第232話 告白、そして急報
――??日目――
「――――――《蒼風》!」
「甘い!」
木々の合間を抜けながら、僕はナオキ師匠に向かって木刀を振った。
だけど師匠は木の葉のように僕の木刀をかわし、何時の間にか目の前にまで接近してそのまま自分の木刀で吹っ飛ばした。
「ぐはっ!?」
「動きは大分良くなったけど、まだ視覚に依存してしまう癖がある。全身で感じられるようになるまで続けるよ。」
「はい!!」
ナオキ師匠は基本優しいけど、修行はスパルタ寄りだ。
修行初日は疲れ果てて布団に直行したほどだった。
「今日はここまで!」
「「「ありがとうございました!!」」」
今日の修行も無事に終わった。
ここには僕以外にも同世代の人達がいる。
人間だけでなく、龍や天馬、鳳凰、狼、獅子等いろんな種族が20人近くいる。
「暁、先に風呂入りに行かねえか?」
その中の1人、僕と同じ鷹族――その中の白鷹氏族――の白亜がタオルを肩に掛けながら誘いに来てくれた。
彼の家は代々東北のとある山の主、つまり山神を勤めている。
彼とは同じ鷹族ということもあり、すぐに仲良くなった。
ちなみに僕より1つ年上だ。
「ゴメン、今日は食事当番だから水浴びしたらすぐに行かなきゃいけないんだ。」
「そっか、美味い飯期待してるぜ♪」
「うん!」
僕は白亜と別れて炊事場に行き、他の当番の人と一緒に夕飯の仕度をした。
ここに来てもう1ヶ月半、大分ここでの生活にも慣れてきた。
1ヶ月半と言っても、あくまでこの異空間の中での体感時間だから外、つまり現実世界ではまだ半日すら経っていない。
僕達が師匠達から修業を受けているこの場所、師匠曰く、先人達が聖域の力を利用して創った特別な空間で、現実世界よりも時間の流れが早くなっているそうだ。
「ふう、これで後片付けも終わりだな。僕もお風呂に入ってこよう!」
他のみんなが山小屋の中で遊んでいる中、僕は数カ所ある風呂場に向かった。
既に僕以外は入浴済みなんだろうな。
誰もいないみたいだ。
「うん、良いお湯だな~♪」
「え?」
「え?」
先に言うけど、今の僕は腰にタオルを巻いている。
だからセーフだよ・・・たぶん。
「・・・あ、暁さん?」
「・・・茜さん?」
僕達は互いに顔を真っ赤にして硬直してしまった。
「私!すぐ上がりますから!!」
「あ、別にいいから!」
「え?」
「え~と・・・。」
結局、一緒に入ることにした。
下心は無いから。多分。
「い、良い湯だね?」
「そ、そうですね!」
下心は無いつもりだったけど、僕はやっぱり茜さんが気になっていた。
茜さんもここには世話係として来てくれた。
約2ヶ月以上一緒に生活しているせいか、僕達は互いを意識してしまう事がある。
(やっぱり、言葉で伝えた方がいいのかな?)
僕は茜さんに恋をしていた。
自分でも恥ずかしいけど、初恋です!
自覚してから1ヶ月、未だに気持ちは伝えていない。
引け目を感じてるんだと思う。
彼女は恩人のお嬢様、対する僕は・・・。
「あのう・・・。」
「あ、はい!!」
「暁さんは・・す、好きな女性はいますか?」
「はい!います!!」
しまった!
緊張して素直に答えてしまったよ!
「そ、そうですよね!暁さんの歳なら好きな人はいますよね!?」
「え、あ!」
茜さんは顔を真っ赤にしてお風呂から上がろうとした。
マズイ、何か勘違いされてる!?
「あ、待って!うわっ!?」
「え?キャッ!?」
止めようとしたら足が滑ってしまった。
そして僕達は危険な体位に・・・!?
「あわわわ・・・!」
「ご、ごめん!!で、でも・・・!」
頭が真っ白になりそうだ。
凄い状況に、頭で考えるより先に口が動いてしまった。
「ぼ、僕が好きなのは茜さんです!」
「え・・・?」
「初恋です!ヘタレでクズで最低な元人間だけど、茜さんが好きです!!」
「・・・・・・。」
言っちゃった!
勢いで言っちゃったよ!
あああ、これは絶対にドン引きされちゃった!
完全に変態だとか思われちゃったよ!!
「ゴメン!今のは忘れ・・・」
「待って!」
「―――――!!」
謝ろうとした瞬間、僕の口が茜さんの唇で塞がれた。
「・・・・・・私も、暁さんが好きです。」
「え・・・?」
「最初はヘタレだと思って思っていましたけど、今は違います。どんなに重い罪を背負っていても、私は今の暁さんが好きです。」
「茜さん。」
「“さん”は付けなくていいです。茜、と呼んでください。」
「うん。じゃあ、僕の事も暁って呼んでください。」
「はい、暁。」
「茜。」
後で思い出すと恥ずかし過ぎる告白だったかもしれない。
だけど、この時の僕は自分の素直な気持ちを伝える事が出来て嬉しかった。
嬉しかったからこそ、僕達は肝心な部分を隠す事は忘れてしまった。
「あ!」
「え?」
入浴中はお湯にタオルは入れるのはマナー違反です。
マナーを守っていた僕達は、互いにそこを隠していなかった。
しかも、告白で興奮していた僕のは、凄く元気になっていた。
「「・・・・・・(カア~)!!」」
羞恥心に顔をさらに真っ赤に染める僕達。
「・・・・・・いいよ?」
「―――――!!」
茜のその一言で、僕の理性は爆発してしまった。
――その後の事は倫理上の理由により省略、というか絶対に書けません!!――
その日、僕達は大人の一線を踏み越えた。
一生の思い出になりました♡
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――??日目――
師匠の修行は次第に容赦なくなってきた。
剣術、体術は勿論のこと、サバイバル術や魔法、時にはそれ以外の専門技術も叩き込まれていった。
剣術の方は、未だに一本も入れたことこない。
そんなある日のこと、
「なあ、暁?」
「何、白亜?」
「気のせいかもしれねえけど、最近、お前の魔力の成長速度早くなってないか?」
「そうかな?」
「ああ、何だか急に伸びてる気がするぜ。まあ、元々低かったから急成長したのかもしれねえけどな。」
「ふ~ん。」
どうやら僕の成長が早くなっているみたいだ。
言われてみれば、最近は魔力切れもし難くなってきている気がする。
成長期って事なのかな?
「休憩終わり!修行再開だ!」
短い休憩時間が終わり、修行が再開されようとした。
するとその時、空からよく知る人の気配がしてきた。
「――――誰だ?」
「あ、疾風兄さん!」
空から下りてきたのは疾風兄さんだった。
「暁って、兄さんいたのか?」
「正確にはお兄さんみたいな人かな?」
「義兄弟ってやつか。盃とか交わしたのか?」
「それ、極道だから・・・。」
疾風さんを“兄さん”と呼ぶようになったのはここでの修行が始まる直前辺りだった。
あの深夜の空中散歩以降、親近感が沸いたというか、お互いに声を掛ける機会が増えてきて何時の間にか呼ぶようになっていた。
「どうした?」
師匠が声を掛けると、疾風兄さんは厳しい表情で僕や師匠達を見ながら話し始めた。
「現世にて、新たな神の顕現が確認されました!」
「「「―――――!!」」」
場の空気が一気に緊張一色に染まった。
「―――――誰が顕現した?」
「『アスラ王』マヒシャ、『労苦神』ポノスです!」
師匠の表情も険しくなる。
大昔に滅んだ神達が再び現世に現れて何かをしようとしている。
そしてそれは、僕の初陣の・・・けじめをつける戦いがすぐそこまで近づいている事を意味していた。
・この作品からDTがまた1人いなくなりました。
・余談ですが、主人公は当然DTです。バカは不明ですが。
・次回、大罪獣編Ⅳ-決着-ですが、数日間を開けます。




