月に桜ヶ丘で起きたアンドラスの事件に黒幕はコイツだったか。
おかしいとは思っていた。
何故、極東日本にソロモンの悪魔が出現したのか、それにこれは琥太郎本人にも伝えてはいないが、あの事件の際に琥太郎のステータスを確認したが、そこにはアンドラスとの契約を示す項目が存在しなかった。
契約していたのなら、ウィルバー=オルセンのように《悪魔アンドラスの契約》があった筈なのに。
そして目の前にいるのはアンドラスの本当の契約者、それが意味をするのは・・・
「『創世の蛇』関係の事件記録の中にはお前に関するデータは殆ど存在しない。おそらく、組織内では主に研究関係の部署に所属していたんだろう。今回の事件に使用された“薬”も、『幻魔師』が創った《大罪獣》の素を貰い、それをベースにお前達が開発した物だろう。中に混ぜられていた“神格の魂”も、組織が元々収集していた物を使ったんじゃないか?」
「・・・・・・。」
剛則はその後も寝たフリをしているファルコに対し尋問を続けた。
ファルコはあくまで沈黙、寝たフリを通したが僅かに見せる動揺からでもそれなりの情報は得られるのだろう。
剛則は冷静に尋問を続けていき、一通り済ませると仕事の顔から私事用の顔に変わった。
「――――さてと、ここからはあくまで俺個人の話になるが、お前は立花琥太郎や上野暁を本気で助けようとしてたんだな?復讐で。」
「―――――――――ッ!」
「ようやく目を開けてくれたか。」
今まで寝たフリをしていたファルコは、剛則の言葉に目を見開いた。
やはり、剛則や夜鋼たちの推測は当たっていたか。
「俺にはお前の心の奥までは分からない。だが、お前の行動は復讐で誰かを救おうとしているように見えた。憎悪の対象を力で消しさえすれば幸せになれると、救われると思っていたんじゃないのか?自分が過去にした復讐が正当だったと、間違ってはいなかったのだという証明が欲しくて立花琥太郎にアンドラスと接触させ、今回の一連の事件を起こした。」
「・・・・・・。」
「だからこそ、今のあの2人を見た時、あのように激昂したんだろう。自分の時とは全く異なる結果を自力で生んだあの2人を、自分の今まで執着していた虚構を否定して見せた2人の存在を認めたくないから無かった事にしようとした。違うか?」
「・・・・もういい。」
まるで今にも号泣しそうな、迷子の子供のゆに力の無い声でファルコが喋り始めた。
その目は悲嘆に満ち、戦っていた時とは別人のようだった。
「お前の・・・お前の言うとおりだ・・王子。俺は・・・俺は只、確固たる証拠が欲しかっただけだ。あれが最善だったのだと、正しい事をしたのだと、他人を利用して証明しようとしただけだ。結果はこの通り、俺が信じてきたもの全てが悉く崩されて・・・皮肉にも、あの時と俺と同じ年の少年達によってな。」
自嘲するファルコだったが、俺にはどこか嬉しそうに見えた。
流さないように耐えているようだが、奴の涙腺は今にも決壊寸前だった。
もしかすると、奴はずっとこの時を待っていたのかもしれない。
嘗ての自分を否定する者を、自分が出した答えとは異なる解答を――――。
「――――王子、俺はお前の指示に従う。だが、1つだけ頼みを聞いてほしい・・・。」
「可能な範囲なら、法に乗っ取って利いてやるが・・・それと、俺はもう王子じゃない。継承権は放棄しているからな。」
「フッ・・・そうだったな、少年?じゃあ――――――――」
ファルコが何かを言いかけた直後、部屋のドアが乱暴に開けられた。
そして、今回の事件で一番の厄介者が現れた。
「おい!クソガキが暢気に寝てるのはここか?」
「「「――――――――――――――ッ!!!???」」」
俺達は声にならない悲鳴を上げた。
その後、物理的地獄が ・・・・いや、以降の事は省略する。
次回で長かった大罪獣編はおわりです。




