第227話 事件の爪痕
――勇吾サイド――
後始末は言葉では言い表せないほどの大騒ぎとなった。
無理もない。
今回の事件がこの世界に与えた影響は、今までやってきたレベルの隠蔽工作では誤魔化し切れないほど大きかった。
「救急車が到着したぞ!!」
「重傷者から運び込め!!
「くそ!こっちの車も駄目だ!!」
秋季高校総体の会場となった体育館の周りは大パニックだった。
それもその筈、《大罪獣》が出現した際に何者かの手によって気絶させられた数千人の一般人が目を覚まして目にしたのは大惨事の跡だった。
まるで竜巻が通過したかのように――実際に竜巻によるものだが――天井が吹き飛び、壁には大きな亀裂が走って床には備品やらガラスやらの破片が散乱してまともに歩くスペースがほとんど無かった。
更にどうにか苦労して外に出ると、外は砂塗れな上、地面には亀裂が走ってバスや自動車が何台も走行不可能に陥っていたり、行動には街頭や街路樹などが横倒しになって同じく目を覚ました運転手達がパニックを起こしていた。
そして明らかになる被害の全容、幸いにして死亡者は1人も出なかったが、気絶している間にガラスの破片などが当たったり、物の下敷きになるなどして負傷した人はかなりいて救急車を待つ人が列を成すなどの大騒ぎになった。
「おい、全員いるか!?」
「先生!上野の姿が何所にもいません!!」
「何!?ま、まさか竜巻に・・・!?」
その中でも琥太郎の所属する剣道部は、部員の1人が行方不明になって大騒ぎだった。
行方不明になったのは《大罪獣》になり、その後は浄化されて蒼鷹の聖獣になった琥太郎の小学校以来の友人、上野暁だった。
替え玉を立てて誤魔化す訳にもいかず、その後は生死不明の行方不明者として扱われる事となった。
これに関しては琥太郎のショックは大きく、今は晴翔と夜鋼が傍にいてくれている。
「――――震源地、ここだってよ!」
「マジで?震度は?」
「6弱以上らしいぜ!例の首都直下型じゃないかって、テレビじゃ大騒ぎになってるぞ!」
「こっちのチャンネルじゃ、原因不明の巨大竜巻だってよ!」
「異常な黄砂とかもあるぞ!」
仲間の事もそうだが、世間の方も深刻だった。
現実空間での戦闘の最大のデメリット、戦闘により発生した事象の数々がこの世界に観測されてしまう事だ。
特に悪神ナラカの起こした日本ではまず有り得ない竜巻の複数同時発生、更には首都圏内陸部を震源とする最大震度6強以上の大地震が与えた影響は大きかった。
まだあの大震災の傷が色濃く残っている日本人への影響は語るまでもなく大きかった。
首都圏の交通網は一部麻痺し、沿岸部の住民はすぐさま高台への避難、消防は通報の嵐への対応で大忙しだった。
幸いだったのは震源地である桜ヶ丘を含め、停電に襲われた地域は奇跡的になかったので公道でのトラブルは思ったよりも少なく、信号の故障も無かった。
そして一番不安なのがマスコミの報道だが、不幸中の幸いと言って良いのか不明だが、パズズやナラカの撒いた被害によって戦場内にいたマスコミ関係者の撮影機器の多くが破損して使用不能になっており、リアルタイムの映像は残っていなかった。
お陰で、後から捏造しまくった映像をテレビ局に投稿する事によりある程度は真実を隠す事ができた。
それ以外にも重要な話はあるが、今は敢えて省略する。
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――《ガーデン》――
「なあ、俺今ピンチなんだよ。」
「は?」
珍しく晴翔が俺に相談しに来たのは夕方頃だった。
どうにか琥太郎を復活させた晴翔は、本気で困った顔で俺の元にやってきた。
「俺って、家族と別居してるって言っただろ?」
「ああ。」
「その家族がさ、しばらく俺の家に泊まる事になった。」
「・・・今日の事件のせいか?」
「まあな。仮住まいのマンションが地震や竜巻で居住不可能に近い状態になったみたいでよ、もう1時間で来るってさ。不味すぎだろ?」
それは不味いな。
今の(日本側の)晴翔の家には晴翔以外にも翆龍が暮らしている。
そこに何も知らない神宮一家がやって来て鉢合わせになるのはどう考えても不味い。
晴翔の家族とはいえ、無闇に一般人を“こちら側”に関わらせるのは避けたい。
慎哉と冬弥の時とは話が違うんだから。
「一旦、翆龍をコッチに引越しさせるのが最善だな。時間もないし、俺達も手伝おう。」
「すまねえ。」
その後、俺達は手分けして翠龍の臨時引越しを行い、どうにか晴翔の家族が到着するよりも前に終わらせた。
まあ、些細なトラブルだ。
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さて、他にも色々あった中、俺達は《ガーデン》の街の郊外の森の中で正座させられている。
『・・・どうして正座させられているのか、理解しているわよね?』
「え、何、この状況?」
その日の夜、俺達は俺の契約している守護龍こと、女神ジルニトラに集められて正座させられていた。
「・・・反省会だろ?」
「え、何の反省?」
『分かっているなら話は早いわね。今回の件、あなた達だけでは荷が重すぎたとはいえ、現世にあれだけの爪痕を残した責が何も無い訳がないからね♪』
そう、今回は相手が悪かったとはいえ、それだけで全ての責任から逃れられる状況ではない。
死者こそ出なかったものの、負傷者や建築物の損壊など、その被害は天災級だった。
「それとさっきまで勝手に落ち込んでいた坊や、貴方の心を読んだら、何?あなた、パズズに器にされていた坊やの事、彼が器にされている事をああなる前から知っていたみたいじゃない?もっと早く私の契約者にでも話していれば、あんな被害は出なかったんじゃないの?」
(読むな!!)
「え、マジで!?」
「ゴメンなさい・・・。」
琥太郎は自分が犯したミスの重さを十分に理解しているようだった。
その後、語るも恐ろしい女神の天罰が俺達に墜ちるのだった。
内容は俺も恐ろしくてとても話せないい。
「「「ギャァァァァァァァァァァァァ!!!」」」
初体験組は数秒で耐えきれずに悲鳴を上げたのだけは記す。
それともう1つ、今回の事件で死者は出なかったと言ったが、それはあくまで地震や竜巻によるものであり、それ以外で死亡者が2名確認された。
ファルコ達が去って約10分後、今回の件で《大罪獣》になり、邪神パズズの器にされていた琥太郎の友人・上野暁の自宅を訪れた俺は、そこで大量の血の海の上に倒れている1人の重傷者と、ミイラの姿になった2人の死者を発見した。
死んだのはこの家の主の夫妻、つまり、上野暁の両親だった。
そしてさらに、暁を含めたこの家の子供達全員が現在行方不明になっている。




