第236話 VSマヒシャ②
不死身の神はこの世界にも数多く存在する。
マヒシャもまたその内の1柱だ。
神話の時代、マヒシャはその強みから一時とはいえ神の王の座を手に入れた。
だが、唯一の弱点が仇となり“とある神”に殺されたと言われている。
その“とある神”については諸説あるが今は省略する。
『我は王、数多の神を統べる神の王。たかが人間の小僧には負けはしない。』
俺が与えた傷は一瞬で完治した。
神話と同じ不死の特性は《大罪獣》の体でも健在のようだな。
だが、同時に弱点もそのままのようだ。
完治したとはいえ、傷を負わせられたのがその証拠だ。
ここから一気に攻めさせてもらう!
「黒!《神龍武装化》!」
その直後、上空から黒い光となった黒が俺の元に落ちてきた。
そして俺は約2ヶ月ぶりに黒を装備した。
『何をしようとも無駄。神の王の力を思い知れ!!』
だがマヒシャもまた本気を出し始めた。
全身から高密度の魔力を放出、次のその姿を2秒と掛からずに変えていった。
「――――神の化身の1つ、『獅子』か。」
そう、その姿は雄々しきライオンそのままだった。
大きさはまさに怪獣クラス、だが全身から漂う気配は魔獣のそれではなく神気そのものだった。
『灼かれろ!』
バカのお陰で結界が張れて本当に良かった。
そうでなければ、今頃ここから半径約20km圏内は一瞬で火の海と化していた。
「――――疾ッ!」
そこからは高速、いや音速の戦いだった。
連日の修行の甲斐もあり、無詠唱で幾つもの魔法を重ねがけした俺は神龍武装化の効果もありマヒシャの速度に遅れをとらずに済んだ。
獅子に化身したマヒシャの攻撃は嵐そのものだった。
属性で言えば“火”、“風”、“光”を中心に使い、マヒシャが駆け抜けた跡には炎の竜巻が発生し、その爪や毛はレーザーナイフのように鋭く、掠っただけでも致命傷になりそうだった。
「《夜斬り》!!」
『避けるに値しない!』
マヒシャは俺の攻撃を避けようとはしなかった。
普通なら捨て身な行動さえ平然と行う。
不死身だからこそできる戦い方だった。
「《黒焔螺旋衝》!!」
一直線に突っ込んでくるマヒシャに、俺は布都御魂剣を前へと強く突き出し、剣先から黒い炎の竜巻が放たれる。
『おおおおおおおおお・・・・・・!!』
正面からぶつかる黒炎の螺旋とマヒシャ、神龍武装化前だったら微塵も効かずに俺は食い千切られていた。
だが、今は黒をこの身に纏った事により全能力が底上げされ、完全にものにすれば龍王クラスの力を発揮させる事さえ可能だ。
さらに、今のマヒシャはまだ黒の《神龍術》の影響で力が数段階減退している。
これらの好機を逃す訳にはいかない!
「イケええええええええ!!」
『おおおおおお・・・・・・舐めるな!人間!!』
「舐めているのはお前だ!!」
そして俺の攻撃がマヒシャを押し返した。
螺旋に押されたマヒシャはそのまま地上へと激突する。
だが、俺は攻撃の手を止めない。
「《闇分身》!!《虚空千刃撃》!!」
百以上の分身を生み出し、あらゆる角度からマヒシャに向かって斬撃の嵐をお見舞いする。
分身一体ごとに千の斬撃、それが百体以上で十万以上の斬撃がマヒシャに襲い掛かった。
「――――属性融合!!」
そして俺は(現実時間で)半月の修業による1番の成果を発揮する。
俺の持つ6つの属性、“闇”、“火”、“風”、“土”、“時”、“空”を布都御魂剣を媒介にして1つの強大な力に融合させる。
四龍祭で得た加護や、ジルニトラによる容赦ゼロの修業で身に付いた高等技術、俺はそれを布都御魂剣を中心に全身に纏うような感覚でそれを使う。
流石に瞬時に行う事まではまだできなかったが、数秒で俺の能力は更に飛躍的に上昇した。
『グオオオオオオオオオ!!!!』
マヒシャが怒号を上げた。
全身から禍々しいオーラを噴出させ、その姿を変えていく。
「『象』の化身か!」
マヒシャの姿は獅子から象に変化した。
『――――刺せ!!貫け!!血肉を撒き散らせ!!』
直後、地面から巨大な無数の氷柱や先端の尖った岩山、金属の刃、針葉樹などが突き出てきた。
象の化身は“土”と“氷”、“木”の属性に特化してるのか!?
まるで剣山のように突き出すそれは、俺に向かって一直線に襲い掛かってくる。
「《六合剣嵐-剛-》!!」
俺は上下四方に向かって斬撃を飛ばす。
その直後、地面から大小無数の剣が突き出してマヒシャの氷柱や岩山を破壊していく。
地面からだけではない、別の空間から無数の剣が突き出し、マヒシャの攻撃を次々に破壊していく。
そしてこの無数の剣は只の剣ではない。
属性融合により6属性の力を込められた、その辺の魔獣なら1本だけで間違いなく即死する。
それが大小無数と現れ、獲物を求めるようにマヒシャ本体にも襲い掛かる。
『凍てつけ!!砕け!!』
「させるか!《龍焔螺旋》!!」
一瞬で周囲の気温が氷点下になる。
俺を含めて全てを凍らせるつもりだろうがそうはいかない。
俺は龍のブレスに似た炎をマヒシャに向かってぶつけた。
『無駄だと言っている!!我は不死!!人間が幾ら足掻こうとも無意味だ!!』
「・・・・・・。」
解っている。
普通に攻撃したところで奴に与えた傷は瞬時に回復してしまう。
だが、死なない事と傷を負わない事は全く異なる。
マヒシャは確かに不死なのだろうが、斬れば傷を負うし痛みを与える事が出来る。
そこに大きな“勝機”があった。
そして何より、神話と同じならばマヒシャには致命的な弱点が存在する。
「――――縛れ!《灼獄無限牢》!!」
『グオオオオオオオオ!!何所までも小賢しい!!』
マヒシャを包んでいた俺の炎が牢獄のように奴の動きを封じる。
封じられる時間は1分とないだろう。
だが十分だ。
「――――斬る!!」
『何度繰り返しても無駄だ!!愚か者め!!』
奴は俺に対して無防備だった。
神であり、不死である故の余裕だった。
だが今、それが仇となる!
「――――――《円月斬り-十-》!!」
金色の軌跡がマヒシャの頭を十字に走った。
象に化身していたマヒシャの鼻は本体から切り離され、奴の顔面から大量の血が噴き出す。
そしてその傷は回復しなかった。
『――――バカな・・・!?』
「成功だな。」
マヒシャは驚愕の眼になった。
奴は自分が不死である事を過信し過ぎた。
神話の時代にもそれが仇となって殺されたのにも拘らず、また過信したのだ。
『バカな・・・何故、何故傷が消えない・・・!!??人間、貴様何をした!!??』
「――――斬っただけだ!」
俺は持っていた布都御魂剣を奴に突き出しながら叫んだ。
『・・・その剣は!?』
マヒシャは布都御魂剣の今の姿を見て更に驚愕した。
今の布都御魂剣は片刃の大剣ではなく、金色の光沢を持つ曲刀になっていた。
それは、俺が奴を炎の中に閉じ込めている間に布都御魂剣の剣性を変更させた姿だった。
「――――神話の時代、オリンポスの神の1柱であるヘルメスが英雄ペルセウスに貸し与えた黄金の曲刀、その力は不死の特性を持つ存在さえも殺す事が出来る。ギリシャ神話において多くの怪物達の命を奪ってきた武器――――」
ドイツからここに来るまでの道中、現れたのが不死の特性を持つマヒシャだと知った時点で使おうと決めていた、嘗て戦い勝てなかった猛者が使っていた剣。
その剣の名をマヒシャに向かって告げた。
「――――――『ハルペー』。」
マヒシャの顔色が急激に変わるのが見えた。
別の神話の武器だが、マヒシャのその名は十二分に知っていたようだ。
なにせこの剣のオリジナルを作ったのはギリシャ神話のトリックスターであるヘルメスだ。
ヘルメスは一般的には商業の神だが、一方では盗賊や旅人の神であり、さらには豊穣神や冥府神の顔も持っている多才な神だ。
ギリシャ神話において、アルゴスやメドゥーサを殺してきたこの剣の力はマヒシャにとっても天敵とも言える武器だった。
「もう終わりだ。『アスラ王』マヒシャ!」
『まだだ!まだ終わってはいない――――――!!』
「いや、終わりだ!」
俺はハルペーになっている布都御魂剣に属性融合の力の全てを集めた。
「行くぞ、ジルニトラ!」
『―――――ッ!?』
『ええ、放ちなさい。私の契約者♪』
何所から聞こえてくるのか分から無い声にまたも驚愕するマヒシャに俺は剣を振った。
「《神殺しの一閃》!!」
夜の闇を飲み込む彩光の柱が天高く上った。
それは幻想的な光景だった。
その幻想的な光景の中で、マヒシャは未だに足掻いていた。
マヒシャの姿は三度変わろうとし、その姿は『象』から元の姿へ変身しようとしていた。
『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!死なぬ!!神の王である我が―――――』
『終わりよ。』
『ガ・・・・・・!?』
だがその直後、マヒシャは背中から“核”ごと女神の爪に貫かれた。
『フフフ、神話の時代と同じ結末かしら?』




